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ANA、川崎フロンターレ 中村憲剛選手らを招き、ユニバーサルサービス実践を啓蒙する社内セミナー「夢への挑戦」実施

2019年12月18日 実施

ANAグループがユニバーサルツーリズムをきっかけに、よりよい社会作りを考える社内セミナー「『夢への挑戦』~よりよい未来に向かって」を実施

 ANA(全日本空輸)、Jリーグ(日本プロサッカーリーグ)、川崎フロンターレ、富士通は12月18日、ANAグループ社員向けにユニバーサルデザインの観点で各社の取り組みの紹介や考えなどを紹介するセミナー「『夢への挑戦』~よりよい未来に向かって」を実施した。ANAグループ各社から約150名が参加した。

 このセミナーは、スポーツを通じたユニバーサルツーリズムをきっかけに、よりよい未来のためを作るための団体/企業、個人との社会への関わりを考えるもので、Jリーグ理事の米田惠美氏、川崎フロンターレ 中村憲剛選手、富士通 田中雄輝氏を招いて行なわれた。

全日本空輸株式会社 オペレーションサポートセンター 品質企画部 部長 石田裕三氏

 冒頭、あいさつしたANA オペレーションサポートセンター 品質企画部 部長の石田裕三氏は関係各位への謝辞を述べたうえで、「グループの行動指針『ANA's Way』に『社会への責任』とあるが、どう行動すればよいか悩んでいるのではないか。セミナー通じて、一つでも得るものを得て、自ら考え、明日からの行動につなげていただければ」と参加者に呼びかけた。

 このセミナーには、Jリーグ理事 米田惠美氏、川崎フロンターレ 中村憲剛選手、富士通 田中雄輝氏、ボーイング 777型機の機長でANA オペレーションサポートセンター 品質企画部の近藤浩之氏が登壇。パネルディスカッション形式で進められた。

 このパネリストは、7月に行なわれた川崎市と大分市に在住する発達障がいのある子供たちを対象にした「川崎フロンターレ対大分トリニータ戦」のサッカー観戦交流イベント(関連記事「発達障がいを持つ子供たちがJリーグ『川崎フロンターレ 対 大分トリニータ』を試合観戦・サッカー教室に参加。ANAも移動などサポート」)に関わったメンバー。

 このサッカー観戦・交流イベントは、発達障がいのある子供たちが大分から飛行機で羽田空港、等々力競技場へと移動し、試合を観戦。翌日は川崎フロンターレ所属選手によるサッカー教室が行なわれたもの。まずは、参加者に概要を知ってもらうべく、イベントの内容や当日の模様をまとめた動画を紹介した。

 このイベントは、12月18日に発表されたIAUD(国際ユニヴァーサルデザイン協議会)が実施しているIAUD国際デザイン賞2019において、UXデザイン部門の金賞を受賞した(同協議会のWebサイト内「IAUD国際デザイン賞2019 受賞結果発表」参照)。

「『夢への挑戦』~よりよい未来に向かって」の様子

 パネリストそれぞれのイベントへの関わりや、各所属団体/企業の取り組み、パネリスト本人の“努力と挑戦”について、それぞれ意見を述べた。

公益社団法人日本プロサッカーリーグ 理事 米田惠美氏

 Jリーグ理事の米田惠美氏は、公認会計士からJリーグに関わり、現在は理事として社会連携などの分野を担っている。サッカー観戦・交流イベントについて「ANA、JTB、富士通、川崎市が企画され、Jリーグとクラブは協力する立場。Jリーグとしてはクラブが主役なので前面には出ていないが、クラブ間調整や、メディアへの企画主旨説明と発信、官公庁への発信などでサポートした」という。

 Jリーグには、サッカーの競技水準を高める「競技的ミッション」と、興業をビジネスとして成立させる「事業的ミッション」に加え、地域をよくしたり、理想の社会を実現したりといった「社会的ミッション」を加えた「トリプルミッション」があると、米田氏は語る。

 そうした理念のもと、Jリーグでは、社会連携の取り組みとして「シャレン!」を推進している。全国に55クラブ(2020年は56クラブになる予定)あるJクラブを活用し、行政や大学、企業、NPOなどが3者以上が協働して社会課題の解決に取り組み、共通の価値を産みだそうというもの。それぞれが持つ強み、例えばJリーグであれば発信力や地域サポーターらのコミュニティ、企業であればブランドや接遇の能力などを集めて共通価値を創り、地域社会の持続性などへつなげることを目的としている。

 ここへ参加することで、企業にとってはブランド力強化や、タッチポイント/エンゲージメントの拡大などのメリット、個人にとっては自分と社会の関わりを持つキッカケとなり、社会課題をワガコト(我が事)ととして関わり方が分かるなどのメリットを挙げ、その先には「意味・意義のある人生」につながると呼びかけた。

 個人としては、ビジネス界からJリーグに来たことによる前提知識や価値観の違いなどに苦労があったとし、その対処法として組織共通の地図/ビジョンを創ったことや、逆境から立ち直るための力「レジリエンス力」を鍛えるトレーニングを実践したことなどを紹介。Jリーグに関わってから300冊ぐらいの本を読んだことも紹介し、本を紹介するスライドは参加した多くのANAグループ社員が参考にしようと、写真に収めていた。

川崎フロンターレ 中村憲剛選手

 川崎フロンターレの中村憲剛選手は、「今日は緊張してきたが、フロンターレのユニフォームを着てらっしゃる方が多くてホーム感がある」と場を盛り上げ、サッカー観戦・交流イベントへの関わりを紹介。「試合の次の日にはサッカー教室をやったが、その時も子供たちはすごく楽しそうにしていた。各社、Jリーグのサポートもあって素晴らしい活動ができた。今後につながっていく活動だったのではないかと一選手として思う」としたほか、「子供たちにとっては、漢字だと分からない子もいたと思うので、電光掲示板もかな表記にした。そういう工夫など、いろいろなアプローチができたんじゃないか、できるんじゃないかと思える活動だったと思っている」との感想を話した。

 川崎フロンターレではJ2に降格後にサポーターが減り、当時は空席をユニフォームで隠すようなこともあったという。「クラブも地域の川崎の人たちと歩まないといけないというところから再出発した」とし、中村選手はまさにそのような時期に川崎フロンターレに入団したという。

 川崎フロンターレでは、入院中の子供たちが12月に寂しい思いをしていることから「ブルーサンタ」として病院を訪れる活動や、多摩川の清掃・美化活動「多摩川エコラシコ」、選手が算数にまつわるものに変装することで子供たちに算数を楽しんでもらう「算数ドリル」、東日本大震災で教材がなくなってしまったという岩手県陸前高田市へ算数ドリルとサッカーボールを贈ったことをきっかけに現在では双方向の友好関係を築いているという「陸前高田サッカー教室」といった活動を継続的に実施。入院していた子が等々力競技場へ観戦に来たり、陸前高田市でサッカー教室に参加した子供が現在は川崎フロンターレに入団したりといった例もあるという。

 中村選手は「Jリーグのトリプルミッションという話があったが、フロンターレは地でいっていると思った」とし、Jリーグの村井満チェアマン(当時)に「『フロンターレがいろいろ活動しているのに、Jリーグとしても、もっとやってもらえないのか』と生意気にも持ちかけた」と話す。これがきっかけで生まれたのが米田氏が説明した「シャレン!」だという。中村選手は「こういう形になったのが本当にうれしく、言ってみるものだと感じた」と話した。

川崎フロンターレの活動や、地域/社会貢献についての自身の考えを話す中村憲剛選手
富士通株式会社 東京オリンピック・パラリンピック推進本部 パブリックリレーション統括部 マネージャー 田中雄輝氏。現在は内閣官房 東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局に出向し、ユニバーサルデザイン、共生社会ホストタウン、パラリンピックCIQを担当

 富士通 東京オリンピック・パラリンピック推進本部 パブリックリレーション統括部 マネージャーの田中雄輝氏は、現在、内閣官房 東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局に出向し、ユニバーサルデザイン、共生社会ホストタウン、パラリンピックCIQなどを担当している。

 サッカー観戦・交流イベントには、「きもち日記」というアプリを提供。自身の感情を表わすのが苦手な人も多い発達障がいの子供が、自身の気持ちを表わせるよう、簡単な指さしで絵日記を作れるアプリ。当日はこれで日記を書き、「作成された日記については、フロンターレの選手のサインを付けて後日返送した。非常にお子さんが喜んでくださって、やってよかったと思っている」と感想を話した。

 富士通の取り組みについてはスポーツ文化と川崎フロンターレへの思いを熱く語ったうえで、「社会的課題をICTで解決する。ただ、どれだけ世の中でICTが進歩したとしても、真ん中に人がいることが大切だと考えている」と話す。

 そして、社会貢献につながっている例や、ユニバーサルデザイン分野における製品・サービスを紹介。ここでは、サッカー観戦・交流イベントにも用意したVRを使って発達障がいを疑似体験できるコンテンツも説明。このコンテンツは、発達障がいの人が音や光をどのように感じるかを疑似体験したうえで、どのような配慮をして接すればよいかのアドバイスをまとめたもの。冒頭とラストシーンには中村憲剛選手も出演し、コンテンツの紹介や理解促進をコメントしている。

富士通の「きもち日記」。いつ、どこで、だれが、といった項目に選択肢を用意しており、指さしで選択していくだけで絵日記を作れる
セミナー会場では発達障がいの人がどのように感じるか疑似体験し、どのように接すればよいかをアドバイスするVRコンテンツの体験コーナーも設けられた
富士通のユニバーサルデザイン分野における製品やサービス。聴覚障がい者向けの「Ontenna(オンテナ)」は、先述のIAUD国際デザイン賞2019で、UXデザイン部門の対象に選ばれている
全日本空輸株式会社 オペレーションサポートセンター 品質企画部 近藤浩之氏

 ANAからはボーイング 777型機の機長で、オペレーションサポートセンター 品質企画部の近藤浩之氏が登壇。サッカー観戦・交流イベントでは、参加者に付き添い、羽田空港から競技場への移動や、サッカー観戦への付き添いなどをした。

 イベント当日は、「不安を払拭してあげること、心が不安定にならないように配慮することが大切だと聞いていた」とし、サポートスタッフの顔写真が入った“しおり”や、遮音できるヘッドセット、競技場にある遮音できるセンサリールームの存在が、その不安払拭に役立ったとの印象を受けたという。

 一方でセンサリールームの存在について触れつつ、「スタジアム内の整備だけではなく、移動を含めた一連の流れを整備していく必要を感じた。その意味で、一つの企業では実現できないことを、Jリーグさんやほかの企業さんと一緒に枠を越えて、協力して取り組めたのは大きな一歩だったのではないか」と話した。

 また、イベントのきっかけを作った人に発達障がいの子供がいるお母さんがいたことを紹介。「お母さんは、ご自身のお子さんにはなにもしてあげられなかったが、同じ境遇のお子さんになにかしたい、そういう思いがあると話された。お母さんがお子さんを思う気持ち、誰かのためになにかをしたいという思いが実現していくと、よりよい社会、より優しい社会なるのではないか」との印象を持ったという。

セミナー終了時にはANAから中村憲剛選手へ花束をプレゼント。参加者からのメッセージを描いた旗も贈られた
記念撮影後、パネリストは会場中央の“ヴィクトリーロード”を通って退場

「一過性の取り組みにせず来年度以降も」。担当者に聞く

全日本空輸株式会社 オペレーションサポートセンター 品質企画部 オペレーション品質推進チーム 堯天麻衣子氏

 セミナー終了後、ANAでユニバーサルデザインを担当するオペレーションサポートセンター 品質企画部 オペレーション品質推進チームの堯天麻衣子氏に話を聞いた。

 7月に行なわれたサッカー観戦・交流イベントのその後について、「一過性の取り組みにせずに、継続的に開催することが大切だと思っている。もっといろいろな方々に参加してただける機会を作りたいと思っている。2020年度も継続してやっていきましょうと話している」とコメント。

 ANA一社ではなく他社と連携することでのメリットについては、「弊社は航空運送事業を担っているが、そこだけでは完結しないものがあると思っている」とし、「一緒にやっていくことで大きなムーブメントを起こせるのではないかと思っている」と考えているという。

 7月に行なわれたイベントは発達障がいのある子供を主な対象としていたが、「今回は最初の一歩。弊社は元々、発達障がいのあるお子さま向けの搭乗体験プログラム(冊子や動画)を提供している。その実践フェーズとしてフォーカスした。今後は領域を少しずつ広げていって、いろいろな方に参加していただく機会を作っていければ」という。

 ANAとしてユニバーサルサービスを推進するうえで課題となるのは「経験値」を挙げる。「飛行機に乗りにくいと思われるので、まだまだ搭乗されるお客さまが多くない。CA(客室乗務員)や地上旅客スタッフとそういったお客さまとの接点が少ないので、どう接してよいか分からないということがある」と課題を示し、「こういった機会にいろいろボランティアとかで参画してもらうことで、どのように接すればよいかや距離感などが分かってくると思うので、実践に活かしてもらうことを考えている」と期待。

 さらに今回のセミナーについては、「一企業人として社会との関係をどう築いていくかを考えて、実業務に活かしてもらうこと。もう一つは努力と挑戦が弊社の行動指針のキーワードになっているが、自らいろいろな仕事においてチャレンジしてほしい」と語った。