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日本政府観光局、訪日4000万人実現に向け「全方位作戦」展開。自然災害で落ち込んだ東アジアも再注力し、全世界に向けて日本をプロモーション

2019年1月25日 実施

JNTO(日本政府観光局)が2018年の振り返りと、2019年以降に注力する取り組みを説明

 JNTO(日本政府観光局)は1月25日、2018年の振り返りと2019年以降の同局の方針について、報道関係者に説明会を実施。

 既報のとおり(関連記事「2018年のインバウンドは3119万人2000人で過去最高更新。自然災害などの影響も12月までに回復」)、2018年は訪日外国人が3000万人を突破し、2003年の「ビジット・ジャパン・キャンペーン」のスタートを機に本格化した観光客の日本誘致は右肩上がりで成長している。

日本政府観光局 企画総室長 金子正志氏

 ただ、2018年は自然災害などの影響が大きかったことにも言及。6月18日の大阪府北部大地震や、広い地域に影響が及んだ平成30年7月豪雨も訪日客の出足に影響は大きくなかったものの、9月に発生した台風21号と9月6日の北海道胆振東部地震は、前者が関空(関西国際空港)閉鎖、後者が停電という説明にあたったJNTO 企画総室長の金子正志氏が「前年実績を下まわるのは希有なケース」と述べるように顕著な影響が出た。特に韓国からの訪日客は関空からの入国者が多く、ここが半数程度になってしまったことから影響が大きくなったという。

 この自然災害を通じ、日本を訪問していた外国人から災害情報の伝達が不十分であるとの厳しい声が多かったこともあり、JNTOでは訪日客向けの災害情報発信を強化。情報を一元的に提供するグローバルWebサイトを立ち上げたほか、情報提供アプリへのプッシュ通知機能追加、災害情報を提供する公式Twitterアカウント、コールセンターの体制拡充、交通事業者との連携を強化するなどの対策を矢継ぎ早に行なった。金子氏は災害発生時の情報発信を行なう体制について、「災害が起こりそうになったらすぐに組織内に対策検討会を立ち上げて、特設ページを立ち上げてアップするようにした。9月に大きな自然災害が起きる前から取り組んでいたが、事態が大きくなって加速した」と、本取り組みの背景を説明した。

 自然災害の影響を国別に見ると、東アジアの韓国、中国、台湾、香港では、中国のように10月にはすぐに前年を上まわる訪日客数へと回復する国があった一方、上期好調だった韓国は7月の時点で前年を下まわる状態に。香港は毎年約220万人が訪日するリピーターが多い状況で、自然災害で落ち込んだ分がそのまま訪日客数の減少につながっている。

 一方、JNTOが近年注力してきた欧米豪については自然災害の影響が弱く、2018年後半も前年同期比10%増を超えるペースで推移。前年からの伸び率では自然災害の影響で減少した東アジアを上まわる状況となった。

 2020年に訪日4000万人という政府目標を達成するには、単純計算で2019年、2020年に年平均13.2%の伸びが必要。JNTOでは、この目標達成に向け、短期的にはボリュームの大きい東アジア市場の回復、伸長を図るべく同市場へのプロモーションを改めて強化。一方で、中長期的に進めてきている欧米豪にも引き続き取り組みを進めるという「全方位作戦」を掲げる。

訪日外国人の年別推移
訪日外国人の2018年月別推移
関西と北海道における2018年の自然災害の影響
関空閉鎖により、ここからの韓国人入国者数が減少したことが全体に影響を及ぼした
訪日客に向けた災害情報発信の取り組み
被災地域の観光復興に関する取り組みい
自然災害の影響。写真左が東アジアの4か国、写真右が欧米豪市場。欧米豪は自然災害の影響が小さく、9月以降は前年からの伸び率で東アジアを上まわる結果となった
自然災害での落ち込みからの回復と伸長を目指す東アジア市場と、大きな伸びしろが期待できる欧米豪などの市場へ、「全方位作戦」でプロモーションを展開する

 JNTOは2015年より訪日プロモーション事業の執行機関となり、国土交通省 観光庁が立案した政策や取り組みの計画に沿って、訪日プロモーションの実施を担っている。現在は海外21か所に事務所を置き、各市場の特徴やニーズに合わせたプロモーション施策を展開。FIT(海外個人旅行)が増加する近年の旅行スタイルへの変化や、MICE誘致への取り組みを継続的に実施。

 また、新規市場開拓として、訪日無関心層に向けた「Enjoy my Japanキャンペーン」の展開(関連記事「日本政府観光局、日本の魅力を海外に発信する『Enjoy my Japan』キャンペーン」)、スキーツーリズムや富裕旅行の促進など潜在的なニーズの掘り起こしも進めている。特に富裕旅行については、若年層の多さや、所得水準の高さから、中東市場への取り組みを強化する方向性を示している。

プロモーションの執行機関として、各市場に合わせたマーケティング&プロモーションを展開
FITへの変化に応じて旅行会社だけでなく航空会社やOTA(オンライン・トラベル・エージェント)へのプロモーションを強化するなど対応
国内開催による経済波及効果が大きいMICE誘致も重要な課題。アジアナンバーワンの地位確立を目指す
訪日無関心層に向けてキャンペーンを展開
国別に異なる関心事項に合わせてプロモーション
訪日需要の高まりが期待される「スノーツーリズム」。特に中国市場で期待される
富裕旅行の促進をさらに進める。新市場として中東市場に期待を示す

 2019~2020年に力を入れる新たな取り組みとしては、デジタルマーケティングの強化が挙げられた。先述の災害情報提供だけでなく、WebサイトやSNSを通じた情報提供を強化するほか、JNTOによるDMP(Data Management Platform)を構築し、収集したビッグデータをもとにターゲットを絞った広告配信などを実施していく。

 また、ゴールデンルート以外の誘客を強化すべく、地域との連携も強化。観光資源の磨き上げなど、観光コンテンツは地方自治体やDMOなどが行ない、それらの情報をJNTOの知見やDMPを活用してプロモーションに反映。その誘客効果をフィードバックするサイクルを作り上げる。

 地域の連携についてはJNTOによるマーケティング研修会や外国人旅行者向けWebサイトの制作マニュアルの提供などで地域のプロモーション活動を支援。さらに、地域が政策したコンテンツをJNTOが収集し、各種プロモーションで活用するといった事業も展開している。

 このほか、地域のニーズが高い航空路線誘致についても、路線誘致促進の働きかけや、国内空港関係者とのマッチングの機会を設けるなど支援している。

2019年以降、JNTOがDMP(Digital Marketing Platform)の活用を推進。DMPを含め、地域のプロモーション活動支援も強化していく

 日本においては、2019年にラグビーワールドカップ、2020年に東京オリンピック・パラリンピックが開催されることから、訪日客の増加が期待されている。

 2019年のラグビーワールドカップは、欧米豪市場からの新規訪問客が期待できるほか、全国12都市での開催、試合間隔による滞在期間の長さなど、JNTOとしても期待を示しており、専用Webサイトの運営や、ラグビーのレジェンドプレイヤーによる12都市のPR動画制作を実施。期間中には海外から訪問したメディア関係者に地方を紹介する取り組みなどを行なう予定にしている。

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックについては、やや事情が異なる。金子氏は「オリンピック期間は一般の訪問客が来るのを控える傾向のあることがロンドンオリンピックなどでも見られる。日本は右肩上がりで成長しているなかでの開催なので、大きな減速は考えていないが、右肩上がりのトレンド減速させないためにはどうすればよいか。また、大会後に取り戻す」を重点に施策を検討している。

 まず、大会前には聖火リレーなどを通じて地方の発信や、バリアフリーをアピール。大会中はラグビーワールドカップ同様にメディアを地方取材などに招聘して日本の魅力を発信。そして、大会後にも継続して地方の魅力を発信し、オリンピックで高まった訪日機運の継続を図っていく。

2019年のラグビーワールドカップに関する取り組み
2020年の東京オリンピック・パラリンピックに関する取り組み
2019年以降に注力するポイントのまとめ