イベントレポート

【ツーリズムEXPO 2018】OAGが新規路線/旅客誘致へのデータ活用方法をセミナーで紹介

2018年9月20日~23日 開催

OAG Aviation Worldwide Limited セールスマネージャー 山本洋志氏

 OAGは、9月20日と21日の2日間にわたり、ツーリズムEXPOジャパン2018でセミナーを開催した。同社がどのような航空関連データを持ち、それをどのように旅行業に活かすかとの視点で説明が行なわれた。

 OAGは、旅行業に携わる人には公式の航空時刻表(Official Airline Guide)を発行する会社として知られている。旅行業務取扱管理者試験においても、都市間の所要時間を公式時刻表の記載を読み解いて回答する問題が含まれるなど、「OAG」の名前を一度は目にすることになる。

 現在は航空会社から提供されているデータをもとに情報を集約し、航空会社や空港へのデータ提供を行なっている。セミナーで講演したOAG セールスマネージャー 山本洋志氏は「旅行関連作業の皆さんに黒子としてお役に立っていると自負している」という特徴のある会社だ。

 現在は時刻表よりもデータに軸足が少しシフトしており、スケジュールデータや運航データなどを提供し、モバイルアプリや検索エンジン、比較サイト、GDS(予約・発券システム)などに活用されている。

OAGの歴史。Official Airline Guideの発行で知られるが、現在はデータ提供にシフトしている
OAGの本社はロンドンで、東京にも支社がある

 そうしたデータのなかで、旅行業界のマーケティングに活用できるもの例として、山本氏は「スケジュールデータ」「マーケットサイズデータ」「コネクションデータ」の3つを紹介した。

 スケジュールデータは、便名や発着時刻が中心のデータだが、ここに含まれる機材情報、そして座席数が分かる。この座席数の情報から、航空会社横断的な路線別の座席供給数などが見える。さらに、公表されている搭乗率(ロードファクター)を掛け合わせれば、輸送人員数も見えてくることになる。

 また、山本氏は「スケジュールデータは経済状況を大きく反映するデータ」とし、例として中国の経済活動が強くなっており、機材の大型化や座席供給量増の流れが見え、中国のインバウンド/アウトバウンドの隆盛を見て取ることができるという。さらに、現在の日本ではインバウンドが増加しているが、こうしたスケジュールデータからは路線ごとに細かく見られることも重要であるとした。

 続いての「マーケットデータ」は、旅客の流動データとなる。山本氏は「国土交通省やJNTOが発表する入国者数である程度の判断をしていると思うが、市場にはBSP、MIDTというマーケットデータがある」と話し、入国者数に加えて、旅行会社の予約数を元に作ったデータ、何名ぐらいが、どこの航空会社で、どこを経由して、どこへ行ったかなどを表わすデータを用意しているという。

 特に地方の観光関連のアピールということでデジタル媒体でマーケティングをしている場合、航空会社や国籍によって異なる好みやトレンドを見ることで、ターゲットを絞り込んでピンポイントなマーケティング可能になるという。

 最後の「コネクションデータ」は、すなわち乗り換えデータ。特に地方空港を主眼に置く場合に、ある空港から海外都市への直行便が開設された場合に、その就航先だけでなく、就航先から接続している都市もインバウンドの市場になり得る。山本氏は、12月にキャセイドラゴン航空が開設する徳島~香港線を例に挙げ、「乗り換え6時間の条件はあるが、それだけ待てば、徳島と欧州がつながる。コネクションデータを見ると、どのような可能性を秘めているかが分かる」としたほか、ある都市に特定の国から多くの人が訪れる理由なども分かることがあるという。

 OAGではスケジュールデータを「供給データ」、マーケットサイズデータを「需要データ」、コネクションデータを「可能性データ」と呼んでいるという。

旅行業に有効な航空関連のデータ例

 ここで、それぞれのデータをどう活用するか、具体例を紹介した。

 供給データであるスケジュールデータは、海外との往来に飛行機を使うことが一般的な日本において非常に重要なデータであるとし、「座席供給量が少ない船という別の手段はあるものの、飛行機の座席数がそのまま日本に出入りできる数になる」と説明。

 日本市場においては、2017年は国内線が約1億4500万席、国際線が5600万席。2018年は国内線がほぼ横ばいの約1億4500万席、国際線が約5900万席へと増加している。国際線の出発空港や路線の便数、座席数のランキングも紹介があった。運航機材の違いによって、関空~香港線とのように7位の便数ながら、座席数では3位になるようなケースもある。

 続いては需要のデータだ。国際線が約4300万人、国内線が約8600万人。併せて平均運賃額のデータもある。国際線は約419ドル、国内線は約165ドルとなっている。

 空港別にランキングを作ると、総旅客数では成田、関空、羽田、福岡、セントレアの順になるが、総収益では成田、羽田、関空、セントレア、福岡という順になる。これは羽田やセントレアにビジネス客が多いことを表わしている。

 山本氏は「航空会社が新規路線を引くときには、総旅客数の見込み、収益が確保できるかどうか、カーゴ(貨物)需要を見込めるか、の3つを重要視する。よって、旅客面では地元のビジネス客をどれだけその空港から出発させられるかが重要になる」と、新規路線誘致を目指す、空港関係者や地方の関係者に向けたポイントを示した。

海外との往来の多くを飛行機に依存する日本では、航空のスケジュールデータや座席数のデータが、すなわち人が往来可能な量ということになる
2017年と2018年の国内線/国際線供給座席数と便数
需要のデータ。総旅客数と収益の関係から主要顧客の属性が見えてくる

 日本政府が目指す2020年のインバウンド4000万人についても言及。2017年は総座席数が約5600万席で、約4600万人が利用した。よって座席数の残りは約970万席となる。インバウンドは4000万人の目標に対して2017年は約2869万人なので、その差は約1131万となることから、2017年の総座席数から旅客数を差し引いた数字を、すべてインバウンド客が利用したとしても「4000万人には到達しない」と指摘する。

 さらに、日本の出入国だけでなく、例えばシンガポール~北米を往来するときに成田で乗り継ぐ例などを挙げ、日本は乗り換え地としての利用も多い。この需要が年間約200万人あり、先述の座席数の残りは約760万席にまで減少する。

 2017年から2018年にかけて340万席の増加があることから、インバウンド客だけが使うのであれば4000万人の数字を満たす座席供給量は実現できるものの、現実にはアウトバウンドの需要がないと航空会社の撤退も考えられるため、インバウンドとアウトバウンドをうまく伸ばす必要があるとし、「2020年に向けて800万席を増やす必要がある」との考えを示した。

現在の供給座席数と旅客数、2018年の増席分を合わせてもインバウンド4000万人の輸送には不十分。800万席の増席が必要との見方を示した

 続いて、航空業界におけるマーケットデータの活用について説明。市場はサイズやビジネス、観光、乗り継ぎのそれぞれの需要や、可能性を示せるように可視化しておく必要があるほか、海外企業へのプロモーションのためには国際的に信頼されているデータであること、そして業界に合ったデータの量や質が問われるとした。

マーケットデータの役割

 そうしたデータを使い、実際に近隣マーケットと日本との比較を紹介。日本と、中国、韓国を比べると、中国の総座席数は約7億2000万席、日本は約2億席と、中国は3倍以上の座席供給率がある。2013年からの5年間の伸び率も非常に高く、中国はさらに伸びると言われているという。国際線誘致にあたって、国内空港の競合は中国となる。「こうしたデータを中国側が示すと、航空会社はまず中国に興味を示し、条件が合わないと日本に、となる。需要見込みや競争環境として中国の動向は非常に注目しなければならない」とした。また、伸び率では韓国も非常に高い。

 続いて、中国とアジア各国の便数、座席数の比較を提示。そのなかで2014年は中国~タイ間よりも中国~日本間の方が便数、座席数ともに多かったが、2018年には中国~タイ間が逆転してしまっている。中国~日本間は増便しているように見えるものの、減便もあるために、2015~2016年からほぼ横ばいの傾向が続いていることが分かる。

 もう一つの課題として、日本、韓国、中国に就航する国際線の割合として、中国は約60%、韓国は約70%が自国の航空会社で国際線を運航しているのに対して、日本は約30%であるというデータを示し、「日本の経済だけでなく、出発国の経済状況も大きく関わってくることになる。日本でコントロールできないところで路線の消失や座席供給量減が発生する可能性があり、中国、韓国と競争するうえで日本はリスクの高い市場」と指摘した。

路線誘致の競合関係にある中国、韓国と比較した総座席数の推移
中国~アジア各国間の便数と座席数。路線開設が目立つように見える中国~日本間だが、実際には減便などもあって横ばい傾向。東南アジアの他国と中国を結ぶ便の増加が顕著に出ている
日本は本邦航空会社による国際線運航便数が少ないため、他国の経済環境の影響を受けやすい「リスクのある市場」との指摘
そのほか、日本と、その競合市場における動向をまとめたスライド

 一方で、明るい話としては、次世代航空機の存在を挙げた。エアバス A320neoファミリーや、ボーイング 737 MAXファミリーといった、これまで大型機しか飛べなかったような航続距離を実現した小型機が登場したことで、路線維持に必要な搭乗率の維持に対するハードルが低くなることから、路線管理が容易になり、新規路線就航のほか、これまでは需要のために週2~3日運航だったところをデイリー運航化できる可能性が高まる。

 例えば、新千歳(札幌)からもインドネシアやマレーシア、ハワイなどへの小型機による直行便が可能になる。「地方空港で大型機を維持するのは難しかったが、小型機でどこまで飛べるかを考えると、マーケットが変わってくる。市場、エリアのニーズを把握し、小型機を使ったマーケティングや売り込みをすることで、目的地から地方へ直行便を誘致して、新しいニーズを掘り起こしていく」と、地方空港の可能性についても言及した。

 もっとも、中国の場合も次世代航空機の恩恵はあり、北京~北欧間の直行便を小型機で実現できるほか、東方のウルムチはパリやロンドンへの小型機による直行便を飛ばせるようになるので、その点には留意が必要であるとしている。

エアバス A320neoファミリーやボーイング 737 MAXファミリーのような、航続距離の長い小型機が登場したことで、アジアの新たな商機が生まれる
こうした航続距離の長い旅客機は中国航空会社にとっても欧州間を結べるなどのチャンスがある
日本の例では新千歳(札幌)からホノルル、東南アジアなどへの直行便の可能性を紹介

OAGのデータをどう活用できるか。利用例を紹介

 最後に、OAGのデータをどう活用し、ソリューションにつなげていくかの紹介があった。

 スケジュールデータからは、特定の空港がどのように利用されているかを詳細に分析できることの紹介があった。例えば、座席数であればLCCとフルサービスキャリア別に分析できたり、時間帯別の離発着状況を分析できたりする。前者であれば、想定する対象に合わせて分析対象を絞り込むことができるし、後者であれば、何時ぐらいにどこの国の人が何名ぐらい到着するかが見えることで、翻訳スタッフの配置など到着地側の言語対応の効率化が可能になると紹介した。

 トラフィック/流動データからは、空港に到着した人の最終目的地を可視化する例を示した。例えば、成田~シンガポールでは6割が成田で降りるが、ほかは新千歳、北米などへ向かう人もいることが分かる。とくに約8.4%は新千歳へ移動していることから、ここに新規路線を引くことで人の流動を促すなどといった可能性が見えてくる。

 コネクションデータは、地方に新規路線が開設された場合に、可能性のあるマーケットを知ることにつなげられる例を紹介した。先述した徳島~香港線を使うと、香港を経由して欧州やバンコク、ジャカルタなどへ接続が可能になる。

 山本氏は「(こうしたことが見えると)新しい需要としてヨーロッパから人を誘致するようなことも可能」とし、データを活用することで地方でもインバウンド市場の新規開拓の可能性が広がることを示した。さらに、路線を誘致したい対象がある場合にも、直行便だけでなく、ハブ空港を利用した経由便の誘致につなげられるデータでもある。

スケジュールデータの利用例
空港別の座席数推移や、特定空港のLCC/FSC(フルサービスキャリア)の比率、時間帯別の発着状況などを可視化したもの
関空へのインバウンド流入の国籍別分析
成田~シンガポール路線における旅客の最終目的地をグラフ化。新千歳を目的地とする人も一定の割合を占めている
コネクションデータの活用により、路線が持つ市場可能性を可視化することができる

 こうしたデータを総合的に活用することに加えて、ナビタイムが提供している地上交通の流動データを組み合わせた活用も紹介。ナビタイムでは、自社で提供しているアプリを利用し、(利用者が承諾した場合について)位置情報を集約している。このデータを組み合わせると、例えば、ある空港に到着した、ある国籍の人が、どこへ移動することが多いのか、といった情報が見える。

 こうした地上移動における国籍別のトレンド、空港からの所要時間を組み合わせることで、地方空港からの移動傾向、移動可能な範囲が可視化され、インバウンド旅客の新たなニーズを掘り起こせる可能性があることを示した。

OAGではこれらのデータに加えて、ナビタイムが持つ地上の流動データも加えて市場の可能性を幅広く分析。データという根拠に基づいたコンサルティングを行なっている