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「JALなでしこラボ」プロジェクト第2期中間発表。植木社長との車座意見交換会も

2017年4月18日 実施

日本航空株式会社 代表取締役社長の植木義晴氏も参加した「JALなでしこラボプロジェクト」第2期生の中間発表

 JAL(日本航空)は4月18日、「JALなでしこラボプロジェクト」第2期生による定例ミーティングを実施。各チームの研究結果を中間発表し、同社代表取締役社長である植木義晴氏との車座意見交換会を実施した。

 JALなでしこラボプロジェクトは、女性活躍推進やダイバーシティ推進の課題と施策を研究し、提言するためにグループ横断で取り組むプロジェクト。現在は2期目にあたり、推薦や公募で集まったメンバーが7名ずつ4チームに分かれて毎月1回以上集まり、研究活動を実施。1年を通じて取り組み、7月に発表会が行なわれる。

 今期の大きなテーマとしては「バイアスとVISION」を設定。考え方のクセや先入観があると理解したうえで明確なビジョンを持って明日のJALを作ることを目指す。

 中間発表となる今回の定例ミーティングでは、4チームの代表者が決定したテーマを発表し、これまでの研究結果の中間発表も実施。4チーム独自の「バイアスとVISION」を深掘りしたテーマを発表した。

羽田地区 JALテクニカルセンター会議室に「JALなでしこラボプロジェクト」第2期のメンバーが集合し植木社長を迎えて中間発表を実施

チーム「360」は「オフが仕事にもたらす効果」を検証

 最初に登壇したチーム「360」では、「オフが仕事にもたらす効果」をテーマに研究。JALスカイエアポート沖縄の渡久地ももこさんと、日本トランスオーシャン航空の玉城李奈さんが発表を行なった。

 まず、終業後に先に帰るときや休みの取得前、無意識に「すみません」と声がけするのは、先に帰ったり休みを取ったりすることにネガティブなイメージがあるからではないかと指摘。チーム360では、退社後や休日など仕事以外の時間を「オフ」と呼び、その効果には「心身の健康」「相互理解」「新しい発想」「仕事効率」があり、この効果が会社全体の発展につながるとした。

 当初、職場環境で「お互いに理解し合えない人が多いのはなぜだろう」という疑問からこのテーマを設定。便利な制度があっても理解しあえない職場環境では制度が活用されない。仕事以外の時間が充実することで人のことを思いやれるようになるのでは、と考えたとのこと。今後は全社アンケートを行ない、オフが充実している人とそうでない人では、仕事の仕方や心身の健康などにどのような違いがあるか洗い出し、オフが仕事にもたらす効果を具体的に探っていく。

 チームからは植木社長に「オフはもっとポジティブであるべきだ! という意識を全社に広げるにはどう取り組めばよいかアドバイスがほしい」と質問が飛んだが、植木社長からは「それをどう広げていくか考えるのがチーム360の役割。ただ、自分の経験ではコックピットのなかでは自分の考えを押しつけるやり方はうまくいかなかった。目の前でして見せて、感じてもらう方法が有効。自分の言いたいことを押しつけるのではなく、相手の立場になって話をすることが大切だと思う。論理的にかっこよくまとめるよりも、具体例を挙げて自分の経験を話す方が分かりやすくなる」と回答した。

チーム360は日本トランスオーシャン航空株式会社の玉城李奈さん(左)とJALスカイエアポート沖縄株式会社の渡久地ももこさん(右)が演技も交えながら軽快に発表
テーマを「オフが仕事にもたらす効果」と設定
「オフが仕事にもたらす効果」には、「心身の健康」「相互理解」「新しい発想」「仕事効率」があると指摘
チーム全員で「オフはもっとポジティブであるべきだ!」と宣言
チームから社長へ「意識を全社に広げるには?」と質問
植木社長からは「論理的にかっこよくまとめるよりも、具体例を挙げて自分の経験を話す方が分かりやすくなる」とアドバイス

チーム「ドーナツの穴」はVISIONを達成する「いきいきの素」を研究

 チーム「ドーナツの穴」は、「バイアスとVISION」について掘り下げ、モチベーションを「いきいきの素」と定義してVISIONの達成方法を考察。JALスカイの佐久間千恵子さんとジャルセールスの若野愛子さんが発表を実施した。

 チームドーナツの穴ではまずバイアスを探るため「JALのイメージ」をJALグループ社員や家族、知人にヒアリング。結果をSWOT分析すると、周囲からの評価は高いが自分たちの評価は低く、弱みと脅威が多く挙がり、社員がJALグループに対してマイナス要因ばかりをイメージしている傾向が強いのではないかという結果が出たという。

 そしてどのようなときにいきいきと働いているか、それを阻むものはなにかを分析し、チームドーナツの穴ではVISIONを「全社員でモチベーションを高め合い、いきいきと働けるJALグループを作ること」と設定した。

 考え方のくせであるバイアスを理解し、自分と他人の「いきいきの素」があってこそVISIONが達成できるとした。その「いきいきの素」(自己効力感)と定義したのは「1.達成経験」「2.代理経験」「3.言語的説得」「4.生理的情緒的高揚」「5.想像的体験」の5つの要因であると解説。自分と他人のモチベーションの原動力となるいきいきの素を認識し、いきいきの素の多様性を受け入れ、活かすことがVISION実現へのステップになるとした。

 今後は全社員を対象にアンケートを行ない、社員のモチベーションの傾向を分析、その考え方のクセをあぶり出す。さらに社員が持つ、いきいきの素の多様性を活かした施策を検討し、7月のフォーラムで提言する予定。

 チームから植木社長へ「JALグループ社員の考え方のクセを感じることはあるか?」との質問が出て、植木社長からは「傾向ははっきりあると思う。セクションによる違いもあると感じている」と回答があった。

チームドーナツの穴は株式会社JALスカイの佐久間千恵子さん(左)と株式会社ジャルセールスの若野愛子さん(右)が発表
JALのバイアスを周囲にヒアリングし、SWOT分析
VISIONの達成にはモチベーションを高める必要があると指摘
モチベーションの原動力「いきいきの素」の5つの要因を解説
チームから社長へは「JALグループ社員の考え方のクセとは?」と質問
植木社長からは「傾向ははっきりあると思う」と具体的に指摘された

チーム「虹の架け橋」は相互理解で「継続的成長のサイクル」を回す

 チーム「虹の架け橋」はJALインフォテックの中舘千秋さんが発表。「明日のJALを創るために」はさまざまな社員がそれぞれの働き方でWork(貢献)し、成長し続けることができる会社であること、社員一人一人の継続的成長が重要だとした。

 継続的成長を妨げる要因をグルーピングすると、「制度」「社員の自立」「相互理解」「働き方」「評価」にカテゴリー分けされ、そのバイアスについて話し合い、よく現われる6つのバイアスを「JALバイアス」と称した。

 そのなかでも継続的成長のサイクルを回す糸口として最も重要なのは「相互理解」だと認識。何かに気がついた瞬間を誰かにアウトプットすると、受け取った人にはインプットになる、と自分自身の経験を周囲に波及させることの重要性を解説した。

 この継続的成長につながるアウトプットには、業務や日常生活以外の体験が重要だと考え、JALグループ社員が過去にどのような体験や学びをとおして新たな考えを得てきたのか、アンケートで評価する予定。

 植木社長からは「現状にみられるバイアス」に挙げられた項目について「僕もこの現状を変えようと長年いっているが、なかなか変わらない。特に前例主義で、従来の考え方に固執し、変化を好まない傾向にある。ただし、図のなかで継続的成長のサイクルを回す糸口として評価や制度があったが、会社がどんなにそれらを整えても本人の意識が変わらなければサイクルはまわらない。『社員の自立』『相互理解』『働き方』は社員がどれだけ貫き抜けるかにかかっている。その認識をぜひしてほしい」とコメントがあった。

 CA(客室乗務員)を務めるチームメンバーからは「その日初めて会うメンバーで相互理解するコツを教えてほしい」との質問があり、植木社長は「パイロット(運航乗務員)を務めるなかで学んだのは、短期間で相手の信頼を得ることの重要性。そのためには相手の考え方を瞬時に理解し、相手の許容範囲のなかで、言葉に出しながら少しだけ自分に寄せていく。信頼を得てからなら相互理解もしやすい。それが相手に対する思いやり」とコメントした。

チーム「虹の架け橋」は株式会社JALインフォテックの中舘千秋さんが発表
現状職場にあるバイアスを的確に指摘
継続的成長のサイクルを回す糸口を指摘
植木社長も「現状にみられるバイアス」に同意。ただし制度作りだけではサイクルはまわらないと指摘
チームから「その日初めて会うメンバーで相互理解するコツを教えてほしい」との質問
植木社長自らホワイトボードを使って具体例を解説しながら「相手の信頼を得てからの方が相互理解もしやすい」とアドバイス

第1期の提言を具現化する「JALなでしこラボプロジェクトTake Offチーム」

 第1期の提言内容を具体化する目的で編成された「JALなでしこラボプロジェクト Take Offチーム」は、JALエンジニアリングの小澤理香さんが代表して発表。第1期の提言内容から「管理職パネルディスカッション」「朝活」「介護」の3つを検討・実施中。

 第1期生の「意識チーム」では、女性がやりがいをもって長く働き、管理職を目指すには、自分なりのロールモデルを形成することが必要と提言。それを受けてキャリアアップの理想像を仮説立てし、モデル像の登壇者によるパネルディスカッションを来月実施し、管理職を目指す意識付けを行なう。

 第1期生からコミュニケーション活性化のために提言された朝10分程度の「朝活」はすでに実施されており、その実施状況について調査。続けたい人の割合が約8割と高く、より活性化するための「朝活8か条」を新たに設定し、カフェの設置も検討している。

 第1期生の「継続性チーム」の提言である「介護」については、「一人で抱え込む介護」から「みんなで支えあう介護」へと変えていくため、セミナーを実施するほか、ハンドブックを作成。「介護サポーターバッジ」を300個作成して、介護に対する関心・理解を高めていく。

 さらに一歩進んだ取り組みとして、社外向けの「なでしこ介護チャーター」を検討中。JALおよび、なでしこラボから社会に対して、介護者とその家族にも空の旅を提供したいと考えているとのこと。

 チームから植木社長へは「女性が管理職になることについては、第1期生による検討では言われないと意識しない人が多かった。植木社長から見て女性が管理職になろうと思うタイミングはどこにあると思うか、どうアクションしたらよいと考えているか」という質問がされ、植木社長からは「そこが一番の問題。女性自身がその気になってくれなければどんなに制度を用意しても何の価値もない。今はまだ管理職になりたいという女性の母数が少なすぎる。女性自身が自分に価値があることに気が付いてほしい」とコメントした。

「Take Offチーム」は株式会社JALエンジニアリングの小澤理香さんが発表
「管理職パネルディスカッション」ではモデル像の登壇者を設定し、実際にパネルディスカッションを実施する
「朝活」は好評でカフェでの実施も検討中
「介護」にはセミナーを実施するほか「介護サポーターバッジ」も作成
チームから社長へは、女性が管理職になるタイミングやアクションについて質問
植木社長からはまだ女性の管理職希望者の母数が少ないと指摘。「女性自身が自分に価値があることに気が付いてほしい」とコメント

植木社長の総評で語られた「会社を変えるKYへの期待」

車座になり、植木社長が中間発表について総評
日本航空株式会社 代表取締役社長 植木義晴氏。「会社を変えるのはKYやマイノリティ。君たちに本気になって会社を変えていってほしい」とコメント

 続いて植木社長と車座になり、意見交換会が実施された。植木社長からの総評では、「最初の3チームは自由にテーマを設定してよいといわれて困ったと思う。自分のエネルギーを燃やすまでにおそらく6カ月かかったんじゃないか。常に自分で物事を考えて判断するクセをつければ、行動まで早くなるはず」と指摘。

 さらに「君たちには価値がある。それを気が付いてほしい。まだ会社には前提主義の部分がある。前提主義を正しくないと指摘できるのは女性の特権。女性の特権はよい意味でKYなこと。僕も自分が偉大なるKYだと自称している。自分を変える必要はないし、だからこそ会社を変えられる。過去最大のKYは稲盛(稲盛和夫)さんだったはず。でも稲盛さんだったからこそ会社を変えられた。彼は彼の信念を貫き通した。会社を変えるのはKYな人間、マイノリティだと思う」と熱いコメントが送られた。

 そして女性活躍推進に関しては、「君たちはまだマイノリティ。だからこそ物事を変えられる価値観を持っているということに気が付いてほしい。論理構成なんて重要じゃない。僕だって最初は財務三表なんて知らなかった。必要なことは必要なときに勉強すればよいだけ。卑屈になる必要なんてまったくない。君たちには君たちしか持ってないものがある。君たちに本気になって会社を変えていってほしい」と、メンバーに高い期待を寄せた。

チーム「360」のメンバー
チーム「ドーナツの穴」のメンバー
チーム「虹の架け橋」のメンバー
「JALなでしこラボプロジェクト Take Offチーム」のメンバー

女性の育成は長いスパンで行なうと大きな結果が出ると実感

JALなでしこラボプロジェクト事務局の意識改革・人づくり推進部 教育・研修グループ 安部やよいさんが第2期のなでしこラボプロジェクトについて解説した

 会議後、JALなでしこラボプロジェクト事務局 意識改革・人づくり推進部 教育・研修グループ 安部やよいさんが取材に応じ、第2期のなでしこラボプロジェクトについてや、活動の狙いなどについて質疑応答を行なった。

 安部さんによると、前年の第1期を通じて「女性の育成は長いスパンで行なった方が伸びしろがある」と感じたとのこと。第2期で「Future Design」と呼ぶ前年から引き続き研究を行なう「Take Offチーム」を作ったのもそのためで、実際に商品化するところまでを目指しているとのこと。特に「なでしこラボプロジェクト」が担うダイバーシティ推進は、社会貢献にもつながる取り組みであるため、介護を中心化したチャーターフライトの実施で、実際の社会貢献につなげる考えだ。

 第2期では、第1期のメンバーが各チームに1名ずつ残っているほか、難しい課題にぶつかった際はメンターに相談したり、他社との交流を行なったりする場面もあるそうだ。また、前年はテーマが3つあったため、チームが独立して研究に取り組むことが多かったが、今回は共通のテーマのため、アンケートを共同で行なうなどチーム間のつながりをしっかり持っているという。

 第2期は「バイアスとVISION」というやや難しい大テーマであることもあって、各チームの詳細なテーマ決定まで長くかかったそうだが、ここからは一気に研究が進むと予想しているとのこと。提言にとどまらず、商品化につなげ、結果を出すために活動を続けていく考えだ。

 こうした、なでしこラボプロジェクトのメンバーが取り組む経過や課題は、今後も多くの企業で参考になりそうだ。