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LGBTへの取り組みを評価するPRIDE指標「ゴールド」に航空会社3社など

イベント「work with Pride 2016」で表彰式

2016年10月26日 開催

今年で5回目の開催となる「work with Pride」

 レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーを意味する言葉として、一般的に知られるようになってきたLGBT。最近では企業における取り組みも始まってきているが、work with Prideは10月26日、都内でLGBTの職場環境について考えるイベント「work with Pride 2016」を開催、「PRIDE指標」応募企業の表彰など行なった。なかでも評価の高い「ゴールド」には航空会社からANA(全日本空輸)、JAL(日本航空)、JTA(日本トランスオーシャン航空)の3社をはじめ、旅行業界からも数社が表彰された。

 イベントを開催したwork with Prideは、日本IBM、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ、認定NPO法人 グッド・エイジング・エールズ、NPO法人 虹色ダイバーシティにより構成される任意団体。会場には600人が集まり、LGBTの当事者および企業経営者トップによるパネルディスカッションも行なわれた。

LGBTについて知るプレセッション

「work with Pride 2016」では最初に本編に先駆け、来場者にLGBTの基礎知識と最新事情を知ってもらうべくプレセッションを開催。グッド・エイジング・エールズの渡辺勇教氏は、セクシャリティについて「カラダの性とココロの性(性自認)、スキになる性(性的指向)、この3つの掛け合わせで、12のパターンがある」と話し、人間の性のあり方はさまざまあると紹介した。

グッド・エイジング・エールズの渡辺勇教氏
虹色ダイバーシティの五十嵐ゆり氏

 虹色ダイバーシティの五十嵐ゆり氏はLGBTが置かれている現状について説明。LGBTは大人になってからの問題ではなく、学齢期から自分自身に誇りを持てない、自尊心を育めない、仲間が見つけられないといった困難があるという。また、五十嵐氏は「社会に出るときになっても就職活動での履歴書やスーツの問題といった就職活動に始まって、職場でも本当の自分を言えないために信頼関係を作れず、離職や転職を繰り返して非正規雇用になりがちで貧困ハイリスク層のリスクが高い」と説明した。

 また、五十嵐氏は日本の現状については、中東やアフリカのイスラム諸国などのように同性愛は犯罪とされることはないものの、差別禁止法がなく、同性間の法的保障がない点を指摘。「医療や保険、共有財産など“もしも”のときに困る」と話した。

 プレセッションでは企業ができることとして、人事や採用担当などがLGBT研修を受けたり、相談できることを明示する「支援体制」、差別禁止規定の盛り込みや経営層の支援宣言、福利厚生の見直しなどといった「制度」、階層別研修への取り組み、従業員の意識改善、商品やサービスの見直しなどを盛り込んだ「意識」の3本柱を紹介。

 渡辺氏はLGBT対応の土台として「我々の会社はLGBTと向き合っていますよということを社内のTipsとかで共有する、人事の担当の方が研修に参加しましたと発信する、社内においてLGBTって言葉で検索しても何も出てこないって事態は避けるべきなのかな、と思います」と話し、社内でLGBTを知る機会や、当事者が社内のLGBTに関する情報にアクセス可能な環境の重要性について語った。

 最後に五十嵐氏はLGBTの理解者・支援者を指す「アライ」という言葉について説明。「アライアンスのアライですね。そうした方になっていただきたい。学習機会や接触機会を設けるなかで、『あ、こういう人たちなんだな』『こういう困りごとがあるんだな』『自分にできることは何かな』ということをぜひお感じいただけたらありがたいな、と思います」と話した。

LGBTの理解度や生産性の関係について語られた基調講演

「work with Pride 2016」本編では冒頭で第一生命保険 取締役常務執行役員の武富正夫氏が登壇。自社で作ったLGBTを表わすレインボーカラーの旗を手に「私ども生命保険事業という社会的使命を持ったそういうビジネスをやっていまして、まずは先陣を切っていろんな取り組みを行ない変えていかないと、と強く認識いたしました」と挨拶した。

レインボーカラーの旗を持って挨拶をする第一生命保険株式会社 取締役常務執行役員の武富正夫氏
国立社会保障・人口問題研究所 人口動向研究部 第2室長 釜野さおり氏

 続いて行なわれたのが、国立社会保障・人口問題研究所 人口動向研究部 第2室長 釜野さおり氏による基調講演。釜野氏は少子高齢化で生産人口が減るなか、働き手が必要となりLGBTも例外でないと話したうえで、職場のLGBT施策は必須と説明し、現在の日本のLGBTへの理解度は世界において中レベルと指摘。

 また、2015年に行なわれた全国意識調査の結果を紹介し、男女別では女性の方が、年齢別では20~30代といった若い層の方が、当事者が「いる」「いない」では「いる」人の方がLGBTを受け入れているという結果を示した。

 また、アメリカの同性愛・トランスジェンダーにおける研究を元に、組織におけるLGBT施策の効果について説明。LGBT施策を行なってLGBTの働きやすさが向上することで、職場満足度と健康、コミットメントが向上するという。その結果、LGBTの雇用者の生産性がアップし、引いては職場の生産性アップにつながるとのこと。

 釜野氏は最後にLGBTの職場環境について、「働きやすい環境というのは施策も大切だと思いますけども、雰囲気というのがとても大切だと思いまして、その雰囲気作りをあきらめないで取り組んでいただきたいと思っています。地道に続けるその姿勢こそが生産性を上げると信じております」と話し、その上で施策も形骸化させないことが重要だと説いた。

LGBT施策を行なうことでLGBT雇用者および企業の生産性がアップする
LGBT施策が直接、組織そのものの生産性をアップさせるというデータもあるとのこと

LGBT当事者によるパネルディスカッション

「work with Pride 2016」ではLGBT当事者によるパネルディスカッションも開催。都内のIT企業に勤務する当事者が集まり、LGBTが就職や職場において直面する問題や職場環境改善の動きなどについて語られた。

「自分のセクシャリティをオープンにすること」のテーマでは、「職場でカミングアウトしたことで生産性や働きやすさ、この会社でもっと働いていこうという、そういったところが意識として変わってきました。ただし、その一方でカミングアウトをどんどんしていけばいいかといいますと、カミングアウトは精神的に大変なもの」という意見や、「個人と職場がどういう関係を結びたいかは、その人の判断によりますので一概にはオープンにすればよいということではない」という慎重な声が上がった。

 登壇者のなかからはトランスジェンダーをカミングアウトしたところ職場を追われた経験談も語られ、セクシャリティをオープンにする難しさが浮き彫りに。

 職場での現状については、ポジティブなエピソードとして社内でLGBTのアクションや研修を行なったことで、会社のLGBTフレンドリーとしての評価が高まり、就職活動の面接において「LGBTをサポートしているから」という志望動機で入社した新入社員がいた話が紹介された。ただ、その一方でLGBTに理解があるという職場においても、冗談のつもりでLGBTを揶揄するような話題が出てくることもあったというネガティブな体験談も。

 また、「社内や業界のLGBTコミュニティに新たに入ってきた新入社員や若手が、LGBTに対して自然体で避けたり隠したりすることなく、自分が同じ年代だった12年前に比べて時代は変わったと思います。そのよい雰囲気を会社全体に広げていくには、自分たちに何ができるのかなと考えています」という変化についての実感も語られた。

 ディスカッション最後の「ブームで終わらせないためには」では、「過去にも1990年代のゲイブームや2000年代のドラマで性同一性障害が話題になりました。しかし今まではコンテンツとして消費される対象だったのですが、今回は当事者が出てきて企業も集まり、日本や企業のためにどうしたらいいかを話し合っていただいています。ぜひ、企業の皆さまには持続可能な施策や雰囲気をよくするための取り組みをやっていただきたいと思います」と、現在のLGBTの動きが過去のブームとは一線を画しているという指摘がなされた。

 そして、「けっこうCSRという形でとらえられているのがいくつか見られますが、弊社としてはダイバーシティがないとさまざまな利用者に対応した製品を作っていきたくても負けてしまうので、ダイバーシティが競争力の原点だととらえています」と、多様化が問われる時代を見据えた意見も上がった。

経営層によるパネルディスカッション

企業のトップによりLGBT施策のあり方やビジョンが語られた

 LGBT当事者によるパネルディスカッションに続き、JAL 代表取締役専務執行役員 大川順子氏、NTT(日本電信電話)常務取締役 島田明氏、IBM(日本アイ・ビー・エム) 最高顧問 下野雅承氏と、企業経営層の3氏が登壇して企業のあり方を語るパネルディスカッションが行なわれた。

日本航空株式会社 代表取締役専務執行役員 大川順子氏

「どうしてLGBTへの取り組みを行なっているのか」では、大川氏は「女性活躍推進を担当していますが、女性のなかでもいろいろな感性とか経験や能力を持った者がおりまして、ひとりひとりの個性、要素が会社のこれからの価値につながるものですし、何よりひとりひとりの幸せにつながるものです。LGBTもまったく同じことであるというところで、障害者、女性、何々というわけではなく、ひとりひとりを尊重しようというような考え方が盛り上がっているということで取り組みが始まりました」とコメント。

日本アイ・ビー・エム株式会社 最高顧問 下野雅承氏

「各社の強みや経験でLGBTがどう関係しているのか」というテーマでは、これまでにエグゼクティブ・スポンサーとしてLGBTへの取り組みを行なってきた下野氏は「IBMの105年の歴史のなかで、95年間にあったことと、この10年間であったことを見ると同じ以上の変化があって、大きな変化が起こっているときに人材の多様性ってものすごく必要なもの。異質なものとか違ったものを持ち込んでくれるという意味では、外国人とセクシャル・マイノリティは非常にそういうものを持ち込んでくれると期待しています」と話した。

日本電信電話株式会社 常務取締役 島田明氏

 また、「LGBTに取り組んでどのような難しさがあったか」という質問で島田氏は「本当の難しさはこれからだと思うんです」と前置きしつつも、地方のグループ会社幹部からLGBTへの取り組みに対して反対意見があったと明かす。島田氏は「本当は正しいアプローチじゃないと思うのですけども『お客さまに対してどのように考えるのですか?』という風にお話をしています」と言い、「本来、生産性のためにそういう差別意識をなくしましょう、じゃなく、元々のそういう意識をなくさなきゃいけない。我々の未来へのチャレンジだと思うのですが、いろんな方がいらっしゃいますので、例えば接客するところからLGBTの方や外国の方、いろんなハンディキャップを持たれた方に対して、どのように会社としてサポートしていけるかという観点で考えてくださいねということを話していきたいです」と語った。

モデレーターを務めたEY Japan エリア・デピュティ・リーダーの貴田守亮氏

 最後に下野氏は「一番大事なのは、多様性をどう我々は受け入れていくかと思いまして。LGBTだけじゃなく、非常にたくさんの異質なものがあるなかで我々はどうやってそれをうまく使っていくかということを日ごろにおいてやっていくことが非常に大事。表面的なプログラムではなく、もっと本質的なことをこの社会で共有すべきだと思います。あと、最初は当事者と人事の担当者と私だったんですけども、最近はアライの人がいっぱい来てくれるようになりました。アライが増えることによって、だんだん理解度が高まるという意味では非常に有効な手段なので、コミュニティを広げていくことが大切だと思います」と、LGBTの取り組みで必要なことについて話し、ディスカッションを締めくくった。

LGBTへの取り組みを強化している企業の表彰式

「PRIDE指標」認定企業の表彰式がゴールド、シルバー、ブロンズがそれぞれ行なわれた

 その後、「PRIDE指標」認定企業の表彰式へ。「PRIDE指標」は今年6月に策定され、「Policy (行動宣言)」「Representation (当事者コミュニティ)」「Inspiration (啓発活動)」「Development (人事制度・プログラム)」「Engagement/Empowerment (社会貢献・渉外活動)」という5つの評価指標に基づいている(指標内容は日本企業の取り組み状況に応じて、年単位で適宜、見直しを行なう予定)。各要件を満たせば1点となり、5点で「ゴールド」、4点で「シルバー」、3点で「ブロンズ」が認定される仕組みだ。

 今回、ゴールドを獲得したのは53の企業・企業グループ・団体で、シルバーは20の企業・企業グループ・団体、ブロンズが6の企業・企業グループ・団体。ゴールドには航空会社ではANA、JAL、JTAの3社のほか、旅行会社数社が入った。

 また、認定と同時にP、R、I、D、Eの指標ごとに特に優れている、ユニークであると特筆すべき点がある企業は「ベストプラクティス」として表彰。今回はライフネット生命保険が、LGBTに関する児童向けの書籍を公立図書館などに寄贈するプロジェクトを継続・実施したとして選出された。

表彰の様子
表彰マークはカラーに合わせて3種類。商品、広告、名刺、求人票、会社案内、自社サイトにて利用可能だ
「ベストプラクティス」はライフネット生命保険が選出された

馳浩 衆議院議員によるクロージング

LGBTに関する課題を考える議員連盟の会長も務める衆議院議員 馳浩氏

「work with Pride 2016」の最後は、前文部科学大臣で衆議院議員の馳浩氏よる挨拶が行なわれた。馳氏は現在、LGBTに関する課題を考える議員連盟の会長を務め、LGBTに関する立法に携わるほか、文部科学大臣在任中には「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施にさいて(教職員向け)」の周知資料を作成し、教職員などへLGBTの啓蒙活動を行なっている。

 ソチオリンピックでは、ロシアの同性愛を規制する法律を受けて、アメリカのオバマ大統領をはじめ、フランスのオランド大統領などが開会式をボイコットした。このことをきっかけに、IOCの理事規定においてもLGBTに対する差別禁止が盛り込まれた。また、馳氏によると東京オリンピックの組織委員会においても、明確にLGBTに対する差別は禁止という文章が明文化されたという。

 ただ、オリンピックではLGBTの差別禁止が盛り込まれたのもかかわらず、開催国である日本には法律上、LGBTの問題に対応できる十分な法的担保がないということで、馳氏は超党派でLGBTの問題を考える議員連盟を立ち上げて、現在、議員立法でLGBTに関する法律を作るべく活動を行なっている。ただ、現状では差別禁止で罰則を盛り込んだ民進党案と、罰則を設けず理解増進を促す自民党案で折り合いがついていない状況とのこと。

 馳氏は「work with Prideの方やできれば表彰されたなかの誰かに、国会に来ていただいて、何やっているんだ! とハッパをかけていただきたい」と冗談を交えつつも、「議員連盟の皆さんにも、早く国会をしっかりしないといけないという自覚を持っていただいて、作業を早めたいと思っております」と話した。