ニュース

JAL、女性活躍推進プロジェクト「JALなでしこラボ」第1期を総括する研究発表会

ダイバーシティ推進とワークスタイル変革のあり方についての研究成果

2016年7月7日 開催

フォーラムで「なでしこラボプロジェクト」の最終発表が行なわれる

 JAL(日本航空)はグループ各社の垣根を越えた取り組みとして、「JALなでしこラボ」を2015年9月に発足。ダイバーシティ(多様性)の推進およびワークスタイルの変革について「なでしこラボプロジェクト」として研究活動を行なっているが、7月7日に「なでしこフォーラム」と題した研究発表会が開催されたので、その様子をお伝えする。

「なでしこラボプロジェクト」は、2015年12月にJALグループ各社から公募で集まったメンバーにより結成。女性をはじめとする多様な人材の活躍を推進するために、「意識」「ポジション」「継続性」とテーマごとの3チームに分かれ、これまで調査や議論などの研究活動をしてきたが、今回は活動の総決算としてその成果を発表。会場に集まった経営陣に対し提案を行なった。また、合わせてワーク・ライフバランス代表取締役社長 小室淑恵氏による、働き方改革についての講演も開催された。

日本航空株式会社 代表取締役専務執行役員 大川順子氏

 フォーラムではまず、JALの代表取締役専務執行役員で、「JALなでしこラボ」の担当役員でもある大川順子氏からの挨拶があった。「今回のラボメンバーは7カ月間、いろいろ苦労を重ねてきたと思うのですが、実はそのこと自体で女性活躍推進を実感したのではないかと思います。皆さんは実態を披露し、議論を積み重ねてきました。そういうことができる仲間、できる自分、空気感がやはりダイバーシティや女性活躍を推進していく大きな要素であると実感したと思います」と、プロジェクトメンバーについて話し、会場のJALグループ各社のトップや社員に向けて「今日のメンバーの発表を真摯にとらえていただきたいし、真剣に対峙していくということがとても大事」と呼びかけた。

「意識」チーム:キーワードはジョブローテーションとロールモデル

働く女性の「意識」に着目して研究を行なった「Nk-SYSTEM」チーム

 フォーラムでは「意識」「ポジション」「継続性」と各テーマのチームごとに研究発表が行なわれた。意識改革やモチベーションがテーマの「意識」を担当した「Nk-SYSTEM」チームの発表からスタート。

 JALグループでは2023年までに女性管理職比率を20%にするという目標を掲げているが、「Nk-SYSTEM」チームでは、その目標に向け具体的な提言に進めていくために、研究テーマを再定義するところから始めたという。キャリアに関する意識調査をメンバーが所属する6社においてアンケート形式で実施したところ、「JALグループの女性はやりがいをもって長く働きたいと思っている、しかし管理職にはなりたいとは思っていない」という結果に。

 なぜ管理職になりたいとは思わないのか、アンケートに寄せられた474件のコメントの分析と70名への個別インタビューを行ない、浮かび上がったのが2つのキーワード。人事育成計画に基づいた定期的な異動・配置転換を指す「ジョブローテーション」と、仕事や生き方を模倣したい人材を意味する「ロールモデル」だ。

 チームではジョブローテーションについて、ジョブローテーションそのものよりもそこから得るものが長期キャリアの展望を描くために必要であると指摘。また、女性のよくある悩みとして、自分がこうなりたいと思うロールモデルがいないことが挙げられるが、その答えとして挙げられたのがパーツモデルという概念。さまざまな人から参考になるパーツを集めることで、自分なりのロールモデルを形成することが可能だという。

「Nk-SYSTEM」チームは最後に、女性が長く働き管理職を目指すという意識をもつためには、ジョブローテーションを通じて、環境の変化、ストレスや重圧に強くなること、自分なりのロールモデルを形成することが求められていると提言した。

女性に管理職になりたいかどうかの調査では、「なりたくない」に46%の回答が集まった
ジョブローテーションが多いほど、仕事のうえでの成長意欲が高い
ジョブローテーションとロールモデルが女性の仕事に対する意識にかかわってくる
さまざまな人のよいところ、パーツモデルを組み合わせてロールモデルにする

「ポジション」チーム:朝活で業務やプライベートの相互理解を深める

「ポジション」を担当し、女性が管理職になるうえでの壁を研究した「ブレイク・シーリング」チーム

 続いて発表を行なったのは、キャリアパスについて考える「ポジション」を担当した「ブレイク・シーリング」チーム。「女性の管理職の割合が少ないことから、女性が管理職になるには壁があるのか?」という仮説を立て、JALグループ9社、回答者数2617人にアンケートを実施。その結果、男性の多い営業部門や整備部門では壁を感じると答えた回答者が、5割以上となった。

 さらに女性が管理職に対して壁を感じる理由について男女別に集計したところ、女性では「評価への納得感」「職場内コミュニケーション不足」「育児休職後の働きにくさ」を挙げ、男性は「男性中心の社会風土」と合わせて4つの壁があることが明らかに。

 こういった壁に対する打ち手として「ブレイク・シーリング」チームが挙げたのが、「両立支援」「コミュニケーションの場所、機会の創出」「研修(評価者研修など)」「ワークスタイル変革」の4点。ただし、そのなかの「両立支援」「研修(評価者研修など)」「ワークスタイル変革」は会社の仕組みで改善されてきているため、現時点で必要となってくるのは「コミュニケーションの場所、機会の創出」だという。

 コミュニケーションの場としてチームが提案したのは、朝の10分間で行なうチームブリーフィング、「朝活」だ。伝達事項や周知事項のブリーフィングではなく、業務内容やプライベートの話を双方向で行なうことで、チームメンバーの状況や事情を相互理解し仕事につなげられるメリットがある。また、職場の活性化にもつながるという。

 実際に研究員が所属する4部署の日勤部門でトライアルを行なったところ、実施後に「朝活」に対してポジティプな印象をもつ人が20ポイント増加し、9割以上が継続を希望しているとのこと。

「ブレイク・シーリング」チームは、「朝活」はあくまでコミュニケーションを取るきっかけにすぎないが、上司は遠慮して子供のいる女性へのアサインを躊躇する、女性の部下も上司にチャレンジしたい気持ちを伝えていない、などコミュニケーション不足によりキャリアアップを逃しているのではと指摘。話しやすい環境に加え、上司と部下でキャリアについて話し合う「行動」が必要と説明した。

男性比率が多い職場では女性が管理職になるうえでの壁があると考える人の割合が多い
女性が管理職に対して壁を感じる理由とその打ち手
「ブレイク・シーリング」チームが提案する「朝活」
「朝活」に加え、自分のキャリアについて上司と話す「行動」も必要

「継続性」チーム:介護をとりまく将来の厳しい状況と対策

「継続性」のテーマで介護問題を取り上げた「つむぎ」チーム

 研究結果の発表、最後は結婚・出産・介護とライフプランにおける仕事の継続がテーマの「継続性」を担当する「つむぎ」チームが行なった。さまざまなライフイベントがあるなか、チームがフォーカスを当てたテーマが「介護」。女性だけでなく男女問わず直面する問題であり、また、2022年から団塊の世代が75歳に突入し、介護を担う子供世代は企業で中核的な人材になる状況だからだという。

「仕事と介護の両立」について調べるため、JALグループ社員、3172名を対象にアンケートを行なったところ、「今後5年のうちに介護に直面する可能性がある」という社員の割合が75.3%で、またいまの職場で介護しながら仕事を続けられると答えた割合が22.3%という結果が判明した。

 さらに調査すると、JALグループ社員のなかで介護経験者は約20%になるが、それでいながら社内の介護支援制度の利用率は非常に低く、1割にも満たない状況が浮き彫りに。その理由としては制度自体に課題がある一方で、制度自体を知らなかった、周囲の理解が得られなかったという結果が高スコアになった。チームでは当初、各種制度を充実させれば両立を支援できると考えていたが、アンケート結果の分析結果から、先に取り組むべき課題が4つあると感じたそうだ。

 4つの課題とはまず「介護者の心身の健康」、これがベースとなり、その次に「社員の知識の向上」、さらに「同僚・上司・家族の理解向上」とあり、知識と理解があってはじめて「多様な介護や多様な勤務形態にあった制度」が活きてくる、と「つむぎ」チームのメンバーは分析。

 チームではこれらの課題の対策として、2023年の5年間を社内で介護に対する知識や理解を深めるフェーズ、支援制度の再構築を行なうフェーズ、そして制度を定着させるフェーズから構成されるアクションプランを提言。また、介護サポーターバッジを作って着用することで、社員が介護について話をするきっかけを作って、職場風土の醸成を目指しつつ、将来的には介護問題に取り組んだ経験をJALの商品やサービスに活かしていきたいと説明した。

アンケート調査でJALグループ社員の75.3%が今後、介護に直面する可能性があると回答
仕事と介護を両立するうえで助かったものが会社の制度ではなく周囲の理解という結果に
仕事と介護を両立させるためのアクションプランを提言
将来的には会社で取り組んだ介護問題の経験を活かし商品やサービスも展開

意識改革を目指した今回の研究成果

「JALなでしこラボ」所長の植田英嗣氏、

「なでしこラボプロジェクト」の研究発表後、「JALなでしこラボ」所長の植田英嗣氏、代表取締役社長の植木義晴氏による総評が行なわれた。植田氏は「皆さんから今回伝えていただいたのは、思っている以上の現実というものだと思います」と話し、今回の発表で述べられた管理職になりたくない女性の存在や、コミュニケーションの必要性、介護に関する状況の3点を挙げ、研究で明らかになったと述べた。

日本航空株式会社 代表取締役社長 植木義晴氏

 植木氏は総評で、国連グローバル・コンパクトと国連婦人開発基金が共同で作成した「女性のエンパワーメント原則」(WEPs:Women's Empowerment Principles)に署名したと発表。ジェンダー平等の推進や機会の均等といった7原則の実践について継続的な努力を進めていくと話した。

「なでしこラボプロジェクト」の研究成果については「改革は大きく分けると意識改革と構造改革があるじゃないですか。でも、3チームとも最後に行き着いたのが意識改革の方。その点が面白い」と評価し、「みんなにキャリアアップを目指してほしいです。それだけの仕組みを必ず作り上げますから。女性のみんなが本気になって上を目指せる、そんな会社を作っていきたいと思っています」と話した。

「なでしこラボプロジェクト」責任者の野村直史氏

 最後に「なでしこラボプロジェクト」の責任者である野村直史氏がコメント。「皆さんにはこの研究活動を通じて得た学び、あるいは知識、経験を皆さんの財産にし、これからそれぞれの皆さんの職場、組織のなかで女性活躍をはじめとしたダイバーシティ推進の担い手になって、さらに活躍していただきたいと思っています」とプロジェクトメンバーにエールを送った。

ワーク・ライフバランスへの取り組みをテーマにした講演

株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役社長 小室淑恵氏

 研究発表会のあとは、ワーク・ライフバランス代表取締役社長 小室淑恵氏により、仕事と生活の調和を表わす「ワーク・ライフバランス」をテーマにした講演が行なわれた。

 同氏はハーバード大学のデービッド・ブルーム教授が発表した人口ボーナス論を紹介。多産多死の社会から少産少子の社会に切り替わる際に、生産年齢が多くなり経済発展しやすい状態である「人口ボーナス期」と、労働力人口の減少や労働者世代の引退といった要因で働く人より支えられる人が多くなる「人口オーナス期」があると説明し、少子高齢化で日本も「人口オーナス期」に入ったと話す。

「人口ボーナス期」は一度終わると二度と訪れないため、今後、日本でも「人口オーナス期」に経済発展するルールへと速やかに切り替える必要があるという。そのルールとは、「労働人口の減少を補うため男女ともに働き」「短時間で効率的な仕事を行なう」「価値観が多様化し均一な製品に飽きている市場に対応すべく、なるべく違う条件の人を揃える」、の3点だ。

 そんななか、今後は従来からの長時間残業や非効率な仕事プロセスのマネージメントではなく、大多様化時代に則した新しいマネージメントが求められるという。必要な要素として小室氏が挙げたのがワーク・ライフバランスを活用したモチベーションの向上や自己研鑚、福利厚生は企業の発展のための経営戦略であるという視点、そして職場全体の働き方の見直しである。

 特に働き方については、朝に1日のスケジュール、夜に実際にかかった時間の報告をメーリングリストに送信することで、自身の働き方のクセや時間の使い方の見直しを行なう「朝・夜メール」をはじめとするさまざまな施策を紹介。実際に導入した企業の例を挙げ、仕事効率化の取り組みを行なうことで、労働時間の削減や出産数の増加につながることを示した。

 小室氏は最後に「ワーク・ライフバランスという言葉、これから皆さん、使っていただければと思います。ただ、バランスという言葉はちょっと誤解が多く、2:8とか7:3という風に10あるものを取り合うような発想になりがちなので、私たちはいつも『ワーク・ライフシナジー』と呼んでいます。つまり相乗効果です。私生活がまずあるからこそ心身ともに健康になって人脈が広がり、自己研鑽につながる。そのことで初めて、仕事においてアイディアがわき、効率的に終わって視野が広がる。私生活からはじまってグルグル回る関係性、これが本当のワーク・ライフバランスです。ぜひ積極的に取り組んでいただき、勝てる組織と充実した人生を作っていただきたいと思っています」と話し、講演を締めくくった。

 今回のフォーラムで7カ月続いた「なでしこラボプロジェクト」の活動はいったん終了となる。しかし、研究発表終了後の総評で野村直史氏は、今回のプロジェクトを第1期としたうえで「第2期のメンバーも第1期同様にグループ内で公募していきたいと思います」と発表した。今後もJALでは、「なでしこラボプロジェクト」を軸に新たにダイバーシティ推進とワークスタイル変革に対する研究活動を行なっていく予定だ。

第1期「なでしこラボプロジェクト」と関係者