ニュース
経産省、2015年度の新・ダイバーシティ経営企業100選、なでしこ銘柄を発表
ANA、JAL、東急ら旅行/交通関連企業も選出
(2016/3/17 00:00)
- 2016年3月16日 発表
経済産業省は3月16日、多様な人材活用によってイノベーションを生み出している企業「新・ダイバーシティ経営企業100選」、ならびに女性の活躍推進に優れた上場企業「なでしこ銘柄」の平成27年度(2015年度)の表彰・発表を行なうシンポジウムを実施した。
シンポジウムでは冒頭、経産省 保坂伸審議官(経済産業政策局担当)が挨拶。「アベノミクスのなかでも女性の活躍には重点をおいている。国民の皆様が持てる力を発揮していただくという意味で、まずは女性の皆様が存分に力を発揮する環境を整えることと、企業が価値創造、発展していくためにこれからは外国人、高齢者、障がい者も含めてダイバーシティを進めることが大事だと認識している。4月からは女性活躍推進法が本格的に施行される。その真価は、形だけ女性の人数、働く場を揃えるのではなく、多様な人材の力を引き出すことで企業の競争力が高まることが大事。その意味で経営の手腕が問われる」と説明。
また、なでしこ銘柄については「昨年(2014年度)までは東証一部上場企業を対象としていたが、本年(2015年度)からは全上場企業3500社を対象にした。大企業だから女性が活躍できるのではなく、女性が活躍している企業だからこそ成長が期待できるということ。これまでの選定企業の皆様にアンバサダーとして広く発信してもらい、ほかの企業にも刺激を与えていただきたい」と取り組みの先駆者としての選定企業へ呼びかけた。
ダイバーシティ経営企業100選
ダイバーシティ経営企業100選は、女性、外国人、高齢者、障がい者を含めた人材が能力を最大限発揮して価値創造に参画する“ダイバーシティ経営”に積極的に取り組む企業を、「経済成長に貢献する経営力」として評価し、平成24年度から選定しているもの。2015年度からは「新・ダイバーシティ経営企業100選」として、働き方改革や女性の職域拡大などの分野を設けて、広く経営に効果がある事例を募った。
今年度は148社の応募から34社が選出された。2014年度は応募167社から52社の選出だったので、前年よりも倍率が上がったことになる。新・ダイバーシティ経営企業100選 運営委員長で中央大学 大学院 戦略経営研究科(ビジネススクール)教授の佐藤博樹氏は「すごくレベルが上がってきている。これまでに受賞された企業の取り組みを見ながら、工夫をして取り込んでいる。全体として水準が上がっている」と評価。
また、「大企業も中堅中小企業も同じ基準で評価しており、今年は20社が大企業、14社が中小企業となった」としたほか、受賞企業の地域や業種も広がっていることを紹介した。
ダイバーシティ経営企業100選を過去に獲得した企業から集めた、受賞効果についてのアンケート結果も紹介。その1位となったのが企業イメージ向上であったことについて、「優れた取り組みを社会的に認知されることで企業イメージが高まる。これは社内で働く人にとってもそうで、自社での取り組みを外で評価してもらうことが、なかで働く人にも意味がある」とし、今後も受賞企業が喜べるような仕組みとして定着させたいとした。
シンポジウムではこのあと、34社を4つのグループに分けて表彰企業を紹介。8名の審査員がコメントをするスタイルで進行した。受賞した企業は下記のとおり。運輸業/郵便業からANA(全日本空輸)、東急電鉄(東京急行電鉄)が選出されている。
- 株式会社KMユナイテッド
- 株式会社竹中工務店
- 大和ハウス工業株式会社
- 株式会社ダイナックス
- 株式会社門間箪笥店
- 有限会社真京精機
- 株式会社栄光製作所
- 日本たばこ産業株式会社
- 共和電機工業株式会社
- 株式会社協和精工
- ジヤトコ株式会社
- 株式会社デンソー
- ブラザー工業株式会社
- 株式会社堀場製作所
- 株式会社中央電機計器製作所
- 塩野義製薬株式会社
- ダイキン工業株式会社
- 富士電子工業株式会社
- 株式会社カワトT.P.C.
- 本多機工株式会社
- エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
- 株式会社NTTドコモ
- KDDI株式会社
- ニフティ株式会社
- 東日本電信電話株式会社
- 全日本空輸株式会社
- 東京急行電鉄株式会社
- 伊藤忠商事株式会社
- 株式会社みずほフィナンシャルグループ
- 野村不動産株式会社
- 株式会社古田土経営
- 株式会社シーサー
- 特定非営利活動法人ハートフル
- 株式会社キャリア・マム
サトーホールディングス、KDDIが登壇したパネルディスカッション
シンポジウムではこの後、なでしこ銘柄の発表に移る前にパネルディスカッションが行なわれた。登壇したのは、初年度(2012年度)のダイバーシティ経営企業100選に選出されたサトーホールディングスと、今年度選出されたKDDIの2社。これらの企業のトップと、実際に社内で活躍している女性の2名が参加し、本音を語る場となった。
サトーホールディングスは、もともと竹を加工する機械や紐を結ぶ結束機、値札を貼るハンドラベラーなどを開発。のちに世界初のバーコードプリンタを発売するなど、モノを売る企業として成長してきたが、現在はソリューションを売る企業への変革を進めているという。
同社では、まだダイバーシティという言葉もなかった1990年代から女性の活躍に主眼を置いた取り組みとして女性だけで編成された営業部隊や、女性初の管理職を登用。一方で離職率が高かったため、2000年代からは長く働ける職場作り、その後は長く働くことに加えて活躍できる場を設けることに注力しており、現在では女性の管理職比率が8%、これを3倍にしようとしている。
その代表として同席した渡部彩氏は、モノを売る企業から、デザイン、調査マーケティング分析、統合パッケージ提案を行なうソリューションの販売を提案し、現在では子会社のデザインプロモーションの社長として同業を任されている。サトーホールディングスという会社について「会社では女性だと意識させられたことがなく個として扱われている。私の大変さは男性と変わらない。こういう場に出て久しぶりに、そういえば私は女性だったと思い出すぐらい自由な会社」と評価。加えて「以前は女性はやりがいさえあればよいという雰囲気だったが、身近な人が役職が上がるのを見て少しずつ変わってきた。女性が自ら上がりたいと思う空気を感じている」とした。
サトーホールディングス代表取締役執行役員社長 CEOの松山一雄氏は「こういう社員がどんどん出てきて、自由にやってもらえばいい。それを阻害するのは空気。その空気は明文化されていないから厄介だが、壊れた瞬間に分かる。そこでトップの私が心がけているのは、空気を壊した人間を褒め続けること。5年ぐらい前に渡部が言ったことにいろいろ言う人もいたが今は実績を残している。社長として保証して実績を積ませることが大事」と考えを述べた。
KDDI(au)は、元々DDI、KDD、IDOの3社合併からスタートし、その後も多くの企業を吸収して成立している企業であることから、それぞれの会社の価値観、社風、文化が集まった“真のダイバーシティ会社”と紹介。2000年にフィロソフィを定義し、そのなかに「ダイバーシティが基本」という項目を掲げたという。
そのフィロソフィに沿ってさまざまな取り組みを行なっているが、シンポジウムで紹介されたのは、女性の登用、育成に関する取り組みで、専務以上の役員に秘書ではなく補佐として女性を1年間登用。仕事のすべてを見てもらうというもの。
その1期生として社長付となった矢野絹子氏は、「会社とはこう動くのか、経営とはこう考えるのか、と自分が見ていたものがどんなに狭かったのか分かった。それまでは考え方が狭い、それは経験が狭かったから。いた部署も限られていたし、やっていた仕事も狭かったことを教えられた」と体験を語った。
そして現在は宣伝部長に就任しており、「補佐になっていろんな部署や偉い人に会う機会が増えた。最初に人を知りなさいと言われたが、宣伝に行って、人を知る機会があったのはありがたかった。宣伝やプロモーションをするには、それぞれの商品サービスが、各部署でどのような思いで作られたかなどを知る必要があったし、困ったこともどこに聞けばよいか分かる」と紹介。auのテレビCMとしておなじみになっている三太郎シリーズを手がけるなど活躍している。
KDDI代表取締役社長の田中孝司氏は「役員から見ると結構大変。役員補佐になった人は役員候補だと宣言している。そのぐらいの人材なので選ぶのが大変で、しっかりと教育することが必要」とその難しさを語る一方で、「我々はダイバーシティ推進活動としていろいろなことにチャレンジして、あるものは失敗し、あるものは成功した。(成功したものの)1つは役員補佐に女性を付けること。そうすることで本当に視野が広がることを見ており、これはほかの役員も同様のことを言っているので、ぜひトライしてほしい。役員がチャンスをあげるということを勇気をもってやってほしい」と呼びかけた。
全上場企業を対象に「なでしこ銘柄」を45社選定
東京証券取引所と経済産業省が共同で実施している「なでしこ銘柄」は、女性活躍推進に優れた上場企業を、中長期の企業価値向上を重視する投資家にとって魅力ある銘柄として紹介。これにより投資を促進することを図ったもの。2012年度にスタートし、今年で4回目となる。
前回までは東証一部上場企業のみを対象としていたが、今回より東証二部、マザーズ、JASDAQを含む全上場企業に対象を拡大。実際にマザーズ上場のトレンダーズ株式会社が選出された。
交通関連の銘柄では、ANAホールディングス、JAL(日本航空)東急電鉄が認定された。ANAホールディングスは一昨年に受賞して以来2回目。JALは昨年に引き続き2年連続。東急電鉄は第1回から4回連続の受賞となった。
同式典に出席したJAL取締役専務執行役員の大川順子氏はシンポジウム終了後に取材に応え、「(2年連続の受賞について)まずうれしい。単独の部署やどこかの本部ではなく、社員3万2000人、そのほか支えてくれる人達を合わせて3万5000人いるが、そういうところで大きく広げようとする取り組みが認められたと思っている」と喜びを述べた。当誌でも何度かお伝えしているように、JALではグループ企業の壁を取り払い、さまざまな職種の女性が集まって女性推進のあるべき姿を研究する「なでしこラボ」を2015年11月に発足しており、このラボの発足にあたっても昨年度の受賞で機運が高まったとした。
このほか、女性以外の活躍の場については、「社員の女性比率が47%なので、まずは女性からということになる。最終的には性別とか国籍とかではなく、異なる価値観や感性、経験、能力を相乗、化学反応させて力にしたい。ふと振り返ったときに外国人や障がいを持つ方がいた、という形が理想。なでしこラボのような社員にも周知された大きな取り組みはないが、障がいを持った方をサポートするプライオリティ・ゲストサポートなどを以前から行なっているので、そういう場で培ったものを企業の活動にも活かしたい」と説明した。
同銘柄のプレゼンターには、NHK朝の連続ドラマ小説「あさが来た」の脚本家として知られる大森美香氏が務めた。あさが来たは、明治から対象にかけて活躍した実業家、広岡浅子氏をモデルにしている。大森氏は「女性が働くという概念がない時代に道を切り開く気概を持って働いた女性。私も一般職、派遣社員、フリーランスとして働きながら、女性が働くのは普通であっていいはずなのに、こんなに難しいことなんだと思わされる」と感想を述べ、こうした賞が続くことに期待を寄せた。
また、最後に挨拶にたった経済産業大臣政務官の北村経夫氏は「1億総活躍に向けて経産省としても成長戦略の鍵の1つと考えている。我が国は欧米に比べてダイバーシティが遅れていると指摘されるが、あさが来たの広岡浅子氏のように銀行や保険業、大学設立に関わった女性が明治時代にいたことに勇気づけられる」とし、さらなるダイバーシティ経営の普及に尽力する姿勢を示した。
今回発表された2015年度のなでしこ銘柄は下記のとおり。
- カルビー株式会社
- アサヒグループホールディングス株式会社
- 日本たばこ産業株式会社
- 石油資源開発株式会社
- 住友林業株式会社
- 大和ハウス工業株式会社
- 積水ハウス株式会社
- 株式会社ワコールホールディングス
- JSR株式会社
- メック株式会社
- アステラス製薬株式会社
- 中外製薬株式会社
- TOTO株式会社
- 株式会社神戸製鋼所
- DOWAホールディングス株式会社
- 株式会社小松製作所
- ダイキン工業株式会社
- 株式会社IHI
- 株式会社日立製作所
- 富士電機株式会社
- 富士通株式会社
- 株式会社ブリヂストン
- 日産自動車株式会社
- テルモ株式会社
- トッパン・フォームズ株式会社
- 中部電力株式会社
- 大阪ガス株式会社
- 東京急行電鉄株式会社
- 日本航空株式会社
- ANAホールディングス株式会社
- KDDI株式会社
- SCSK株式会社
- 伊藤忠商事株式会社
- 三井物産株式会社
- 株式会社ローソン
- 株式会社ユナイテッドアローズ
- 株式会社りそなホールディングス
- 株式会社みずほフィナンシャルグループ
- 株式会社大和証券グループ本社
- リコーリース株式会社
- 東京海上ホールディングス株式会社
- ヒューリック株式会社
- 株式会社スタジオアリス
- 株式会社JPホールディングス
- トレンダーズ株式会社