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JALと福岡県宗像市が合同で「空育」を羽田空港で開催

宗像市の中学生と高校生が航空業界を通じて環境問題を学ぶ

2017年1月14日 開催

福岡県宗像市の中学生と高校生が参加。羽田空港国際線ターミナルでは、各フロアの説明、そこで働くスタッフの業務内容などが紹介された。写真は4階にある「江戸小路」の日本橋

 JAL(日本航空)と福岡県宗像市は1月14日、羽田空港において「日本航空『空育』~市内中高生が空から見た環境問題について学ぶ~」を開催した。

 JALは2016年11月14日に、次世代育成を目的に子供を対象としたプログラム「空育」をスタート、飛行機を通じて日本・世界・地球の未来を子供に考えてもらう取り組みを行なっている。

 一方、宗像市では中高生を対象とした「宗像国際育成プログラム」を2014年から実施しており、世界の第一線で活躍するさまざまな分野の講師陣によるセミナーを通じ、国際的な視野をもった人材を育成している。「宗像国際育成プログラム」は市内の中学生であれば無料で申し込むことができ(高校に進学しても引き続き受講可能)、年間を通じて8回の講座が開かれる。

 今回は第3期生の第7回目の講座にJALの協力のもと、「空育」を通じて空から見た世界規模での環境問題やJALの環境問題への取り組みについて学ぶ内容となっている。

 当日、JAL304便で8時25分に福岡空港を出発した参加者24名は、10時頃に羽田空港に到着。早速、最初の目的地である国際線ターミナルに移動。3階の出発ロビーから始まり、4階の江戸小路、5階のTOKYO POP TOWN、2階の到着ロビーを見学してまわった。

 出発ロビーの一角にはイスラム教徒向けの礼拝施設があることや、到着ロビーにある乗り継ぎカウンターでは国内線へのチェックインが行なえ、国内線ターミナルまでは無料の乗り継ぎバスや京浜急行、東京モノレールの無料チケットがもらえることなどが紹介された。

羽田空港における案内は、日本語、英語、中国語、韓国語の4か国語で表記されている。イスラム教徒が利用する礼拝室は残念ながらアラビア語で書かれておらずイラストのみなので、今後は改善していく余地があるそうだ

航空機や羽田空港の基礎知識を学び格納庫を見学

 午後からはJALメインテナンスセンター1にある体験型ミュージアムである「SKY MUSEUM」に移動して、展示物の見学や航空教室の受講、格納庫の見学が行なわれた。

 SKY MUSEUM内にはJALの歴史や携わるスタッフの仕事紹介、飛行機のコックピットを再現したものや部品などが展示されており、参加した学生も興味津々に見入っていた。また、SKY MUSEUM内にはパイロットやCA(客室乗務員)の制服を着て撮影できるブースも用意されているため、希望者は記念撮影も行なっていた。

SKY MUSEUM内を見学する参加者
男子生徒に人気なのはやはりコックピット
案内のパンフレットともにスタンプカードも配られた。スタンプは5カ所に用意されている
パイロットやCA(客室乗務員)の制服を着て記念撮影する参加者。前から袖に腕を通して後ろを面ファスナーで留めるだけなのですぐに着ることができる

 航空教室ではまず、整備士や旅客サービススタッフ、CAやパイロットなど、空港で働くスタッフの仕事がスライドで紹介された。次に羽田空港に関する説明が行なわれ、日本で一番忙しいといわれる羽田空港(年間利用者数は約7500万人)の詳細が語られた。

 敷地面積は15.22km2あり、東京ディズニーリゾートの約15倍の広さがある。国内には97の空港が存在するが、そのなかでは最大であり、軍用を含めたなかでも沖縄県の嘉手納飛行場に次いで2番目の広さを誇る。飛行機が離発着に使用する滑走路は4本あり、風向きによって使い分けられているとのことだ。

 羽田空港の紹介が終わると次に飛行機に関する基礎知識として、JALが所有する機体が紹介された。その中では、飛行機の飛ぶ仕組みとして「ベルヌーイの定理」や「たこあげの原理」も紹介され、実際に紙に息を吹きかける実験をしてみて納得していた。ほか、翼の形状に関することやエンジンの仕組み、飛行機が飛ぶ高さなども解説された。

SKY MUSEUMのC教室を使って、飛行機にまつわる講座が開かれた。誰もが真剣な表情で聞き入っていた
格納庫までの通路には実際に使われている航空機のタイヤも展示されている。ちなみに着陸時のショックに耐えられるように、乗用車の7~8倍の空気圧で窒素ガスが充填されているとのことだ

 教室での座学が終わるといよいよ格納庫の見学ということで、JALメインテナンスセンター1の格納庫に移動。鉄製の扉の先には大きな整備場があり、中に入るなりそのスケールの大きさに参加者一同、驚きの声を上げていた。飛行機の整備は、「T整備」「A整備」「C整備」「M整備」の4種類があるとのこと。

 到着した飛行機がゲートに駐機したまま飛行前に行なうのが、点検主体の「T整備」。1~2カ月おきに、その飛行機が最終便で到着してから始発便で出発するまでに外部状態の点検や油脂類の交換、各部の清掃、部品の交換等を行なう「A整備」。約1~2年おきに1~2週間ほどかけて、外部から内部に至るまで細部をチェックする「C整備」。そして、約5年ごとに飛行機の塗装まで取り去って、金属疲労による破損などがないか機体構造を入念にチェックし、再び防錆処理や再塗装をして仕上げるのが「M整備」になる。こちらの施設では、大掛かりな作業であるC整備とM整備が行なわれているとのことだ。

JALメインテナンスセンター1の格納庫では飛行機の整備が行なわれていた
塗装時は天井から吊り下げられている「L2」「L3」と書かれている幕を下ろして、塗料が周囲に飛び散らないように保護する
飛行機や格納庫の大きさに圧倒されながら写真撮影をする参加者

 もう1つの格納庫があるJALメインテナンスセンター2は渡り廊下でつながっており、徒歩でそのまま移動。こちらの施設ではA整備とエンジンの交換などが行なわれるそうだ。実際に整備場に降りて飛行機を間近で見られるとあって、学生はもちろんのこと、引率の関係者もカメラを片手に興味津々のようだった。この日はボーイング 737-800型機を点検・整備しており、その作業風景も見ることができた。

 また、格納庫の敷地内ギリギリのところから目の前のA滑走路に着陸する機体を見ることもでき、普段見られない光景とあって誰もが目を凝らしてカメラを向けていた。

JALメインテナンスセンター2の格納庫にはボーイング 737-800型機が駐機していた
熱心に説明を聞く参加者。この日は最高気温が5℃未満と寒い日ながらも誰しもが楽しんでいた
無線LANを用いた航空機内インターネットサービス「JAL SKY Wi-Fi」の衛星通信アンテナ
翼の先にヒゲのようにあるのが飛行中に蓄積する静電気を放電するための放電索
エンジンから離れた部分に取り付けられている燃料廃棄ノズル。1分間に3トンほど廃棄できるそうだ
離陸のため滑走路に向かう飛行機に手を振る
眼前にあるA滑走路に着陸するシーンも見学できた

現役機長がJALの環境に対する取り組みを紹介

キャリア豊富な現役機長の佐々木秀也氏

 格納庫の見学が終わると再び教室に戻って、最後の講座である「宗像国際育成プログラム JALそらエコ教室」が開かれた。この講座では、現役の機長である佐々木秀也氏が登壇。飛行機の操縦歴は20年を超え、機長としても8年のキャリアをもつベテランパイロット。

 現在はおもに国内線を担当しているが、国際線や貨物便に搭乗していた頃の話として、年々北極海近辺の氷が溶けていることがコックピットからも分かり、地球が温暖化していることが実感できたという。また、従来までは雲が少なく、安定飛行ルートであったシベリア上空でも近年では積乱雲が見られるなど、状況は刻々と変化しているとのことだ。

JALそらエコ教室を受講している様子
2005年と2007年のアラスカ周辺の北極海を空から見たもの。氷で埋め尽くされていた海がまばらになっている様子が分かる(スライド内の写真は関係機関の許可を得て撮影したもの)
2005年と2008年のグリーンランド。同じ8月なのに2008年では地肌が見えている(スライド内の写真は関係機関の許可を得て撮影したもの)

 飛行機自体が多くの二酸化炭素を排出しているので、少しでも減らす努力、地球環境について操縦士としてできることはないかということで、JALではさまざまな取り組みを行なっている。

 その1つが「大気観測 CONTRAILプロジェクト」で、これは国際路線の定期便に上空大気を観測する装置を取り付け、世界各地で集めたデータをもとに研究機関で地球規模での炭素循環メカニズムを解明し、地球温暖化の将来予測の高精度化を図るというものだ。プロジェクトのメンバーとしてJALのほか、国立環境研究所、気象庁 気象研究所、ジャムコ、JAL財団が参加している。

二酸化炭素の濃度を連続で測定する装置と大気をサンプリングする装置を飛行機に搭載。現在は装置を搭載した、ボーイング 777-200ER型機、777-300ER型機の合計10機で測定している
世界各地でデータを採取
成田空港の上空でも年々二酸化炭素が増加している。夏に減少しているのは植物の光合成が活発になるため
北半球と南半球では陸地面積の違いから植生の密度が異なるため、二酸化炭素濃度の変動幅に違いが見られる

 2つ目は「森林火災の観測」だ。森林火災が起こると燃焼により大量の二酸化炭素が放出されるほか、木々の消失により光合成も期待できなくなり、また寒冷地では地中のメタンガスが融解されて放出されてしまうなど、地球環境への影響が大きい。JAXA(宇宙航空研究開発機構)が、防災・地球環境保全を目的として人工衛星による森林火災検知の研究に取り組んでおり、JALは2006年より協力を開始。多いときでは1年間に306件もの報告が行なわれているそうだ。残念ながら規模や場所によって、すべての火災が即座に鎮火できるわけではないが、今後もこの活動を続けていくとのことだ。

上空から見えた森林火災の様子
2014年のヨーロッパ線において、4カ月間だけで265件の森林火災を報告
ヨーロッパ線以外においても森林火災が数多く報告されている

 3つ目はJALグループとして「空のエコ」活動をそれぞれの職場で取り組んでいる旨が語られた。パイロットが所属する運航部門ではエコフライトが実践されており、運航前には安全を確保しながらも燃料消費が少なくなるように最短経路であることはもちろんのこと、追い風が強い航路を選定。飛行中は、燃料消費や時間短縮に効率のよい高度を随時選択するなど省エネ運航を心がけているそうだ。

 着陸の際にも安全が第一であるが、フラップの使用量を減らしたり、停止時における逆噴射の使用もなるべく控えるようにし、着陸後は片方のエンジンを止めるようにしているとのこと。こうした取り組みを行なうことで、1フライトあたり約465kgの二酸化炭素の排出を削減できるとしている。そのほかでは、藻から作られたバイオ燃料をテストしたり、搭載する水の量の見直し、シートやコンテナの軽量化、駐機中においてシェードを下すことによりエアコンの使用負担を減らすなど、さまざまな取り組みも紹介された。

 また、環境に配慮された最新の飛行機、ボーイング 787型機を導入するなど、これからもJALグループ全体で地球環境を守る活動を続けていくと語り、講座は終了した。

 参加者はそれぞれが本日学んだことを胸に17時05分、JAL327便で福岡空港に向けて出発し、帰宅の途についた。

JALグループでは、部門ごとに環境に対する負荷の軽減に取り組んでいる
運航前のブリーフィングでは揺れないことを前提に省エネになる航路を選定する
逆噴射の使用なども滑走路が長いときはなるべく使用しないようにする。逆に、滑走路が短い場合や雨や雪などで制動距離が長くなる場合は必ず使用するとのこと
着陸後は片方のエンジンを停止させて移動する。エンジンを停止させると機内の照明が一瞬暗くなるので分かるそうだ
搭載する水の量を見直すことで軽量化を図る
軽量化された新型のシートを採用する
荷物を積むコンテナも重い金属製から丈夫な構造・材料を採用した樹脂製に変更
環境に配慮した新型のボーイング 787型機。767型機と比較すると燃費は20%ほど向上するとされている
機内の照明には消費電力が少ないLEDが採用されている
独特な形状をしたエンジンは従来のものより動作音が小さくなっている