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JALと福岡県宗像市が合同で「空育」を羽田空港で開催
宗像市の中学生と高校生が航空業界を通じて環境問題を学ぶ
2017年2月4日 08:00
- 2017年1月14日 開催
JAL(日本航空)と福岡県宗像市は1月14日、羽田空港において「日本航空『空育』~市内中高生が空から見た環境問題について学ぶ~」を開催した。
JALは2016年11月14日に、次世代育成を目的に子供を対象としたプログラム「空育」をスタート、飛行機を通じて日本・世界・地球の未来を子供に考えてもらう取り組みを行なっている。
一方、宗像市では中高生を対象とした「宗像国際育成プログラム」を2014年から実施しており、世界の第一線で活躍するさまざまな分野の講師陣によるセミナーを通じ、国際的な視野をもった人材を育成している。「宗像国際育成プログラム」は市内の中学生であれば無料で申し込むことができ(高校に進学しても引き続き受講可能)、年間を通じて8回の講座が開かれる。
今回は第3期生の第7回目の講座にJALの協力のもと、「空育」を通じて空から見た世界規模での環境問題やJALの環境問題への取り組みについて学ぶ内容となっている。
当日、JAL304便で8時25分に福岡空港を出発した参加者24名は、10時頃に羽田空港に到着。早速、最初の目的地である国際線ターミナルに移動。3階の出発ロビーから始まり、4階の江戸小路、5階のTOKYO POP TOWN、2階の到着ロビーを見学してまわった。
出発ロビーの一角にはイスラム教徒向けの礼拝施設があることや、到着ロビーにある乗り継ぎカウンターでは国内線へのチェックインが行なえ、国内線ターミナルまでは無料の乗り継ぎバスや京浜急行、東京モノレールの無料チケットがもらえることなどが紹介された。
航空機や羽田空港の基礎知識を学び格納庫を見学
午後からはJALメインテナンスセンター1にある体験型ミュージアムである「SKY MUSEUM」に移動して、展示物の見学や航空教室の受講、格納庫の見学が行なわれた。
SKY MUSEUM内にはJALの歴史や携わるスタッフの仕事紹介、飛行機のコックピットを再現したものや部品などが展示されており、参加した学生も興味津々に見入っていた。また、SKY MUSEUM内にはパイロットやCA(客室乗務員)の制服を着て撮影できるブースも用意されているため、希望者は記念撮影も行なっていた。
航空教室ではまず、整備士や旅客サービススタッフ、CAやパイロットなど、空港で働くスタッフの仕事がスライドで紹介された。次に羽田空港に関する説明が行なわれ、日本で一番忙しいといわれる羽田空港(年間利用者数は約7500万人)の詳細が語られた。
敷地面積は15.22km2あり、東京ディズニーリゾートの約15倍の広さがある。国内には97の空港が存在するが、そのなかでは最大であり、軍用を含めたなかでも沖縄県の嘉手納飛行場に次いで2番目の広さを誇る。飛行機が離発着に使用する滑走路は4本あり、風向きによって使い分けられているとのことだ。
羽田空港の紹介が終わると次に飛行機に関する基礎知識として、JALが所有する機体が紹介された。その中では、飛行機の飛ぶ仕組みとして「ベルヌーイの定理」や「たこあげの原理」も紹介され、実際に紙に息を吹きかける実験をしてみて納得していた。ほか、翼の形状に関することやエンジンの仕組み、飛行機が飛ぶ高さなども解説された。
教室での座学が終わるといよいよ格納庫の見学ということで、JALメインテナンスセンター1の格納庫に移動。鉄製の扉の先には大きな整備場があり、中に入るなりそのスケールの大きさに参加者一同、驚きの声を上げていた。飛行機の整備は、「T整備」「A整備」「C整備」「M整備」の4種類があるとのこと。
到着した飛行機がゲートに駐機したまま飛行前に行なうのが、点検主体の「T整備」。1~2カ月おきに、その飛行機が最終便で到着してから始発便で出発するまでに外部状態の点検や油脂類の交換、各部の清掃、部品の交換等を行なう「A整備」。約1~2年おきに1~2週間ほどかけて、外部から内部に至るまで細部をチェックする「C整備」。そして、約5年ごとに飛行機の塗装まで取り去って、金属疲労による破損などがないか機体構造を入念にチェックし、再び防錆処理や再塗装をして仕上げるのが「M整備」になる。こちらの施設では、大掛かりな作業であるC整備とM整備が行なわれているとのことだ。
もう1つの格納庫があるJALメインテナンスセンター2は渡り廊下でつながっており、徒歩でそのまま移動。こちらの施設ではA整備とエンジンの交換などが行なわれるそうだ。実際に整備場に降りて飛行機を間近で見られるとあって、学生はもちろんのこと、引率の関係者もカメラを片手に興味津々のようだった。この日はボーイング 737-800型機を点検・整備しており、その作業風景も見ることができた。
また、格納庫の敷地内ギリギリのところから目の前のA滑走路に着陸する機体を見ることもでき、普段見られない光景とあって誰もが目を凝らしてカメラを向けていた。
現役機長がJALの環境に対する取り組みを紹介
格納庫の見学が終わると再び教室に戻って、最後の講座である「宗像国際育成プログラム JALそらエコ教室」が開かれた。この講座では、現役の機長である佐々木秀也氏が登壇。飛行機の操縦歴は20年を超え、機長としても8年のキャリアをもつベテランパイロット。
現在はおもに国内線を担当しているが、国際線や貨物便に搭乗していた頃の話として、年々北極海近辺の氷が溶けていることがコックピットからも分かり、地球が温暖化していることが実感できたという。また、従来までは雲が少なく、安定飛行ルートであったシベリア上空でも近年では積乱雲が見られるなど、状況は刻々と変化しているとのことだ。
飛行機自体が多くの二酸化炭素を排出しているので、少しでも減らす努力、地球環境について操縦士としてできることはないかということで、JALではさまざまな取り組みを行なっている。
その1つが「大気観測 CONTRAILプロジェクト」で、これは国際路線の定期便に上空大気を観測する装置を取り付け、世界各地で集めたデータをもとに研究機関で地球規模での炭素循環メカニズムを解明し、地球温暖化の将来予測の高精度化を図るというものだ。プロジェクトのメンバーとしてJALのほか、国立環境研究所、気象庁 気象研究所、ジャムコ、JAL財団が参加している。
2つ目は「森林火災の観測」だ。森林火災が起こると燃焼により大量の二酸化炭素が放出されるほか、木々の消失により光合成も期待できなくなり、また寒冷地では地中のメタンガスが融解されて放出されてしまうなど、地球環境への影響が大きい。JAXA(宇宙航空研究開発機構)が、防災・地球環境保全を目的として人工衛星による森林火災検知の研究に取り組んでおり、JALは2006年より協力を開始。多いときでは1年間に306件もの報告が行なわれているそうだ。残念ながら規模や場所によって、すべての火災が即座に鎮火できるわけではないが、今後もこの活動を続けていくとのことだ。
3つ目はJALグループとして「空のエコ」活動をそれぞれの職場で取り組んでいる旨が語られた。パイロットが所属する運航部門ではエコフライトが実践されており、運航前には安全を確保しながらも燃料消費が少なくなるように最短経路であることはもちろんのこと、追い風が強い航路を選定。飛行中は、燃料消費や時間短縮に効率のよい高度を随時選択するなど省エネ運航を心がけているそうだ。
着陸の際にも安全が第一であるが、フラップの使用量を減らしたり、停止時における逆噴射の使用もなるべく控えるようにし、着陸後は片方のエンジンを止めるようにしているとのこと。こうした取り組みを行なうことで、1フライトあたり約465kgの二酸化炭素の排出を削減できるとしている。そのほかでは、藻から作られたバイオ燃料をテストしたり、搭載する水の量の見直し、シートやコンテナの軽量化、駐機中においてシェードを下すことによりエアコンの使用負担を減らすなど、さまざまな取り組みも紹介された。
また、環境に配慮された最新の飛行機、ボーイング 787型機を導入するなど、これからもJALグループ全体で地球環境を守る活動を続けていくと語り、講座は終了した。
参加者はそれぞれが本日学んだことを胸に17時05分、JAL327便で福岡空港に向けて出発し、帰宅の途についた。