ニュース
JAL、体験型次世代教育プログラム「空育 JAL STEAM SCHOOL」実施。子供たちが主翼をデザイン
全国から集まった小学校4~6年生14名がSTEAM教育を体験
2017年11月30日 20:41
- 2017年11月25日 開催
JAL(日本航空)は11月25日、同社が実施する次世代育成プログラム「空育」の新規プログラムである「JAL STEAM SCHOOL」を東京・大田区のJALメインテナンスセンターで実施。231名の応募者から当選した14名が、STEAM学習を取り入れた体験型プログラムに参加した。
STEAM学習を取り入れた「JAL STEAM SCHOOL」が開講
今回実施されたSTEAM学習とは、「Science(科学)」「Technology(技術)」「Engineering(工学)」「Mathematics(数学)」の頭文字をとったSTEM教育に、「Art(アート)」の概念を組み入れた、理数系分野の先進的な教育概念。IoTやAIなど技術の進歩が進むなかで、国際競争力が高い人材の育成に役立つとして近年注目を集めている。
今回の「JAL STEAM SCHOOL」のカリキュラム「SEASON-1 翼をつくろう -飛行機と翼の関係-」では、「Science(科学)」を“航空力学”、「Technology(技術)」を“飛行機が飛ぶ仕組み”、「Engineering(工学)」を“機体の構造”、「Art(アート)」を“機体の形や色”、「Mathematics(数学)」を“飛行性能の計算”で5つの領域を網羅した。
このJAL STEAM SCHOOLは2017年2月ごろから検討が開始され、約9カ月をかけて実現した。「子供たちが、新しいことにチャレンジしたり、未来を作ったりすることにつながるような体験型のコンテンツを、航空会社らしい発想で作りたい」と企画されたものだという。
カリキュラムの内容は、同社のボーイング 777型機機長 靍谷(つるや)忠久氏や、技術者として整備に長年携わった阿部和利氏らが監修。解析に使用したアプリの制作は、プロジェクションマッピングやデバイス開発に強いクリエイティブチーム「エアーコード」が担当し、靍谷忠久氏らJALが監修を行なった。
この解析アプリの開発は、エアーコードとJALのコラボレーションを検討していくなかで実現したという。内容も非常に完成度の高いもので、この1回のワークショップだけではなく、今後より開かれた形で実施し、「SEASON-2」や「SEASON-3」でエンジンや環境などテーマを変えた展開も検討しているという。
講義で飛行機が飛ぶために必要な力と形状の関係を学ぶ
JAL STEAM SCHOOLは、東京・大田区のJALメインテナンスセンターで実施。Webサイトで募集されたこの講座には231名の応募者があり、当選した14名が全国から集合した。
会場では前方に参加する子供たちのテーブルが2グループ、後方に保護者の席を設置。開講にあたり、JAL 代表取締役専務 大川順子氏が挨拶に立ち、まず子供たちへ語りかけた。「今日は、あんなに大きな飛行機がどうして空を飛ぶのかという不思議を解明していきます。今日この授業を受けたことで、皆さんが将来、飛行機に関する仕事や研究をしたいと夢が広がってくれるとうれしいです」とコメント。
保護者にも、「日本航空では次世代育成の一環として“空育”という活動を行なっています。航空会社であるJALらしい体験型のプログラムを通じて、空のすばらしさに触れていただきたい。今日の授業を通して、子供たちが新しい発見や未来を考えるきっかけになればと思います」とコメントした。
今回のプログラムは、講師を務める機長の靍谷忠久氏と技術者の阿部和利氏による「講義」と、このカリキュラムのために開発された主翼を組み立てる教材による「体験」、飛行機を飛ばすアプリによる「フライトマップ体験」の3部構成で実施。参加者それぞれに、アプリの体験時に使うJAL STEAM SCHOOLのボーディングパス形のチケットが配られた。
講義では、まず機長の靍谷忠久氏から空育やJAL STEAM SCHOOLについて解説があった。続いて、飛行機に働く4つの力である「推力」「揚力」「抗力」「重力」で飛行機の動きが変わることや、揚力を求める計算式などが紹介され、「翼面積」には揚力、「後退角」には安定性など、主翼の形状と数値の関係が解説された。
さらに阿部和利氏から主翼を組み立てる教材について説明され、その教材で作った主翼の形をアプリで読み込み、飛行機の性能を「離陸」「速度」「安定性」の3つのシーンで解析されることが説明された。
教材で「現実には見られない翼」を作成、アプリで解析し数値をチェック
講義のあと、実際に教材を使って主翼を自由に組み立てる体験へと進んだ。このプログラム用に作られた主翼の組み立て教材は、8000通り以上の組み合わせが可能とのこと。参加者たちは各自に配られた教材を使って、まずは「現実には見られない翼を作る」という課題にチャレンジ。配られた記録シートに「予測」を記入してから、アプリで解析を実施する。
主翼ができた参加者は、各自のチケットと組み立てた飛行機を持って前方のアプリへ移動。自分の飛行機を、格納庫の形を模したスキャナに入れたら、チケットのQRコードをハンドスキャナで読み込んで、アプリで格納庫内の飛行機の形を解析。「離陸」「速度」「安定性」のチェック結果が動画でシミュレーションされる。
ちなみに開発したエアーコードによると、このスキャンする装置を格納庫型にして閉じることで光の状態を安定させ、より正確に機体をスキャンすることができているという。
動画で表示されるシミュレーションは見事で、離陸ができるか、安定性がわるくロールが発生しないかなどが表示され、機体の状態がとても分かりやすい。評価がよいと正常に離陸・着陸でき、達成度が表示されるので、改善したいという意欲も強く湧いてくる。
参加者は記録シートにシミュレーションで分かった解析結果の数値を記入。席に戻って自分の飛行機が予測どおりの動きをしたか、解析で飛行機が飛んだか、結果の数値はどうだったかなどを記入していく。
この作業は各参加者が合計3回実施でき、1度目の作成で出た解析結果を検証して気になった部分のパーツを組み替えるなどして形を変更し、2度目の検証にチャレンジ。仕組みや法則を見つけ出し、また記録シートに記入していく。3度目は、発見した仕組みや法則を活かして自分の好きな飛行機をデザイン。アプリ上で柄を選んでつけていく。
参加者たちはそれぞれオリジナリティあふれる主翼を作り出し、アプリによる解析をスムーズに実施していた。シミュレーションでは靍谷忠久氏や阿部和利氏によるアドバイスで気付きが促され、改善してよい評価が出ると子供たちもとてもうれしそうだった。
順番を待つ間、配られたワークシートの「問題」で翼の形状がどの数値に影響するのかを学べ、小学生にはやや難しい内容も理解できるよう工夫がされ、各自が非常に充実した体験を実施していた。
デザインした機体のフライトを体験。「チャレンジ」と「アート」をキーワードに
最後に、3回目の検証でデザインを選んだ自分の飛行機が飛ぶ様子を、会場前面の大きなプロジェクタで見るという体験を実施。ボーディングパスを1人ずつ読み込むと、地球を模した球体の上を自分の飛行機が飛んでいく。子供たちのデザインした飛行機が空を飛ぶ様子はとても夢がある光景で、子供たち自身もプロジェクタいっぱいに表示される飛行機に見とれていた。
全員が体験したあと、機長の靍谷忠久氏から修了証が一人一人に手渡された。今日デザインした飛行機も印刷されている。最後に靍谷忠久氏から子供たちへ講評を実施し、「チャレンジ」と「アート」について語られた。
「失敗できるってすばらしいことです。みんなは生まれたときからインターネットがあるので苦労せずに調べることができる。けれども、本当の正解は簡単には分かりません。
本物の飛行機を作っている人たちは、こういったことを何回も何回も繰り返しています。皆さんも正解がすぐそこにあると思わないでほしい。これからいろいろなことに取り組むとき、正解にたどり着くために嫌な思いもするし、苦労することもあるでしょう。でも今日苦労したり失敗したりことは楽しかっただろうと思う。だからそのときは今日のチャレンジを思い出してほしい。日本航空も、チャレンジしていきます」とコメント。
また、「アートは日本語に訳すと芸術ですが、英英辞典にはArtのことを“自然に対して人間が手を加えること”と書いてあります。例えば人工知能はAIと呼びますが、これはArtificial Intelligenceの略。人の手が加わっているからです。私は芸術は人間の感動、心の動きを人に伝えることができるから価値があるのだと思う。
だから君たちも自分の心が動いたことを大事にしよう、そして、ほかの人が考えていることや思うことも大事にしてほしい。それがきっとアートだと思う。今日の体験で、皆さんがこれからなにか取り組むときの気持ちが少しでも変わってくれたらうれしい」と語りかけた。
「物作りには技術もアートも大事」だと体験できるカリキュラム
終了後の囲み取材で、代表取締役の大川氏は今回の取り組みについて「空育のコンテンツを探すなかで、STEM領域にArtの要素を組み込んだSTEAMには、航空と親和性があると感じました。これをきっかけに航空業界に興味を持ってほしい。まだ具体的には決まっていませんが、年度内にもう一度このプログラムを実施したいと考えています。空育に関しては、今後も夢のある活動を広げていき、例えば折り紙ヒコーキ大会はいずれ世界大会を行ないたい」と語った。
また、今回講師を務めた機長の靍谷忠久氏は、「今回の企画は発案が2月ごろですが、私は5月ごろの設計段階から関わりました。今日の会場では、初めて会う子供たち同士が集まって実施されるのでおとなしいかもしれないと思っていましたが、熱気が冷めないまま2時間実施でき、皆さんが積極的に取り組んでくれて感動しました。お子さんの作る飛行機は予想以上。とても創造性のあるものでした」とコメント。
同じく講師を務めた阿部和利氏も「第1回の実施なのでこちらも緊張しましたが、お子さんは手を動かし始めたら緊張もとけ、こちらの気持ちを非常によくくんでくれて、期待以上のアイディアを出してくれました。教材は8000通りと説明しましたが、我々の想像以外のものがたくさん作られて、我々大人の固まった頭脳を刺激してくれました。こうしたお子さんたちの発想が、将来いろいろな技術に出てくるといいなと思います。今回はアートもポイントで、2つの課題を技術的に取り組み、最後は心を使って取り組みました。物作りには技術もアートも大事だということが分かってくれるといいなと思います」と語った。
今回の取材では、JAL STEAM SCHOOLのために作られた教材や解析アプリの完成度の高さが印象的だった。解析アプリの入ったノートPCと格納庫型のスキャナ、ハンドスキャナ、タブレット、教材などポータビリティも十分に意識されたシステムで、実施場所に柔軟性がある。第1回目ということもあり、高倍率を勝ち抜いたラッキーな14名での体験となったが、今後より多くの子供たちにJAL STEAM SCHOOLでのSTEAM教育の体験が進むことに期待したい。