荒木麻美のパリ生活

冬のラトビア、ノルウェー、スウェーデンへ。「中世の町並みとアールヌーボー建築が残るラトビアのリガ」

 2024年の12月頭から2025年の1月頭まで、ラトビア、フィンランド、スウェーデンに行っていました。フランスの映画業界で働く夫が、撮影のためにしばらくラトビアに滞在することになったのですが、撮影の合間にクリスマス休暇があったので、ラトビアから近いフィンランドとスウェーデンにも行ってきました。

 パリからラトビアのリガまでは、飛行機で4時間弱です。リガはバルト三国最大の都市で、町の中心となる旧市街は世界遺産に登録されています。ここは13世紀、ドイツ人によって町の基礎が作られ、戦争などで再建された建物も多いのですが、今でも中世の雰囲気を十分に感じることができます。私の滞在中は、町のシンボルとなっているリガ大聖堂周辺に小さなクリスマーケットができ、訪れた人びとがプレゼントを選んだり、たき火を囲んでラトビア料理を食べたりしていました。

リガ大聖堂周辺のクリスマスマーケット

 ここから旧市街の散策をスタートします。有名な「3人兄弟の家」はリガで最も古い集合住宅です。各棟異なる世紀に建てられたため、ゴシック様式やルネサンス様式など、異なる建築様式を持つ家が3軒並んでいます。16世紀に再建されたリガ城は、現在は大統領官邸になっています。

3人兄弟の家
リガ城
旧市街に建つ建物は、有名・無名に関わらず、思わず足を止めてしまうものがたくさんあります
旧市街の外れにある自由の記念碑。ラトビア独立戦争で亡くなった兵士のために作られました
旧市街を流れるダウガバ川は昼と夜、雪の有無で景色が変わります

 旧市街の中心から南東に行くと、巨大市場があります。もともとは飛行船の格納庫だった5棟が、1930年に中央市場となりました。現在は4つの建物内とその周辺でさまざまな商品が売られており、欧州最大規模の市場の一つといわれています。

中央市場

 市場内にはフードコートもあり、ここで水餃子のような「ペルメニ」とソーセージを挟んだパン、ラトビアの伝統的な料理と書かれていたトマトベースのスープを食べました。ペルメニは私には酢醤油が欲しいところですが、ここではサワークリームが付いてきます。そのあと、家で食べるための食材を買いましたが、美味しそうなイクラもあったので、イクラたっぷりかけご飯をアパートで食べて大満足でした。ちなみにリガの物価は、同じくユーロ圏のパリよりほんの少し安いかな、くらいだと思います。

市場内のフードコート

 旧市街の中心から今度は少し北東に行くと、19世紀末から20世紀初頭に建てられたアールヌーボー(ユーゲントシュティール)様式の建物が多く残っています。我が家はこのエリアにあるアパートを借りていたのですが、この辺の建物はとても個性的です。旧市街の中世の町並みもよいのですが、こちらを見ている方が私は楽しかったです。

 このエリアにアールヌーボー博物館があるので、まずはそちらを訪問しました。壁、家具、カーテンなど、室内のすべてがアールヌーボー様式となっており、当時の暮らしぶりを想像しながら見て回りました。途中でミニコンサートもあり、ゆったりとした時間が流れていました。

 博物館を出て美しい階段を上っていくと、最上階には別の博物館があります。ここは画家のヤニス・ローゼンタールズが住んでいたアパートで、各部屋は正直見るものがあまりありません。でもアトリエだったと思われる、天井の高い広々とした部屋で彼の作品を見るだけで、行く価値がありました。

アールヌーボー博物館
アールヌーボー博物館内部
ため息が出るほど美しいらせん階段
ヤニス・ローゼンタールズが住んでいたアパートのアトリエ

 博物館を出て、周辺のアールヌーボー建築を見て行きましたが、どれも独創的! 驚くもの、畏れを感じるもの、そして噴き出してしまう彫刻も多数ありました。

見ていて飽きないアールヌーボー建築群

 リガの旧市街にはとにかくカフェが多いです。コンビニカフェから重厚な雰囲気のあるカフェ、今時のおしゃれなカフェまで選び放題です。

一休みをしたカフェの一つ
全商品がグルテンフリーのパン屋「Better Bread」。カフェコーナーもあります

 私は猫が大好きなのですが、飼い猫と離れて寂しかったのもあり、旧市街に新しくできた保護猫カフェ「Kotoffski」に行きました。別の町にあったカフェですが、リガに引っ越してきました。私が行ったときはプレオープン中だったために店内は未完成でしたが、猫たちはすっかりくつろいでいる様子。全部揃うと7匹いるそうです。

リガの猫カフェ「Kotoffski」

 猫カフェの帰りには「猫の家」と呼ばれている建物も見に行きました。アールヌーボー様式の貴重な建設物で、屋根に乗った黒猫の像がなんとも愛らしい。

猫の家

 1週間のリガ滞在中、15時ごろには日が暮れるというのもあり、旧市街とその周辺のみで過ごしていたのですが、リガにいる知り合いに会う機会があったので、一度だけ少し遠出をしました。

 まずはお茶を飲もうと連れて行ってくれたのが「Lido」。ラトビアの伝統料理を食べさせてくれるレストランチェーンですが、私が行ったところは木造の広々とした店内で、子供用の遊び場もあり、ゆっくりできました。知り合いが飲んでいた茶色の液体が気になったので聞いてみると、クヴァスという、穀物を発酵させたノンアルコールの飲み物とのこと。ちょっと味見させてもらいましたが、甘酸っぱくて好みの味! 気に入ったので、スーパーで買って飲んだほどです。

Lido
スーパーで買ったクヴァス

 そのあとはラトビアの保養地として知られる海辺の町、ユールマラに。リガの中心からクルマで30分くらいです。着いたときにはもうすっかり日が暮れていたため、町の景色をよく見られなくてとても残念でしたが、ライトに浮かび上がる木造の建物も含めて、日中はきっとすてきなところなのでしょう。ただしウクライナ戦争後はロシアからの観光客がいなくなったため、以前のような活気はないと知り合いは言っていました。

ユールマラ

 知り合いはロシア系なのですが、彼の話によると、リガの住民の半数近くがロシア系です。ソ連侵攻を経てラトビア独立後も、ラトビア系とラトビアに残ったロシア系はそれなりにバランスを持って共存できていたのですが、ウクライナ戦争で状況は悪化。ラトビア系とロシア系がミックスしている家族もいますし、状況は複雑そうです。

 高齢のロシア系の人たちはラトビア語をできない人が多いのですが、ラトビアの国籍を取得するためには一定レベルのラトビア語力も問われます。しかし高齢者が今さらラトビア語を習得するのは困難なため、そのままとなっているケースも多いとか。非市民として暮らすうえでの問題は多々あると思うのですが、センシティブな話題なのであまり深くは聞きませんでした。また、政治的経済的な理由から国外に出る人が増えているとも知り合いは言っていました。

リガのロシア大使館前には反ロシア派の掲げたウクライナの国旗と、隣の医学史博物館の壁にはロシアのプーチン大統領の顔にドクロを合わせて描いた巨大なポスターが
リガのロシア正教会

 ユールマラからリガに戻り、ラトビア系の人たちも合流して「ラトビアらしいおやつ」を食べながら当たり障りのないおしゃべりをしたのですが、出てきたものがすべて乳製品! そのなかでもこれが特に美味しいと勧められたのが「Karums」というマークのもの。私が食べたバニラ味はレアチーズケーキみたいな味でした。スーパーに行けばたくさんの味があると聞いたのであとで行ってみましたが、1個50円くらい。駄菓子感覚でいろいろ試してみましたが、「うーん?」という味もあっておもしろかったです。

乳製品づくしのおやつ。スーパーにはたくさんの種類のKarumsが

 私の見た限り、リガはゴミもほとんど落ちておらずきれいで、治安もよいと感じました。親日国のようで、リガと神戸市とは姉妹都市にもなっています。リガには神戸から送られた時計がありました。

神戸市から送られた時計。観光案内所には日本語のミニガイドブックもありました

 夫の仕事がなかったら行こうと思わなかったラトビアですが、今回の滞在をきっかけに、今後ラトビアがどうなっていくのかを注目していきたいです。リガの次は、クリスマス休暇で行った北欧2か国編です。1か国目はフィンランドのヘルシンキです。

夫の同僚がくれたお土産。「RIGA BLACK」は歴史あるラトビアのハーブリキュールで、町のいたるところで売っています
ラトビアの有名な自然派石鹸「ステンダーズ」。見た目も美しいのでお土産にぴったり
荒木麻美

東京での出版社勤務などを経て、2003年よりパリ在住。2011年にNaturopathie(自然療法)の専門学校に入学、2015年に卒業。パリでNaturopathe(自然療法士)として働いています。Webサイトはhttp://mami.naturo.free.fr/