旅レポ

ブドウ畑に囲まれた「シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー」で栽培から醸造までを見学&試飲してみた

ワイナリーを開放する「椀子マルシェ」は10月26日~27日開催

メルシャンは国内3か所目の「シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー」を公開した

 メルシャンは、9月21日にオープンした国内3か所目の自社ワイナリー「シャトー・メルシャン 椀子(まりこ)ワイナリー」(長野県上田市長瀬146-2)を報道向けに公開した。

 椀子ワイナリーはブドウ畑に360度囲まれた場所に建ち、醸造所や樽庫(セラー)まですべてを見学可能。素晴らしい眺めのテイスティングカウンターや充実したワインショップを併設するブティックワイナリーだ。

 予約制で行なわれている4種類のワイナリーツアーのうち、「椀子プレミアムツアー」に参加してきた。ブドウ栽培やワイン造り、そしてテイスティングで椀子ワイナリーをしっかり楽しめる充実のコース内容をレポートする。

シャトー・メルシャン国内3つ目となる自社ワイナリー「シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー」

国内最大手ワインメーカーによるブティックワイナリー「シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー」

 キリンホールディングスの傘下であり、国内最大手のワインメーカー「メルシャン」。総合酒造メーカーのイメージが強い一方、実は1877年(明治10年)創業の「大日本山梨葡萄酒会社」の流れを受け継ぎ、140年以上にわたって日本ワインに取り組んできたワインメーカーでもある。1970年に高品質なファインワインである「シャトー・メルシャン」を誕生させて以来、長年日本ワイン産業を先導。

 そんなシャトー・メルシャンは、国内に3つの自社ワイナリーを所有。山梨県甲州市の「勝沼ワイナリー」、長野県塩尻市の「桔梗ヶ原(ききょうがはら)ワイナリー」に続き、9月21日にオープンしたのが長野県上田市の「シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー」だ。

 ワイン資料館を併設しワインショップやテイスティングカフェを持つ、おもてなしに重点を置いた体験型の「勝沼ワイナリー」や、一般公開は1年に数回だけでワイン造りに特化するガレージワイナリー「桔梗ヶ原ワイナリー」とも違い、「椀子ワイナリー」は地域との共生をコンセプトにしたブティックワイナリーとして位置づけられている。

東京ドーム約6個分の広さの土地にワイン畑が広がる

 椀子ワイナリーが位置する上田市丸子地区陣馬台地は、かつて養蚕のための桑畑だったものの、1990年代には遊休荒廃化していた土地。日当たりや降水量などワイン用ブドウの栽培に適した土地だったことから、2003年にメルシャンが「椀子ヴィンヤード」として開園。「椀子(まりこ)」の名は、6世紀後半にこの場所が欽明天皇の皇子「椀子皇子」の領地であったことから命名されたもので、丸子町の古代名も「椀子」だったと言われているそうだ。

 椀子ヴィンヤードは2010年に20ヘクタール、2018年にはさらに9ヘクタール拡張し、現在は合計29ヘクタール(約29万m 2 )の広さを持つ。中規模かつ品質志向を持つ、上田市で初となるブティックワイナリーである。東京ドーム約6個分の広さの土地に、メルロー、シラー、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランなど8種類のブドウ品種を栽培している。2019年度の生産予定数量は約5000ケース。椀子ヴィンヤードのほか、北信地区(長野県長野市、須坂市、高山村)のブドウを使って製造されている。

 2010年から「椀子ヴィンヤード」シリーズのワインが発売され、2016年には「マリコ・ヴィンヤード シャルドネ2014」が「第40回 国際ワインチャレンジ」で金賞・特別賞を同時受賞。G7伊勢志摩サミット2016で「マリコ・ヴィンヤード オムニス 2012」が提供されるなど高評価を受け、いよいよ2019年、360度ぐるりと畑に取り囲まれた、丘の上に立つワイナリーが本格オープンとなった。年間予定者数は2~3万人を見込んでいる。

畑の中央に建てられた、すっきりとしたデザインの美しいワイナリー
シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー

所在地: 長野県上田市長瀬146-2
TEL: 0268-75-8790
営業時間: 10時~16時30分(ラストオーダー16時)
営業日: 2019年9月21日から11月30日までは無休、12月以降は11月中旬ごろに公開
アクセス: JR上田駅からタクシーで約25分、しなの鉄道 大屋駅からタクシーで約10分、上信越自動車道 東部湯の丸ICからクルマで約10分

ブドウ栽培やワイン造りの現場を見学、テイスティングも存分に楽しめる「椀子プレミアムツアー」

 椀子ワイナリーは、JR上田駅からタクシーで約25分、しなの鉄道 大屋駅からタクシーで約10分の位置にある。ワイナリーに駐車場も完備されているが、当然ながら運転者はテイスティングできないので、交通機関を利用する場合は駅からのアクセスは基本的にタクシーになる。料金は上田駅から3500円前後、大屋駅からは1500円程度。

 椀子ワイナリーで実施されているワイナリーツアーは4種類あり、「定番ツアー」として設定されている約60分間の「椀子スタンダードツアー」(1500円)と約90分間の「椀子プレミアムツアー」(3000円)のほか、期間限定で実施される「特別ツアー」として約150分間の「椀子ウォーキング&ランチツアー」(7000円)と約120分間の「椀子ワインメーカーズツアー」(5000円)が設定されている。

 ワイナリーツアーはもちろん20歳以上が対象で、Webサイトまたは電話にて事前予約が必要。ただし、当日定員に余裕がある場合のみ来場時に椀子ワイナリー受付で参加申し込みもできる。ワイン畑を歩くため、ヒールなどの靴は避け、畑を歩きやすい靴を用意した方がよい。畑の高低差や施設内の階段もあるため、1時間ほどのウォーキングが問題なくできる方のみ参加が可能だ。Webサイトの予約カレンダーでは、すでに11月いっぱいまでの実施日が登録されている。平日で「予約する」のマークが表示されない日は一般向けのツアーが実施されないので注意しよう。

 ちなみに、テイスティングカウンターやワインショップはツアーに参加しなくても営業時間中いつでも利用できるし、醸造所や樽庫はエントランスホールからガラス越しに自由に見学できるので、ツアーが予約でいっぱいでも訪れる価値は十分にある。

ワイン醸造エリアや樽庫がガラス越しに見える1階のエントランスからツアースタート
ウエルカムドリンクとして「椀子のあわ シャルドネ」が振る舞われ、参加者全員で乾杯

 ツアーのスタートは、まずワイン醸造エリアや樽庫がガラス越しに見えるエントランスから。実際に日々ワイン造りに携わるスタッフがガイドしてくれる。今回のプレス向けツアーでは、製造部 シニアソムリエの山田基之氏が、ワイン造りに対する深い知識と軽快なトークで、解説を進めてくれた。

 最初にウエルカムドリンクとして「椀子のあわ シャルドネ」が振る舞われ、参加者全員で乾杯。「シャトー・メルシャン 椀子ヴィンヤード」で栽培されているブドウの種類や、「勝沼ワイナリー」「桔梗ヶ原ワイナリー」「椀子ワイナリー」それぞれの特徴、シャトー・メルシャンのワイン造りの哲学などワイナリーの概要を詳しく聞いていく。

「強粘土質」であるという土壌の特徴や、フランスの「シャトー・マルゴー」最高醸造責任者(当時)の故ポール・ポンタリエ氏がアドバイザーとして来日し、実際の畑やブドウに接して「フランスワインのマネをするのではなく、日本らしいワインを造るべき。日本庭園のようなワインを目指してはどうか」とアドバイスしたという逸話を披露。そのアドバイスから「Finesse&Elegance」という日本庭園のような調和を意識した今のワイン造りにたどり着き、国際的な評価が一気に高まったという。

「シャトー・メルシャン 椀子ヴィンヤード マップ」前で全体像や栽培されているブドウの種類を解説
「勝沼ワイナリー」「桔梗ヶ原ワイナリー」「椀子ワイナリー」をそれぞれイメージして描かれた日本画と各ワイナリーを代表するワインについて解説
ワイナリーツアーを担当してくれた製造部 シニアソムリエの山田基之氏

 続いてワイン畑に移動し、実際にワインになる前のブドウを目の前にして、椀子ヴィンヤードで栽培するブドウの特徴とワイン造りを解説。訪れた10月初旬はちょうど収穫の時期にあたり、畑にはブドウがたわわに実っていた。

 山田氏からブドウ畑の1年が解説され、収穫後にブドウの味を濃縮させるための数々の手間が詳しく説明された。椀子ヴィンヤードの場合、1本のブドウの木に12房程度が成るよう冬期中に剪定。6月上旬に花が咲き、そこから100日ほどで収穫になるという。畑では間近にブドウが見られ、1粒だけ味見をすることもできた。そのまま食べるブドウと違い、甘みはあるが、実が小さくて種が大きく、皮が厚くて香りもない。これが味わい豊かなワインになるのが不思議に感じられた。

 椀子ヴィンヤードは風の強い畑だそうで、ブドウの房が揺れることによって病気を防げるほか、特にシラー種はスパイシーな香りの成分であるロタンドンの含有量が世界的に見ても一番強く、これがテロワール(土地の個性)となっているという。現状、椀子ヴィンヤードのシラーは2000本程度しか製造できないため首都圏でしか流通しておらず、関西以南では販売していないという。希少価値のあるシラーとして覚えておきたい。

日本で一般的な棚から下がる形ではなく欧州式の垣根仕立てで栽培されている
山田氏からブドウ畑の1年の流れが解説されていく
1つの木から12房程度が成るよう剪定されるという
そのまま食べるブドウと違い、実が小さく種も大きく、皮も厚い
広大な畑を移動していろいろな品種の解説を受けられる

 続いてワイナリーの建物の裏手からワイン醸造エリアに入り、収穫したブドウの醸造過程の解説を聞く。椀子ワイナリー最大の特徴が「グラビティ・フロー」と呼ばれるワイナリーの構造で、丘の斜面に建てられた高低差を利用して、収穫したブドウを重力に逆らわずに醸造できるよう、施設が設計されているという。

 手摘みされたブドウは、まずベルトコンベアで手作業で選別。機械で枝から実を取り、さらに手作業で顆粒を選別するという。2段階で手作業の選別を行ない、完熟したよい顆粒のみを使うことで、青臭さのない、よい香りのワインに仕上がるという。その後、ワイナリーの高低差を活かしてストレスなく醸造タンクへ。らせん階段を降りてタンクも間近で見学できた。ステンレスタンクのほか、赤ワインには香りのよいオーク樽も使用するという。

 醸造エリアでは、シャトー・メルシャン椀子ワイナリー長の小林弘憲氏から「このワイナリーでは醸造のすべての過程を公開しているので、皆さんにもぜひ気軽に見学に来てほしい。広がるブドウ畑の中央に、これだけの規模で醸造と見学が可能なワイナリーは、おそらく本州にはほとんどないと思う。この景色と醸造の過程を、五感を使って楽しんでほしい」とあいさつがあった。

ワイナリーの背後が醸造エリアにつながっている
畑から収穫したブドウを醸造する流れを解説
手摘みされたブドウはベルトコンベアで手作業で選別。機械で枝から実を取り、さらに手作業で顆粒を選別
椀子ワイナリー最大の特長が「グラビティ・フロー」と呼ばれる構造。収穫したブドウを重力に逆らわずに醸造できる
醸造はステンレスタンクが多いが、赤ワインには香りのよいオーク樽も使用する
シャトー・メルシャン椀子ワイナリー長の小林弘憲氏からあいさつ。「この景色と醸造の過程を、五感を使って楽しんでほしい」と語った

 そのまま樽庫に入り、実際にワインが詰まった樽が1000樽保管されている光景に圧倒された。日本で最大級の数だという。フレンチオークを使った樽の値段やメーカーによる形の違い、樽の焼きによる香りなど、普段は聞けない解説もあり、一つ一つの解説がとても興味深い。1樽で300本ほどのワインが取れるそうだが、オリを避けるため220~230本程度しか取らないそうだ。

 ここで、シャトー・メルシャン・クラブの会員向けに毎年4月に発売する、220名限定発売の「プレステージ・パスポート」の仕組みを解説した。これは、パスポート所有者に年4回、1回3本ずつ合計12本の特別な厳選ワインセットを届けるサービス。樽1つからワインが220本が取れることから、この人数が決まっているというのがおもしろい。年会費は6万円だが、初年度の2018年に続き2019年度も発売直後に売り切れるほどの人気だという。

ワインが詰まった樽が1000樽保管されている樽庫
樽のメーカーによって形が違い、焼き方により香りにも影響するという
シャトー・メルシャン・クラブは年会費無料で会員登録できる

最高の見晴らしで6種類のワインをテイスティング。ワインショップは必見

 樽庫の見学が終わると、建物の2階に上がってテイスティングを行なう。2階にはワインショップや、テイスティングカウンターとテーブル席、見晴らしのよいテラスのほか、個室の「テイスティングルーム」と「オムニスルーム」もある。「椀子プレミアムツアー」の場合は通常、眺めのよい個室の「オムニスルーム」でテイスティングを行なう。

 プレミアムツアーで試飲できるワインは6種類。椀子ヴィンヤード産ワインを中心に、シャトー・メルシャン醸造の長野県産ワインをテイスティングできる。1本1本、ガイドがスライドでそのワインの概要を説明。解説を聞きながらゆっくり味わうと、繊細な味わいまで理解しやすかった。テイスティングといっても量は十分で大満足できる。この日テイスティングに提供されたのは以下の6種類だった。

・シャトー・メルシャン 椀子ソーヴィニヨン・ブラン 2018(白)
・シャトー・メルシャン 椀子シャルドネ 2017(白)
・シャトー・メルシャン 北信シャルドネ アンウッデッド 2017(白)
・シャトー・メルシャン 北信左岸シャルドネ リヴァリス 2017(白)
・シャトー・メルシャン 長野メルロー 2018(赤)
・シャトー・メルシャン 椀子メルロー 2015(赤)

「椀子プレミアムツアー」のテイスティングが行なわれる眺めのよい個室「オムニスルーム」
ガイドによるワイナリーの解説を聞きながらテイスティングしていく
椀子プレミアムツアーのテイスティングで提供された6本
テーブルには6杯のワインと水、おつまみを用意。ランチボックスも別途注文できる
提供されるワインの特徴が詳しく解説されたペーパーも用意。自分の印象もメモに書き込める

 このテイスティング中には、オプションで地元の「えだまめの会」により地元食材を使って丁寧に作られたランチボックス(1500円)も食べられる。ワイナリーに食事は持ち込みができないほか、椀子ワイナリーにレストランは併設されていないので、特に午前中いっぱい実施されるプレミアムツアーに参加する場合は、ワイナリーをゆっくり楽しめるようランチボックスを注文しておくことをお勧めする。

地元の団体「えだまめの会」が提供する、地元食材を使ったランチボックス(1500円)
ワイナリー近隣の「上田市丸子農産物直売加工センター あさつゆ」でも購入できる
各ワインの詳しいスライドを使って解説
山田氏が1本1本テイスティング。参加者も一緒にテイスティングしていく
色や香り、口中に広がる風味など1杯1杯ゆっくり満喫できる

 プレミアムツアーはこのテイスティングで終了。ワインショップでは、テイスティングしたワインはもちろん、椀子ワイナリーで醸造されたワインを中心にシャトー・メルシャンの貴重なワインがずらりと並んでいるので、気に入ったワインを入手しよう。このワイナリーでしか購入できないワインもあるので、買い忘れのないように注意。選んだワインを宅配便で自宅に送ることもできるので、多く購入するときは利用すると便利だ。ほかにも椀子ワイナリーオリジナルのグッズも販売されており、ワイナリーをイメージした豆皿や、上田紬とコラボしたグッズも販売されている。

 さらにいろいろなワインを試したいという場合は、テイスティングカウンターで追加で注文して楽しむこともできる。眺めのよいテラスからはブドウ畑が見渡せ、晴れた日には非常に気持ちがよい。思う存分、ゆったりしたワイナリーを楽しもう。

上田市の特産品を使ったワイナリーのオリジナルグッズなどここでしか買えないグッズが揃う
ワイナリーで製造されているワインがずらりと並ぶ。長野県内でしか買えないワインも多い
このワイナリーでしか買えない「ワイナリー限定ワイン」にも注目
2階に広がるテイスティングカウンターは広々としている
1グラス60mlずつ。セットメニューのほか、椀子ヴィンヤードのワインをはじめ、グラスでさまざまなワインがテイスティングできる
レストランはないが、日替わりで簡単なおつまみは用意されている
大きな窓の外に広がるワイン畑を満喫しながらワインを楽しめる
貼れた日は本当にさわやかな光景で、非日常の光景に浸れる
ゆったりしたソファが用意されたテラス席は特に爽快。会話も弾みそうだ
「椀子メルロー 2015」(左、ワイナリー販売価格5500円)、「椀子ソーヴィニヨン・ブラン 2018」(右、ワイナリー販売価格4200円)

東京駅から1時間半。上田城と城下町、温泉や神社仏閣など上田市をワインツーリズムで楽しむ

 椀子ワイナリーは地域との共生をコンセプトにしたワイナリーだと紹介したが、地域社会への貢献が非常に重視されているのも特徴だ。地元のシルバー人材の協力を得ているほか、2006年以降、多くの人手を必要とする収穫などに「陣馬台地研究委員会」の募集による収穫ボランティア(2018年は約800名)が関わるなど地域が協力。

 メルシャンでもブドウ畑で発見された雑滅危惧種への配慮や、地元の小学校への食育活動などに協力を行なっているという。さらにワイナリーがオープンした2019年は、10月26日~27日にワイナリーを開放して「椀子マルシェ」を初開催。上田市の食と文化の魅力を発信するイベントを行なう。

椀子マルシェ

日時: 2019年10月26日~27日
開催時間: 10時~16時30分(ワイン、フードのラストオーダー16時)

椀子マルシェは10月26日~27日開催(※編集部注:台風19号の影響でワイナリーへのアクセスに変更がある。詳細は椀子マルシェのページで確認していただきたい)

 マルシェでは椀子ワイナリーを舞台とした「特別セミナー」(有料・要予約)の開催のほか、「地元の伝統芸能 信州丸子太鼓「鼓城」のパフォーマンス」も実施。キッチンカーやテントで地元のグルメも多数出店。特設キッズコーナーが開設、無料ショートツアーも開催する。長野県在住・在勤の方にはワインを1杯無料でプレゼント。

 今後も椀子ワイナリーではワインツーリズムによる地域経済の活性化を推進していくという。上田駅は東京駅から新幹線で1本、「はくたか」か「あさま」で1時間半ほどと日帰りも可能な距離だが、せっかく長野まで足を運ぶなら、ぜひ周辺の観光もセットで楽しみたい。

 椀子ワイナリーには宿泊施設がないため、ワイナリーからクルマで30分ほどの位置にある信州最古の温泉「別所温泉」での宿泊がお勧めだ。弱アルカリ性の美肌の湯として知られ、外湯巡りや足湯巡りが楽しめる。周辺には日本最古の禅宗様建築である「国宝 八角三重塔」を境内に持つ禅寺「安楽寺」や、平安時代初期に開創された霊場「北向観音」など、神社仏閣の見どころも多い。

天長年間(824年~834年)に開かれたという信州最古の禅寺「安楽寺」
境内にある「八角三重塔」は長野で初めて国宝に指定された建物
八角塔として唯一とされる貴重な塔。下から見上げると圧倒される
中国の宋時代の様式で建立は鎌倉時代と推定されている
別所温泉は坂の多い温泉街。あいそめの湯から別所温泉駅、将軍塚、北向観音前、石湯、大湯、花屋などを一巡する「足すと・くるっとバス」(1回100円)の利用もお勧め
「北向観音堂」に向かう温泉街。ゆったりした懐かしい雰囲気
長野市の善光寺と向き合って建てられ、厄除観音として知られる「北向観音堂」。善光寺が来世の利益、北向観音が現世の利益をもたらすという
手水舎にも温かい温泉が使われている
境内からの眺め。美しい山々と上田市の街並みが広がる
無料で利用できる足湯「ななくり」。外湯めぐりや足湯めぐりも楽しめる
「ななくり」近くに位置するイタリアンジェラート店「ハレterrace」。コーヒーや地元の食材を使ったジェラートも楽しめる

 宿泊した翌日は、この時期紅葉が美しい「上田城」観光も忘れずに。特に11月2日と3日には「上田城紅葉まつり」が行なわれ、10月26日から11月4日までは「日本夜景遺産」に認定された上田城跡公園のけやき並木遊歩道がライトアップされる。2016年のNHK大河ドラマ「真田丸」放送時は観光客でごった返したそうで、以前と比べて周辺に資料館なども増えて見応えも増している。

 そして、新幹線に乗る前に、ぜひ上田城の城下町としての風情を残した北国街道の「柳町」へ足を伸ばしてほしい。古い建物や蔵を活かしたフォトジェニックな街並みで、そばや味噌などの名物から、スイーツまでグルメも楽しめて時間を忘れてしまいそうだ。

上田城の城下町の風情を残す北国街道柳町
信州 武田味噌 直売所「菱屋」。この時期は、昔ながらの寒(2月)に仕込んだ天然醸造の旨味で人気の「寒仕込」(500g 850円)が限定発売中
日替りシェフのいる食堂や旅のお休み処「木楽歩」。奥には真田紐などを使ったお土産にぴったりの雑貨の販売スペースも
真田REDアップルスイーツのお店「柳町屋」。「アップルたまごタルト」(220円/税別)が名物
通りから1本入った場所にある「隠れ家えん」では、昼から上田名物の「美味だれ焼き鳥」が食べられる。白ワインにもよく合う
国産小麦・天然酵母パンのお店「ルヴァン信州上田店」。店内には雰囲気のよい広い食事スペースを備えている
創業寛文5年 地酒「信州亀齢」の蔵元「岡崎酒造」。「亀齢 大吟醸」など清酒の購入のほか、蔵元限定酒もあり。試飲もできる
上田城跡公園の「上田城 南櫓・北櫓・東虎口櫓門」。天正11年(1583年)、真田昌幸により築城。春の桜や秋の紅葉の美しさでも知られている
東虎口櫓門、右側の石垣に使われている、高さ約2.5m、幅約3m巨石「真田石」
東虎口櫓門の先にある「眞田神社」。徳川軍を2度も破った「不落城」にあやかって受験生に人気。フォトスポットも多い
「上田城紅葉まつり」が11月2日と3日に行なわれる(写真提供:一般社団法人信州上田観光協会)
上田駅前広場には、真田幸村(信繁)の騎馬像や、「枡網用水」の大きな木製水車なども設置されている

 歴史的に見ると、明治時代から始まった日本でのワイン造りは決して順調だったわけではなく、多くの人物がワイン製造にチャレンジしては失敗している。現代日本ワインの父と呼ばれるシャトー・メルシャン元工場長の故・浅井昭吾氏は、地域全体でワイン産地として認められるよう、醸造技術に関する情報を無償で公開して日本ワイン全体の品質向上を目指したという。ワイナリーというと甲府が有名だが、椀子ワイナリーがある上田市から、東御市・小諸市にかけて千曲川に沿った一帯も、実は小規模なワイナリーが多い地域だ。

 畑作りから始まるワイン造りは、国際的に認められるワイナリーとなるまで、非常に長い時間がかかる作業だ。しかし、椀子ワイナリーはすでに国際的な評価も得ており、今後さらに認められるようになると、流通量が少ない椀子ワイナリーのワインは、「ここでなら入手できる」貴重品になるかもしれない。ワインセラーに行く、というと甲府で一般的な首都圏からのバスツアーが思い浮かぶが、今後は、新幹線を使ってゆったりとした個人旅行で行く、椀子ワイナリーや上田市を中心とした「こだわりのワインツーリズム」の広がりにも注目したい。

【お詫びと訂正】初出時、上田城紅葉まつりの日程に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

赤池淳子

1973年東京都生まれ。IT系出版社を経て編集者兼フリーライターに。雑誌やWeb媒体での執筆・編集を行なっている。Watchシリーズでは以前、西村敦子のペンネームで執筆。デジタルカメラ、旅行関連、家電、コミュニティや地域作り、子どものプログラミング教育などを追いかけている。