旅レポ

2015年7月に世界文化遺産に登録されたばかりの熊本県宇城市・三角西港

明治の産業革命における海運物流の拠点を訪ねて

 熊本応援企画として第1回は熊本城、第2回は熊本県荒尾市の万田坑をレポートしてきたが、第3回は、熊本市中心部から西方へ進んだ宇城市にある「三角西港(みすみにしこう)」を紹介したいと思う。

 三角西港は、前回の万田坑同様、「明治日本の産業革命遺産」として、2015年7月に世界文化遺産に登録された。当時、熊本県に派遣されたオランダ人の水理工師ローウェンホルスト・ムルドルによって設計され、1887年(明治20年)に開港。三池炭鉱から産出される石炭や硫黄、さらに米、麦、麦粉の5品目が国外へ輸出されていた。

熊本市中心部からはクルマで1時間。天草方面への中継ポイントでもある

 三角西港へのアクセスはレンタカーがオススメ。宇土半島の西端に位置しているので、海岸線沿いの国道57号をひた走るかたちとなる。熊本市中心部よりおよそ40kmの位置にあり、自動車移動で1時間ほどで到着するだろう。

 途中、海面から突き出た電柱が沖へ向かって並ぶ光景に出会う。「長部田海床路(ながべたかいしょうろ)」という海苔養殖や採貝をしている漁業者のために作られた街灯は、ぜひチェックしておきたい。某焼酎メーカーのCMで登場した場所でもあり、記憶している人もいるだろう。また、天候がよければ雲仙普賢岳を望むことができる。

 さて、現地に到着すると白く光る石畳が出迎えてくれる。敷地の東西に駐車場があるので、もし次の目的地が天草方面であれば、南側に停めておこう。

現地に到着すると、最初に出迎えてくれる灯台のモニュメント。ローウェンホルスト・ムルドル氏の紹介パネルが設置されている
三角西港の敷地案内図。南北に長い港となっており、港からは上天草市の柴尾山を眺めることができる
開港された明治20年の風景写真
港の中心部から北側を眺めているところ。写真左に見えているのが柴尾山
南側に視線を移すと、天門橋(天草五橋のうちの1号橋)が見える

当時の様子そのままの姿で残されている各施設

 三角西港には、当時の建物が再現され、資料館や土産店、カフェなどにアレンジされ、観光客が立ち寄れるようになっている。さらに、敷地内は近代的な設備が目に入ってこないので、タイムスリップしているような気分にさせてくれる。

旧高田回漕店

明治35年以降に建てられた「旧高田回漕店」。回漕店とは船を所有する運送業者のこと。2階に上がることもできる
入場すると広間があり、襖で仕切られた和室が並ぶ。中央部には階段があり、ここから階上に上がる
中庭まで突き進み振り返ると、2階の様子もよく分かる。トイレも併設されている
2階に上ってくると、風通しのよい和室空間がある

ムルドルハウス

三角西港を設計したローウェンホルスト・ムルドル氏の名前を冠した物産館「ムルドルハウス」。さまざまな土産物を購入することができる

和蘭館(おらんだかん)

現在はレストラン「和蘭館」として営業しているが、もともとは1887年(明治20年)の開港と同時に建てられた、土蔵白壁づくりの倉庫だった
倉庫の雰囲気を残し改装され、レストランとして営業している
海側のテラスは西向きとなっているので、時間によっては、夕陽を見ながら食事を楽しむことができる

 そのほかにも周囲には雰囲気のある電話ボックスや下水道などが、往時を再現している。

敷地内中央にある排水路。満潮時に海水を引き込み干潮時に排水する天然の下水道として機能していた
排水路から海につながる境目。橋が架けられており人々の往来ができるようになっている
南側の駐車場から中央の通路を北向きに見たところ
喫煙所
公衆電話
当時の県令、富岡敬明氏の銅像

龍驤館(りゅうじょうかん)

三角西港の歴史をたどる資料館となっている龍驤館
入口脇には、熊本県海難救助隊の看板が掲げられている。
館内には歴史年表やジオラマ、映像展示などさまざまな資料が展示されている

浦島屋

作家、小泉八雲(パトリック・ラフカディオ・ハーン)が、長崎からの帰りに立ち寄った旅館を再現したレストラン「浦島屋」。紀行文「夏の日の夢」の舞台となった場所でもある。1905年(明治38年)に解体され、建材が中国・大連に運ばれたが、1993年(平成5年)に復元された
1階はラフカディオ・ハーンの軌跡を辿る資料館となっている
2階はピアノステージが設置されており、ライブなどを楽しめるスペースとなっている
2階テラス席から海を眺めた風景

周辺を歩けば長部田海床路や天草五橋1号橋なども

 冒頭にも紹介したが、熊本市中心部から三角西港へ向かう国道57号を走っていると、長部田海床路に立ち寄ることができる。駐車場も広く、じっくり写真撮影することも可能だ。さらに三角西港の少し先、JR三角線の三角駅前の三角港フェリーターミナルにある「海のピラミッド」も立ち寄りポイント。天草方面に移動する前に立ち寄ってみるとよいだろう。

長部田海床路( 熊本県宇土市住吉町長部田)

天気がよければ、向こう岸の雲仙岳(長崎県雲仙市)が見える。某酒造メーカーのテレビCMにも登場した

海のピラミッド(熊本県宇城市三角町三角浦1160-177)

三角港フェリーターミナルにある巻貝をモチーフに建てられたランドマーク。内外それぞれに螺旋の通路があり、展望台に上っていける。また三角港は、三角西港に対して“東港”と呼ばれている
建物内にも螺旋通路があり、展望台へ上っていける。展望台で外側の通路と行き来できる構造になっている
展望台からフェリーターミナルを一望できる
JR三角線の三角駅は道を挟んですぐの位置

天草五橋1号橋

天草五橋の1号橋である「天門橋」が見える。写真手前には、新しく架けられる「新天門橋:仮」の工事が進んでいる最中だ。天門橋は連続トラス工法にて架けられた橋だが、新天門橋は鋼PC複合中路式のアーチ橋となる

当時の雰囲気に包まれながら、産業革命を体感できる

 国費が投じられた三角西港は、福井県の三国港と宮城県の野蒜(のびる)築港と合わせて「明治の三大築港」と呼ばれた産業革命のシンボルでもある。

 熊本県には、三井三池炭鉱エリアをはじめとする「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産が多く点在しており、もちろん今回の三角西港も含まれている。当時の港の形状や、洋館の雰囲気そのままに営業している三角西港では、“明治”という時代を深く感じられる場所。波の少ない穏やかな内海は癒しも感じられ、オススメできる観光地だと思う。熊本市を旅行する際には、立ち寄りポイントの候補に加えてみてはいかがだろうか。

赤坂太一

福岡市在住のライター。トラベル Watchでは、九州・山陽エリアの取材を担当することが多い。自動車誌をはじめとする乗り物系媒体に寄稿しているが、最近では一般紙から新聞の取材も。東京から福岡に移住して5年目をむかえた札幌生まれ。ブログはhttp://taichi-akasaka.com/