旅レポ
米、酒から金属加工まで……“なんでもうまいどころ”新潟を旅した(その1)
贅沢イタリアンから田んぼで味わう素朴な定食、石入り背脂ラーメンまで
2016年10月13日 00:00
新潟といえば米どころ、魚沼産コシヒカリがうまい米の代表格としてよく知られているだろう。しかし、水がうまければ米がうまい、米がうまければだいたいなんでもうまい、を持論に掲げる筆者であっても、まさかイタリアンやラーメンまでがその範疇に含まれることになるとは想像もしなかった。プレスツアーで訪れた新潟、その計り知れないポテンシャルの高さに、筆者はすっかり目も舌も胃袋も(よい意味で)やられてしまったのである。
食材から飲み物、食器に至るまで、新潟産を徹底したイタリアン
新潟の中心部、古町に広がるにぎやかな商店街のほど近くにある「燕三条イタリアン Bit」は、地元産の食材をふんだんに使用し、和風なテイストも盛り込んだイタリア料理店だ。
野菜や海産物はもちろんのこと、料理の味付けに用いる酒類までが地元産で統一され、料理と合わせていただくワインや日本酒なども地元でしか味わえないものとなっている。さらに料理を載せる食器類も、伝統工芸品で知られる燕三条で作られたものという徹底したこだわりようだ。2016年10月3日には銀座店をオープンしている。
提供された箸とナイフも燕三条で作られたもの。先端が極端に細くなった箸は、料理をつかんで口の中に入れたときにまったく邪魔にならず、料理の味に集中できる。もちろん食前酒も地元産で、ワイナリー「カーブドッチ」の「スパークリングワイン ブラン・ド・ブラン」となる。
最初に出てきた「ジュレとカリフラワーのムース キャビアを添えて」は、ジュレ自体が出されたスパークリングワインを素材としており、ほのかな酸味を感じる。ムースは生クリームのような舌触りだが、口に含んだ瞬間にすっと溶けてなくなり、わずかな甘みを残していく爽やかな後味。クセのないシンプルな味わいはキャビアの塩味とよく合う。
続く「前菜8点盛り合わせ」は中央がいちじくのマルメラータ(ジャム)を添えた「ゴルゴンゾーラのムース」で、周囲に「秋刀魚のロトラート」「(豚の)白レバーのパテ」「鴨とオレンジのサラダ仕立て」「オクラのアイオリ(ニンニクバター)ソース」「かぼちゃのローズマリー風味」「カプレーゼ」「鮮魚のカルパッチョ」が並ぶ。鮮魚のカルパッチョには、日本海で獲れる赤ハチメという白身魚が使われている。赤いのはピンクグレープフルーツ。
「フォアグラのテリーヌ 八海山のエスプーマを添えて」は八海山がムース状になったエスプーマの日本酒ならではの風味が、フォアグラの濃厚さにちょっとした華やかさを加えている。このフォアグラに合わせるのが、2014年に仕込まれた「八海山 貴醸酒」。貴醸酒は、三段仕込みの最後の段階で水の代わりに清酒を用いる独特の製法が特徴。アルコール度数は日本酒としてはやや高めの17.5度だが、重さはなく、ほどよい酸味でさらりと飲み干せてしまう。
「車海老と雪室熟成ジャガイモのカダイフ」は寒冷地にしか作れない雪室で熟成させることで糖度を上げたというジャガイモが、編み込むように海老を包んでいる。少しの歯応えがあり、海老の身の甘みと合わさって嚙むほどにうまさがにじみ出るかのよう。周囲の粉はオレンジを粉末状にしたもの、黄色い粒はレモンをイクラ状に仕立てたもの。
また、「ズワイガニのマッキーアートソース イカ墨のタリオリーニ」は、Bitの自家製麺である細めの平打ちパスタであるタリオリーニを使用。プチプチと弾けるような食感で、ズワイガニの塩味がきいている。海産物を素材にした以上2品の料理に合わせるのが「フェルミエ アルバリーニョ」。こちらも当然のことながら新潟にある「ホンダ ヴィンヤーズ アンド ワイナリー」で作られたものとなる。
キャベツ巻きのような「真鯛のシューファルシー グルヌイユとホタテのムニエルを添えて」は、塩漬けしたキャベツを用いて真鯛とスズキのムースを包んでいる。特にムースは佐渡産の海水塩が味わい深い。グルヌイユはカエルのこと。ホタテの香ばしさとグルヌイユのあっさりした“鶏肉感”は、ずっと食べ続けたくなる。
ロッシーニといえば、通常はヒレ肉のステーキにスライスしたフォアグラを載せたものだが、“再構築”の名が示すとおりロッシーニの形を大きく変えることで「いい意味で味を弱めた」ものだという。グレーのこんにゃく状のものがトリュフのジュレ、その下には細かいサイコロ状のヒレ肉が隠れている。それらに降りかかっている粉末状のものは、フォアグラを液体窒素で冷凍したもの。周囲の白い粉末はトリュフのオイルが、茶色はジャガイモがそれぞれ素材になっている。
締めのお茶漬け「Bit風OCZ」。貝柱、昆布、ポルチーニ、海苔、柿の種を素材にしたふりかけを、魚沼産コシヒカリのご飯にかけていただく。うまみが凝縮された複雑な味を堪能したあとは、出汁を注ぎ、お好みで魚沼産の生ワサビを添えてお茶漬けともしていただく。100%の生ワサビは、刺激的ながらも上品な辛みが鼻を通り抜ける。
お茶漬けとともにいただいたのが、「麒麟山 タカネノハナ」。原料にたかね錦を使った純米吟醸原酒となっている。和食にも、洋食にも合う日本酒とのことだが、洋風と和風が混在するお茶漬けとの組み合わせもぴったりで、さっぱりとした軽いお茶漬けにも、一段と満足感が出てくる
デザートは「渡辺果樹園の3種類の葡萄を使ったデザート」。クイーンニーナという品種のブドウを使ったパンナコッタの上に巨峰のグラニテ(シャーベット)、さらにその上にシャインマスカットが添えられている。パンナコッタも巨峰も甘さ控えめだが、糖度の高いシャインマスカットと一緒に口に入れれば、ぐっと甘みが押し寄せる。
デザート2品目はお菓子で、アカシアハチミツを使ったフィナンシェなど、ひと口サイズが並んだもの。デザート1品目を別腹に入れたあとでも、さらなる別腹で胃の負担なく収まってしまった。
燕三条イタリアン Bit
所在地:新潟市中央区新島町通1ノ町1977
営業時間:11時30分~15時(ランチ)、18時~23時(ディナー、月~木、日曜)、18時~24時(ディナー、金、土曜、祝日前日)
定休日:火曜日ほか
田んぼを前にして地元産食材を堪能できる自然感たっぷりのレストラン
新潟の豊かな田園風景のどまんなかにある「そら野テラス」は、地元の野菜や加工品が大集結するショップ「そら野デリカ」とテイクアウトコーナーの「そら野マルシェ」、いちご狩りができる「そら野ファーム」、そしてレストラン&カフェ「農園のカフェ厨房トネリコ」などの施設からなる観光、お買い物スポットだ。
地元でとれた色とりどりの野菜が並んでいるほか、米はその場で精米したものを購入できるなど、米どころならでは。その場でにぎってもらえる「おにぎり」のテイクアウトや、菓子まで揃っている。
特に「農園のカフェ厨房トネリコ」で出される素材の味を活かした素朴なランチは、ぜひとも味わってほしい。トネリコランチはお肉ランチ(1000円)とお魚ランチ(1200円)の2種類あり、今回はお肉ランチをいただいた。
ランチのご飯は同農園で栽培されている寿々喜(すずき)米。50%減農薬栽培品となっているほか、味噌汁の味噌の原料である大豆も、自前のものとなっている。主菜はキャベツ、ナス、パプリカ、オクラ、カボチャに豚肉を炒め、豆板醤でピリ辛に仕上げ、素材の味が際立っている。
ミニトマトのハニーマリネは、アンジェレという新品種のトマトで、皮をむき、米酢とはちみつで和えた。まるで果物のような甘みがある。じゃがいものシャキシャキサラダもその名のとおりシャキシャキした、新鮮さを実感できる歯応えとなっている。
生地が米粉で作られたピザは、イタリア産モッツァレラチーズと農園で作ったトマトソースによる「トネリコピザ」と、農園のブルーベリーを使った「フルーツピザ」を試食したが、生地のもちもち感がやみつきになる食感だった。
屋内の席もあるが、外の田園風景を眺めながら食事ができるテラス席は、稲が成長している夏場から収穫前の9月までにかけて、最も米どころらしい眺望が得られ、そのなかで食事をしていると「自分はいま、新潟を食べている!」と錯覚できることうけあいだ。
農園のカフェ厨房トネリコ
所在地:新潟市西蒲区下山1320-1
営業時間:11時30分~15時(ランチ)、10時~17時(カフェタイム)
定休日:火曜日
満足度MAX間違いなし! 新潟元祖の背脂ラーメン
新潟は背脂ラーメン発祥の地とされている。かつて洋食器製造が盛んだった頃、夜遅くまで仕事に精を出す工員のために、脂で冷めにくくしたスープと伸びにくい太麺で作ったのが始まりなのだとか。そういうこともあって、新潟県内には背脂ラーメンを出す店が多数存在する。なかでも県外から客が訪れることもあるというほど人気のお店が、燕市にある「大むら食堂」だ。
外観と内装はごく一般的な食堂、あるいは居酒屋を兼ねる中華料理店という趣きで、昼時になると近所で働くビジネスマンと思われる人たちや、地元の老若男女であふれ行列ができる。メニューは、基本の「中華(ラーメン)」が670円、半分量の中華とカレーライスもしくは餃子がセットになった定食が850円で、ラーメン以外にもそばやうどんがあり、いずれも900円前後までのリーズナブルな価格設定となっている。
中華には、スープと麺の太さに種類がある。ツアー参加者の多くは「中華、太麺」を注文していたが、筆者はスープや麺の違いを確認したかったため「みそ中華、細麺」をチョイス。脂の量も多め、少なめ、普通などから指定でき、麺の量は大盛り(プラス100円)とすることもできる。最初から最後までスープをアツアツの状態にしておける「焼き石」を無料で注文することも可能だ。
通常の中華(醤油味)は、具材にチャーシューと生玉ねぎなど少しの野菜があるだけなので、スープ(背脂含む)と麺のうまさを味わいたいという人にもおすすめしたい。こってり、どっしりが好みなら背脂をとことん増やしてもいいだろう。太麺も少量試食してみたところでは、かなりの弾力を感じるもちもち具合。背脂という名前の響きにもかかわらず、スープはあっさりしているので、女性でも一気にいけるはず。
みそ中華は、玉ねぎ、もやし、ニンジン、ニラ、キャベツ、キクラゲ、豚肉などたっぷりの具材で、満足度が(個人的には)さらに高い。背脂は通常の中華より若干少なめに見えるが、味噌のコクがあるおかげで脂分はしっかり吸収できているように感じる。細麺でありながら、しっかりとしたコシがあり、食べ応え、かみ応えもちょうどよい。スタンダードな太麺もいいが、具材やスープとバランスよく食べるなら細麺も捨てがたい。
大むら食堂
所在地:新潟県燕市小高810-4
営業時間:11時〜15時、17時〜20時
定休日:水曜日