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ハワイ州観光局×文部科学省、新プロジェクト始動! 高校教師の選抜メンバーと“探究するハワイ旅”へ行ってきた【後編】

2024年7月 取材

ハワイ州観光局×文部科学省の新たな教育プロジェクトが始動。初の視察ツアーを終え、主催側のキーマン2人にも話を聞いた

 ハワイ州観光局と文部科学省が初タッグを組んで行なうトビタテ!留学JAPAN「【高校等教員向け】探究型海外研修企画のためのハワイ視察プロジェクト」。日本全国から選ばれた12校12名の教師とともに、“時代に合った学習効果の高い探究型海外研修を教師が自らプロデュースする”ための、3泊5日視察ツアーへ行ってきた。

 いよいよ後編では、3日目~最終日をレポート。ハワイ島ヒロで出会ったのは、すばる望遠鏡の研究員や固有種の保全活動に取り組むネイチャーガイドなど、現地で奮闘する日本人たち。

 教師ならではの探究心を発揮させ、“リゾートだけじゃないハワイの魅力と奥深さ”に迫る!

ハワイ最大の島、通称ビッグアイランド。「手付かずの自然が残る」なんて簡単に言えない真意とは‥‥‥

 自由行動日として設けられた3日目。教師たちそれぞれがテーマを持ち、探究学習スポットを訪ねる。例えば、パールハーバーに係留される「戦艦ミズーリ」では、戦争の歴史を今に伝える巨大な砲塔や資料館を見学。また「ハワイ日本文化センター」では自身が日系三世という学芸員に会い、リアルな言葉で語られる戦後の日系移民について学んだ。

 一方記者は理系教師チームに同行し、通称“ビッグアイランド”と呼ばれるハワイ最大の島へ。ハワイ島は、地球上でもっとも体積が大きな活火山であるマウナロア、その東隣にあるキラウエアとともに世界遺産に登録されるハワイ火山国立公園、そしてハワイ最高峰にして天体観測のメッカであるマウナケアを擁する。ホノルル空港からは、国内線を使って1時間弱だ。

 朝5時にワイキキのホテルを出発し、タクシーでホノルル空港へ向かうメンバー4人(と記者)。街はまだ真っ暗なのに「楽しみすぎて眠れなかった」と、教師たちはすでに元気いっぱい。早朝のホノルル空港は比較的閑散としていたが、6時台になれば道路や空港は一気に混み出すので時間には余裕を持とう。あと、日本と違って国内線でもパスポートが必須なのでご注意を。

 ハワイアン航空のハワイ諸島間で使用されるのは短距離フライト向けのボーイング 717型機。機内では、オリジナルブレンドのライオン・コーヒーやグアバジュースなどのドリンクが提供される。

ハワイアン航空の国内線でヒロへ。ハワイ諸島間の運航機材はボーイング 717型機。参考までに、搭乗ロビーで朝食代わりに飲んだスタバのソイラテはグランデ8.60ドル、アイスコーヒーはベンティ7.20ドルだった(取材時の為替レート1ドル=約160円)

 ヒロ国際空港に着いてまず訪問したのは、現地ネイチャーガイド・長谷川久美子氏のもと。彼女がコミュニティを巻き込みながら地道に続けてきたハワイ固有種の保全活動ボランティアに参加させてもらった。

 体験したのは、フィッシュポンド(魚の養殖池)を再生するため外来種を除去した浅瀬の池に在来種の定植を行なう作業。場所は、ヒロのなかでも海に接したエリアのロコワカ池で、古代は多くのハワイアンが魚の養殖をしながら暮らしていたというケアウカハ地区(ハワイ語で“通り過ぎる潮”)にほど近い。

現地ネイチャーガイド・長谷川久美子氏にフィッシュポンドの再生を目指すロコワカ池を案内してもらった
ヒロのなかでも海に接し、古代は多くのハワイアンが魚の養殖をしながら暮らしていたというケアウカハ地区

 その昔ヒロでは、アリー(首長や酋長クラスの身分が高い人)に献上するためボラなどの魚が多く育てられていた。このような魚の養殖池やタロイモの水田はそこらじゅうにあって、特に雨や海の水源に恵まれた湿地はアイナモモナ(ハワイ語で“豊かな土地”)として大事にされてきた。

 しかし「ハワイは多くの自然が残っているように見えるけれど、繁殖力の強い外来種が面積を広げている」と長谷川氏。我々観光客が“緑豊かで美しいね!”と眺めている景色は、実はその半分が他国から持ち込まれたものという。

 19世紀に移り住んだ西洋人が、森を切り拓いてコーヒーやサトウキビ栽培を始め、リゾート・住宅開発で埋め立てられた湿地で牛や羊などの牧畜が行なわれた。わずかに残った養殖池では雑草が侵食し、その結果、ハワイ固有種は棲む場所を失った。

 元々エコツーリズムの観光ガイドだった長谷川氏は職を辞め、コロナ禍の2021年1月にこれらを駆除するボランティアを開始。絶滅危惧種のセイタカシギ(ハワイ固有種亜種)や絶滅危惧種ランクへの移行が危ぶまれるネネ(ハワイガン)といった水鳥たちがまた戻ってこられるよう、池の泥の奥底から根を張った雑草を手作業で取り除き、在来種アエアエを植え、本来の環境を生き返らせようとしている。

ボートで渡って浅池の作業ポイントへ。泥の奥底から根を張った雑草を取り除き、在来種のアエアエを植える。飛来したネネが道路を渡るためクルマの低速走行を喚起する「スピードテーブル」を設置してもらう交渉も活動の一環という

 無数に広がる湿地の、無数に生えた雑草。夫のパトリック氏と2人で始めた当初は、まわりから「クレイジー(無謀だ)」とも言われた再生プロジェクトだったが、今では賛同を集め、地元住民や企業、大学・高校生ボランティアなどの仲間も増えた。そして週3回ほど、引き潮の数時間かけて行なう作業によって、外来種の雑草がない本来の姿が取り戻りつつある。

「ハワイ島はガイドブックで“今もなお手付かずの自然が残る”なんてよく紹介されるけど、それは大間違い! 私も初めてハワイ島に来た40年以上前、牧場の自然を見てキレイだなと思っていました。でも真実を知って悲しくなったんです」。そして「私がやるべきことはコレだ」と決意した。

ハワイ・ネイチャー・エクスプローラーズ 自然解説員 長谷川久美子氏

 活動開始の翌年5月、池の石垣で羽を休めているセイタカシギのつがいを発見。ようやく成果の一歩を踏み出した瞬間だった。来年60歳を迎えるとは思えないほどパワフルな長谷川氏だが、「私たち人間は破壊する力もすごいけど、その逆の“動くエネルギー”も持っているわけです。観光がメイン産業になっているなか、ローカルっぽさを楽しんで帰るだけではなく、先住民たちが大切にしてきた文化にも触れてほしい」と想いを語る。

 そんな話を聞きながら、全身泥だらけになって作業を手伝った生物地学の瀬川先生。「科学や経済を追求するには、それによる影響を十分に理解できる人間である必要がある」と振り返った。

引き潮の数時間、手作業で地道に雑草除去と在来種の定植を行ない、少しずつ本来の姿が取り戻ってきた
今回ボランティア活動に参加した生物地学の瀬川先生。散々“気を付けて”と言われたが、序盤でズボっと足をもっていかれ全身泥だらけに。慣れない作業でも身体を張って取り組んだ

世界に誇るすばる望遠鏡。独自の観測データで“宇宙のGoogleマップ”を描き出す、日本人研究者たちがスゴかった!

 午後は、イミロア天文学センターや世界各国の天文施設が集まるヒロの高台エリアへ。日本が誇る「すばる望遠鏡」の研究・開発を担う国立天文台ハワイ観測所で、臼田-佐藤功美子博士と研究員の小野寺仁人助教から講義を受けた。

すばる望遠鏡の国立天文台ハワイ観測所を訪問
天文学の臼田-佐藤功美子博士
楕円銀河などを研究する小野寺仁人助教
隣にあるイミロア天文学センターは、ハワイ大学ヒロ校付属の博物館。星の動きを頼りに海を渡ったハワイアンの伝統航海術に関する展示やプラネタリウムもある

 すばる望遠鏡とは、標高4200mのマウナケア山頂域にある巨大な光学赤外線望遠鏡。1999年1月に初観測(ファーストライト)が行なわれ、今年で25周年を迎える。

 その山麓にある国立天文台ハワイ観測所には120人ほどのスタッフがいて、すばる望遠鏡をはじめ、ジェミニ望遠鏡やケック望遠鏡といった口径8~10m級の望遠鏡を運用。天文学研究や次世代の観測装置開発にも携わる。望遠鏡が設置される山頂域での作業は危険が伴うため、離れてできる研究などはこの山麓施設で行なわれている。

すばる望遠鏡 ©NAOJ
朝日に照らされるすばる望遠鏡と、空に映るマウナケア山の影 ©NAOJ
ハワイ最高峰4200mのマウナケア山頂域は世界屈指の天体観測スポット。各国の観測ドームが置かれる ©NAOJ
今回訪問したのはマウナケア山麓にある国立天文台ハワイ観測所 ©NAOJ

 すばる望遠鏡の特徴は、単一鏡ながら口径8.2mの巨大な主鏡を持つこと。「世界で最も大きくなめらかな一枚鏡のひとつ」と呼ばれる。そもそも大きな望遠鏡の一体何がスゴいのか、なぜ天文学者は大きな望遠鏡をこぞって開発するのかというと、「その強力な集光力で天体からの微弱な光も捉えることができる」から。

 筒の底に鏡を取り付け、筒の頭を星に向けることで観測するのが望遠鏡の仕組み(ざっくり言うと)だが、その主鏡の面積が大きければ大きいほどたくさん光が集まり遠くの暗い天体を観ることができる。また“大きな眼”である望遠鏡は、鏡が大きいほど細かいものを分解して観る能力が高まる。つまり“視力”がいいので、小さい望遠鏡では今まで観えなかった遠くの星が観えてくる。

レーザー照射するすばる望遠鏡 ©NAOJ
マウナケアの上に傾く天の川銀河 ©NAOJ
マウナケア山頂にすばる望遠鏡が設置されている ©NAOJ

 そして、すばる望遠鏡の最大の特徴が、4つある焦点のうち望遠鏡の一番上に付いた主焦点(宇宙から届いた光が主境で反射して最初に結像するところ)に、観測装置のカメラを取り付けたこと。これによってほかの大型望遠鏡より圧倒的な“視野”の広さを実現。世界の大型望遠鏡のなかでも高い評価を受けている。

 特に第2世代の超広視野主焦点カメラ「HSC(Hyper Suprime-Cam)」が2013年に観測をスタートしてから数々の成果を残してきた。すばる望遠鏡自体は高さ43m、重さ555トンあるが、その頭上に筒の長さ3m、重さ3トンものカメラを取り付けるには相当な技術が必要だった。構造的には支柱が太く、ジェミニ望遠鏡やケック望遠鏡よりもがっしりとした円筒型ドームの設計になっている。

すばる望遠鏡の主鏡と超広視野主焦点カメラ「HSC(Hyper Suprime-Cam)」 ©NAOJ

 例えば、HSCで最初に捉えたのはアンドロメダ銀河(M31)。我々が住む“天の川銀河”と似たような大きさと形の銀河であり、臼田博士は「地球のごく近郊にあるお隣の銀河」と説明するが、地球からの距離にして250万光年。

 なんとその規模は満月9個分もあるのだが、HSCではそれほどの広視野をなおかつ鮮明に一回で撮影することができる。25年前の主焦点カメラ(第1世代)は満月1個分の視野であったが、それでも当時は画期的な技術だったという。

主焦点カメラが進化し、満月9個分もの広い視野で天体を撮影できるようになった
HSC-SSPで捉えられた衝突銀河の一つ、くらげ銀河の画像。傘のUGC9326としっぽのUGC9327、2つの渦巻銀河が衝突し合う。地球からの距離7.7億光年 ©NAOJ
HSCが初観測したアンドロメダ銀河(M31)。地球からの距離250万光年 ©NAOJ
南十字星とケンタウルス座アルファ星・ベータ星。地球からの距離4.3光年 ©NAOJ
火星(2018年7月29日観測)。地球からの距離5759万km ©NAOJ
渦巻銀河(NGC3338)。地球からの距離7600万光年 ©NAOJ
スターバースト銀河(NGC6240)。地球からの距離3.5億光年 ©NAOJ
オリオン大星雲(M42)。地球からの距離1500光年 ©NAOJ

 近年、1個1個ピンポイントで観測する従来の方法ではなく、すばる望遠鏡のように広い視野で撮影するサーベイ型の観測が天文学の主流になってきている。

 2014年から7年間行なわれた「HSC大規模戦略枠プログラム(HSC-SSP)」では、すばる望遠鏡の330晩を利用して空の広い領域をより深く正確に観測。それぞれの銀河の明るさ、位置、形状などの情報によって、宇宙の謎を紐解くのに欠かせないダークマター(電磁波=光を発しないため望遠鏡では確認できない未知の物質)を精密に調べ、かつてない規模の宇宙地図を作ることに成功した。現在はこのダークマター3次元地図を活用した宇宙の標準理論(宇宙の物理量)の検証や「すばる2」計画が進められる。

 世界に公開された日本発の“宇宙のGoogleマップ”とも言えるデータが天文学研究の発展に大きな影響を与えていることを知り、高校教師たちは持ち帰るべき探究学習テーマの新しいヒントを見出したよう。

HSCが描き出したダークマター地図 ©NAOJ
臼田氏と小野寺氏から講義を受けたあとは、すばる望遠鏡から届くリアルタイムの映像やデータも見せてもらった!
最後はロビーにあるすばる望遠鏡の模型とマスコットキャラとともに記念撮影

 今回は日帰りだったハワイ島。ほかにも日本語教師のアヤ・シハタ氏が勤めるヒロ高校を訪ねた。ここでは学校同士の交流・提携について、オンラインミーティングでは見えにくかった方向性を話し合ったほか、「互いの探究成果をビデオレターで発表する」「メタバースの教室で集う」など、生徒たちが興味を持てる授業のアイディアをディスカッション。

 お昼には、シハタ氏がお勧めする地元民御用達バーガーショップ「HIRO BURGER JOINT」でハワイらしいランチも楽しむことができた。

ヒロ高校で日本語を教えるアヤ・シハタ氏
学校同士の交流・提携について方向性を話し合い、新学期の準備を行なう生徒がちらほらいる夏休み中のキャンパスも案内してもらった。黄色と青がトレードカラーの校舎には、全4学年の生徒約1000人と教師約100人が通う
ランチは地元の人気バーガーショップ「HIRO BURGER JOINT」へ。新鮮な野菜サラダがたっぷり付いたクラシックバーガーは14.50ドル~
今回は日帰りだったハワイ島ヒロ。ホヌ(アオウミガメ)の生息地・観察スポットとして知られ、ヒロ国際空港には実物大くらいのオブジェもある!

視察ツアーを終えて。ハワイ州観光局×文部科学省のキーマン2人に話を聞いた

 3泊5日で行なわれた、トビタテ!留学JAPAN「【高校等教員向け】探究型海外研修企画のためのハワイ視察プロジェクト」視察ツアー。同プロジェクトを代表して、ハワイ州観光局 日本支局次長 寺本竜太氏と文部科学省 西川朋子氏に話を聞いた。

 ハワイ州観光局ではこれまで、日本人の修学旅行をハワイに誘致するため教員向け視察ツアーや教育プログラムに力を入れてきた。それを踏まえ寺本氏は「省庁が絡んでどっちに転ぶか、正直分かりませんでした。でも彼らが持っている発信力、ネットワーク、データベースに、自分たちが5~6年やってきたものを掛け合わせるとどんな化学反応が起きるか見てみたくてチャレンジしました」。

 その結果、「いい意味で裏切り。絶えず驚かされました。書類審査・面接を経て、自分たちが本当にほしい人材、学んでほしい模範となるような先生方を集めることができた」のが一番の収穫で、成功のカギだったと振り返る。

「私がこの仕事を続けている理由の一つが“日本とハワイの懸け橋になりたい”から。日本との親和性や類似した問題も踏まえたうえでハワイを好きになってもらうことが大事。1人では限りあることですが、同プロジェクトによって“ハワイファン”がどんどん増えて、初めて訪れた生徒たち1人ひとりがアンバサダーになってくれると未来も明るいと思います」。

 また、少子化が進むなか「学ぶ意欲の質が高い子供たちが未来のリピーターとなって、ハワイ州観光に良い影響をもたらしてくれるはず。我々大人もうかうかしていられないですね」と語ってくれた。

ハワイ州観光局 日本支局次長 寺本竜太氏

 続いて、同プロジェクトを一から立ち上げた文部科学省 西川朋子氏に率直な感想を伺った。個性豊かな教師たちが集まることで「それぞれの視点が融合し、相乗効果を生み、学びに深みを与える視察ツアーになりました」と西川氏。

 文科省で“留学プラットフォーム事業”と呼ばれる同プロジェクトの目的は、留学の応援をするステークホルダー(ハワイ州観光局のような海外政府、日本の自治体、学校などの機関)をつないで留学や海外教育研修が実現しやすくなるようサポートすること。学習環境や経済的な事情によってせっかく海外に興味があってもきっかけを得られない生徒もフォローできるようシステム化したものだ。

 メイン事業である留学奨学金制度の基になる寄附金は、主にプロジェクトに賛同する大企業から集められる。第1ステージから数えると300社近くあり、例えば第1ステージではソフトバンクなど。今回の第2ステージでは、NTTグループ、トランス・コスモス財団、トヨタ、第一生命、JR、SONY、東進ハイスクールなど。

 今、日本の学生・生徒がグローバル学習において抱えている課題は“二極化”であると西川氏は話す。「意識の高い家庭では、小学生の頃から海外へサマーキャンプに行ったり、留学や海外大学への進学を見据えていたり、とても熱心。一方で、特に地方の学校では海外はすごく遠い存在で、なかなか一歩を踏み出せない。さらに円安により費用的な負担も増している。海外というものがまったく縁遠い家庭も多いのが現状」という。

 ネットが発達し、コロナ禍をきっかけにオンラインでいろいろなことができるようになった。しかし「それで完結してしまって“別に行かなくてもいいじゃん”となってしまう。これは子供たちの課題というより、大人(教育現場や社会)の課題。オンラインでつながるだけでやったことになるし、満足してしまう。対話やディスカッション、発表会もすべてオンラインでできるし、美しい自然や歴史もネットで調べて、学べる。ある意味ゼロ円です」。

 学校・自治体にヒアリングを行なった2020年、“姉妹都市と毎年交流していたけど今後はオンラインでいいよね”“お金もないし海外研修はやめちゃおう”という学校が増えていると判明した。「これはマズいと。やはり足を運んで、目で見て、空気を吸って、同じ環境のなかで過ごす経験を若いうちにしておいてもらいたい。だから、リアルでの海外研修もなくしてはいけない」。

 では、なくさないために大事なことは何か? 「それは、学びの質を高めること、そしてコストを下げること。リーズナブルでありながら、質の高い学習ができる海外研修モデルを作ることで、見合わせてしまわれないようにすること」が重要という。

「今までありがちだった“旅行会社の学校団体向けパッケージに丸投げ”というのではダメなんじゃないかと。効率的にぐるぐるっと回って、それっぽい観光をして。せっかく高いお金をかけても子供は受け身で、学びにはならない。コアラを抱っこして帰ってくる、だけでは意味がないんです」。

 そうならないために、「教育者であり子供たちのことをよく理解している教師たち自ら、探究型の学びをプロデュースできるようになる必要がある。これが海外研修に必要な付加価値の与え方だと思いました」。そうして、ハワイ州観光局との共催による第2ステージを立ち上げた。

「親御さんは質の高い教育だからこそお金を出してくれますし、学校も補助金などを出そうと動いてくれると思うので、そこに挑戦したい。まずは文科省が行動することでメッセージにもなる。こういう海外研修の在り方が推奨されているよ、良いことなんだよと、と発信したい」と西川氏。

 円安・物価高で海外離れが進むなか、“なぜ今ハワイなのか”問うと、「このプロジェクトの主旨をいろいろな国の政府の方にお話した際、スポンサーとしてのって(教師たちの参加費用を負担して)いただけるのが唯一、ハワイ州観光局でした。ほかにも共感していただける国はありましたが。教師たちを視察に連れて行っても、その後学校で研修を実現してくれる保証がないとリターンは見込めない。それを強制(海外研修を実現させることを条件に参加を募集)するものではないので、ハワイ州もある意味、この投資は掛けであったと思います」。

 文科省ならではの学校機関への情報伝達と拡散力、ハワイ州観光局とハワイアン航空の現地まで連れて行き、現地で体験させるコネクションと資金力が合わさることで実現に至った。

官民協働海外留学創出プロジェクト「トビタテ!留学 JAPAN」広報・マーケティングチームリーダー 西川朋子氏

 不景気によって、そもそも海外を知らない層が増えてきている。もし修学旅行で海外に行けても、海外に行くこと(初めてパスポートやビザを取得して、初めて飛行機に乗ること)自体がビッグイベントだ。もちろんそれも大切な経験だが、主旨である“異国文化交流”に集中できないのではもったいない。

 教師自身が視察に行くことで、「オンラインで完結するのとはまるで違うことを体感してもらい、“真の探究型学習”を教師自らプロデュースできるようになること。それがこれからの時代に大事なことなんだというメッセージを周知させること」が大きな狙い。

 さらに「海外研修を終えた教師・生徒たちが発信することで、ほかの学校もそれ知って、真似してくれることを期待します」。教師たちそれぞれの個性やこだわりを発揮して“探究型学習”を作ってほしいという。

 最後は子供たちに向けて。「世界のおもしろさ、深さ、まだ自分が知らなかったことに出会えるんだという楽しさを感じてほしい。最初は先生たちについて行く研修だと思いますが、次は自分の計画で自分で行きたいと思えるように。飛び立ってほしい」と語った。

全国から選ばれし12校12名の教師が第1回視察ツアーに参加。個性あふれるメンバーの探究心が相乗効果を生み、充実した3泊5日となった
今回宿泊したホテルは「ワイキキ マリア」。12階建に全327室あり、ビーチ沿いではないものの街なかの立地で便利。料金が1泊1室160ドル~と比較的リーズナブルなのもうれしい
客室には冷蔵庫、テレビ、セキュリティボックス、バスアメニティなど。各部屋にエコボトルも用意され、1階に設置のウォーターサーバーで汲むシステム
チェックイン時に専用スパバッグがもらえ、館内のスパ&プールを無料で利用できる。朝はロビーでコナコーヒーのサービスも
ハワイアン航空では現在、羽田/成田/関西/福岡から直行便を運航。機材はエアバス A330型機。機内エンタメや食事、自然素材アメニティなど、着く前から気分を盛り上げる。なおスターリンクと提携した高速機内Wi-Fiの日本路線での導入時期は、2024年7月現在未定とのこと
エコノミーではUSB-TypeA、足元がゆったりしたエクストラ・コンフォートではUSB Type-Aと電源コンセントが使える。2023年11月にリニューアルしたアメニティは、地元ブランド「Noho Home」とコラボしたもの(写真はエクストラ・コンフォートのキット内容)
往復の機内食は2回ずつ。日本発の夜便はロコモコ丼などの主食とマフィンなどの軽食、ホノルル発の昼便は麻婆豆腐などの主食とサンドイッチなどの軽食。帰りのドリンクメニューにはマウイビールもラインアップ!

 ちなみに最終日(帰国日)の朝、ホテルチェックアウト前にワイキキビーチで「アウトリガーカヌー」を体験。サーフィンのようなスピードと爽快感を味わえるチーム系マリンアクティビティだ。

 今回の視察ツアーで出会ったばかりとは思えないほど息ぴったりのパドル漕ぎで絶好の波に乗り、教師たちは“探究するハワイ旅”を締めくくった。

ワイキキビーチでアウトリガーカヌーを体験。サーフィンのようなスピードと爽快感が味わえる!
のんびりするだけじゃ物足りない!という方、大人になった今こそ探究するハワイ旅を
空室・料金チェック