旅レポ

ハワイ州観光局×文部科学省、新プロジェクト始動! 高校教師の選抜メンバーと“探究するハワイ旅”へ行ってきた【中編】

2024年7月 取材

ハワイ州観光局×文部科学省の新たな教育プロジェクト視察ツアーに参加してきた

 ハワイ州観光局と文部科学省が初タッグを組んで行なうトビタテ!留学JAPAN「【高校等教員向け】探究型海外研修企画のためのハワイ視察プロジェクト」。日本全国から選ばれた12校12名の教師とともに、“時代に合った学習効果の高い探究型海外研修を教師が自らプロデュースする”ための、3泊5日視察ツアーへ行ってきた。

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 中編では、2日目に訪問したハワイ大学での模様を紹介。教育者じゃなくても面白い、観光経済&最新医学のハナシに引き込まれる!

世界有数の研究機関・ハワイ大学マノア校へ。“量より質”が求められる、日本とハワイのよく似た観光経済事情とは?

 2日目は、ハワイ大学マノア校へ。経済学科教授の樽井礼氏にキャンパスを案内してもらい、樽井研究室ではハワイが直面しているオーバーツーリズム問題やそれが自然にもらたす影響などを経済学の観点から学んだ。樽井氏が専門にするエネルギー環境分野では、ワイキキビーチの砂浜が海面上昇によって浸食したらどれくらい観光に影響が出るかを指標化したり、ハワイ州経済の景気予測を行なったりが主なテーマ。

 また、太陽光パネルや地熱発電、電気自動車などの再生可能エネルギーが良いとされている反面で発生するデメリット(低所得者層やハワイ先住民にとっては必ずしもメリットではないこと)など、今明らかになっている問題に新たな技術を結び付けて取り組んでいるという。

ハワイ大学マノア校 経済学科教授 樽井礼氏
1907年創立の州立大、ハワイ大学マノア校。自然豊かなキャンパスに、農業から宇宙まで幅広い学部が点在する。その広さは東京ドーム26個分!
こちらは創立当時からあるというホール。110余年の歴史を感じられる建物だ
日本でも度々話題になる「ジェンダーレストイレ」が当たり前に機能しているハワイ大学

 特に、観光客をどんどん増やそうという動きはコロナ禍を機に“量より質”ではないかと、そのバランスが見直されていることは日本でも同じであると樽井氏。富士山の入山料が徴収されるようになったロールモデルなどを例に挙げ、自然環境保護と観光経済の両立について調査研究が進められていることを説明した。

 ともに観光立国であり、自然や歴史文化をその観光資源とするハワイと日本。北海道・京都はもちろん、星空ツーリズムで注目される長野や有数の温泉地である大分・兵庫、震災復興に向けて観光誘客を図る石川・岩手など、国内旅行の注目エリアから参加してきた教師たちは樽井氏の話を聞き、みな“自分ごと”として向き合うべき地域の課題をそれぞれ見出したようだった。

観光客数がコロナ禍前に戻りつつあるワイキキビーチ。自然環境保護と観光経済の両立について調査研究が進められている

 農業から宇宙まで幅広い学部があり、全米有数の研究拠点であるハワイ大学マノア校は1907年創立の州立大。100以上の国と地域から来た学生が在籍する。6割以上は地元ハワイ、留学生が毎年約1200人、そのうち日本からの留学生は200人ほど。さまざまな文化域の学生が集まり自然と互いを受け入れる受容性、多様性に富んだ環境が整う。

 ちなみに東京ドーム26個分くらいある広大なキャンパス内には、学生たちや学会で訪れた人の憩いスポットでもある日本庭園に、本格的な茶室まである。プルメリアやハイビスカス、パンの木など美しい南国植物が生い茂り、愛犬を連れて散歩している地元住民も見受けられた。平日の学生生協では、ホノルル空港でも人気の“ハワイ大学グッズ”を購入できるので個人的にはお勧めだ。

美しい南国植物が生い茂る広大なキャンパス。日本庭園や1万人以上収容のスタジアム、空港には売っていないハワイ大学オリジナルグッズも要チェックを
キャンパスの庭に落ちていたプルメリアの花を髪飾りにして記念の1枚。左から社会科の河野先生と文科省の西川氏

ひと足のばしてカカアコ地区にあるハワイ大学医学部へ。先端技術もスゴいけど、一周まわって人間力こそ養う「STEM教育」に驚いた!

 マノア校のスポーツ部門であるアスレチックデパートメントで体育館やスタジアムを見学したあとは、さらにひと足のばしてカカアコ地区にあるハワイ大学医学部へ。

 2005年に移転新設された医学部キャンパスにはハワイ大学がんセンターが併設されており、ここで疫学専門家として働く岡田悠偉人氏が案内をしてくれた。岡田氏は日本で教育を受けたあと渡米し、カリフォルニアで救急医療にも携わってきた。現在はハワイ大学がんセンターに勤め、コロナ禍で有名になった医療統計・疫学を専門に研究している。

ハワイ大学医学部 ハワイ大学がんセンター 疫学専門家 岡田悠偉人氏
南国植物園のような医学部キャンパスを散策

 今がん研究では、体外からアプローチする“遺伝子と培養”の時代らしい。例えば白血病は、自分から採るたった50ccの血液に遺伝子を加えると白血球が力強く攻撃的になる。これを10倍に培養して身体に戻すと、今まで治らなかった白血病が50%以上治るという。抗がん剤治療によって苦しい思いをするイメージが一般的だが、今は髪の毛が抜ける人はほぼいないし、肺がんステージ4でも遺伝子タイプさえ合えば飲み薬1個で10年くらい生きられるなど、「5年生存率でいう75%のがんは治るまでに進化している」と聞いて驚いた。

 しかしながら、同大学で特に力を入れているのは「環境」。遺伝子や薬の研究、あるいは個人を教育したり治療するのではなく、根本的な環境を変えていくことが健康への近道という考え方。ハワイの街ではシェアサイクルのBiki(ビキ)を至るところで見かけるが、それも医薬に依存しない健康に向けた生活環境改善の一つだ。

ハワイの街でよく見かけるシェアサイクル「Biki(ビキ)」
ここは、ちょっと座って自然を眺めながらディスカッションしたり考えを巡らせたりできるスペース
英語科の久保田先生にスケッチを見せてもらうと「力で石は割れないけど知識では割れる」の教訓メモが。なるほど

 そして、子供のうちから科学やロボット工学、IT技術に触れて学ぶ力を養い、未来の発展に役立つ人材を育てる「ステム教育」(科学、技術、工学、数学の頭文字をとってSTEM)もキーワード。ハワイ大学医学部では全米唯一、授業を一切しないアクティブラーニング(学生が能動的に研究課題に取り組む教育方法)を取り入れている医学部。将来医師になり、現場で患者を目の前にしたとき、テストの点数や偏差値、論文の成績だけ良くてもまったく意味がないからだ。

 大事なのは、学力では測れない部分。「離島で診たとき、患者の“困った”を気軽に相談できるような」「テクノロジーが発展した今、ドラマに登場するような名医よりも、人の話を聞き、全人的に寄り添える」人材が一周まわって求められているのだと岡田氏。AIやテクノロジーの活用はもちろんだが、では人間として何をやるかを考え、同時に成長していくことが不可欠であることを教えてくれた。

 旅行とは少し離れるかもしれないが、新時代の教育論に触れた教師たちだけでなく、いくつになっても楽しくアクティブに旅したい記者にとっても心に刺さる話を聞くことができた。

 医学部キャンパスをあとにし、お洒落なウォールアートが写真映えスポットとして人気のカカアコの街を散策したり、複合商業施設「SALT(ソルト)」内にあるレストラン「Moku's kitchen(モクキッチン)」でランチしたり、州最大の博物館「ビショップミュージアム」でハワイの歴史や太平洋の自然について学んだりと、観光らしいことも楽しみつつ参加メンバーの仲も一層深まってきた!

少し前まで治安の悪い倉庫街だったカカアコ地区は今、ウォールアートやおしゃれなショップが集まる人気スポットに
学びも遊びも本気の教師たち。お気に入りのウォールアートと一緒に記念撮影を楽しむ
小学生のときにテレビで見た「無敵鋼人ダイターン」が何でこんなところに!?と、SSHから参加した50代のベテラン中村先生
カカアコ地区にある複合商業施設「SALT(ソルト)」
レストラン「Moku's kitchen(モクキッチン)」でランチ
ホノルルへ戻って「ビショップミュージアム」を見学
ビショップミュージアムは州最大の博物館で、1795年から約100年続いたハワイ王国の歴史、ポリネシア文化、太平洋の自然科学などを学べる
探究の視点も記録の取り方も、各校の教師それぞれ違う
ミュージアムショップでは束の間のお土産探しタイム。生徒に買って帰りたいと、保健体育の本郷先生はハワイの歴史を学べる英語のワークブックを手に取っていた

 いよいよ次回【後編】は3日目~最終日をレポート。国内線で約1時間のハワイ島に向かい、ホノルルに次ぐハワイ第2の町にして、世界有数の星空観測スポットである“ヒロ”を訪れる。

 すばる望遠鏡の国立天文台ハワイ観測所やイミロア天文学センターが置かれる高台エリア、地元民御用達バーガーショップにも行ってきた!

編集部:白江ちなみ