旅レポ
ハワイ州観光局×文部科学省、新プロジェクト始動! 高校教師の選抜メンバーと“探究するハワイ旅”へ行ってきた【前編】
2024年7月29日 06:00
- 2024年7月 取材
文部科学省が2013年から行なっている官民協働海外留学創出プロジェクト「トビタテ!留学JAPAN」をご存じだろうか。
中高生・大学生の子供を持つ親なら聞いたことがあるかもしれないが、これは民間企業から募る寄附金を基にした奨学金制度によって、日本の若者を海外に送り出そうという取り組み。これだけグローバル化が進むなか、実は海外留学する子供はまだ少ない。その現状を打開すべく、官民協力して資金・情報面でサポートし、オールジャパンで盛り上げようじゃないかと発足したものだ。
内閣は教育未来創造会議第二次提言(2023年4月27日)において、コロナ禍で落ち込んだ日本人学生・生徒の海外留学者数を2033年までに全体で50万人へ引き上げることを目指すとしている。そこで文科省主導の「トビタテ!留学JAPAN」では、これまで行なってきた留学奨学金制度および留学のための情報提供に加えて、新たに海外留学の機運醸成に資する第2ステージ(2023年度~2027年度)を開始した。その一つが、今回記者が帯同取材してきた3泊5日の「【高校等教員向け】探究型海外研修企画のためのハワイ視察プロジェクト」。
長年にわたり、日本人の修学旅行をハワイに誘致するため教員向け視察ツアーなどを手掛けてきた海外政府機関・ハワイ州観光局、そのパートナーであるハワイアン航空とタッグを組み、初の試みとして実現に至った。
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「【高校等教員向け】探究型海外研修企画のためのハワイ視察プロジェクト」の目的は、日本全国の高等学校で行なわれている“海外教育研修”の質の改善や、“探究型学習”の授業新設に挑戦する教師たちを対象に、海外視察の機会を提供するもの。テーマは「時代に合った学習効果の高い探究型海外研修を教師が自らプロデュースする」。
グローバル学習に意欲のある個人応募の生徒を奨学金で支援するだけでなく、学習環境や経済的な事情によってせっかく海外に興味があってもきっかけを得られないという生徒をもフォローできるよう、全国の学校に働きかけ、コロナ禍を経て中止する学校も増えてしまった海外教育研修を再び喚起し、実現しやすくさせるという。言わば、グローバル人材輩出に向けた留学生の“種まき”。
教師自ら現地に赴き、そこで生徒たちの探究活動に協力してくれるパートナー(例えば交流・訪問を受け入れてくれる学校やミュージアム、農園、自然保護ボランティア団体、現地ガイドのほか、団体利用可能かつ予算に見合う飲食店やホテル、もちろん楽しい観光スポットも)を発掘し、あらかじめ信頼関係を築いておく。そしてオンラインやネット情報だけでは得難いプランのアイデアや移動手段、注意点をピックアップするのに役立ててもらおうというのが狙いだ。
※海外教育研修とは、生徒5~20名ほどの少数精鋭かつ1週間ほどの短期集中スケジュールで行なう学校行事のひとつであり、異文化交流や自然体験、平和学習などが目的。いわゆる“修学旅行”とはまた別のもの。
※「総合的な探究の時間(探究型学習)」は新しい学習指導要領で、生徒自らが解決すべき問いを持ち、それに向けた仮説を立て、仲間と協力したり意見交換しながらフィールドで調査・分析し、答えを導き出していく学習方法。社会で求められる力(つまり生きる力)を養う。小・中学校に続き、高等学校では2022年からスタートした。
同プロジェクトの催行にあたっては、2024年4月に各都道府県の教育委員会などを通じて募集がかけられ、76校が参加を希望。そこから書類審査・面接を経て、当初予定していた定員約10校から大幅に増えた21校21名の教師を選出。多くの学校が夏休みに入った7月下旬、第1回の視察ツアー(12校12名)が行なわれた。12月には、同じ3泊5日のスケジュールで第2回の視察ツアー(9校9名)が行なわれる。
と、ここまで小難しい話もあったが、本稿が伝えたい裏テーマは“リゾートだけじゃないハワイの魅力と奥深さ”。のんびり過ごすハワイは言うまでもなく最高だが、それだけでは物足りない! あるいは、せっかく高いお金をかけて旅行するのだから身になるものにしたい!という方のヒントになればうれしい。また、高校時代の修学旅行はテンション上がりすぎて学びどころじゃなかった方にも、大人になった今こそハワイを探究するように旅してみてほしい。
1日目はホノルルのダウンダウンを歴史散策。伝統航海術を継承する「ポリネシアン航海協会」ではハワイの原点を垣間見る
今回記者が密着した第1回目の視察ツアー。参加したのは日本全国から選ばれた公立・私立、進学校や国際教育校はもちろん、工業高校やSSH(スーパーサイエンスハイスクール)から来た教師たちで、年齢は30代の中堅から50代後半のベテランまでさまざま。担当科目も留学経験のある英語教師をはじめ、理系、文系、社会学に強い教師、吹奏楽やスポーツの部活動で顧問を兼任している教師など幅広い。
“探究の仕方”は学校によって違ううえ、厳しい審査を通過してきた教師だけに熱心かつちょっとユニークな12名が揃った。のちに同プロジェクトの広報チームリーダーである文部科学省 西川朋子氏が振り返るように、「それぞれの視点が融合し、相乗効果を生み、学びに深みを与える視察ツアーになりました」。
さて、羽田・関空をそれぞれ夜に出発するハワイアン航空の便に乗り、現地時間の同日朝、ホノルルのダニエル・K・イノウエ国際空港へ到着した一行。
1日目はさっそくハワイ州庁舎やイオラニ宮殿などのスポットを巡り、現地在住のさゆり・ロバーツ氏の解説を聞きながら歴史散策をした。元々日本で英会話講師をしていたロバーツ氏は、ハワイに移住後「ワイキキ・ダウンタウン歴史街道ツアー」をはじめとする日本人向け現地ガイドを20年以上行なっており、ときおりジョークやクイズを交えた明るく楽しい語りが人気。
途中、ハワイ王国8代目であり最後の女王「リリウオカラニ女王像」越しに黄金の「カメハメハ大王像」を捉える隠れ撮影スポットを教えてもらうと、童心に返ったように興奮しながらカメラを構える教師たちの姿が印象的だった。
続いて、ハワイの伝統航海術で世界中を渡りながら環境保全活動をするNPO団体「ポリネシアン航海協会」を訪問。コンパスなどの計器を一切使わず、星や太陽、波や風の変化によるナビだけで数千キロを航海してきたカヌー「ホクレア号」を見学し、その日本人初クルーとして今も活躍する内野加奈子氏からこれまでの歩みを伺った。
また、ポリネシアン航海協会の重鎮であり米国の海洋冒険家でもあるナイノア・トンプソン氏からは、故郷のルーツを知ること、多様な人種が同じ土地でともに生きていくこと、人生に影響を与えてくれた“師”である日系2世ヨシ・カワノとの出会い、そして自然が導いてくれる教育の価値について講義を受けた。
1976年、伝統航海カヌーによりハワイ~タヒチ間の航海に成功し、ハワイアンの先祖たちがポリネシアから偶然ハワイに漂流したという通説を覆した彼ら。自然のヒントを頼りに大海原を渡る“リアルワンピース”のような冒険、その自然を慈しみ守る活動に触れ、「子供たちにも直接聞かせたい」という教師たちの感想にも納得だ。
次回【中編】では2日目をレポート。ひと足のばしてハワイ大学を訪問し、教育者じゃなくても面白い、観光経済&最新医学のハナシを聞いてきた!