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長期運休の果てに、廃止が決定的。JR津軽線の「バス&わんタク」転換スキームはモデルケースとなるか

JR津軽線の終点・三厩駅。鉄道としての路線廃止が濃厚となった

 2022年8月の豪雨災害から、足かけ3年ものあいだ運休が続いていたJR津軽線の末端部が、正式な廃止にいたりそうだ。

 JRが示していた鉄道廃止・バス転換に対して、最後まで反対を貫いていた今別町が廃止に合意。ほかの自治体はすでに同意しており、津軽線の全線55.8kmのうち、蟹田駅~三厩駅間(28.8km)の旅客列車の廃止に向けて、今後手続きが進められていくだろう(一部区間は青函トンネルへの接続路線として存続)。

JR津軽線、廃止が決定的な区間の略図(地理院地図に筆者加工)

 1951年に開業した津軽線 蟹田駅~三厩駅間は、本州のほぼ最北端にある津軽半島を南北に貫き、沿線の外ヶ浜町・今別町から青森市へ移動を担ってきた。またこの一帯は、青函トンネルの工事関係者が多く在住していたことでも知られ、鉄道末端部の今別町・外ヶ浜町三厩(旧:三厩村)では、いまの3倍にもおよぶ約1.3万人が居住していたという。

 しかし1988年のトンネル開通とともに工事関係者はこの地を離れ、人口減少・過疎化とともに、津軽線の乗客も減少していった。いまや、運休区間と重なる中小国駅~三厩駅間の輸送密度(1kmあたりの乗客数)は、被災前の2021年の時点で「98」。この区間だけで5.8億円の単年赤字を出しており、JR東日本として見過ごせないほどに、経営環境が悪化していた。

 さらに被災からの鉄道復旧に6億円がかかると見込まれており、沿線市町村が鉄道施設を保有するプラン(上下分離方式)による存続も、年間4億円の地元負担が生じるとされていた。各方面に莫大な費用負担が生じる鉄道存続はそうとうに難しく、今回の今別町の方針転換によって、ようやくJR・沿線自治体ともに鉄道廃止への一歩を踏み出せたといえるだろう。

 そして、津軽線廃止後の代替交通体系は、赤字ローカル線をかかえる沿線自治体にとって参考になるかもしれない。JR東日本は廃止転換バスの運行に加えて、「デマンドタクシーの整備」「地域交通の一帯再編」という優遇策を沿線自治体に示し、すでに一部でサービスを開始している。

 ローカル線存続・廃止の議論となると、ともすれば「廃止反対、地方切り捨て反対!」という論調に偏りがちで、転換バスなど代替交通の提案を一瞥して聞きもしないようなケースも目立つ。そのなかで、なぜJR東日本は異例ともいえる提案を行ない、地元自治体は了承したのか。鉄道廃止が決定的となった津軽線 蟹田駅~三厩駅間を訪れ、その現状を見てみよう。

衝撃のアンケート結果「鉄道よりわんタクが便利」回答100%!

 JR東日本が津軽線廃止後の施策として示した内容のうち、デマンドタクシー「わんタク」は、被災前の2022年7月からすでに運行を開始している。

「わんタク」利用可能エリア。エリアによっては、ほぼタクシーのような使い方が可能だ(わんタク Webサイトから)
「わんタク」は基本的にタクシー車両・ワゴン車両で運行されている

 津軽線の末端部はもとより運行本数が1日5往復しかなく、かつ駅からスーパー・役場・病院などがことごとく離れており、こういった移動に鉄道を利用する方が至難の業だったという。

 また地域最大の観光地・竜飛岬に向かうバスは津軽線の終点・三厩駅から出ているが、いまの観光客の玄関口は2014年に開業した北海道新幹線 奥津軽いまべつ駅(津軽線 津軽二股駅に併設。接続は考慮されていない)であり、新幹線・津軽線・バスがバラバラに運行しているがゆえの分かりづらさ・乗り換えの複雑さは、津軽半島へ観光誘客を行なううえでの悩みのタネであった。

 こういった地域の悩みを解決すべく、JR東日本が2022年7月から導入したのが、デマンドタクシー「わんタク」だ。この「わんタク」はフリー便・定期便があり、一律500円で利用できる(参考:津軽線 蟹田駅~三厩駅間は590円)。しかもこの「わんタク」は、通常の鉄道移動に比べて、比べ物にならないレベルで自由度が高い。

 フリー便なら30分間隔で9時~17時に予約が可能で、沿線エリア(自宅でも可能)と目的地をタクシーのように結ぶ。また日中に4往復運行する定期便であれば、新幹線駅やスーパー・病院・市街地にこまめに停車しつつ、鉄道の終点・三厩駅を越えて竜飛岬エリアまで直通してくれる。

竜飛岬灯台の近くにある、歌謡曲「津軽海峡冬景色」記念碑。ボタン操作一つで歌が流れる

 この「わんタク」は特に観光客からの評判がよいようで、JR東日本が任意に調査を行なったところ、回答を寄せた65人のうち65人(全員)が、「鉄道より便利になった」と答えを寄せたという。

 JR東日本としても、地域に津軽線以外の選択肢を示すために「わんタク」を立ち上げたと思われるが、まさかその直後に被災・運休を余儀なくされ、代替交通として「わんタク」が浸透するとは、思いもよらなかっただろう。なお、朝晩には別途で代行バスが運行されるため、そこそこのラッシュが起きる通学の移動需要も、しっかり押さえている。

外ヶ浜町平館地区にある、2町のバスの接続地点。まったく接続していない地点もある

 また、JR東日本からのもう1つの提案「地域交通の再編」はもとより地元自治体や、バス利用者に待ち望まれていた。

 実は津軽線 蟹田駅~三厩駅間は、自治体が「外ヶ浜町(旧・蟹田町)~今別町~外ヶ浜町(旧・三厩村)」と飛び地になっており、津軽線から外れる外ヶ浜町平館地区(旧・平館村)を含めると、2町の町営バスはかなり複雑で利用しづらい路線網を形成しているのだ。

 かつ双方のバスの接続にも問題があり、ピタリと接続している地点があるかと思いきや、たった4分差を待たずにバスが出てしまうことも。利用者にとって使いづらい双方の町営バスは、津軽線の廃止問題がなくとも再編を余儀なくされていたかもしれない。

北海道新幹線 奥津軽いまべつ駅

 さらに北海道新幹線の開業によって、津軽線の主要駅(蟹田駅・今別駅・三厩駅)が中心であったバスのネットワークに、新幹線 奥津軽いまべつ駅を加える必要が生じていた。特に、津軽半島北部で唯一の高校(青森北高校今別校舎)が2022年に廃校になったばかりということもあり、青森市内に新幹線で高校生を通学させるために、実際に「一部時間帯のバス増便」「新幹線定期への補助」などの施策をとってきた。

 JR東日本はここに「JRと自治体が法人を設立、双方協力のもとにバスを運行する」というプランを提示した。「わんタク」も含めると代替バス・町営バスやタクシーを含めた「地域交通丸ごと再編+その手助け」というプランともいえる。こうして、JR東日本は外ヶ浜町・今別町から鉄道廃止の合意を得ることに成功したのだ。

JR東日本が示した「津軽線スキーム」鉄道廃止・バス転換のモデルケースとなるか?

新幹線駅と併設されている津軽線 津軽二股駅

 津軽線は線路規格・設備の関係から高速走行ができず、青森市内への通学は2時間近い所要時間がかかり、かつ月10万円ほどの定期代にも悩まされていたという。この状態は新幹線「奥津軽いまべつ駅」開業や自治体の補助である程度解消されており、在来線としての津軽線の役割はもとより終わっていたといえる。だからこそ津軽線は、この30数年間で人口減少の幅を大幅に上回る「乗客8割減少」という状況が続いていたのだ。

 そして鉄道だけでなく、2町の路線バスも問題を抱えていた。JR東日本はこの状況を見越して、バス転換への金銭的な補助だけでなく、地域の実情に合った「わんタク」というフォーマットと、グループのノウハウを活かして「今後とも“共同経営で”バスに関わり続けます!」という意思表示をプラスした「津軽線スキーム」ともいえる独自のプランを提案したのだろう。

 交通手段の維持に対して少しでも資金を出す覚悟があり、自らの意思を反映させて交通再編を行ないたい地域にとっては、このうえない優遇条件といえるだろう。

 今後のローカル鉄道の廃止交渉においては、「津軽線スキーム」ともいえる、金銭面に限らない条件提示が交渉の打開策となるかもしれない。もし津軽線が一定の成功を治めれば、「うちもわんタク+従来の交通体系の見直しを行ないたい!」という地域が出てくるのではないか。

 もっとも、いまの「わんタク」も、基本料金500円で採算が取れているようには見えない。将来的な値上げや利用促進で、少しでも「わんタク」を長く続けていける環境づくりは必須だろう。また、バス転換にあたって今別町・阿部義治町長が最後まで懸念していた「小国峠(外ヶ浜町蟹田地区・今別町境)の道路整備、冬季の道路状況改善」も、鉄道廃止にあたっての交換条件として、県との交渉を進めていく必要がある。

外ヶ浜町営バス・竜飛漁港バス停。かなり風が強い

 地域にとって大切なのは、「鉄道を護ること」ではなく、「持続可能で最適な交通機関を残すこと」だ。外ヶ浜町・今別町が津軽線の転換バスにどう関わっていき、既存の町営バスとあわせてどういった交通の体系を作っていくのか。赤字ローカル線をかかえる各地域にとって、今後の2町の動きから目が離せないのではないか。