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青春18きっぷ、いずれ消えゆく? 存続が心配なこれだけの理由

三江線(2018年廃止)の車両。石見川本駅にて

 約40年間も続いている「青春18きっぷ」が、発売されなくなるのでは?との噂が駆け巡り、多くの鉄道ファンをやきもきさせた。

 例年であれば2月に通年(春・夏・冬)3シーズンのスケジュールを発表、もしくは2012年~2014年のように夏季夏・冬季分の発売を6月中ごろまでに発表していたが、今年は春季から先のスケジュールが発表されず、JR各社に今後の予定を確認しても「現時点ではお答えできない」という回答が続いていた。

津軽線・三厩駅。被災による運休後の廃止がほぼ決定している

 18きっぷは5枚つづりで1万2050円、普通列車にのみ乗車できる。1枚あたりたった2410円で、東京から青森県・山口県まで移動が可能というコスパもあり、これまで多くの鉄道ファンに愛用されてきた。18きっぷは約61万枚、おおまかな計算で約70億円(2019年度・6社合計)を売り上げており、ユーザーが少ないわけではない。

 JR各社としても発売を取りやめるデメリットはなさそうなものだが、あくまでも推測で「辞めざるを得ないのでは?」「今年は発売されても、ゆくゆくは廃止されるのでは?」と思わせる要素がいくつかある。

【18きっぷ廃止の要因?】コロナ禍の人員削減が仇に? 「乗車をチェックできない」問題

JR米坂線は豪雨災害で2022年から運休している

 18きっぷの乗車・降車は、基本的に「駅員さん、車掌さんのチェック(検札)」に限られる。しかし、コロナ禍による経費節減で人員削減が進み、満足に対応できる体制がとれないのが現状だ。

 特に、駅の無人化はかなりのペースで進行しており。主要駅でも「保守要員はいても、改札は行なわない」ような場合も。無人駅の割合はJR北海道が71%、JR四国が81%、JR九州が59%(2023年8月17日・共同通信)と高く、各社とも増加傾向にある。無人駅を介して「スタンプを押されずに18きっぷで乗降する」という、実質的な“タダ乗り”が、地域によってできないこともない状況だ。

 また、18きっぷシーズンには車内での検札の要員も必要となり、乗り換えでラッシュの起こる熱海駅、米原駅などでは誘導・警備の人員もある(それぞれ「熱海ダッシュ」「米原ダッシュ」と呼ばれる)。18きっぷは「きっぷを刷るだけで数十億円の売上が入る」と思われがちだが、対応する人員も相応に必要なのだ。

 しかも、これがオフピークのシーズンであればまだしも、春季・夏季・冬季いずれも一般的な観光シーズンのピークのまっただなか。かつきっぷ以上の料金(1万2050円)は取れず、そこまで割に合う状況には見えない。

【18きっぷ廃止の要因?】検札省略はいいけれど……悩ましい「チケットレス特急券」問題

今はなき特急「雷鳥」の前面展望の車窓。この頃はまだチケットレス乗車券はなかった

 コロナ禍での人員削減に伴い、各社では全席指定化、オンラインで指定券発行のうえで、検札を省略している。ここで悩ましいのが、「チケットレス特急券の検札省略問題」だ。

 JR東日本管内の特急列車でいえば「あかぎ」、JR西日本管内では「サンダーバード」「スーパーはくと」などでは、特急券の販売データを受け取った車掌が着席状況と照合することで、「きっぷを拝見します」と一人一人確認して回る手間を省いている。しかしこの方式だと、乗車券の確認ができない場合が多い。

 18きっぷを持つ人がチケットレス特急券だけを購入して時間がかかる区間を“ワープ”、普通列車で来たふりをして改札を出て、本来払うべき普通運賃の支払いから逃れる可能性を否定できないのだ。この問題を解決するには、以前のように人員を割いて検札を行なうしかない。

 以上、こうした問題は人員・工数の削減からくるものだ。前述のとおり18きっぷの売上は年間で約70億円であり、人件費として単純計算すると6社合計100人~200人ほど。一旦進めた合理化の波を、18きっぷのために止めるとは思えない。

【18きっぷ廃止の要因?】「全国のJR・鈍行だけ」でなくても……お得なきっぷの増加

日高本線・静内駅構内(2015年運休、2021年廃止)

 かつては18きっぷや周遊券など一部に限られていたフリー(乗り放題)きっぷも、各社のネット販売の強化によって発売が相次ぎ、選択肢は増えている。

 JR西日本では、「WESTER」のポイント保有者限定で、新幹線や在来線特急を含めて3日間乗り放題となるフリーきっぷ(9000ポイント)の発売を、18きっぷ発売の前日に発表した。

 これまで18きっぷ+普通列車だと大阪を出るのに半日かかっていた広島市・松江市なども、このきっぷで新幹線を使えば2時間~3時間程度。かつ18きっぷと1枚当たりの価格がそう変わらない(ただし連続で使う必要あり)。

 JR西日本はほかにもWebサイト「tabiwa」で、「広島エリア3日間4600円」「岡山・香川エリア3日間3500円」(いずれもバス、フェリーなども含む)エリア限定・格安のフリーきっぷを各地で発行している。

 またJR東日本では、自社の「大人の休日倶楽部」会員(50歳以上で入会可能)のみが購入できる乗り放題チケットが客足・単価ともに好調だ。このフリーきっぷは新幹線も乗車でき、かつ1月、6月、9月という観光のオフシーズンに発券するため、現地でも新聞などのインタビューで「このフリーパスのおかげで売り上げ・客単価ともに向上した」と答える人も多かったという。このほか、JR九州・JR四国にもお得なフリーパスは存在する。

 18きっぷも、こういった「安く自由に移動したい」層への集客ツールとしては機能するだろう。しかし18きっぷだと、繁忙期に想定しない場所に人が集まり、対応できないほどの騒ぎが起きてしまうという、いま各地で問題視されている「オーバーツーリズム」が起こる可能性を否定できない(例:1両の車両に100人、200人が詰めかけるなど)。

 それなら、観光施設や地元の受け入れが意欲的な地域に絞り、安価なフリーパスを設定した方が、ユーザーにとってもJRにとっても、メリットがある。公共交通に限らず集客のトレンドが「量より質」に転換していくなか、18きっぷの自由度は、逆にデメリットにもなり得るのだ。

18きっぷ、冬季は発売未定。あえて“脱・18きっぷ旅”のススメ

日田彦山線(2017年運休。2023年BRT転換)大行司駅にて
芸備線・備後西城駅にて

 18きっぷは、これまで何度も廃止の噂が取りざたされてきた。発売の発表の遅れがここまでの憶測を呼んだことで、鉄道ファンの18きっぷへの想い入れを、改めて痛感した方も多いだろう。

 しかし、今回の発表は夏季シーズンのみの発売で、冬季に関してはまだ何も言及がない。「18きっぷ消滅」の危機はまだ去っておらず、これまで挙げてきた理由で消滅しないとも限らない。これからの18きっぷ存続を願うには、購入時のアンケート用紙に存続への想いを書き綴り、かつ時間に余裕をもって、経済効果を知らしめる程度に行動するしかないのではないか。

青春18きっぷ・オフシーズンの木次線は乗客も少なく、車内はとても静かだ
彼杵町内を走るJRバス・武雄温泉駅行き。車窓から西九州新幹線のトンネルを眺めることができる

 しかしここで、18きっぷシーズン以外の「普段の街」巡りをあえてお勧めしたい。シーズン中は混みあっていた列車がほどよく空き、地元の高校生が通学で乗車していたり、病院に通う方がいたりと、輸送機関としての本来の姿を見ることができる。

 またひたすら長距離移動を続けるだけでなく、ひとつの地域にとどまり、じっくりと街を巡るのもよい。18きっぷの旅も最高に楽しいが、制約でもあった「シーズン」、利点でもあった「コスパ」と逆に動けば、新しい発見があるのではないか(なお、筆者はローカル線関係の記事を書く際に、あえて18きっぷシーズン以外、有休を取って極力平日に訪問している)。

 18きっぷはあくまでもツールのひとつであり、発売がなくなったからといって、旅や外出の楽しみがなくなるわけではない。目的地までは新幹線・高速バス・格安チケットの航空機で向かえば、現地での移動は鉄道にとらわれずバスやレンタサイクル、カーシェア、徒歩やジョギング、現地で出会った気のいいおじさんの送迎……さまざまな選択肢がある。

 18きっぷの存廃が話題となったいま、「ずっと列車に乗っていられる」というスタイルにとらわれず、余裕をもって街を楽しむことをお勧めしたい。