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AIR DOの67歳機長が親子でラストフライト。「機長は“できる人”だけでなく“できた人”でないとダメ」
2019年12月27日 22:04
- 2019年12月27日 実施
AIR DOは12月27日、機長を務める古田貢章氏が68歳の誕生日を前に、12月27日にラストフライトを迎えたことから、同社の羽田空港 東京事務所内でセレモニーを開いた。帯広発~羽田行きのADO66便が最後の便で、同便の副操縦士は息子の古田航一機長が務め、親子でのラストフライトとなった。
古田貢章機長は1973年にANA(全日本空輸)に入社。航空機関士から副操縦士、機長となり、2012年に定年を迎えたのを機にAIR DOに入社。ボーイング 767-300型機の機長を務め、総飛行時間は2万130時間18分、AIR DOでは3393時間39分に及ぶ。またAIR DOにおいては教官業務を兼任したほか、安全推進室の副室長などを歴任し、安全運航や後進の指導などにあたったという。
ちなみにAIR DOの入社に際しては息子の航一機長の影響もあったそう。航一機長はJAL(日本航空)で操縦士訓練中に同社が破綻したことで訓練が中断。新千歳空港で地上スタッフに従事していた際の経験がきっかけとなってAIR DOへの入社を決めたという。これが2011年のことで、その約半年後に貢章機長がANAで定年を迎え、当時の本部長と交流があったことから「『息子が来てるぞ、お前も来ないか』と言われて自然に入社した」(貢章機長)のだという。
最後の便となった帯広発便の機内では「私事ですが、この便をもちまして、私のフライトは最後になります。振り返りますと、本当に多くの方々に支えられた43年間でした。本日のフライトも2人で運航していますが、横にいるのは私の実の息子、古田航一です。AIR DOの空の安全を息子に引き継ぎたいと思います。今日のフライトもいつもと同じように、最後まで安全運航をまっとうします。ありがとうございました」とあいさつし、乗客からは拍手が起こったという。
到着後はともにラストフライトに乗務したCA(客室乗務員)からメッセージカードが贈られたほか、羽田空港の東京事務所でセレモニーも開催。花束や記念写真などが贈られた。
セレモニーであいさつしたAIR DO 取締役 運航本部総括 運航本部長の龍神恒夫氏は「私が4年前に安全推進室に配属されたとき、同時に古田機長が副室長として配属された。そういう意味では職場の同期。古田機長は安全を第一に運航乗務員の目で発言されていた」と安全運航に対しての貢献を高く評価。「古田機長は本日をもって翼をたたむが、教官職をされているので引き続き後輩の指導をお願いしたい」と今後の活躍にも期待した。
その後にマイクを渡された古田貢章機長は、誕生日が12月31日なので本来は30日まで乗務が可能であったことから「今日が会社の御用納めなので、自分も一緒に御用納め」と少し早い引退に言及。「この仕事は最後までなにが起こるか分からない仕事なので、パーキングブレーキを引いて、エンジンをシャットダウンして、ログへのサインをして、アルコールチェックもした。それですべて完結し、安全運航で終わることができた」と述べ、「安全運航は各部門の多くの人たちの協力によって成り立っていると思う。身近なところでは乗員部はスケジュールや身体検査、制服、ホテル、ミール、送迎等々で支えてくださった。そして、家族の協力もあった。フライトに専念できる環境を整えていただいたおかげで安全運航につながったと思っている」と感謝した。
また、フライト終えて「これからはアルコールチェックもなく、身体検査もなく、風邪薬を自由に飲めるような、そんな環境になって、少し身軽になった気がする」といった安堵感も覗かせた。
続いて、息子の航一機長からもあいさつ。「乗務員生活の最後を親子フライトという形でやらせていただいて、本当にありがたい気持ちと、ほっとしている安堵感でいっぱい。上空のアナウンスで、今日がラストフライトとアナウンスがあったとき、私は家族として、幼いときの記憶などが蘇って涙がこぼれてきた。フライト前には勉強していたし、体調管理のために食事制限や自転車をこいだりなど、努力の賜物でここまで乗務してこられたと思う。そこに対しては尊敬の念が絶えない」とねぎらった。
ちなみに、この日の羽田空港は非常に風が強かったが、着陸は貢章機長が務めたという。その感想を尋ねると「もう少し……もう、いいか(笑)。着陸はなかなか思いどおりにいかない、最後まで」と難しい着陸であったことを感じるコメント。
67歳まで機長を務めるためには「健康管理、体調管理が一番」と述べ、「年を取ると弱い面が出てくる。食べ物に気を付け、趣味の自転車で運動をしてきた」と明かし、身体検査での苦労などを語った。
今後、教官として指導に専念する立場となるが、後進のパイロットに対しては、「将来的に機長になることをにらんで教育している。機長は人柄が出る。人間性を磨くことも、技術を磨くのと同じぐらい大事なこと。だから人格を高めてほしい。技術だけ、知識だけあってもダメ。“できる人”だけでなく“できた人”でないとよいオペレーションはできない」と話す。
さらに、「機長は孤独。副操縦士は必ず責任者(機長)がいる。シミュレータはなにをやっても落ちない、副操縦士も最後には機長がいる。(機長として乗務するときとは)どこかに意識の違いがある」との厳しさを語った。
今回のような親子でのフライトは「過去に4~5回」あったというが、「運航中はフライトのことだけ。息子という意識はまったくない。誰と乗っても一緒。ただ、言葉遣いだけがちょっと違う。普通は『どうしますか?』と聞くが『どうするの?』と聞く(笑)」という。
そして、現在ではAIR DOで機長を務める航一さんに向けては、「ただ一つ、フライトはお客さまのためにあるということ。すべてはお客さまのためにあるので、いろいろな面での考え方や、難しい判断を迫られたときなどには、お客さまファーストが念頭にあればよい判断ができる。そういうことを伝えたい」と話した。