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成田空港、空港混雑を緩和するNECの顔認証「One ID」を披露。2020年春導入で荷物預け入れや保安検査の時間短縮へ
2019年6月4日 12:56
- 2019年5月31日 実施
NAA(成田国際空港)とNEC(日本電気)は5月31日、成田空港における新たな搭乗手続きシステム「One ID」の導入説明会を行なった。
One IDはNECの持つ顔認証技術を使ったもので、チェックインなど最初の手続き時において顔写真を登録すると、その後の手荷物預け入れや保安検査場入口、搭乗ゲートにおいて“顔パス”で通過できるというものだ。運用開始は2020年春から。説明会では実際にデモンストレーションも行なった。
説明会の冒頭ではNEC 副社長の石黒憲彦氏が登壇し、One IDにかける思いを語った。「1964年に行なわれた東京オリンピックの“レガシー”(精神的・物理的遺産)は、新幹線や高速道路、当社が手掛けた衛星放送など、ハードウェアであったのではないかと思います。2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、人が笑顔で暮らせる世界を目に見えない形で実現するAI技術やIoTなど、デジタル技術やソフトウェアがレガシーになるのではないか」と話し、One IDを空港から街中に広げ、ホテルのチェックインやコンビニでの顔認証決済、テーマパークの入退場システムなどにも導入していきたい旨を述べた。
成田空港がOne IDを導入する背景
One IDを導入するNAAからは常務取締役の濱田達也氏が登壇し、導入の背景となる空港の現状と今後について説明した。
航空業界の動向としては、今後20年の間に旅客数のさらなる増加が見込まれている。世界全体では年間4.5%の伸びが見込まれており、特にアジア太平洋地域における成長率は、旺盛な需要を背景に5.3%と高い数字が予想されている。そのため、日本、韓国、中国、シンガポールの拠点空港で需要に対応するため拡張を計画している。
成田空港でも利用客数は順調に伸長しており、特に2012年の「LCC元年」を皮切りに、LCCの就航によるところも大きい。このように利用客が増えるとターミナルが混雑することが多くなり、15時から19時のピーク時間帯においては顕著になってきている。利用客満足度の低下、スタッフの質の低下、搭乗遅延の発生、定時運航率の低下など、空港側として改善すべき課題も多い。従来のエアラインと違い、LCCは多頻度運航であるため発着までの時間が短く、タイムマネジメントがシビアな点もある。
成田空港が目指す姿としては、利用客にとっては手続きが簡単で待ち時間の少ないストレスフリー、空港にとっては難しい既存施設の拡張ではなくスループットの向上、航空会社にとっては定時運航率の向上と省力化であり、「テロのリスクは残っているので、セキュリティレベルを上げながらもこのような連立方程式を解いていく」と同氏は話す。
スループットの向上についてはIATA(国際航空運送協会)が提唱するファストトラベルに取り組んでいると説明。
Webによる事前チェックイン、明快な案内表示、自動チェックイン機の導入、自動手荷物預け機の導入、保安検査の高度化・スムーズ化によって、制限エリア内までの行程にかかる時間を短縮するよう努めている。数値目標としては、ピーク時においてセルフチェックインが7分以内、有人チェックインが20分以内、保安検査が10分以内を掲げている。
これらの運用効率化のためにPFM(Passenger Flow Management:旅客動線管理)で旅客フローを管理しており、天井に設置されたセンサーを通じて絶えず人数や滞在時間をモニタリングし、実データをもとに分析や改善が図られている。
One IDはチェックインなど最初の手続き時において顔写真を登録すると、パスポート情報や航空券の情報と紐付けされる。そのため、その後の手荷物を預ける際や保安検査場の入口、搭乗ゲートにおいて“顔パス”で通過できるようになる。保安検査時や搭乗ゲート前の確認はウォークスルー方式を採用する予定であり、高速道路のETCのように流れを止めないのがポイントであると解説。同氏は「前述した利用客、空港、航空会社の要望に応え、かつセキュリティも上がるOne IDは空港運営の切り札になると期待しています」と話した。なお、導入費用についての質問には18億7000万円であると答えている。
One IDの今後は街での活用も視野に
One IDの技術や将来性についてはNEC 執行役員の受川裕氏が説明した。同社は中期経営計画において、AIや生体認証、サイバーセキュリティを成長戦略の柱に位置付けており、One IDもその一つであることを紹介。
同社の生体認証の研究は約50年の歴史があり、捜査協力のための指紋認証から始まり、現在は顔認証や虹彩、声、耳音響などを手掛けている。同社の顔認証技術は世界的にも高い評価を受けており、NIST(National Institute of Standards and Technology:アメリカ国立標準技術研究所)の静止画コンテスト(2年おきに開催)では4回連続で1位となり、現在注力している動画の顔認証についてもNISTのベンチマークで1位の評価を受けている。そのため、アトランタやジョン・F・ケネディ、ブラジルといった海外の空港において同社の顔認証技術は広く採用されている点をアピールしていた。
IATAの調査では生体認証を支持する人は64%に上り、導入により顧客満足度は20%向上することを紹介し、動画による顔認証で立ち止まらずにスムーズに通過できるOne IDは、成田空港の要望に応えられるシステムであると話した。
One IDの今後については、空港やホテル、商店など街ぐるみで実証実験をしている南紀白浜を紹介し、そこで得たデータをもとに、交通パスの購入や免税店でのショッピング、医療において活用していきたいと展望を述べた。
One IDを使った搭乗の流れを披露
One IDのデモンストレーションはNEC本社ビル1階にあるショールームで行なわれた。用意されていたのは、自動チェックイン機と自動手荷物預け機、保安検査場や搭乗ゲート前に配置予定のウォークスルータイプの顔認証ゲート、免税店での自動決済機だ。
自動チェックイン機ではパスポートなどを登録し、顔写真が情報と紐付けされる。その情報をもとに、自動手荷物預け機は本人を確認すると手荷物に付けるタグをプリントアウトする。顔認証ゲートはゲートの柱にカメラが取り付けられており、向かってくる人を認識するとチェックが行なわれて自動扉が開く仕組みだ。自動決済機は品物を置くと価格が表示され、顔認証でクレジットカードなどを使って決済できる。どの機器も顔認証にかかる時間はほんのわずかであり、実用性はかなり高いレベルであることが分かった。