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デンソーウェーブなど、飛行機の出発遅延を防ぐ世界初の技術をセントレアで公開

顔認証と電子タグで未搭乗者捜索時間を短縮

2019年1月29日 発表

デンソーウェーブ、埼玉大学、日本信号、NECがNEDO助成事業「航空機出発遅延抑制システム」を公開した

 デンソーウェーブ、埼玉大学、日本信号、NEC(日本電気)は1月29日、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が支援する助成事業「航空機出発遅延抑制システム」をセントレア(中部国際空港)で公開した。

 同システムには、出発遅延の原因の一つである「未搭乗者の捜索」と、未搭乗者が預けた「荷物の取り出し」の時間を短縮することで、航空機燃料の削減を図る狙いがあり、空港において人と荷物のトレーサビリティ(追跡可能性)を実現したのは世界初という。

出発遅延を巻き返すために飛行高度/速度を変更すると燃料消費が増える

 飛行機は出発が15分以上遅れると「出発遅延」扱いになる。国土交通省 航空局が2015年に公開したデータでは、利用者が搭乗時刻までにゲートに現われなかったことによる15分以上の出発遅延は、国内線/国際線の年間約150万便のうち、約5万便にのぼるという。出発遅延により到着が遅延すると乗り継ぎ便に影響が出るため、該当便は飛行高度を予定より下げたり、飛行速度を速めたりなどして遅延の回復を図るが、これが燃料消費を大きくしてしまう。国内線だけの推定値でも、2030年度に3万6000kLがムダな燃料消費になるとみられており、金額では年間約25億円(1kL=約7万円換算)の損失になる。また、IATA(国際航空運送協会)では2050年までにCO2排出量を50%(2005年比)削減する目標を打ち出しており、航空機の燃料削減はコストと環境の両面で対応を迫られていると言える。

「航空機出発遅延抑制システム」は、搭乗者のバイオメトリクス(顔認証)とパスポート情報、搭乗券、預け入れ手荷物の電子タグを紐付けることで、チェックインや荷物の預け入れ、ゲート通過時の省人化/迅速化はもちろん、制限エリア内に設置したカメラによる未搭乗者の捜索(顔認証)や、未搭乗者が預け入れた手荷物が飛行機のカーゴスペースのどこにあるかを割り出し、速やかに取り出す(電子タグ)ためのもので、事業に参画した各社が技術を持ち寄って構成している。

 デンソーウェーブはシステム全体の構築を受け持ち、埼玉大学は機器・システムの仕様検討およびシステムのデータ連係、日本信号は顔情報の登録技術、NECは顔認証のシステム開発をそれぞれ担当した。

 同事業はセントレアにおいて、2018年12月3日から14日まで、2019年1月21日から25日までの2回にわたり、すでに同システムの基礎評価試験を実施しており、定時性の確保に有効であることを確認したほか、試験を通じて問題点も把握できたという。今後は4月から9月末にかけて基礎評価試験で使用した機器とシステムの改善に取り組み、10月から11月に実証評価試験に移る。実用化は2020年を目指している。

基礎評価試験の概要を説明した国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 省エネルギー部長 石井紳一氏
航空機出発遅延抑制システム

未搭乗者の荷物を5分以内に特定、取り出す

システムの概要を説明した株式会社デンソーウェーブ AUTO-ID事業部 水野一男氏
システム全体の概要
未搭乗者を捜索するカメラ
手荷物の積み込み時に登載順を認識

 同システムを利用した場合の手順は次のとおり。まず、セルフバッグドロップ機(自動手荷物預入機)で搭乗券とパスポートの読み取り、顔認証画像の登録と本人確認、手荷物タグの取り付けとバーコード読み取りを実施して、荷物を預ける(搭乗券と手荷物タグは事前にセルフ端末で発行されている前提)。

 基礎評価試験で使用したのは現行のセルフバックドロップ機に比べてやや大がかりなものだったが、これはパスポートとバーコードという2種類の読み取り機、タッチパネル式のディスプレイに加えて、顔画像撮影のためのカメラをやや高い位置に設置する必要があること、手荷物自体の画像を撮影するカメラと計量可能なベルトコンベアが一体になっているため。

 ここでは、搭乗券のバーコードとパスポートの顔写真ページを読み取り、同時に顔画像の撮影を実施。パスポートの写真と整合性をチェックして、本人確認を行なう。現在のシステムでは対象を12歳以上としているそうだが、子供や若い女性は顔が変わりやすく、顔認証がうまくいかないこともあるという。

 セルフバックドロップ機では手荷物タグを自分で巻き付けるが、このタグにごく薄い電子タグが埋め込まれている。手荷物タグのバーコードを読み取ると、カメラが手荷物の外観を撮影して、荷物がベルトコンベアで奥に送り込まれる。ここで撮影した荷物の外観写真と電子タグを使うことで、荷物の捜索時間を短縮することができる(後述)。

実際にセントレアの3階に設置されているセルフバックドロップ機
まずは手荷物をベルトコンベアに乗せる。このとき計量も行なわれる
搭乗券と手荷物タグは事前にセルフ端末で発行済み、という前提
荷物に危険物などが含まれていないかの確認
搭乗券のバーコードをスキャンする
パスポートの読み取り。ここで顔画像の登録を行なうが、一瞬で終わる
手荷物タグを巻き付ける
タグにはシート状の電子タグが埋め込まれている
手荷物タグのバーコードを読み取る
同時に手荷物の外観写真が撮影される
搬送して手荷物が奥に進むと終了

 荷物を預けたら、保安検査場前に設置されたセキュリティ対応の「Eゲート」まで進み、パスポート/搭乗券の読み取りと顔認証(本人確認)を行なう。国際線利用時は保安検査場の前でパスポートと搭乗券のチェックが行なわれるが、人員を配置する必要があり、待ち時間が生まれる原因にもなる。Eゲートの導入で、ここでも省人化/迅速化が期待できる。なお、預け入れ手荷物がない利用者はこのEゲートが最初の顔認証ポイントになり、ここでパスポートと搭乗券、顔画像の紐付けが行なわれる。

保安検査場前のEゲート。手荷物を預けていない場合はここで顔画像の登録を行なう。なお、出国手続きの自動化ゲートとは連動していない
パスポートを読み取ると最初の扉が開く
搭乗券と読み取って顔認証すると次の扉が開く

 その後、保安検査と出国手続きを終えると空港の制限エリアに入るが、基礎評価試験ではセントレアの16番ゲートを利用する想定として、ゲートまでの動線に8台のカメラを設置した。動線をいくつかのエリアに区切ってカメラの担当範囲を決めることで、顔画像を登録した利用者がどこにいるかをほぼ100%の精度で割り出すことができるという。

 カメラは、1台を除いていずれもサイネージの上など目立たないところに取り付けられており、説明を受けなければ既存の監視カメラと変わらない印象を受けた。セルフバックドロップ機などで顔画像の登録を行なうときは自発的にカメラを見詰める「積極認証」だが、ゲートまでの道中を歩いているときはカメラに正対しているわけではなく、カメラの存在を意識しない「非積極認証」になる。ここでは、NIST(米国国立標準技術研究所)が実施した顔認証技術の試験で世界1位を獲得したNECの技術が活きているという。

8台のカメラは基本的に目立たないところにある
唯一、青くリング状に光るカメラがあるが、これはレンズを見てもらう効果を狙ったもの
動く歩道の先などに設置してある
トイレのサインの上
AEDのサインの横
ゲート案内サインの上にも

 一方、ゲートで利用者を待っている航空会社の地上スタッフは、タブレット端末を使ってEゲートを通過した利用者のリストと空港内での居場所を確認できる。搭乗ゲートでは再びEゲートが設けられており、搭乗券の読み取りと顔認証で扉が開き、その利用者は「搭乗した」というステータスになる。このステータスはタブレット端末にも反映され、順次リストが更新されていく。こうして未搭乗者を素早く把握できるようになっている。

 例えば国内線では定刻5分前にゲートをクローズするが、その時点で未搭乗者がいる場合、タブレットからグランドハンドリングスタッフに対して「荷物の取り出し」を指示できるようになっており、指示を受けてから未搭乗者の荷物を特定するまでの所要時間は5分以内に収まり、出発遅延を起こさないという。これは、手荷物がバラ積みされていた場合でも、コンテナに収めて積まれていた場合でも変わらないそうで、その秘密が前述した手荷物の電子タグと外観写真にある。

 同システムでは、飛行機のカーゴスペースに手荷物を積み込む際、ベルトローダー車両に取り付けた電子タグを認識するアンテナによって、積み込んだ荷物の順番を記録したうえ、作業者の端末(先ほどのタブレットとは別のもの)に送信する。ゲート前のスタッフから取り出す荷物の指示が来ると、登載順で所在を割り出し、外観写真と照らし合わせることで下ろすべき荷物を確実に見つけ出せる。また、ワイドボディ機などでコンテナを使っている場合も、コンテナそれぞれのULD(Unit Load Device)ナンバーや登載順などが記録されているため、やはり荷物の所在がすぐに割り出せるという。

 飛行機ではテロなどを防ぐため、航空法の規定により、未搭乗者の荷物を乗せたまま出発することが禁じられている。従来はこの荷物の特定と取り出しに15分から40分もかかることがあり、未搭乗者の捜索とあわせて出発遅延の原因になっていた。同システムが実用化されることで、定時性の高まりと航空機燃料削減のどちらもが期待できる。

ゲート前の航空会社スタッフが使うタブレット。搭乗者がリスト化されている
名前をタップすると、試験エリアのどこにいるかがほぼ確実に分かる
未搭乗の場合は「荷物取り降ろし指示」ボタンを押すと、グランドハンドリングスタッフに伝わる
記者も保安検査場前のEゲートを通過したので記録されていた
16番ゲート前にもEゲート
搭乗券を読み込むと顔認証でゲートが開く