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ANA、機内安全ビデオを「歌舞伎」テーマにリニューアル。日本らしさを伝えるとともに興味を引く演出に。降機時にはメイキングビデオ上映
ビデオ撮影現場のオフショットや担当者インタビューを紹介
2018年11月16日 13:25
- 2018年11月16日 発表
ANA(全日本空輸)は11月16日、機内の安全に関わる情報や非常用設備などを説明する機内安全ビデオを、「歌舞伎」をテーマにしたものへリニューアルすることを発表した。国内線で12月1日から、国際線で2019年1月1日から上映を開始する。
現在の機内安全ビデオは、2015年2月1日の制服リニューアルに合わせて上映を開始したもので、4年弱での更新となる。
ビデオは「歌舞伎」をテーマにしたもので、制作にあたっては、松竹が全面協力したほか、歌舞伎俳優の尾上松也氏が監修。制服のCA(客室乗務員)が主な出演者だった現行ビデオから一変し、歌舞伎俳優が安全に関わる重要な情報や非常用設備などを紹介するというエンタテイメント性を高めたものになった。
また、安全に関する情報はすべて同一ながら、登場するCAと音楽が異なる3パターンの映像を制作し、便によって異なる映像が流れる。
このようなエンタテイメント性を高めた機内安全ビデオは海外航空会社を中心に使用例が増えている。ANAでは機内安全ビデオとしての大切な情報は確実に伝わるものとしつつ、「日本らしさ」「より興味をもってもらう」という2つのポイントを高めるべく、テーマに「歌舞伎」を採用した。
この機内安全ビデオは、機内さながらにシートを並べたセットを作って撮影。4名の歌舞伎俳優らを中心に、歌舞伎俳優をサポートするスタッフ、撮影スタッフなど多くの人が関わって作られている。
もちろん撮影には、CAをはじめとするANAスタッフも多く同席。CAはビデオにも出演しているが、撮影する映像の意図を伝え、どのような点を見せてほしいかを伝えるインストラクター的な役割も担った。また整備士は、見せるべきところがより分かりやすくなるようにシートを調整するなど、航空の現場さながらのシーンも。
制作を担当するANAスタッフは、安全上、伝えるべき内容が正しく、分かりやすく伝わっているかを判断。撮影された映像をその場で確認し、OKまたは撮り直しを指示。演出は大事にしつつも、本来の目的である安全、保安に関する情報が正しく伝わっているかを細かくチェックしていた。
撮影に参加し、機内安全ビデオにも出演しているCAの小倉さんは、「安全の情報をしっかりお客さまに見ていただけるというところと、注目してビデオを見ていただくという二面性の両立が難しかった」と、機内安全ビデオ初出演の感想を話した。
機内で実際にビデオを見る乗客に向けては、「今回は歌舞伎を題材にしていることもあるので、訪日のお客さまには日本の伝統芸能である歌舞伎をとおして日本のよさを見ていただきたいし、日本のお客さまにも日本のよさを改めて見てほしい」とメッセージ。
見どころは、「CAがお面を外すところ。また、緊急脱出時の映像も一新しているので、そのあたりもぜひ注目を」とのことだ。
ANAでは、12月1日(国際線は2019年1月1日)からの上映開始に先立ち、新しい機内安全ビデオを紹介する動画をYouTubeで公開している。また、機内安全ビデオのリニューアルに合わせて、飛行機から降りるときの「降機ビデオ」として、このメイキングビデオを上映する。
機内安全ビデオリニューアルの狙いを担当者にインタビュー
これまでにない演出を取り入れた機内安全ビデオのリニューアル。この時期に刷新する理由や、歌舞伎をテーマにした背景、そして同社が新たに導入する機材への対応など、気になる点についてANA CS&プロダクト・サービス室 室長 兼 ブランド戦略部 部長の阿瀬尚行氏に話を聞いた。
――現行の機内安全ビデオはいつから使われているもの?
阿瀬氏:新制服となった2015年2月1日から使っている。制服が変わると映像とマッチしないので変更した。過去には、航空法の改正で伝えるべき内容が変わったために改訂したことなどがあった。
――そうした理由がないタイミングでのリニューアルとなったのはなぜ?
阿瀬氏:歌舞伎をテーマにしたことにも関連するが、訪日のお客さまが増えているし、海外の航空会社でも機内安全ビデオでありながらエンタテイメント性のある趣向を凝らしたビデオが増えている。もちろん、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けてお客さまが増えることも見据えた。
――テーマを歌舞伎にした狙いは?
阿瀬氏:日本の航空会社なので、日本らしさや日本文化を伝えるものにしたいという思いがあった。ブランディングの観点では、ANA(エー・エヌ・エー)というブランドには「Japan」の文字がなく、海外のお客さまから見て日本の航空会社であることが分かにくいことが我々の課題。日本の伝統文化、伝統芸能である歌舞伎をテーマにすることで、日本らしさが感じられ、日本の航空会社であることがより分かりやすくなる。外国人のお客さまから見ても、歌舞伎は分かりやすい題材だと思った。決して歌舞伎ありきではなく、いろいろな案はあったが、歌舞伎座のオフィシャルパートナーということもあったので、最終的に歌舞伎をテーマに選んだ。
――このようなエンタテイメント性の高い機内安全ビデオはANAで過去に例はある?
阿瀬氏:初めて。保安、安全という一番にお客さまにご理解いただかなくてはいかない要素を詰めているビデオなので、エンタテイメント性を持たせたビデオにしようという考えがこれまではなかった。一番大切な安全に関する情報をきっちりお伝えする点を押さえたうえで、より興味を持ってみていただけるようエンタテイメントの要素も盛り込んだ。
――機内安全ビデオの内容で決められたルールなどはある?
阿瀬氏:安全ビデオで伝えるべき要素は航空法に則って決められているので、最低限盛り込まなくていけない情報は当然盛り込んでいる。やってはいけないことは定められていないので、より興味を持っていただいたり、2020年に向けて盛り上げたり、あるいは、ブランディングの観点では機内の映像や空間は大切な場なので、保安・安全に加えて、そうした要素を映像に盛り込んだということ。
――現行のビデオと新しいビデオとで、法的な理由で変わった部分は?
阿瀬氏:法の観点で変更した部分はない。その意味では、現行のビデオをそのまま使っていても法的な問題はない。
――法的な理由以外で、新たに取り入れた情報はある?
阿瀬氏:最近の航空関連の事象で、脱出時にスマホで撮影している人が多く、それによって脱出が遅れることがとても危ないということがある。そのため、脱出時に機内で撮影することを禁止している。その禁止している理由をお伝えするため、スマホで撮影していると脱出の妨げになることが分かるような演出にした。また、今回から電子タバコを表示に加えた。
これらは、航空法の改正や航空局からの指示などではないが、お客さまにより注意していただいた方がよいと思って取り入れた。
――日本語と英語が逐次通訳で流れる音声になっている点など、言語対応は現在と同じ?
阿瀬氏:変わっていない。日英の音声、ANA便の就航地の言語である17か国語の字幕に対応する。現在のものも、新しいものも、音声がなくても映像だけでも伝えたいことが理解していただけるような作りにしている。
――現行のビデオで課題になった部分などはあったと感じている?
阿瀬氏:これまでのビデオに不足点があるかというと、そのような認識はしていない。現行のビデオがベースにあって、先ほど述べた電子タバコやスマートフォンなどの情報を盛り込んだものになっている。
ただ、お客さまにより興味を持って見ていただくという観点でいうと、しっかりと伝えなくてはいけない情報なので、より注視してもらえるようにとエンタテイメント性を持たせた。海外の航空会社で、話題性も含めて注目されているトレンドがあり、海外の航空会社(の安全ビデオ)には面白いものがあるとのお客さまの声もあった。
――現行のビデオは、途中の脱出経路をアニメーションで紹介するシーンなどが機種別で異なったものになっている。来春導入するエアバス A380型機ではどうなる?
阿瀬氏:新しい安全ビデオは全機種に対応しているものになる。今までは機種別に違う映像を作っていたが、全機種に共通する1つのビデオにまとめた。法的にも機種別の情報を映像として伝えることはルールになっていないので、機種固有の情報はシートポケットに入れている「安全のしおり」でしっかり伝える。
――降機ビデオについて。そもそも降機ビデオはどのような目的で上映しているもの?
阿瀬氏:飛行機をご利用いただいて降機されるときなので、お礼、感謝の気持ちをビデオで表現している。
――新しい機内安全ビデオのメイキングビデオが上映されるが、そのポイントは?
阿瀬氏:ちょっと変わった映像になった機内安全ビデオに対して、どのように撮影しているのか、どんな人が関わっているかといったことを感じてもらえるもの。機内安全ビデオの撮影にはかなり時間がかかっているので、そうした裏事情も垣間見られると思う。多くのスタッフが関わって作ってきたことも含めて紹介し、最後にそのスタッフが「ありがとうございました」と、お礼の気持ちを伝えるビデオになっている。