旅レポ

ディープな韓国を地方でたっぷり味わう。青陽、扶余、公州をめぐる三国志百済旅(その3)

百済最後の地・扶余で文化と歴史を感じる

 韓国の忠清南道に位置する青陽郡、扶余郡、公州市が共同で実施したプレスツアーでは、“韓国三国志”として有名な高句麗、百済、新羅のうち、百済にまつわるエリアを中心に、歴史や文化、そして現在の姿などをアピールした。そのなかの扶余郡(プヨ・グン)は、2カ所の首都であった今の公州から遷都され、538年から約120年間にわたり都を置いた土地。1000年住める場所を意識して都を遷したが、結果的にこの地で滅亡となった。

 しかし、静かで美しい自然とその文化を伝える出土品や、仏教文化を色濃く反映した建造物など見どころはたっぷり。百済の繁栄と衰退、そして文化など、歴史にフォーカスした扶余のレポートをお届けする。

国宝の美しさに酔いしれる、鳳凰と微笑みに対峙しに博物館へ

 前回訪れた青陽郡からはバスやクルマで約1時間のエリアにある扶余郡。ソウル南部ターミナルからバスで約2時間。面積は624.6km2。人口は7万1000人ほど。ユネスコ世界遺産に登録された「扶蘇山城」や「定林寺」の五重石塔をはじめ、国宝が収められた「国立扶余博物館」から、人気の韓流ドラマの撮影セットを使ったテーマパークなど、過去と現代の見どころがミックスしたエリアとなっている。最初に訪れたのは約80年の歴史を持ち総所蔵数約7000点を誇る「国立扶余博物館」。6万1429m2の敷地内には、約1000点もの遺物を4つの展示室と屋外に展示。百済の文化をさまざまな視点から知ることができる。

 エントランスをくぐると、韓国の伝統様式でデザインされた八角形のロビーが現われる。ここを中心にどの展示室にもアクセスができる構造となっており、広々とした空間でほっと一息入れられる。

 第一展示室は「扶余の先史・古代文化」として、テーマにまつわる展示がズラリ。遺体を入れるための底の部分に穴が開いた「松菊里式甕棺」や、切れ味の鋭い「環状石斧」や「半月型石刀」、儀式向けの美しい「磨製石剣」。銅器へ移り変わり、「馬型帯鉤」まで青銅器時代から馬韓までの文化の流れが見て取れるラインアップ。今でも使えるような曲玉やアクセサリー類など装飾品もあり、シックで落ち着いたデザインは見とれてしまうほどだ。

白く美しい外観の「国立扶余博物館」は中も八角形で美しさあふれる構造
第一展示室は扶余の先史・古代文化がテーマ
もろく壊れやすい性質ながら原型を留めている「松菊里式甕棺」。ミラーで底の穴が見られる
石刀もさまざまな形のものを展示。実際にかなりの切れ味で今でも十分使える
儀式用の「磨製石剣」。大きさの種類もいろいろ。シャープで美しいフォルムだ
時代が進むにつれ石から銅へ素材が変化
「馬型帯鉤」。ほかにも動物モチーフが使われているものが多数展示されていた
かなり大きめの曲玉などアクセサリー類は現代でも通用するシンプルな美しさ

 第二展示室は「泗沘百済と金銅大香炉」として当時の文化や暮らし中心の展示。「泗沘遷都と王都文化」「石と木に刻まれた百済文化」「陵山里寺院と百済金銅大香炉」の3エリアに分けて解説している。

 広い平野と白馬江(錦江)のおかげで経済的にも軍事的にもよい場所であったことや、出土した都市の行政区域の瓦片や中国から輸入した磁器片などを展示。特に「陵山里寺院と百済金銅大香炉」では、中門・塔・金堂・講堂が一直線に建てられているなど典型的な伽藍形式であることを説明。

 また、国宝「扶余陵山里寺址石造舍利龕」の発見により、刻まれた年号などで創建年代と供養者が分かったことや文化的な価値などにも言及していた。なお、国宝「百済金銅大香炉」についても1台で水中から天井まで世界のすべてを表わしていることや、動物や人間など多くの生き物が刻まれていること、鳳凰が今にも飛び立ちそうな躍動感ある姿であり、百済時代の最高傑作であるなどがしっかりと分かるようになっている。

第二展示室は「泗沘百済と百済金銅大香炉」について
「扶余陵山里寺址石造舍利龕」には20の文字が刻まれている
「百済金銅大香炉」は龍が支え、蓮華の花、峰が連なった上に鳳凰がいる3つのパーツでできている

 第三展示室は「百済の仏教文化」がテーマ。優れた技術で生み出された仏像や寺院の美しい建築を多数紹介している。日本の古代仏教文化の中心ともいえる飛鳥文化に影響を与えた百済の職人たちの技術のすばらしさがたっぷりと感じられる展示だ。

 そのなかでも注目したいのが“百済の微笑み”で有名な国宝「金銅観音菩薩立像」だ。S字の柔らかな曲線を思わせる立ち姿と、片手に宝珠を持ちながら微笑んでいる様子に思わずうっとり。背中から見ても前から見ても美しく、よく見ると冠には小さな仏が刻まれている。なお、寺建築部分では「山水鳳凰文塼」などの壁に付ける“塼”の展示もあり、美しく繊細な文様を楽しむこともできる。これらの展示物はフラッシュや三脚を利用しなければ撮影は可能。入館料も無料となっているので、滞在中、思う存分美しい品々と対峙することができる。

第三展示室のテーマは「百済の仏教文化」
寺院の屋根に取り付けられる「鴟尾」も展示
壁の装飾として使われる“塼”
吸い込まれそうな美しさを放つ「金銅観音菩薩立像」
「金銅光背」も展示。その精巧さはうなるほど
国立扶余博物館

所在地:扶余邑錦城路5
TEL:+82(0)41-833-8562
入館料:無料
開館時間(常設展示):9時~18時(土・日・祝日は19時まで)
休館日:毎週月曜日、毎年1月1日
Webサイト:国立扶余博物館

日本との関係性は構造にあり。定林寺と日本の寺院の共通点とは!?

「定林寺址五重石塔」は日本の寺院の屋根と石塔の屋根の角度が同じなどの共通項がある

「国立扶余博物館」から数分の「定林寺址」ならびに、国宝「定林寺址五重石塔」も必ず押さえておきたい歴史学習エリア。「定林寺址」は遷都したタイミングで建立された寺院の一つで典型的な百済様式である伽藍配置方式が特徴。現在は「定林寺址五重石塔」のみが現存しているが、1塔1金堂の様式は日本の寺院にも影響を与えており、百済と日本の関係を強く感じさせてくれるスポットでもある。

 また、扶余において、地上に1400年間残った百済ゆかりの建築物はここだけとなっており、とても貴重な石塔だ。作るだけではなく長持ちさせる技術においても百済の職人たちの腕がたっていたことが分かる。一度も解体せずに百済時代そのままの姿だが、今の技術では解体後組み上がらないとも言われている。

「定林寺址」「定林寺址五重石塔」についてより知りたいならば併設されている「定林寺址博物館」へ。上から見ると建物が卍形になっている同博物館には、仏教伝来から寺の建立、塔の歴史が学ぶことができる。仏舍利の構造や仏塔の移り変わり、百済建築を実物大の模型とともに展示。当時の様子を垣間みることもできる。

 なお、現地を訪れた10月7~8日にかけては、百済の夜が堪能できるライトアップイベント「泗沘夜行」を実施していた。初日は雨模様だったが、「定林寺址五重石塔」のライトアップや周辺が美しくライトで輝き幻想的な雰囲気となっていた。

夜間にはライトアップされ、昼とはまた違う幻想的な顔ものぞかせる
「定林寺址五重石塔」の案内
「泗沘夜行」の期間は定林寺址の至る所にデコレーションが施され、ライトアップが楽しめる
入り口にはユネスコ世界遺産に登録された「百済歴史遺跡地区」を解説するブースやデコレーションもあった
“塼”をデザインしたオブジェもズラリ。色が付くとより美しい
瓦屋根が特徴の「定林寺址博物館」
「定林寺址博物館」の壁面には“塼”も埋め込まれていた
仏教伝来について解説するエリアや蓮華をイメージした幻想的なスポットもある
建築中の様子を再現。瓦技術も百済から日本へ伝わったと言われている
仏塔の移り変わりや世界の仏塔をパネルで説明。木造だと焼失してしまうことが当時多かったため、石造りとなった
仏塔の中におさめられる仏舍利。発見された当時、一番小さな仏舍利を開けると水があふれ出てきたという
百済から日本へと送られた碁盤のレプリカ。実際はもっと小さいが当時の日本との交流がうかがえる
建立された当時の定林寺のイメージ。実際は各エリアを結ぶ渡り廊下もあった
来館の思い出に顔はめ撮影もできる
定林寺址、定林寺址五重石塔、定林寺址博物館

所在地:扶余邑定林路83
TEL:+82(0)41-832-2721
入館料:大人1500ウォン(約150円、1ウォン=約0.1円換算)、青少年900ウォン(約90円)、子供700ウォン(約70円)
開館時間:9時~18時(3月~10月)、9時~17時(11月~2月)
休館日:毎年1月1日、旧正月ほか
Webサイト:定林寺址、定林寺址五重石塔、定林寺址博物館

百済の伝統技術の秘密は煙、土器制作の過程を間近で見学

 百済時代からの制作技法を再現し伝承する「百済窯」。ここでは、職人による土器制作の見学や百済文様の拓本体験などができる。たくさんの瓦や壷が並べられたエントランスを抜け、作業場に入ると、職人が王の使う杯を制作している様子が見られた。

 百済時代は手で作っていたが、現在はろくろを使用。95%ほどは当時の制作工程の再現に成功しており、この杯は底の部分に玉が鳴る百済独特の土器。飲み物が入っている時には鳴らず、空になると音が出せる。お酒がなくなったときに鳴らして、もう一杯頼むときに便利。

 形を整えた土器は日陰でゆっくり乾かしてから窯へ。この窯も特徴があり百済のものは横幅が広く短い。ゆっくりと1200℃まで松をくべて温度を上げ3~4日、大きい作品で9~10日ほどかけて焼き上げる。なお、温度が上がりきったところですべての穴を埋め、充満した煙を使って土器に色を付けるのが百済式。そのため割っても内部まで煙の色がしみ込んでいる。

王の使った杯の制作工程などを見学できた
「定林寺址」からバスで30~40分の山間にある「百済窯」
ずらりと並んだ乾燥中の土器たち
王が使用していた杯を再現。焼くと13%ほど小さくなり百済の土器の特徴である灰色がかった色になる
土器を焼き上げる際に使う窯
長年の研究により、松が百済の土器を焼く際によいという結論に至った
中まで煙の色がしみ込んでいるのが百済の土器の特徴
拓本体験所とともに宿泊施設も併設
即売所では現代風にハートにアレンジした杯も購入できる
百済窯

所在地:扶余邑三忠路99
TEL:+82(0)41-836-0300
Webサイト:百済窯(韓国語)

帆船に乗って優雅にクルーズ、百済の最後を船上から見届ける

 扶余郡のユネスコ世界遺産として忘れてはいけないのが「扶蘇山城」。百済時代の城跡で王宮、そして戦いの際には最後の防衛の場所として使われた場所だ。「落花岩」や王が毎日飲んだと言われる薬水などがあり、一度は訪れたい場所。

「白馬江遊覧船」を使えば、軍船を模した風情ある船に乗りゆったりとクルーズを楽しみながら扶蘇山全景や、川側からしか見ることのできない「落花岩」の様子を眺めることができる。なお「落花岩」とは、新羅と唐の連合軍の侵略に追い詰められた3000人もの宮女たちが、奴隷になるならばと身を投げた場所。百済滅亡の悲劇を表わす名所となっている。むき出しの岩肌に身を投げるしかなかった当時の百済人たちの苦悩が想いうかがえる。

 10分ほどで扶蘇山城の「皐蘭寺」側に到着、岩を削り出して作った傾斜のある階段を上ると「皐蘭寺」が現われる。もともとは王のための亭、または宮中の内仏殿のどちらかであったと言われているが、百済の末裔が先祖の霊を供養するために1028年に改建した。なお、寺の後ろには「皐蘭草」が自生し、湧き水は飲むと3歳若返るという伝説を持つ。王は毎日、皐蘭草を浮かべた水を飲んでおり、その様子を描いた壁画もある。

今回は「白馬江遊覧船」はグッドトゥレ渡し場から乗船し「皐蘭寺」を見学する往復コースをチョイス
軍船をイメージした帆船に乗り河を渡る
扶蘇山城全景。日本との交易路として使われた白馬江を進むと途中で赤く塗られた「落花岩」の文字が見えてくる
「皐蘭寺」に向かうには傾斜のきつい岩でできた階段を上る
「皐蘭寺」の外観。本殿にはたくさんの提灯などが並び華やかな雰囲気
1杯飲むと3歳若返ると言われている薬水は寺の裏手に
柄杓にすくって直飲み
お寺の壁画には身を投げる宮女たちや王が薬水を飲もうとする姿が描かれている
「落花岩」へ向かう登山道。雨の場合足元が滑るため注意が必要
白馬江遊覧船

所在地:扶余邑ナルト路72
TEL:+82(0)41-835-4689
営業時間:9時~18時
利用料金:(グッドトゥレ~皐蘭寺)往復大人6000ウォン(約600円)、子供3000ウォン(約300円)。

扶蘇山

所在地:扶余邑官北里77(観光駐車場)
TEL:+82(0)41-830-2880
入山時間:9時~18時
入山料:大人2000ウォン(約200円)、青少年1100ウォン(約110円)、子供1000ウォン(約100円)

新名所はカオスな空間。個人所蔵品が並ぶ百済園へ

 百済に想いを馳せたところで、人気急上昇中の現代の観光スポット「百済園」を紹介する。ここは扶余周辺でレストランを経営するオーナーが、個人で27年間に渡り収集した約数10万点を超える膨大なコレクションを展示する博物館。1960~1980年代の生活用品を中心に、映画のポスターから、今は珍しい選挙候補者の顔写真が印刷されたカレンダーまで網羅。植物園も併設されどこまでも続く道と、うずたかく積み重なったコレクションに圧倒される。

 韓国の近代文化を知ることもでき、地元民だけでなく観光客にも注目されている。コレクションの数々をじっくり眺めるのもよし、併設されたカフェで人気のトンカツを頬張るもよし。生き生きとした扶余周辺の植物が生い茂るなか、皐蘭草を探しつつリラックスするもよし、さらにチャンスンや植木造りもできるなどアクティビティもたっぷりだ。

扶余のディープな観光スポットとして人気急上昇中の「百済園」
今も増え続けているコレクションの数々が並べられたカオスな空間
年代物のポスターやフィルムに台本、カレンダーなどが並ぶ
植物園には扶余に自生する植物を中心に栽培。小川が流れ散策するにはぴったり
工房などが並ぶエリアもあり近くで作品制作も見学できる
レストランのオーナーだけあり、併設されたカフェのメニューも美味しくボリュームたっぷり。特に人気なのはトンカツ
カフェの中にもコレクションを展示。お面や楽器、マッチ箱まであるが不思議と落ち着け長居できる空間となっている
百済園

所在地:窺岩面百済門路553
TEL:+82(0)41-832-0041
入館料:大人5000ウォン(約500円)、中学生以下4000ウォン(約400円)
開館時間:9時~18時

 ユネスコ世界遺産に、百済時代の生活や仏教文化をしっかりと学べる博物館展示。そして近代の生活用品の数々を集めたカオスな個人博物館まで、過去から現代の扶余を知ることができるエリアを巡った。1日ではとても観きれないため、数日かけて巡ることをお勧めしたい。

 次回は同じ扶余のなかでも女子旅や恋人同士で訪れたいスポットを中心に紹介。ご当地スイーツに名物メニュー、物語の世界に入れるエリアなど、さらなる魅力をお届けする。

相川真由美

フリーライター/鉄鋼業やIT系やエンタメ関連の雑誌やWeb媒体の編集者を経て、フリーの記者として活動中。海外は一人旅がほとんど。趣味は世界のディズニーのパーク&リゾート巡り。最近は年間パスポート片手に日々舞浜通い。うなぎとチョコレートが好物で、旅の基本は“出されたものは全部食べる”。激辛とうがらしから謎の木の実まで挑戦するのがモットー。