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三菱重工業と三菱航空機、MRJ最終組立工場で短胴型「MRJ 70」の組み立て開始

米国での飛行試験に新設計の量産機を追加投入へ

2017年4月26日 公開

三菱重工業、三菱航空機、国土交通省が共同でMRJに関する記者説明会や工場見学会を実施

 三菱重工業と三菱航空機、国土交通省は4月26日、報道関係者向けにMRJ(Mitsubishi Regional Jet)の進捗状況の説明や、最終組立工場を公開。併せて、県営名古屋空港に隣接する国土交通省 県営名古屋空港事務所内に置かれる航空機技術審査センターで型式証明の審査内容などを説明した。

 MRJは2017年1月に発表があったとおり、装備品の配置変更や電気配線の見直しなどが必要となったため、初号機納入時期を2020年半ばへ変更したが、その後の飛行試験の状況について、三菱航空機 取締役副社長 岸信夫氏から説明があった。

三菱航空機株式会社 取締役社長 水谷久和氏
三菱航空機株式会社 副社長 執行役員 岸信夫氏

 天候がよく高頻度での飛行試験が可能なことから、米国シアトル近郊のモーゼスレイクにあるグランド・カウンティ国際空港を基地としてテストを進めているが、モーゼスレイクは今年、20年ぶりという大雪に見舞われ、飛行試験にも影響があったという。ただ、現在は天候が回復してきたことで1日に3機飛行させる準備ができている状況という。4月21日時点の飛行回数は239回、飛行時間は660時間超であるとしている。

 モーゼスレイクには、2017年3月31日までに4機の飛行試験機を回航(フェリー)済み。これらは1月に発表があった変更内容を反映していない現状の設計の試験機となるが、空力やフラッター(航空機の振動)の試験など、現状の設計の試験機でできるテストはこれらを使って実施。これらの飛行試験については従来設計のままテストを続ける。

 試験については、着氷試験、対雷試験、自然着氷試験、環境試験、フラッター試験、負荷試験などの項目を実施しているところ。環境試験については極高温ならびに極低温の試験を行なえるフロリダのエブリン空軍基地の試験センターへ空輸して実施。飛行中の自然着氷試験については五大湖上空付近で実施する予定とした。

 設計の見直しは、2017年秋頃を目処に完了させたいとしており、4月に就任した三菱航空機 取締役社長 水谷久和氏も「見直したスケジュールを死守するには今年の作業が重要」とし、そのためにも秋頃の設計見直し完了が重要な山場であるとした。

 そして、新設計を反映した量産機のいずれかを飛行試験機としても用いる方針。現在、最終組立工場でMRJ 90型機の6号機、7号機を製造中だが、飛行試験機にどの量産機を用いるかについては現時点で決定していないとし、今後製造される9号機や10号機なども、その対象となる可能性があるとした。

実施中の飛行試験項目
米フロリダ州のエグリン航空基地で実施中の極高温試験。より高い温度になるように機首や胴体中央に黒いデカールを貼って試験
環境試験では、雪や氷が張った滑走路でのブレーキ性能なども評価
飛行試験は4月21日時点で飛行回数239回、飛行時間660時間超。4機の飛行試験機がモーゼスレイクにフェリーされた
外国人エキスパートの配属状況。一部部署では部長や部長格として従事している
最終組立工場に隣接する塗装工場は3月に建屋が完成。MRJ 70初号機の組み立てもスタート

 なお、今回の説明会では、最終組立工場の見学も行なった。撮影は許可されなかったため、下記は三菱重工業提供の写真となるが、見学時も似たような状況。先述のとおり、MRJ 90の量産機となる6号機、7号機の構造組み立てが進められているほか、MRJ 70初号機となる8号機目の胴体組み立てを開始。

 一方、工場内の艤装ラインにはANA塗装が施された飛行試験5号機が置かれている。この飛行試験機は、「飛ぶことは可能だが地上のテストに使う」(岸氏)とのことで、日本に置かれたまま各種試験に用いられることになる。

MRJ最終組立工場(写真提供:三菱航空機株式会社)
構造ラインでは、量産機となる6号機、7号機とともに、MRJ 70初号機となる8号機目の組み立てがはじまっている(写真提供:三菱航空機株式会社)
艤装ラインには地上試験を集中的に実施するANA塗装の試験機である5号機の姿がある(写真提供:三菱航空機株式会社)

 三菱重工業、三菱航空機による試験が続けられる一方、国土交通省 航空局 安全部でもMRJの型式証明審査の一部試験や審査のための準備を進めている。型式証明を行なう「航空機技術審査センター」は、航空機産業が集中する中部地区に2004年4月に開所。県営名古屋空港に隣接した同省県営名古屋空港事務所内に置かれており、現在は73名の体制となっている。

航空機技術審査センターは、国土交通省 県営名古屋空港事務所内に置かれる
国土交通省 航空局 安全部長 高野滋氏

 型式証明に必要な検査、試験の内容は、各分野の専任が担当。「飛行性」「構造」「機装」「動装」「電装」「安全性評価」「製造」という7つのチームに分かれて、それぞれの分野を検査、審査。各種設計とそれが適切に反映されているかの検査や、各種疲労試験などのほか、事故につながるインシデントが発生した際にリカバリできるか、設計通りの機体を継続的に製造できる能力があるか、など多岐にわたる項目をチェックしていく。

 国土交通省 航空局 安全部長の高野滋氏は、「私どものテストフライトパイロットやエンジニアが乗って飛行機のオペレーションをするが、チャレンジな仕事」と特に型式証明飛行の実施を一つの課題として挙げた。

 型式証明飛行試験に向けては、現在米カリフォルニアのナショナル・テストパイロットスクールなどで訓練を進めており、FAA(連邦航空宇宙局)との会議が米国で行なわれる際にはFAAのスタッフもともに参加してのシミュレータ訓練を行なっているとのことだ。