旅レポ

最良の合衆国大統領ゆかりの地から大都市シカゴまで。開通100周年の「ルート66」でたどる19世紀末~20世紀初頭の北米

100周年を記念してシカゴ市のネイビー・ピアにルート66の始点を定めている

 1910年代から20年代にかけてT型フォードが爆発的に普及したことを受けて、それまでの「都市間は鉄道、地域間は馬車」という交通網の常識が劇的に転換し、20世紀初頭のアメリカは自動車社会へと切り換わっていく。このモータリゼーションの興りに同調して、急速に広域舗装路の必要性が高まり、連邦政府は初めて国道網の整備に着手。1926年11月11日に「番号付き高速道路システム(United States Numbered Highway System)」が誕生した。

 起点をイリノイ州シカゴ、終点をカリフォルニア州サンタモニカに定めた「ルート66(国道66号線)」が生まれたのもこのときで、イリノイ、ミズーリ、カンザス、オクラホマ、テキサス、ニューメキシコ、アリゾナ、カリフォルニアの8州を横切る2448マイル(約3940km)を設定、中西部と西海岸を結ぶ幹線として、クルマで移動する時代の礎を築いた。

 現在では州間高速道路(インターステートハイウェイ)の発達でその役目を終え、正式な国道としては1985年に廃止されているが、そんなルート66は今年11月に開通100周年を迎える。

 本稿では、イリノイ州政府観光局主催のツアーで巡ったスプリングフィールドからシカゴまでの観光スポットを紹介していく。

リンカーンの足跡をたどる「スプリングフィールド」

 外国の歴史に疎くても、エイブラハム・リンカーン(アブラハム・リンカン)の名を知らない者はないだろう。

 第16代の合衆国大統領で、任期中の南北戦争と北軍の勝利、奴隷解放宣言、「人民の、人民による、人民のための政治」のフレーズがあまりにも有名なゲティスバーグの演説。現在も“最良の大統領”“最も偉大な大統領”と称されることが多く、その敬愛ぶりはラッシュモア山の彫刻や1セント硬貨に刻まれた肖像からもうかがい知れる。

 ケンタッキー州で生まれたリンカーンは、20歳ごろに家族とともにイリノイ州へ移り住み、政治家としてのキャリアをスタートさせたのは州都スプリングフィールドにおいて。そんなゆかりの地には、彼が生涯唯一保有したという家や博物館をはじめ、演説を行なった場所や弁護士時代の事務所など、数々の足跡が残っている。

 リンカーンは南北戦争の終結直後の観劇中に暗殺されており、米国史上初めて暗殺された大統領となった。今回は訪問しなかったが、もちろんその墓もスプリングフィールドにある。

イリノイ州の州都スプリングフィールド
奥に見えるのは現在のイリノイ州会議事堂(Illinois State Capitol)
スプリングフィールドの旧州議事堂(Old State Capitol)は、バラク・オバマ元大統領がイリノイ州選出の連邦上院議員時代に大統領選への出馬を宣言した場所でもある。これはその記念プレート
旧州議事堂の向かいには、リンカーンがウィリアム・ハーンドンとともに過ごした弁護士時代の事務所跡(Lincoln-Herndon Law Office)がある。ストリートビューならかつての看板の写真を見ることもできる

エイブラハム・リンカーン大統領図書館・博物館

「エイブラハム・リンカーン大統領図書館・博物館(Abraham Lincoln Presidential Library and Museum)」(212 North 6th St, Springfield, IL)は、図書館・資料館としての側面と、等身大の像をふんだんに使った没入型博物館としての機能を備えた施設。時間の都合で確認できていないが、図書館としては1840年代からの40万枚以上の写真、大戦当時のプロパガンダに使われた5000枚以上のポスター、イリノイ州知事に関する音声テープと映像、電子化された新聞、手書きの文書など、膨大な資料を収蔵している。

 博物館は大きく二つのセクションに分かれ、ケンタッキー州で過ごした幼少期から1860年の大統領選までと、就任直後に始まった南北戦争から1865年4月14日の暗殺までを記している。館内は当時の家屋の内装や暮らしぶり、衣類、日用品などを場面ごとに再現した小部屋が連なる構造になっているため、訪問者はリンカーンが体験した状況に入り込むような格好になり、これが没入型博物館たるゆえん。加えて、等身像は表情豊かに作られており、喜びも悲しみも手に取るように分かる施設になっていた。

 入場料は大人15ドル。出口付近にはかなり充実したミュージアムショップを併設しているので、訪問時はお土産を購入する時間も確保しておきたい。

「エイブラハム・リンカーン大統領図書館・博物館(Abraham Lincoln Presidential Library and Museum)」。外観の印象から受けるより内部はかなり広いので、最低でも2時間は確保して訪問した方がよい
内部は巨大なセットと等身大の像によって、リンカーンの過ごしたそれぞれの時代へ入り込むような没入体験ができる
その追体験は、生まれ育ったケンタッキー州時代から始まる
狭い丸太小屋で家族と暮らしていたとされ、このセットでは寝ている父親のいびきがずっと聞こえる
当時の奴隷の扱いを示す資料。下に見えるのは足かせのレプリカ
スプリングフィールドで出会ったメアリー・トッドと結婚
1843年に長男、1846年に次男が誕生。リンカーンは4人の子供を得たが、そのうち3人が若くして亡くなっている
1858年に行なわれた、上院議員選挙におけるスティーブン・ダグラスとの公開討論(The Lincoln-Douglas Senatorial Debates)の様子
1860年の大統領選の当時のニュース番組を模した映像コーナー
ここからは大統領当選後の展示
メアリー夫人の華やかなドレス
当時の風刺画。リンカーンは背が高かったため(約193cm)、それを揶揄するようなものも
就任まもない1862年、三男のウィリアムが11歳で病死。1850年には次男エドワードをわずか3歳で亡くしており、特にメアリーの精神状態に大きな影響を与えたという
1862年の奴隷解放宣言と、その草案について議論する閣僚たち
展示のなかで最も印象的だった一角。通路の左右から賛成者と反対者の意見が飛び交う
南北戦争の展示エリア。戦線の変化を映像で見ることができる
反対の壁面には当時の写真がびっしりと飾ってある
リンカーンは1864年に再選。家族とともに観劇中だった1865年4月14日、俳優ジョン・ブース(右)による至近距離からの銃撃で暗殺された
国葬の様子を再現した展示
充実したミュージアムショップを併設している

リンカーン邸国立史跡

 国立公園局が管理する「リンカーン邸国立史跡(Lincoln Home National Historic Site)」(426 South 7th St, Springfield, IL)は、リンカーンが17年暮らしたという家を中心に、25分程度の短い映像を上映するビジターセンターなど12棟以上の歴史的建造物で構成している。施設は徒歩で見て回れる4ブロック程度のコンパクトなものだが、公式サイトには「30分しか時間がなくても楽しめるが、余すことなく満喫するには2時間程度の滞在時間が必要」との記述があった。

 リンカーン邸の内部を見学するには、ガイド付きツアーに参加する必要がある。なんと見学は無料。繰り返し増改築を行なってきた2階建ての(思ったより大きくない)家のなかを、応接室、居間、ダイニング、寝室、台所などぐるりと見て回るツアーで、最近まで誰か住んでいたと言われてもおかしくないくらい、妙に生々しさがある。

 特に目を引くのは修復時に再現したという壁紙で、過去の記録写真などから研究者が1840年~1860年ごろの壁紙を再現しており、数種類を使い分けているため部屋ごとに雰囲気ががらりと変わる。現代的感覚だと模様がうるさく感じられるほどだが、当時は機械印刷が発達して、繰り返し模様の壁紙が大量生産できるようになったこともあり、こうした壁紙は一般的なものだったという。

 リンカーン邸は1988年6月から一般公開を行なっており、内部は保存・修復事業によって完全に整えられているが、基本的には“どこにも触れてはいけない”ので、壁に寄りかかるのもNG。2階に上がる際の手すりは数少ない触ってもよい部分で、国立公園局のガイドさんに「あなたは今リンカーンと同じところを触っている」といわれて、途端に1800年代半ばから地続きの歴史に触れている重みを感じた。

リンカーン邸国立史跡(Lincoln Home National Historic Site)
2階建てながら増築を繰り返しているせいか、少々複雑な内部になっていた(順路のせい?)

Route 66 Motorheads Bar&Grill

 イリノイ州に到着して初日の夕食は、ルート66のネオンサインが目を引く「Route 66 Motorheads Bar&Grill」(600 Toronto Rd, Springfield, IL)にて。

 ロードサイドで大きなルート66の看板を掲げた外観は“これぞアメリカンダイナー”ながら、屋根の上にクルマが乗っているなどのっけから様子のおかしいところがあったりして、なにかドラマが始まりそうな様子を漂わせている。

 一方、店内はオーナーが個人的に集めていた自動車・レースにまつわる実車や小物をはじめ、かつてルート66沿いにあったレストランやモーテル、ドーナツ店、ガソリンスタンドのネオンや壁などを移設するなど、クルマ好き(Motorhead)が目を輝かせそうなオブジェをぎゅうぎゅうに詰め込んだにぎやかな内装になっていた。

Route 66 Motorheads Bar&Grill
この日は一部地域でトルネードが発生していたこともあり、ネオンは消えていた
ガソリンスタンドのサインがシャンデリアになっている
とんでもないところにクルマ(の一部とか全部)が収まっている
このあたりは日本人が思い描くアメリカンダイナーの様相
奥にはオーナーの集めた旧車(4輪も2輪も)がずらり
移設した当時の看板がウォールアート的に使われていたり
メニュー
チキンフィリーとオニオンリング(16.99ドル)。写真だとたいしたことない量に見えるけど、そんなことない

President Abraham Lincoln Springfield - a DoubleTree by Hilton Hotel

 スプリングフィールドでは「President Abraham Lincoln Springfield - a DoubleTree by Hilton Hotel」(701 East Adams St, Springfield, IL)に1泊した。

President Abraham Lincoln Springfield - a DoubleTree by Hilton Hotel
この腰高な感じのベッドがアメリカ的
バスタブもある水まわり
Qiのワイヤレス充電パッドやUSB Type-A/Cの充電ポートがあるのはイマドキ

ポンティアックからジョリエットへ

ルート66 殿堂博物館

 スプリングフィールドから北東におよそ90マイル(約150km)、クルマで100分ほど走った先にあるイリノイ州ポンティアックでは、街中の30枚近いウォールアートが観光客と地元民の目を楽しませており、なかでも最大にして著名なのが、「ルート66 殿堂博物館(Route 66 Hall of Fame&Museum)」(110 West Howard St, Pontiac, IL)の裏手に描かれたルート66のサイン。その壁のレンガは、かつてのルート66で実際に使われていたものを再利用しているという。

 この建物自体は旧ポンティアック市庁舎・消防署を改装したもので、ルート66 殿堂博物館のほかにも、退役軍人のボランティアで運営する戦争博物館、ルート66をテーマにしたアート作品を多く残したロバート・ウォルドマイアの展示、タイタニック号の企画展示など複合ミュージアムになっている。もちろんルート66をモチーフにしたさまざまなお土産も販売している。

 展示は主にガラスケースのなかにテーマ別で収められていて、シカゴ中心部の起点からミズーリとの州境にあるチェイン・オブ・ロックス橋まで、当時の暮らしぶりも分かる膨大な資料が集まっている。こちらも入場は無料。

ルート66 殿堂博物館(Route 66 Hall of Fame&Museum)
ショーケースの中をテーマごとに分けて展示
かつてルート66を走りながら暮らしていたロバート・ウォルドマイアのフォルクスワーゲン
往時のガソリンスタンドの給油機
1920年代から70年代にかけてのイリノイ州のナンバー
ミュージアムショップは手に取りやすい小物がたくさん
ポンティアックの街中にはルート66やクルマに関連したウォールアートがそこかしこにある

ジョリエット地区歴史博物館

 ポンティアックから55マイルほど(約90km)北東へ進むと、ドラマ「プリズン・ブレイク」のロケで使われたことで知られる「ジョリエット刑務所」を擁するイリノイ州第3の都市、ジョリエットにたどり着く。

 街の中心部をルート66が貫いていたこともあり、通り沿いにはホテルやレストランが建ち並んでいたという。そんな往時の様子を写真や等身大ジオラマなどで解説しているのが「ジョリエット地区歴史博物館(Joliet Area Historical Museum)」(204 North Ottawa St, Joliet, IL)。入場料は大人10ドル。

ジョリエット地区歴史博物館(Joliet Area Historical Museum)

シカゴ「ネイビーピア」にルート66出発点のサイン

 ルート66の始点は、伝統的にはシカゴ美術館周辺のアダムス通り沿い(BEGINの標識がある)とされているが、終点のサンタモニカ側が桟橋(サンタモニカ・ピア)ということもあって、開通100周年を機に公式な始点を同じく桟橋の「ネイビー・ピア(Navy Pier)」(600 East Grand Ave, Chicago, IL)に移設している。

 ネイビー・ピアには象徴的な観覧車やカルーセルのほか、遊園地的な乗りものがいくつもあり、ミシガン湖のボートツアーなども実施している。併設の大きな屋内施設はフードコートや屋内型ライドアトラクションなどもあり、訪問日は土曜だったこともあってごった返していた。

移設したルート66の始点サイン。「THE ROAD STARTS HERE」の文言とネイビー・ピアのカルーセルを描いた盾章
この観覧車にはもちろん乗れる。ゆっくり回り続ける日本の観覧車と違って、一旦止めて複数のカゴに客を乗せて、少し回ってまた別の複数のカゴに客を乗せて……という方式なので、数周するのが不思議な感覚
目の前に巨大なスクリーン、足が自由な状態でシートが動いて、浮遊感のある没入映像体験を行なえる「Flyover」
スポーツが盛んなシカゴだけあって、スポーツグッズショップもある
編集部:松本俊哉