旅レポ
北海道新幹線の一番列車、新函館北斗行き「はやて91号」に乗ってみた
(2016/3/28 10:30)
東京から青森に移住してちょうど3年を迎えた筆者。移住した頃から周囲で事欠かなかったのが北海道新幹線の話題だ。青函エリアの振興に大きく貢献するとかしないとか、あるいは終着駅でなくなる新青森駅がどうなってしまうのか、などなど。ともあれ、話題の北海道新幹線の開業が近づくにつれ、青森・道南の両地域におけるなにかしらの期待は絶好調に達そうとしていた。この波に乗り遅れたらまずそうだ。そもそも話題のものは誰よりも早く体験するというのが筆者のポリシーである。であるなら北海道新幹線の一番列車に乗るしかない。
ところで一番列車とは一体なにを基準にすればよかったのか。東京発~新函館北斗行きの最初の列車に乗るべきか、それともJR北海道の区間となる新青森~新函館北斗間を一番早く乗ることに意味があるのか。自身のスケジュールを確認したところ、やはり新青森駅から乗車するしかなさそうだ。時刻表を調べると、新青森6時32分発~新函館北斗行き「はやて91号」という列車がある。これこそ本州側から青函トンネルを最初に潜る新幹線に違いない。これに狙いを定めよう。
確保できてしまった一番列車の指定席
えきねっとで事前予約が可能になるXデーは2月19日。朝5時29分に眠い目をこすりながら、ベッドの中からえきねっとのスマホページで格闘開始だ。スマホ用ページなのになぜその都度パスワード認証が必要なのか、そしてその先のUI(ユーザーインターフェース)がなんて使いにくいんだ、あらら混雑していてパスワードを入れてもエラー頻発、パスワードが通ってもその先でサーバーエラーでまたパスワードからやり直し……。なんて具合で、本来なら3分程度で済ませて5時35分には再び熟睡の予定だったものが、結局、入力を完了できたのが5時45分。すっかり目も冴えてしまったではないか。
東京発~新函館北斗行きや、新函館北斗発の列車はあっという間に満席になったという噂も聞いた。たまたま筆者が予約した「はやて91号」が新青森発~新函館北斗行きという区間運行列車だったのが功を奏したのか……。おかげさまで2月26日にはえきねっとから「お申込の指定席をご用意できました」というメールも届き、晴れて新青森駅から北海道新幹線の一番列車に乗車できることになったのである。
ところが、トラベル Watch編集部から奥津軽いまべつ駅の開業式典取材の仕事が舞い込んだ。JR北海道としての開業式典は新青森駅では行なわず、奥津軽いまべつ、木古内、新函館北斗の3駅のみで実施とのこと。予定を変更して奥津軽いまべつ駅で開業式典(テープカット等)を取材してから一番列車に乗ることにした。奥津軽いまべつ駅までは、青森市内の自宅から自家用車で行くことにした。
開業式典を取材後、一番列車に乗り込んだ
朝が苦手な筆者。寝てしまったら起きる自信がなかったので奥津軽いまべつ駅には前日深夜に到着し、徹夜で開業式典取材し、その後一番列車乗車を果たすことにした。小雪が舞うなか、深夜1時過ぎに奥津軽いまべつ駅に到着。すでに関係者やファンの自動車が多数駐車場に並び夜明けを待っている感じだ。明け方近くになって駐車場はどんどん埋まっていった。
奥津軽いまべつ駅は、これまで何度か足を運んだことがあった。しかし今日(3月26日)は同じ景色、同じ建造物であるにも関わらず、それまでとは異なる施設に来たという感じが拭えない。それはそうなのだ。今日から本当の「駅」になったのである。しかも、ようやく開通した北海道新幹線の駅なのだ。
そしていよいよ、その入り口が朝5時30分に開いた。いつもと同じ風景ながら、なぜか感極まるものが込み上げてくる。これこそが3月26日に開業した北海道新幹線、そしてその路線の一つの「駅」なのである。「駅」が今、生まれたのだ。確かにこれは新青森からの乗車だったら気づかなかったかもしれない。
開業式典は朝6時スタート。その様子は取材記事「北海道新幹線 奥津軽いまべつ駅の開業式典」に記したが、テープカットとくす玉開披は、新しく始まるものの第一歩を踏み出したという気分を一層高揚させてくれる。そしてこんな早朝にも関わらず地域の方々がすでに多数駅に来てくれていて、一番列車を歓迎しようとホームを埋め尽くしているのだ。今別町だけでなく周辺市町村からも多数駆けつけているのであろうが、地域を挙げて新幹線開業を心待ちにしていた、そして開業を大歓迎しているということが伝わってくる。
6時48分。新青森発新函館北斗行き「はやて91号」がホームに入場してきた。ホームを埋める人達は入線してくるその一番列車に対し、JR北海道の用意した小旗を大きく降って、歓迎の意を表していた。新幹線の乗客もそのホームの歓迎ぶりに応えるよう、みんなが窓越しに手を振り返す。地域の人たちと乗客の心が一つになっている、そんな感銘を受けた。
ホームも新幹線車両の内外も人でごった返していたが、なんとか一番列車に乗り込んだ。ホーム最前部では出発式が行なわれており、奥津軽いまべつ駅長 石沢透氏の出発合図とともに「はやて91号」は静かに動き出した。
車内は当然のことながら満席状態。しかし、混雑した列車に乗車した際の疲労感は一切感じない。というより、見ず知らずの人たち同士が乗車しているにも関わらず、「心」に強い一体感を感じるのである。ビジネスで乗車されている風な人もいれば、母子で乗車している人、また筆者のように一番列車そのものを楽しみに来ている人もいるわけだが、乗車しているその列車が北海道新幹線一番列車ということで、乗客が一つになっている、そんな感じを受けるのだ。
奥津軽いまべつ駅を出発すると、すぐに営業路線では世界一の長さを誇る青函トンネル(全長53.85km)に潜る。車掌の気の利いたアナウンスで、龍飛定点(旧・竜飛海底駅)をまもなく通過すると流れれば、多くの乗客が一斉にカメラを窓外に向ける。吉岡定点(旧・吉岡海底駅)の手前で新函館北斗発の上り一番列車とすれ違うとなれば、多くの乗客が一斉に進行方向右側の車窓にカメラを向ける、そんな具合だ。カメラを持たない人も視線はみなそちらの方に向き、一緒に鉄道旅行を楽しんでいる感じなのだ。
長い青函トンネルを約23分かけて抜けると、しばらくして木古内駅に到着する。新幹線車内の車端上部にある電光掲示板には「ただいま木古内駅です」という表示が流れると、これにも一斉にカメラの放列ができる。“初めての北海道新幹線”の一つひとつをみんな一緒に楽しんでいる、そんな感じだった。
もう一つ、一番列車で感激することは、駅のホームはもちろんのこと、それ以外の車窓でも、多くの人がその一番列車を見ようと沿線に押しかけ、列車が来れば手を振ってくれることである。北海道新幹線の場合、トンネル区間が長いことや、そもそも人口密度が高くないところを走行するので、列車に向かって手を振っている人が多いわけではないが、車窓を眺めていてこちらに向かって手を振ったりなんらかの歓迎アクションをしている人が見えると、とてもうれしくなる。こちらが車内で手を振ったところであちらには見えないであろうことは分かっていても、ついつい手を振ってしまうのだ。
木古内駅を出て終着の新函館北斗駅が近づいてくると、進行方向右手には函館湾とその先に函館山が望まれる。早朝はぐずついていて、この日の天気が心配されていたが、函館市周辺は快晴、函館山もくっきり見えた。ただし、市街地に近づくと走行中のほとんどの車窓は防音壁ばかりしか見えない。時々切れる防音壁の合間から眺望を楽しむといううような感じだ。北海道新幹線の場合、雪や寒冷の影響などを考慮しを防音壁を高めに設計しているのであろうか。
新函館北斗駅に到着、はこだてライナーに乗り換え
はやて91号は定刻通り7時38分に終点新函館北斗駅に到着。満席の新幹線車両から一斉に降車した乗客でホームは大混雑していた。出口や在来線乗り換えには一旦2階のコンコースに上がらなくてはならないが、エスカレータも階段も、そして2階のコンコース自体も人であふれかえってしまい、キャパシティを大きくオーバーしているような感じだった。これほどの混雑は今後そうそうないのではあろうが。
また、筆者は二次交通としての役割を果たす在来線のはこだてライナー(普通、快速がある)に乗り換え、函館まで乗車してみることにした。コンコースから自動改札を抜け在来線ホームに降りれば、その函館寄り前方にはこだてライナーが停車していた。乗り換えまでスムースな導線だ。ただし、改札口では乗車変更を申し出る乗客で長蛇の列だった。下手をすると接続時間内で函館ライナーに乗り換えられない場合もありそう。これは、新幹線特急券とセットで乗車券を購入する場合に、新函館北斗駅までの区間しか乗車券を購入していなかった乗客が多いようであった。この場合、乗り換えのため自動改札を通ろうとしても改札ドアが閉じてしまう。えきねっとからも新函館北斗駅から乗り換えの際に「乗車券は目的地まで購入してください」と注意を促すメールが来ていたのだが、こうした混雑を予見していたのであろう。
はこだてライナーに乗車すると、15~22分で函館に到着となる。新函館北斗に発着するすべての新幹線列車に接続しているとされている。今日は特に新幹線が満席状態だったこともあるが、はこだてライナーもかなり混雑していた。しかも途中4駅に停車する普通種別のはこだてライナーだったため、結構時間を要したように感じた。
このあと、函館で所用を終わらせ、再び奥津軽いまべつ駅までの帰路に就いたが、帰路のはこだてライナーも普通種別の運行にあたり、しかも新幹線接続に29分もの余裕のある時間が設定されていた。このあと記すが、はこだてライナーと新幹線がスムースに接続していなければ新幹線特急料金を支払う意味が感じられない。
また、帰路のはこだてライナーも混雑がひどかったのだが、新函館北斗駅に到着後、その乗客がやはりホームにあふれるほどの人数で混乱が見られた。これは新函館北斗駅のホーム幅が非常に狭く感じられた。旧渡島大野駅のホームを活かしたためと思われるが、新幹線アクセス駅として函館からのアクセス列車が到着し、その乗客全員が降りてホームを歩かなくてはならない状況を考えると、設計がこれでよかったのか大いに疑問である。実際、筆者が乗車した1339Mは新函館北斗駅に12時15分に到着。その直後、反対側ホームに函館行きの特急北斗6号が入線してきた。ホームは乗客であふれかえっており、ホーム内側に下がるよう何度もアナウンスが流れていた。
なお、在来線から新青森、東京方面行きの新幹線に乗り継ぐ場合はフロアの移動はなく、改札を通るだけで新幹線に乗り継げるので非常に乗り換えやすいといえる。
新幹線開業で本当に便利になったのか?
乗車する区間や発着地点によって色々な見方があると考えるが、今回の北海道新幹線開業でそのメリットが感じられる区間はどこであろう。東京~新函館北斗が約4時間で結ばれるようになるというのが北海道新幹線の売りではあるが、はたして東京から新函館北斗駅まで乗車する乗客数はどれぐらいなのだろうか。しかも、そうした乗客の最終目的地は新函館北斗駅ではなく、函館市内や札幌方面など、そこから乗り換えてどこかに向かう人たちが圧倒的なはずだ。函館行きのアクセス列車「はこだてライナー」に乗車してみたが、接続や乗車時間などは前述のとおりあまり快適・至便とは言いがたいものであった。
むしろ函館と青森、盛岡、仙台あたりへの相互の乗車客が一定数見込まれるのではないかと考えた。特に青森、道南の各自治体も盛んに「青函圏交流」を推進しようとさまざまな取り組みをしているが、青森駅~函館駅を移動することを前提に比較してみると、北海道新幹線にメリットがあまり見出せない。例えば、土曜日の朝8時台に青森から函館に行くという場合をシミュレーションしてみたい。
従来のダイヤでは、青森駅8時25分発の特急白鳥93号に乗車すると、乗り換えなしで10時26分に函館駅に到着した。所要時間2時間1分、運賃は乗車券と特急券を合わせて4970円だ。これを現在のダイヤで見ると、青森駅8時23分発の普通電車で8時28分に新青森着、9時06分発の新幹線はやぶさ95号に乗車し、10時07分に新函館北斗着、10時24分発の特急スーパー北斗4号に乗車し函館着は10時38分となる。運賃は7320円(新函館北斗~函館間は自由席利用)。北海道新幹線が開業したにも関わらず、目的地までの所要時間が14分増えてしまった。しかも運賃が2350円も高くなってしまった。特急スーパー北斗のあとにはこだてライナーもあるが、これを使うと運賃が7170円、函館到着時間は10時46分となる。新青森~新函館北斗間だけで見ると相当な時短に感じるが、新青森にしても新函館北斗にしても、その駅周辺に住居や目的地があるならともかく、実際の中心市街地は青森駅、函館駅周辺ということになろう。しかも、乗り換えは増え疲労も増しそうだ。
青森~函館の移動で見ると、北海道新幹線を利用するメリットは薄そうだが、仙台や盛岡など青森以南から青森を通過する利用であればメリットを見いだせる。従来であれば新青森駅で下車し、そこから在来線特急へ乗り換える必要があった。在来線特急は、たとえば「スーパー白鳥」「白鳥」が新青森始発で函館行きとなっていたが、実際には新青森を出発して青森駅に到着し、そこから進行方向を変える形で函館に向かっていた。この折り返しに時間を要していた。
道南地域と本州での移動を考えると、飛行機が飛んでいる東京などへは鉄路はあまりメリットが見いだせない、意外に多いのが道南から青森、八戸、盛岡、仙台などへの移動であろう。こうしたところへは、直行する航空路線も少なく、鉄道にメリットがある。
待ちに待った北海道新幹線の開業だが、一部課題も見えてきた。段階的でよいので、これから洗い出される細かい課題を一つひとつ潰していき、利便性と安全性の高い公共交通システムとして改良されていくことを期待したい。