旅レポ

今すぐ家で作れる(かもしれない)チーズ料理「スイル」レシピ

エストニアのマッシュポテトはただものではない

 日本の九州より少し大きい程度、という小さな国エストニア。とはいえ、九州も福岡に博多ラーメンがあれば鹿児島には白くま(アイス)があるように、エストニアにも各地でその土地の風土に合ったバリエーション豊かな食材と料理がある。

 ここでは、エストニアならではのチーズ料理「スイル」の作り方とともに、各地のさまざまな料理を紹介したい。

特殊なチーズさえあれば作れるエストニアチーズ料理「スイル」

スイルの作り方を教えていただいたレストラン「Toomemäe Talurestoran」
店内。サンルームのテラス席もある

 エストニアでときどき食卓に並ぶ代表的なチーズ料理が「スイル」。家庭やレストランによって形や食感は異なることもあるが、チーズや牛乳、バターなど乳製品を主原料に、スパイスなどで味付けしたものだ。エストニアでも大好物という人ばかりではないようだけれど、材料さえあれば簡単に作ることができて、おやつにもぴったりな料理となっている。ぜひ下記の手順で作ってみてほしい。

これがスイルと呼ばれるチーズ料理
別のレストランで出てきたスイル(奥の黄色)。玉子焼のような見た目

スイルの作り方

1. 牛乳と水を混ぜたものを火にかけておきます
2. 卵数個分に塩、砂糖、クミンを適量入れかき混ぜます

あまり沸騰はさせていないようだった
塩、砂糖、クミンを卵と一緒にかき混ぜる

3. ここで「コフピーム」と呼ばれるカッテージチーズのようなチーズを用意します
4. 牛乳と水を温めていた鍋にコフピームを入れます

エストニアでは一般的というコフピーム。日本で手に入るだろうか……
ざっとひと思いに入れる

5. 分離してきたら火を止め、ザルなどでこします

しばらくして分離してきたら火を止める
ざるなどでこす

6. 空になった鍋にバターを入れて溶かします
7. そこに、こしたコフピーム、卵を入れてかき混ぜます

鍋にバターを入れて溶かす。焦がさないように
こしたコフピームをドンっと投入
かき混ぜていた卵も入れる

8. 味見してみて、物足りなければ塩や砂糖、クミンなどを足して、できあがり

力強くかき混ぜながら、ときどき味見して、必要があれば調味料を足す
完成したほかほかのスイル。弾力のあるチーズという感じ。ただ、これだけだと若干物足りない
そのときは、アップル・チリソース(左)やニンジン・オレンジソース(右)をつけて食べるのもよい
Toomemäe Talurestoran

おすすめは魚のアイス! タリン旧市街のレストラン2店

タリン旧市街にあるレストラン「Farm」

 中世のたたずまいを残すエストニアの首都タリンの旧市街。ここには“魚のアイスクリーム”を堪能できるレストラン「Farm」がある。バルト海で獲れた魚のすり身を固め、凍らせたもので、衣として黒パンをまぶしているため、見た目はリッチなアイスバー風。なのに、味は魚という不思議な料理だ。どうしても甘いアイスクリームのイメージで口に入れてしまうが、完全に魚味でちょっと面食らう。旧市街を訪れたらぜひ立ち寄って“魚アイス”を試してほしい。

店内に入ると、家庭的な雰囲気の動物たちが剥製の姿でお出迎え
店内。調理中の様子を見ることもできる
前菜として出てくる、見た目は完全にアイスバーな料理。セリを使ったクリームソースで、キュウリとハーブ、卵のサラダをいただく
メインディッシュはジビエ料理。バルト海に浮かぶエストニア領サーレマー島産のイノシシを使ったハンバーグ。赤ワインとブラックベリーのソースで。左はマッシュルームリゾット
Farm
こちらはタリン旧市街にある別のレストラン「Leib RESTORAN」
店内にはバーカウンターもある
冷製ズッキーニスープ。コリアンダーとヒマワリの種が添えられている。コリアンダーが利いているのか、全体的にセロリのような味わいで、胃が休まる
サーレマー島から取り寄せた白身魚の料理。スペイン風温野菜サラダをヨーグルトドレッシングで
Leib RESTORAN

新進気鋭のオーナーが手がける名店と、中部タルトゥの創作料理

タリンとタルトゥのちょうど中間地点にあるレストラン「Põhjaka mõis」

 タリンからクルマで南下すること1時間、中部のタルトゥとのだいたい中間地点にあるレストランが「Põhjaka mõis」だ。タリンからも、タルトゥからも遠く、決して人口の多くない場所。身もふたもない言い方をすれば“田舎”だが、ランチ終了間際に訪れたにも関わらず、評判を聞きつけた人々が何組も来店していた。

店のすぐ横では羊が放し飼いになっていた
店内。アンティーク家具を使ってはいるけれど堅苦しさのないカジュアルな雰囲気
小さな額縁に入れられた写真も雰囲気がある

 オーナーのマルト・メッツァリクさんは、かつてタリンのレストランで働いていたものの、2010年に独立して数人のコックとともに今のレストランを開業。「エストニアの素材で世界の料理を」というコンセプトで経営している。エストニアに限らず、その地域の伝統料理は地元の人以外は慣れない独特の風味になりがちだが、独自のアイディアでアレンジし、万人が受け入れやすい料理に仕上げているのが特徴だ。

オーナーのマルト・メッツァリクさん
キッチンでは数人のコック、スタッフが忙しく働いていた
ルーバーブジュース。梅ジュースに限りなく近い
黒パンは独特の酸っぱさやパサパサ感がゼロ。しっとりしていて黒糖パンのよう
パンをチキンレバーパテや、小鉢に入ったオニオンジャムと一緒にいただく
器に入っているのは近海でよく獲れるパイクなどの白身魚とウズラの卵のサラダ。魚は塩漬けしたもののようだが薄味で、刺身好きな日本人の舌にも合いそう
カッテージチーズソースでいただくパイクパーチ。滑らかなマッシュドポテトも食べ始めると止まらない
ラムレッグ。トマトとパースニップと呼ばれるニンジンのような野菜をソースに使っている
デザートのアイスクリーム。茶色の粒は黒パンで、プチプチとした食感が楽しい
Põhjaka mõis
こちらはタルトゥの街中にあるレストラン「Umb Roht」
中庭にはテラス席がある
ロメインレタス。創作料理的なメニューが多いようで、ボリュームはやや少なめ
焼いた白身魚とタコ。タラゴンと呼ばれるヨモギの一種を使ったソースでいただく
野生イノシシのステーキ。ポテトとニンジンのチェダーソースに、アスパラなどが添えられている
Umb Roht

セト地方で見つけた一番美味しい(主観)マッシュポテト

セト地方にあるレストラン「Taarka Tarõ Köögikõnõ」。要予約

 人や物が多く集まる大都市が点在するエストニアの北部、中部に対して、ロシアにも近い南部のセト地方はどうしても素朴な食材が多くなるようだ。それでも、さまざまに工夫を凝らし、素材の味を引き出した多彩な料理でもてなしてくれた。驚くほど質が高く量もあるのに、驚くほどリーズナブルに食べられるのもうれしい。特に「Taarka Tarõ Köögikõnõ」のマッシュポテトは絶品だ。

オーナーが出迎えてくれた。その衣装もあいまって、なんだか高位の魔術師のようなオーラが見えなくもないが、実際にはとても柔らかい表情を見せてくれる気さくな方
手にしているのはセト地方でよく飲まれるライ麦から作られた蒸留酒「ハンザ」。アルコール度数は50度超。食前、食中、食後と、たびたび差し出される。もちろん断ってもよい
突如、こちらに突き出される大きな土鍋
中はあっつあつのマッシュポテト。オーブンで焼いたという。焦げも香ばしくてクセになる
マッシュポテトにこの薫製豚肉とサワークリームのソースをかけていただく。カルボナーラのような味わい
近くの湖で獲れるという小魚と、ポテト、人参、タマネギ、麦などが入ったスープ。サワークリームをのせるとまたひと味違う。これらの料理は1人当たり7~10ユーロと、ずいぶんリーズナブル。ただしグループでの予約のみとなる
湖の小魚はこのように干した状態で保存している。ほとんど煮干しと同じ。参考に出されたものだったが、味見しているうちにいつの間にか全て平らげてしまった
Taarka Tarõ Köögikõnõ
こちらはセト地方の農家でいただいたグルテンフリー料理。手前が蕎麦の実でくるんだクリームチーズ団子
黒パンをベースにしたカナッペ。この黒パンも蕎麦粉からできているので、実際には黒“パン”ではない
蕎麦の実をガーリックとトマトのサワークリームでいただく
蕎麦の実のサラダ
ラムのシチュー
見た目は普通のケーキだが、これも蕎麦の実を使っている。しかし、どれも小麦を使った料理とも遜色なく、美味
レストランとしては一般に開放していない。ただ、毎年エストニアの子供たちが合宿などで利用することがあるという。大人気で、参加できない子供も多数だとか

日沼諭史

1977年北海道生まれ。Web媒体記者、モバイルサイト・アプリ運営、IT系広告代理店などを経て、執筆・編集業を営む。IT、モバイル、オーディオ・ビジュアル分野のほか、二輪・四輪分野などさまざまなジャンルで活動中。どちらかというと癒やしではなく体力を消耗する旅行(仕事)が好み。Footprint Technologies株式会社代表。著書に「できるGoPro スタート→活用 完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS Androidアプリ大事典」(技術評論社)などがある。