旅レポ

今すぐ家で作れる(かもしれない)エストニアの黒パンレシピ

北部の首都タリンの風景と第2の都市タルトゥにある全長355mの博物館

エストニア政府観光局が主催、フィンエアーが機材協力を行なったプレスツアーの第3回は、エストニアの黒パンと、北部・中部の風景などをお届け

 バルト三国の最も北に位置するエストニアでは、北欧でもよく食されているライ麦を主原料にした黒パンが主食の1つとなっている。レストランではほとんどお通しのように料理前に出てくることが多く、見た目はまさしく黒、もしくは濃い茶色だ。一切れのサイズはどのお店でもだいたい共通していて、日本の典型的な食パンのおよそ半分程度と小ぶり。その分どっしりと中身の詰まった、味わい深いパンとなっている。

 お店によってプレーンのほか、ナッツやレーズンが入ったものなどさまざまなフレーバーがあり、その違いを楽しむのもエストニア旅の醍醐味と言えるかもしれない。ちなみに今回のツアーではエストニア各地でいろいろな黒パンをいただいたが、黒パンらしい酸味は少しあるもののクセはなく、触感や風味はそれぞれに個性があって、美味しく食べることができた。

エストニアでよく食べられている黒パン。これはタリンのレストランのもの
タルトゥのレストランで出された黒パン
タリンの黒パン屋さんの黒パン
セトの農家が蕎麦を原料にして作った黒パン風パン。グルテンフリー

エストニア名物の黒パンを日本の家庭でも?

 そんな黒パンの作り方を、南部セト地方にある「Iti Leeväküük」で教えていただいた。ここは黒パン作りのワークショップを開催しているほか、カフェとしても営業している。ぜひ皆さんの自宅でも下記の手順で黒パン作りにチャレンジしてみてほしい。

タルトゥ近郊にある「Iti Leeväküük」。廃校を利用しており、カフェとしても営業している
学校給食の厨房だったところをキッチンに

黒パンの作り方

1. まずはライ麦粉を用意します

粉はわずかにグレーがかっているように見える

2. それを“白樺の木などでできた桶”のなかに入れます

この桶のなかで生地を発酵させる

3. 次にお湯(40~45℃)適量と、前回作成した“黒パンの生地”少量を加えます

長年使用している桶なら、すでに酵母が住み着いているので黒パン生地が不要な場合もある。生地も桶もない場合はリンゴジュースなど発酵を促すものを適量入れる

4. 混ぜて一晩寝かせ、翌朝、砂糖、塩、ライ麦をさらに加えて混ぜます。しばらくすると生地が膨らみます

うまく発酵が進むともとの生地の2~3倍程度に脹らむ

5. 適量をすくって、打ち粉代わりのライ麦の上で形を整えます

手で直接でも、ヘラを使ってもOK。多めに取ると形を整えやすく、焼き上がりもきれいに

6. ひたすら形を整えます。次回分の仕込み用に1つ分程度、生地を残しておくとよさそうです

ライ麦粉をたっぷり使って形を整える

7. 生地表面に軽く切れ目を入れます

ヘラなどで表面に切れ目を入れる

8. 250℃に熱したオーブンに入れて10分間焼き、次に180℃で50分間焼きます

オーブンに入れて最初は高温短時間、次に低温長時間で焼く

9. できあがりです。できたては包丁だと切りにくいことがあるので注意しましょう

筆者が形を整えた黒パン
プレーンでかつ、中身がややグレーがかった黒パンに仕上がった

タリンの旧市街でヨーロッパらしい街並みを満喫

ヨーロッパらしい美しい街並みの旧市街

 エストニアの全人口のおよそ3分の1となる45万人が集まっているとされる首都タリン。旧市街にそびえる城壁と石畳、オレンジの瓦屋根の街並みはまさしくヨーロッパのイメージそのもので、ロシアの名残がある南部のセト地方などとはまったく異なる雰囲気だ。

 街自体はコンパクトで、半日~1日あれば中心部の主要な観光スポットを徒歩で巡ることができるだろう。なかでも、街を一望できる旧市街の山の手にある「パットクリ展望台」や「コフトゥ展望台」、市庁舎やタリン最古とされる市議会薬局がある「ラエコヤ広場」などは定番スポットで、ショッピングにも最適。旧市街にも近いバルト駅には、食品、服飾品、日用雑貨やアンティーク品などが集まる市場もあり、地元の生活の雰囲気を感じ取れる。

タリン旧市街にあるパットクリ展望台からの街並み
展望台を下から見上げたところ
コフトゥ展望台からの眺め
朝のラエコヤ広場。尖塔のある建物が市庁舎
日没後のラエコヤ広場
1422年にできたとされる市議会薬局
薬を販売しているが……
半分は博物館のようになっている
かつて使われていた道具などを展示
街のそこかしこで歴史を感じさせる
バルト駅。この右手に市場がある
ベリー類の豊富さに驚く
野菜や茸も大量に
屋内にも多くのお店がある
肉はブロック1つ1つが大きい
ソ連時代を彷彿とさせるアイテムの数々を揃えたアンティークショップ
貴重な掘り出し物もありそう

Skype開発者の椅子もあるタルトゥの博物館と屋外でエストニアの歴史を学ぶ

タルトゥにある「Estonian National Museum」

 首都タリンから南に200km弱、クルマでおよそ2時間余りのところにあるエストニア第2の都市タルトゥを訪れるなら、ぜひ「Estonian National Museum」へ足を運びたい。料金は大人14ユーロで、常設・企画展すべてを観覧できる。

 まず目を引くのがその建物の巨大さ。もともとは1909年に創設された博物館で、デザインを公募し、日本人を含むフランスのチームによる設計で2016年にリニューアルしたばかり。建設地はかつてソ連軍の空港だった場所とし、滑走路の平坦な土地を活かして全長355m、建物総面積3万4000mm2という細長い建物になっている。エントランスホールの天井高は15m、最も低い奥側の天井高は2.8mと、徐々に天井高が低くなっているおかげで、細長さがより際立っている。

離れたところから撮影。向こう側に行くに従って天井高は低くなっている
模型を見ると滑走路だったのをイメージしやすい
博物館とは直接は関係ないが、すぐ近くには逆さまになった家があり、博物館を訪れる人に向けたシンボルともなっている
エントランスと通路。15mもの天井高がある開放的な空間
通路は川の上を橋渡す形になっている

 常設展2つに加えて企画展も最大2つ実施され、常設展ではエストニアの歴史、文化、言語のほか、周辺国やユーラシア大陸に住む、あるいはかつて住んでいた民族に関する資料が多数展示されている。なかでも、1万1000年前から現代までの時間の流れに沿って当時の記録が並ぶ、奥行き126mの一直線の展示室は圧巻だ。1208年ごろに埋葬されたと考えられる女性の本物の人骨や、ソ連時代の遺品の数々、エストニアで開発されたチャットツール「Skype」の開発者の1人が座っていた椅子など、見どころは多い。

常設展の1つ。展示室は126mの奥行きがある
1993年~1998年に使われたというスウェーデン製の衛星携帯電話。重さ38kg
Skepe開発者が座っていたという椅子
エストニア国民のIDカード。個人情報をブロックチェーンで管理するなど、エストニアは世界で最も電子政府化が進んでいる国としても知られる
エストニア独立時の「人間の鎖」に関する映像集。各都市における記録映像をまとめて見られる
エストニア独立についての国民のインタビュー映像が流れている。スクリーンはコンクリート製
フロッピーディスク風のカードを所定の場所に置くことで過去の音声アーカイブを聞ける
物資が少なかったソ連時代に手作りされた芝刈り機。ベビーカーのハンドル、サウナのバケツ、洗濯機のモーターを組み合わせている
右手前の巨大な本が現存する最も古い1470年の聖書
古い墓地とされる場所から発掘された女性の骨。多くの装飾品とともに埋葬されていたことから高い地位にあったと見られている
1884年に作られたという最初のエストニア国旗。1943年から1991年まで、ソ連による接収・廃棄を恐れ民家の煙突の中に隠していたという
100~200年前に使われていた木製のビールジョッキ。大量
特定の言葉について、エストニア語や方言、そのほか周辺国の似かよった言語の由来や派生状況などを図示している
コミ人、ウルモルト人、マリ人、モルドワ人ほか、ユーラシア大陸内に存在する(した)の民族の生活様式などを解説している展示
かつてエストニアでは近くに病院がなく、医師も少なかったため、身近にある薬草で治療する習わしがあったという。ここはそんな薬草が見つかるタルトゥ近郊
タルトゥ大学の生薬学博士アイン・ラール氏に解説していただいた。手にしているのは野生のミント
エストニアに自生する植物はおよそ2100種類あると言われ、そのうち400種類がかつて薬草として使われていた。現在も100種類を医療に用いているのだとか
薬草として使える代表的なものは、ナナカマド、白樺の樹皮、タンポポの根、松や樫の木、オトギリソウなど
また、薬草とは別に、エストニア人は昔から自然崇拝やアニミズムの精神が強くあったとされる。この場所は「聖なる林」とされ、数本ある古い大木が崇拝の対象となった
こうした岩や湖なども崇拝の対象になったという。遠く離れた国ながら、日本と同様の自然崇拝が盛んだったのは不思議なものだ
大木の幹に身を預け、静かに瞑想することでパワーをもらう

日沼諭史

1977年北海道生まれ。Web媒体記者、モバイルサイト・アプリ運営、IT系広告代理店などを経て、執筆・編集業を営む。IT、モバイル、オーディオ・ビジュアル分野のほか、二輪・四輪分野などさまざまなジャンルで活動中。どちらかというと癒やしではなく体力を消耗する旅行(仕事)が好み。Footprint Technologies株式会社代表。著書に「できるGoPro スタート→活用 完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS Androidアプリ大事典」(技術評論社)などがある。