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黒字は年間50億円、でも借金は莫大。東葉高速鉄道、なぜ「有利子負債2000億円」を抱える?
2026年7月16日 12:00
1日に16.2万人が乗車する通勤列車が、毎朝旅客を満載して、東京駅・大手町エリアに向かう。年間165億円の運賃収入で、営業利益は50億円……。千葉県を走る「東葉高速鉄道」(東葉勝田台駅~西船橋駅間、全長16.2km)の黒字は15年も連続しており、“鉄道経営だけは”絶好調としか言いようがない。
ところがこの鉄道は、早くて2033年には債務超過に陥ると報じられている(4月27日、日本経済新聞)。建設当時にかかった約3000億円のうち、いまも2084億円もの費用返済を迫られている。現状でも金利だけで年間10億円以上を支払っており、金利上昇によってさらなるピンチに陥る可能性もあるというのだ。
6月22日に開示されたばかりの決算資料を見ても、「業績好調」と「長期債務」「利払い」の話が交互に入り、見ている方は混乱するばかり。いくら鉄道で稼いでも、借金に持っていかれては、どうしようもないだろう。
鉄道経営が順調であるにもかかわらず、なぜ利益の40年分に当たるような負債を抱えているのか? 「建設費用が当初の3倍」「理不尽な建設費用の支払いスキーム“P線制度”」といった原因を探りつつ、今後の課題を見てみよう。
半世紀前に開業している……はずだった?
東葉高速鉄道の負債の原因である「建設費用」について検証する前に、まず開業までの歩みを辿ってみよう。
1970年代~80年代の高度成長期には、都内の土地があっという間に宅地化されてしまい、開発の余地は皆無に。新たな宅地を求めて、隣接する千葉県から都内への通勤鉄道の建設が進められた。営団地下鉄(現在の「東京メトロ」)も、千葉県・西船橋駅から都心に向かう「東西線」の建設を急ぎ、1969年には西船橋から都心への区間が開業。続いて、のちに東葉高速鉄道となる「営団勝田台線」の免許申請が、1974年に行なわれた。
この当時の事業費(建設費用)見込みは「955億円」。もしこの時代に、営団地下鉄の主導で建設が実現していれば、地元負担も軽く済んだだろう。しかし、都内の路線整備が本分である営団地下鉄の営業エリアは「東京都ノ区ノ存スル区域及其ノ附近ニ於ケル交通機関」と定められており、都心から30km・都県境から20kmもある八千代市への地下鉄延伸への異論もあり、建設そのものが棚上げ状態となってしまう。
しかし、船橋市・八千代市の鉄道誘致熱が覚めることなく、東西線と乗り入れを行なう「勝田台線」建設に向けて陳情を続けたが、最終的には営団による建設をあきらめる。かわって、船橋市・八千代市・千葉県などが出資する新会社「東葉高速鉄道」を立ち上げ、「第三セクター方式」によって、鉄道経営が行なわれることに。1984年にようやく建設が決定した。
もちろん東葉高速鉄道には、鉄道建設のノウハウなどない。代わって、全国の鉄道新線の建設を代行する「日本鉄道建設公団(鉄建公団。現在の「JRTT」)が建設を行ない、完成後に設備を引き渡される「P線方式」が取られた。
いわば、沿線自治体は「建設はお任せ、開業前に鉄道を引き取って3セク経営」という、一見して合理的に見える外注システムに乗ったことが、いまも続く莫大な費用負担をもたらしている。
建設費用が955億円⇒2948億円。原因は?
オイルショックを挟んだこともあり、当初の見積もりであった「955億円」から建設費用が倍増してしまったのは仕方ない。しかし、このあと建設費用は「2948億円」まで膨れ上がる。この建設費用こそが、現在でも2084億円も残る有利子負債の原因だ。
建設費用が高騰した最大の原因として「土地収用の遅れ」が挙げられる。通常の場合は「土地収用法」に基づいて行政代執行で土地を収容するはずが、千葉県は成田国際空港の2期工事を巡るトラブルが相次いだ関係で、強制収容の意思決定を行なう内部組織が機能していなかった。
建設を進めるにはすべての地権者と交渉を行なわねばならず、なかには前後が完成しているのに、わずか数メートルの高架をつなげることができない……といった場所もあったという。地元の方に伺った限りでは、担当者が毎日のように怒鳴り返されるようなケースも見受けられたようだ。
ここは平身低頭で交渉を続けるしかないが、1990年には「トンネル工事中の陥没」という追い打ちのような事故も発生してしまう。地上にあった民家の敷地に穴が開いてクルマが転落するという庇いきれない内容でもあり、原因が「止水剤(地下水を止める薬液)不足」という初歩的な内容だったことから、地域の感情悪化で買収交渉がさらに難航する原因ともなった。
工事の遅れ・地権者の合意遅れと、見事に悪循環続き。1991年度を予定していた鉄道開業は1993年→1995年→1996年と延期を繰り返し、「建中利息」(建設中の資金調達にかかる利息)によって、費用は雪だるま式に膨れ上がってしまう。さらに、早期に運転手を雇った分の人件費もかかる。
鉄道を待ち望んでいた人々のなかには、「近くに駅が開業するから」と予定地近くに家を買ったものの、開業しないままに昭和は平成に代わり、定年退職が迫るような事態も起きていたという。こうして、最終的に建設費用は「2948億円」まで膨れ上がってしまった。
「建設してもらって、支払う金額は言い値」P線方式の悲劇
ではなぜ、東葉高速鉄道は建設費用を全額負担する事態に陥ったのか? 首都圏の鉄道新線なら、補助や費用軽減の負担は議論されなかったのだろうか。
残念ながら、スキーム(枠組み)として採用された「公団P線方式」は、開業後に建設費用を返す必要があり、基本的には補助と無縁であった。いわば、建設も資金調達も鉄建公団に“お任せ”、引き渡しを受けた鉄道会社が「譲渡代金」などの名目で、開業後に支払う方式だ。
この「P線」スキームはもともと、経営体力のある私鉄のためにあったはずで、適用第一号として1977年に開業した東急新玉川線(田園都市線)は、開業後の返済をはるかに上回る利益を上げることができた。その後も小田急多摩線、京王相模原線などで適用されたが、各地で鉄道建設の要望が相次いだことから、なぜか地域が出資する第三セクター鉄道にも適用されることとなったが……急造で創業した東葉高速鉄道や北総鉄道、埼玉高速鉄道などの3セクが「P線」で建設に至ったところで、建設費用の返済に行き詰るのは当然だ。
そもそも、開発されていない場所を走るので、P線3セク鉄道の赤字は必至だ。自前で不動産開発ができる私鉄と違って、宅地開発を他力本願で誘発するためのP線3セク鉄道の利用状況は高確率で開業前の予測を下回り、単年黒字もままならない状況に。だからこそ各社とも建設費用の返済に苦しみ、「千葉急行電鉄」(現在の「京成千原線」)のように、会社が消滅するような事態も生じるのだ。
利子上昇0.1%で「プラス3億円」
東葉高速鉄道は幸いにして、沿線の高層マンション建設が相次いだことで乗客は増加に転じ、2010年度から安定して黒字を保っている。この地を「都心まで1時間通勤圏内」に変えた東葉高速鉄道は、例え莫大な有利子負債を抱えていても、通勤鉄道として社会的に果たした役割の大きさは、多くの人々が認めるところだ。
ただ現状の問題として、有利子負債とセットで襲い掛かる、年間10億円にもおよぶ利払いが、東葉高速鉄道を苦しめている。
加えて支払金利が0.1%上昇すると利息が約年間3億円も上昇するため、長らく続いた低金利局面の脱却を模索している現政権下では、東葉高速鉄道の将来は、もはやリスクしかない。いまの金利が1.7%程度で、プラスで2%以上金利が上昇すれば、50億円の営業利益が吹き飛ぶ計算だ。
そうなると、かなり古びてきている車両の新造どころではないし、東葉勝田台~西船橋間の約16kmで640円という、並行するJR・京成の倍水準の運賃を引き下げるどころではない。現状を考えても未来を考えても、解決策は1つ。残る建設費用=有利子負債を、減額や借り換えなどでなんとか軽減することだ。
銀行・自治体の負債、強引に圧縮! ~埼玉高速鉄道の場合
ほかのP線3セクの事例でいうと、地下鉄南北線と乗り入れる「埼玉高速鉄道」は、埼玉県が主導した「事業再生ADR」(裁判外紛争解決手続。私的整理の一つ)で、1161億円の有利子負債が629億円まで激減した。
手法はさまざまだ。利子が発生する銀行の借り替えに「第三セクター債」発行、県と川口市・さいたま市向けには、借入金を株式に振り替えるデット・エクイティ・スワップ(DES)適用など。「借金と引き換えに、この間まで瀕死だった鉄道会社の株を差しあげます」というのも、割に合わない気がするが、強気な3セク鉄道経営に踏み切った政治判断の代償として、自治体としては受け入れるしかないだろう。
ただ、東葉高速鉄道に同様の適用できる可能性は「そうとう低い」としか言いようがない。負債の金額があまりにも大き過ぎるうえに、株主として京成電鉄・東京メトロなども入っており、利害関係の調整も難航しそうだ。何より、安易な3セク救済の事例を作れば、「鉄道だけ救済して、ほかは野放しか?」とばかりに、鉄道業界に限らず各方面からの不満が噴出しかねない。
県知事の立場であれば、任期中には解決を避けたいと考える人もいるだろう。破綻が見込まれるのは2033年、実際にはいつ爆発するか分からない“時限爆弾”状態の東葉高速鉄道に、抜本的な対策が取られる日は来るのだろうか?

























