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“日本一短い私鉄”紀州鉄道、今になって赤字・廃止危機のワケ。今後の生き残り策は?
2025年11月12日 06:00
ずっと赤字も「不動産会社の看板料替わり」で延命
たった2.7km、「日本一短い私鉄」として知られる紀州鉄道(和歌山県)が、廃止の危機に立たされている。
1931年(昭和6年)に「御坊臨港鉄道」として開業したこの路線は、鉄道会社という安定したイメージを持つ屋号を欲した不動産会社に買収され、1979年からは「鶴屋産業」傘下入り。ゴルフ場やリゾート施設、「紀州鉄道ホテル」などの運営を「鉄道会社」という看板のもとで行なってきた。
同社のWebサイトの事業紹介は、今でも「鉄道会社」を見やすい左端に、その横に不動産・トラベルと並んでいる。その鉄道部門はずっと赤字であったものの、あまりにも短距離でトンネルもない路線とあっては維持費も少なくて済み、「鉄道会社を名乗れる看板料」のような扱いで、長らく赤字が容認されてきた、と言われている。
しかし乗客減少によって、2000年初頭には年間2000万~3000万円であった赤字額は年々増大し、2021年には7300万円に達している。2021年の中国系企業ポリキング傘下入り以降、この赤字が容認されなくなり、経営危機に陥ったようだ。
不動産会社の看板料替わりであった赤字が、見過ごされなくなったことによる経営危機。それでも、紀州鉄道は走り続けている。どんな人々に利用されているのか? まずは2.7km、たった5駅の鉄道で行ったり来たりしつつ、「令和6年 御坊市地域公共交通計画」などから紀州鉄道の現状を読み解いていこう。
通学需要は盛んでも、ライバルは「自転車」
紀州鉄道の沿線には市役所・ひだか病院などがギュッと集積しており、昼もずっと5人~10人の乗客を確保。地元出身のメンバーが在籍するバンド「キュウソネコカミ」のコンサートが御坊市民文化会館で開催された際には、列車は満員続きだったという。
また朝方には、周辺の湯浅町・日高町・印南町などから、御坊市内の日高高校・日高看護専門学校に通学する生徒が、紀州鉄道の起点である御坊駅に一挙に集結する。7時56分の下り列車と、8時00分の上り列車が到着する時間帯は駅ホームが数百人の乗客でいっぱいになり、上下の列車に接続する8時3分発・西御坊行きが、1日でもっとも利用者が多い。
さて、期待してホームを見てみよう。数百人の乗客は、どんどんと紀州鉄道ホームに……行っていない。実は、学校などに向かう人々のほとんどは、紀州鉄道を利用していない。
まず、最も多いのが「自転車」「徒歩」。高校・看護学校がある「学問駅」エリアまで道路状態も良好な平地を歩いて2km弱とあって、ざっと数えただけで300人~400人の人々が駅を出ていっせいに自転車置き場に、数十人が徒歩・ランニングで市内に向かっている。どうりで、自転車置き場がやたらと巨大なわけだ。
そして、自転車・徒歩組の残りが紀州鉄道のホームに向かうが、御坊市の公共交通計画資料によると、1日でもっとも混み合う8時3分発・西御坊駅の便も「平均40人」。しかも長らく運賃値上げが行なわれていないため、全線の運賃は片道120円~180円、1か月定期は4230円~5080円という驚きの安さ。ほとんどの利用者が定期利用と考えて日割りで計算しても、朝6時台~8時台で、収入は2万円にも届かない計算だ。
これでは、「年間収入960万円、支出8000万円(2019年の実績)」という、経営が成り立たない状態になるわけだ。
集客しようにも、街のにぎわいはロードサイドへ
さて、紀州鉄道はここから利用者を増やせるのか? ……大きな問題が立ちはだかる。鉄道が描くルートが、御坊市でにぎわいが生まれるエリアから、ことごとく外れているのだ。
クルマ社会の現在にあっては、買い物・遊びで目指すのは商店街ではなく、まっすぐ印南町方面に向かう国道42号エリアだ。
ロードサイドには「ロマンシティ」(スーパー「オークワ」、ダイソー、王将などのテナント入居)や「マクドナルド」「コメダ珈琲」などが立ち並ぶ。紀州鉄道からこのエリアには500mほどしかなく歩いて行けるものの、路線バスが各方面から乗り入れているため、鉄道を使ってわざわざ歩いてくる必要性は薄い。
平日昼でもロマンシティの広大な駐車場が半分埋まり、ミスタードーナツの限定商品「もっちゅりん」には100人近い行列が……それなりに人波が絶えないエリアは、御坊「市」と呼ぶにふさわしい風格を漂わせている。なお、市役所エリアだと鉄道・バスどちらでも到達できるため、国道43号沿いで紀州鉄道へのアクセスを使うことは、あまりないようだ。
紀州鉄道は全長2.7kmと短いため、御坊市の一部エリアだけをカバーしているに過ぎない。通常の鉄道だと「鉄道の終端駅にバスを集中させて乗換駅に」という策も採れたかもしれないが、紀州鉄道は短いうえに速度が遅く、集約させたとしてもバス路線短縮の効果はない。
なお、御坊市内を走るバス路線は、全路線が赤字だという。紀州鉄道をバスに一本化するだけでも、熊野御坊南海バス・中紀バスの路線バスの経営負担は、ずいぶん和らぐのではないか。
「まったく利用しない」92.8%。紀州鉄道が生き残る道は?
過去の市議会資料を見る限りでも、「御坊の象徴」「観光資源」とたびたび持ち上げられている。しかし、この愛着は「生活の足として市民一丸で残したい」というより、「誰かが赤字を被ってくれるなら存続してほしい」といったマインドであろう。
路線が短いがゆえに赤字額が小さいものの、短いがゆえにこれ以上の集客が難しい。これまで「不動産・リゾートのついで」という外的な要因で生き残ってきたせいか、鉄道会社としての集客に力を入れていたとは言い難い。
御坊市のアンケートでも「まったく利用しない」という回答が92.8%にのぼっており、ここから「乗って残そう」を展開するには、厳しい条件が揃い過ぎているように見えるが、どうだろうか。
ただ紀州鉄道は、全線が平地であるがゆえに赤字額が少なく、支援の手も挙がりやすい。この額なら、クラウドファンディングでもそれなりの額は埋まるのではないか。新しいスポンサーが登場するか、県や御坊市からの救いの手はあるのか。今後の推移を見守りたい。





























