ニュース
万博のパビリオン「null2」が転生する横浜ランドマークタワー「null2n」と園芸博「null4」。落合陽一が明かした新情報とは?
2026年7月16日 06:00
- 2026年7月14日 実施
約20万人が自分のデジタルコピーを作った大阪・関西万博の「null2」
WebX実行委員会は、暗号資産やブロックチェーンに関するグローバルカンファレンス「WebX 2026」を7月13日~14日に開催した。その会期2日目の朝、大阪・関西万博のシグネチャーパビリオンの一つ、「null2(ヌルヌル)」のプロデューサーである落合陽一氏によるステージ「null2、転生。EXPO2027へ 落合陽一が語るAI・Web3がひらく未来社会」が行なわれた。
落合氏は、ブロックチェーンやAIなどの最新技術を活用してメディアアート作品を発表しているだけでなく、筑波大学教授や東京大学准教授をはじめとする研究者としての顔、ピクシーダストテクノロジーズの創業者としての顔も持つ。
null2は立方体を複数組み合わせたような外観で、表面が鏡のような膜でできていた。その鏡面はスピーカーやアクチュエーターなどによって絶えず動いており、周囲の景色を映り込ませながら振動する。また、独特の咆哮を発するときもあり、まるで生きてるような建物だ。
内部はさらにおもしろい作りで、床や壁、天井がLEDパネルや鏡でできているLEDルームと、その外側をマジックミラーで隔てた回廊で構成している。LEDルームの中には回転するモノリスやロボットアームで動くミラーキューブがあり、デジタルでありながら実体を感じられる表現を実現していた。
null2には3つのモードがあるが、そのなかでもメインとなる「ダイアログモード」は、AIの発展により、人間が賢い生き物という意味のホモ・サピエンスではなくなってしまう未来、「人間は記号を手放し、元のヌルと呼ばれる世界に帰ることになる」という落合氏の思想に基づいた演出を行なっていた。
言葉で説明するとなかなか難しく聞こえるが、null2で体験できる圧倒的な映像の奔流は落合氏の得意とするところであり、その魅力にとりつかれる来場者が続出した。大阪・関西万博の開幕から閉幕まで予約の取れないパビリオンの筆頭格であり、外から見るだけで入れなかったという人も多いのでは。
この日、ステージには落合氏とともにサステナブルパビリオン2025/マクニカの宮城教和氏が登壇しており、落合氏とともにnull2を回顧した。
null2は、建物自体が動くという世界的にもめずらしい構造を採用していた。外壁は柔らかな鏡面素材で、建物の内部へ足を踏み入れると、まるで巨大な生き物に飲み込まれるような感覚を体験できた。館内の中心にあったのは、巨大なLEDルーム。壁面を全面LEDと鏡で構成し、そこにプロジェクターによる映像を組み合わせることで、映像でありながら、あたかも物質が実際にその場に存在しているかのような感覚を生み出していた。
落合氏はこの取り組みについて、「映像でありながら、物質としてそこに存在しているような感覚を生み出すことを目指しました」と振り返っている。
null2では、来場者が自分自身のデジタルコピー(3Dアバター)を生成する体験も提供していた。大阪・関西万博の会期中には、約20万人が自らのデジタルコピーを作成したという。
独自の建築と没入型の映像体験、多くの来場者を巻き込んだデジタルコピーの取り組みによって、null2は大阪・関西万博でも高い人気を集めるパビリオンになった。しかし、万博の閉幕後に建物は解体され、すでに更地に戻っている。
ホモ・サピエンスに別れを告げた人間は「味わう存在」へ変化する
「null(ヌル)」とはそもそも、プログラミング言語で「存在しない」「空のデータ」を意味する。万博会場のnull2は解体され、無に返った。しかし、物語はそこで終わらず、新たな転生先を見つけた。その1つが、GREEN×EXPO 2027(園芸博)の「null4(テトラヌル)」である。
null4については、4つの塔で構成し、塔がぐるぐると回転するといった概要を4月に発表している。今回はさらに、その空間に込める思想やテーマについて詳細が語られた。
null4は、4つの塔と庭で構成する。それぞれに割り当てられるテーマは、「デジタル発酵」「デジタル蒸留」「デジタルネイチャー」「マタギドライヴ」「ホモ・コンヴィヴィウム」の5つだ。
落合氏は以前から、「デジタル発酵」という言葉を提唱してきた。例えば、夜にAIへ作業を指示しておけば、翌朝には一定の成果物ができている。こうした現象を、落合氏は発酵になぞらえる。
「現在のAIは、放っておくと、まるで発酵するように物を作ります。人間が一つ一つ細かく管理しなくても、システムが自律的に物を生み出す。これは発酵に近い現象だと思います」
さらに、発酵によって生み出されたAIやデータを、どのように整理し、価値あるものとして取り出すかという考え方が、「デジタル蒸留」である。AI分野では近年、大規模なAIモデルが持つ知識や能力を小規模なモデルへ受け継がせる「知識蒸留」と呼ばれる手法が広く使われている。null4では、こうしたデジタル発酵やデジタル蒸留の概念に加え、自然とデジタルが融合する「デジタルネイチャー」を空間として表現する。
AIが自律的に活動し、さまざまなものを生み出すようになるなか、人間の役割も変わりつつある。落合氏は、AIを細かく管理するのではなく、その活動や成果を人間が楽しみ、味わうことが重要になると考えている。
その背景には、人間がすべてを考え、管理し、問題を解決してきた近代の産業文明が、一つの限界を迎えつつあるという問題意識がある。では、ホモ・サピエンスである人類が、これまでのあり方に別れを告げたあと、どのような存在になっていくのか。落合氏は、人間はこれから「味わう存在」へと変化していくのではないかと語る。
「サピエンスには、『賢い』だけでなく、『味わう』という語源的な意味もあります。これからは、人間が何もかも考え、管理するのではなく、世界を味わう存在へ変わっていくのではないでしょうか」
AIが仕事を担うようになれば、人間が表計算ソフトを操作することよりも、肉体を持つ者同士が実際に集まり、同じ空間や体験を共有することの方が重要になるかもしれない。2030年ごろには、「人間にとっては、知ること以上に味わうことが大切だった」と気付く可能性もある。
来場者が作品に触れ、花や自然とともに時間を過ごし、世界そのものを味わう。落合氏は園芸博を通じて、横浜をそのような場所にしたいと考えている。
null2nには2つのLEDシアターを用意する
続いて落合氏は、横浜ランドマークタワー5階にオープンする「null2n(ヌルヌルネクサス)」について語った。
大阪・関西万博のnull2では、LEDルームが体験の中心になっていた。一方、5つの部屋で構成するnull2nでは、第1の部屋と第4の部屋にそれぞれLEDルームを設置する。LEDルームの数はnull2の2倍になり、それぞれに異なる体験を用意する予定だ。現在は、実験を重ねながら、各シアターで展開するプログラムの開発を進めているという。
落合氏がnull2nで重視しているのは、大阪・関西万博で生まれた熱気や人々のつながりを、横浜へと継承すること。大阪で高まった熱を横浜へ、さらに横浜ランドマークタワーへとつなぎ、新たな「祭り」を生み出すことを目指している。
null2nは、デジタル技術による映像体験だけでなく、人間の身体性をデジタル空間へどのように接続するかも重要なテーマにしている。身体から得られるデータをAIやWeb3と結び付ける仕組みを構築すると同時に、人々が現実の空間に集まり、互いに関わる機会を増やしていく。
null4の先は「あるかもしれないし、ないかもしれません」
最後に宮城氏は、「落合さんが手掛ける『ヌルヌル』の旅は、大阪・関西万博のnull2から始まり、横浜ランドマークタワーのnull2n、そして2027年の園芸博のnull4へと続いていきます。もしかすると、その先もあるのでしょうか」と問いかけた。
それに対して落合氏は、「あるかもしれないし、ないかもしれません。毎回、大変なんです。ただ、毎回多くの人が集まる祭りを作ることができれば、そこで人がデータになり、データが自然へ還り、さまざまなものが循環していきます。その循環を、みんなで楽しめればと思っています」と答え、発表を締めくくった。



















































