ニュース

日本初リニア・フォイトジェット採用! 広島~松山間の新船「AIVINT」乗船してきた

国内初の技術を用いて就航する「AIVINT」。「Vint」はドイツ語で「風」を意味する

 明治時代からの長い歴史を持つ「広島~松山航路」に、瀬戸内海汽船が新しい客船を投入する。安芸の「A」と伊予の「I」を取った「AIVINT(アイヴィント)」の就航日は、5月24日。もうまもなくだ。

 そんなAIVINTは、国内の船舶では初導入となる技術「リニア・フォイトジェット」を採用し、20~40ノット(約37km~74km)という高速で航行する船とは思えないほどに、乗り心地がよく静かだという。5月22日に開催された報道向けの試乗会でAIVINTに乗り込み、その快適さを検証してみた。

AIVINTが就航する広島~呉~松山航路

高速航行でもペットボトル微動だにせず! AIVINT試乗レポート

双胴船の船体。この水面下に推進機構「リニア・フォイトジェット」がある
リニア・フォイトジェットのメカニズム

 一般的な高速船は、船が海水の抵抗で浮き上がった際に、露わになったプロペラと海面との接触で「水面や船底を叩く」状態となり、強めの縦揺れとノイズという船酔いの要因が発生する。いま瀬戸内海汽船が運航しているスーパージェット船「宮島」はかなり快適な方ではあるが、30ノット以上の高速航行できる船としては長距離航路の部類に入る広島~松山間(80分程度)では、時化(しけ)たり揺れたりすることもある。

 ところが、このAIVINTは、独フォイトが開発した推進機「フォイト・リニアジェット」を搭載している。ノズルで覆われたプロぺラがムダなくエネルギーを伝え、クルマでいうスポイラー・ウイングのように、船を安定させる役割を果たす。「効率よい水流」「安定して航行させる仕組み」があるからこそ、新船AIVINTは、安定して揺れずに航行できるのだという。

AIVINTの船内
AIVINTの座席

 実際に、広島港を出て宮島付近まで30ノット程度で航行しても、特段の揺れもプロペラ音も感じなかった。試しにペットボトルを窓際に置いてみたものの、落ちるどころかピクリともしないほどの、揺れの少なさであった。

 ここまで乗り心地がよいと、瀬戸内海の多島美を心ゆくまで眺めても、なかなか疲れることはない。AIVINTは、風光明媚な瀬戸内海の景色を楽しむにはピッタリ!な船と言えるだろう。

位置情報を示すモニターも設置された

 また、広島~松山間は架橋されているもののそうとうに遠回りで、しまなみ海道を経由しても、2時間はかかってしまう。これが80分で揺れなく移動できるなら、「使える移動手段」として、AIVINTがシンプルに役に立つことは、疑いようがない。

 ただ、その性能のよさもあってか、AIVINTは総トン数約120トン・旅客定員99名と、いま航行しているスーパージェット「宮島」(総トン数189トン・旅客定員153名)より、ひと回り小さくなった。

 また、この日は波・風ともに荒れておらず、ことさらに穏やかな運航の条件は整っていたが、AIVINTは、これまでにない快適な船旅・出張を提供してくれるだろう。あとは、いちど雨・風ともに強めの日に、どれだけ快適さを保てるかを確かめるべく、また乗船したいものだ。

新船AIVINTに何を期待する? 瀬戸内海汽船 内堀社長に聞いた

瀬戸内海汽船株式会社 代表取締役社長 内堀達也氏

 瀬戸内海汽船の内堀達也社長によると、広島市・松山市はともに「支店文化の街」とも呼ばれ、双方とも大企業の支店・支社が多く立地している。そのために、拠点間移動による出張がかなり多く、広島~呉~松山間の航路は、こういったビジネスの需要に支えられてきた。

 しかし、2020年から続いたコロナ禍の影響でリモートワークが浸透し、ビジネス需要は減少。なかなか戻らない。この時期に同社は、2019年からフェリー「シースピカ」「シーパセオ」(2019年就航)そしてAIVINTを就航させたが、AIVINTに関しては「コロナ禍がなかったら、もっと早く就航できていただろう。就航の日を迎えられてよかった」と、安堵の表情を見せていた。

 また、この新船を建造できた最大の要因は、フォイトの技術と出会えたことだ。内堀社長によると、フォイトから独自の技術を知ってもらうための打診があり、熟慮の末に採用を決めたという。

荷物置き場
クローク

 ビジネス需要が回復しない以上、AIVINTには、観光やインバウンド(訪日外国人旅行者)などの増加に向けて手を打っていくことになる。内堀社長によると、近年は「広島港で降りてそのまま宮島に向かう観光客の姿も多くみられる」そうだ。

 同社でも「こういったインバウンド需要の高まりに応じて、新たに荷物置きスペースを新設した」という。また、「血液製剤などを輸送できるようにした」など、高速バスやクルマより速く移動できるAIVINTを有効活用してもらうための準備にも余念がない。

 そして、新船AIVINTのもう1つのメリットは「燃料節約」であるという。以前のスーパージェット「宮島」などと比べて、「燃料コストは3割程度の減少が期待できる」という。

 ただ、中東戦争の影響で同社のクルーズフェリー(シーパセオ)の減便を発表したばかりで、「利益面で考えれば減便はやむを得ないが、心苦しい」と、内堀社尾も苦渋の表情を見せた。繁忙期には元の便数に戻したいという。

 瀬戸内海汽船・石崎汽船が運航するこの航路は、コロナ前には年間60万人が利用していたものの、これが50万人程度にまで落ち込んだまま、なかなか元の水準に戻っていない。

 快適で速い新船が、伝統あるこの航路の復活の起爆剤となるか? 瀬戸内海を駆け抜けるAIVINTの成否を見守りたい。