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東京から九州へ海上の「最ゆっくり移動」を楽しみつくす! オーシャン東九フェリー乗船記

オーシャン東九フェリー「りつりん」

東京~九州間、おトクに時間を使える移動手段とは?

 飛行機なら2時間、新幹線なら5時間弱、船なら最新鋭の「東京九州フェリー」でも21時間。東京から福岡県への移動手段で迷うとき、選択肢をもう一つ忘れていないだろうか。

 東京・有明埠頭~北九州市・新門司港間を結ぶ「オーシャン東九フェリー」なら、上記の移動手段より熟睡しながら、揺れが少ない快適な移動が可能。たっぷり32時間かけて、海上移動を楽しむことができる。

 東京側の発着地点は、都心から10km圏内とアクセスも良好。しかも、さして混み合わないうえに揺れも少なく、この船ならではの「フェリーグルメ」も充実しているという。そう考えると、所要時間が飛行機の16倍、新幹線の6倍、東京九州フェリーの1.5倍であっても、快適な時間を過ごすことができるオーシャン東九フェリーは「おトク」としか言いようがない。

 本稿では、オーシャン東九フェリー「フェリーりつりん」に乗り込んで、2泊3日32時間での楽しみ方・快適でゆるゆるとした時間の使い方をお伝えしていこう。

「海の森」「至近距離で東京ゲートブリッジ」オーシャン東九でしか見れない景色が満載!

東京港ターミナルを遠ざかる

 東京側の発着地点である「東京港」(有明埠頭)は、東京駅や国際展示場前駅からの直行バスがあるものの、お台場の南端とあってか、都心から10km圏内と思えないほど時間がかかる。

 しかし、北海道方面の「さんふらわあ」が茨城・大洗港、同じ新門司港行きの「東京九州フェリー」が神奈川・横須賀港へ移動が必要なことを考えれば、港へのアクセスは抜群によい。

中央防波堤の埋立地にはいくつか埠頭がある
船上から眺める飛行機
東京ゲートブリッジをくぐる

 船は日曜・祝日なら18時、月~土曜は19時に有明埠頭を出港、ゆっくりと遠ざかるお台場を眺めるのもいいが、東京湾を出るまで2時間ほどは、見どころ満載だ。

 出航から10分ほどすると、進行方向右側に見えるのは「中央防波堤埋立地」。地名としては江東区側が「海の森」、大田区側が「令和島」となっており、フェリーから見えるのは「海の森」側。都の廃棄物処分場やペットボトルのリサイクル施設、残土などを受け入れる埠頭など……くっきりと至近距離で眺めることができる。

 この人工島は今のところ人は住んでいないものの、周辺の処分場や物流倉庫への通勤を支える都営バス・送迎バスはそれなりに走っており、カントリーコースの設置や「わいわい広場」など、人の影も徐々に増えつつある。遠目に眺める景色も、いつか高層ビルやマンション群に変貌を遂げるかもしれない。そういった意味で、定期的にオーシャン東九フェリーに乗船して、船上から埋立地を観察するのもよいだろう。

 上空を飛ぶ羽田空港への着陸態勢に入る飛行機を間近に眺めつつ、独特の形状から「恐竜橋」とも呼ばれている「東京ゲートブリッジ」の下をくぐり、南下していく。1日約500隻の船が行き交う東京湾は12ノット(時速22km程度)の速度制限があり、ゆっくり航行してくれる。

 ここは、東京湾の絶景をゆっくり眺めるための、観光列車でいう「徐行運転」ととらえて、たっぷりと景色を楽しむとよい。

部屋といろいろ。快適なワケ

 日も暮れたところで、部屋に入ろう。

 通常のフェリーならファミリー用の広い個室、和室・洋室などさまざまな選択肢があるものの、オーシャン東九フェリーはほとんどが相部屋。「りつりん」以外に「どうご」「しまんと」「びざん」の4隻はいずれも2016年就航と比較的新しく、寝室もカーテン・コンセント付きで、カプセルホテル並みの快適さだ。

 そしてありがたいのが「人影の少なさ」。このフェリーはほぼ同じルートで首都圏~九州を結ぶ東京九州フェリーのような映画館・プラネタリウムなどもなく、普段から貨物輸送がメインとあって、お盆直前でも2段ベッドの上段がほとんど埋まっていなかった。これがオフシーズンだと、船内に数人しかいないという日もめずらしくない。……にもかかわらず、ほかのフェリーと同様に大浴場・テレビルームもあり、基本的なくつろぎ方は、一通りできるのだ。

 オフシーズンの船内は、トラックドライバーの方が数人、乗船早々にビールを開けて静かに飲んでいるくらい。海外からのインバウンド観光客も、ツアー客も見かけない。オーシャン東九フェリーなら、広々とした大型フェリーに数名という「"ほぼ貸し切り状態"」で乗船できる確率が、観光シーズン以外ならきわめて高い。お気に入りの部屋着やサンダルを持ち込んで、のんびり・ぐだぐだ・気兼ねなく、だらだら過ごせるのが魅力だ。

テレビルーム
朝もやに包まれたファンネル
潮岬沖で東京港行、オーシャン東九フェリーとすれ違う

 船は東京湾を出て、相模湾で進路を南西に変える。夜も更けたので寝室でひと晩熟睡すれば、のぼる朝日を眺めるころには、静岡・御前崎沖あたりを通過中だ。

 心地よい海風に当たったら、露店風呂から景色を眺めて、昼寝。午前11時台には北九州側から東京港へ向かう船とすれ違い、また昼寝……スマホの電波は「陸地側の窓際に行けば、届かないことはない」レベルで、陸地ほどスマホに依存することもない。かくして、オーシャン東九フェリーの「やることがない」とも言える贅沢な時間は過ぎていく。

窓際を中心に、コンセント席も多い

 閑散とした船内でまれに見るのが「仕事をする人々」。共有スペースにあるコンセント付きの座席を陣取って、原稿執筆などのデスクワークを集中的に進めるにはうってつけの環境なのだ。

 乗船すると、スマホの電波が比較的よく届く陸地側の座席に座り、ノートPCとにらめっこをしている方も見かける。ほかの大型フェリーのようにアクティビティのない船内は、いわゆる「缶詰執筆・缶詰作業」にぴったり。「海に浮かぶコワーキングスペース」と言ってもよいだろう。

 船内では有名な作家さんをお見かけしたこともあり、筆者もこの記事執筆時の乗船で、露天風呂・昼寝を3回はさみながら、3000字×3本の執筆と、九州で取材予定の観光列車やサッカースタジアムの情報をまとめることができた。

オーシャン東九名物「自販機グルメ・フルコース」

 オーシャン東九フェリーは「シンプルフェリー」と位置付けられており、ほかの長距離フェリーのようなレストランなどはない。代わって船内にあるのは、和・洋・中・デザート・酒・ツマミなど10台近くがズラリと並ぶ自動販売機群だ。こちらはレストランと違って24時間営業。

 ご飯ものならカツ丼、五目御飯に助六寿司、麺類なら天ぷらそばやうどん、種類の多いパスタにカップラーメン、お菓子。あと酒のツマミには塩ホルモン・さきいかなど。これだけ揃っていれば、2泊3日で5回の食事をとるには十分だろう。

 ただし、弁当類は冷凍状態で自販機から出てくるため、3台ズラリと並ぶ業務用のレンジで、商品ごとに振られた番号を推して解凍する必要がある。昔の「オーシャン東九」は、今はなきコンビニ「エーエム・ピーエム」の冷凍弁当を置いていた時期もあるが、形は変わっても種類豊富な冷凍弁当を楽しめることに変わりはない。

 なお、カウンターにはしょうゆ・唐辛子・塩・マヨネーズなどがズラリと並び、メニュー+味変のバリエーションに関しては、ほかの長距離フェリーの追随を許さない。おそらく何十度も乗船しているであろうトラックドライバーの方も、さつま揚げにマヨネーズや塩をかけ、風味を変えながら長時間かけてビールを飲む……。なお、テレビコーナー前にはタオル・下着・入浴用品などの自動販売機もあり、船上で「住め!」と言われれば、ずっと住めるレベルでモノが揃う環境だ。

徳島港では、ほとんどの自家用車が降りていく
徳島港内で南海フェリーとすれ違い

 こうして、まったり時間を過ごしている間にも、経由地である徳島港に入港。ここで、かなりのクルマと徒歩客が降りていき、船内はさらに静かになった。

ゆっくりフェリーでも、酔わないわけではない……揺れるのは「徳島出航後・足摺まわり」

 船は徳島港から約14時間かけて、北九州・新門司港を目指す……ここからが、若干の修羅場だ。

 太平洋でも、波の荒い遠州灘などを避けてきたオーシャン東九州フェリーも、室戸岬・足摺岬を過ぎるタイミングで、まあまあ激しく揺れる。日本海側ほどではないにせよ、慣れていても船酔いは必至だ。もちろん仕事どころではないため、東京~徳島間で体調良好だった方でも、徳島出航前に酔い止めを飲んでおくことをお勧めしたい。

ちょっとした気分転換に「32時間・東京~九州の旅」はいかが?

 船は大分県・佐賀関港と愛媛県・佐田岬の間を抜けるころから揺れなくなり、波静かに早朝の新門司港に到着、予約制の送迎バスに乗れば、北九州市・門司駅まで到達できる。

 どの交通機関より遅い分、ずば抜けてゆったりと時間をかけて快適に移動できて、海の解放感とグルメを味わえる「オーシャン東九フェリー」。一般的な会社勤めだと片道だけで2泊3日32時間の旅程の休みは取りづらいかもしれないが、一度は乗船してみてほしい。波の音を感じながら、ひたすらうたた寝する時間を過ごすのも、たまにはよいではないか。