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祇園の中心に全55室のラグジュアリーホテルが開業。弥栄会館を一部保存した「帝国ホテル 京都」館内を見てきた

2026年3月5日 開業
京都祇園に誕生したラグジュアリーホテル「帝国ホテル 京都」

 帝国ホテルは、同ブランドとして30年ぶり4軒目の新規開業となる「帝国ホテル 京都」(京都市東山区祇園町南側570-289)を3月5日に開業した。その内覧会に参加したので、新ホテルの見どころや魅力を紹介する。

「弥栄会館」の面影を今に伝える新ホテル

 帝国ホテル 京都は、国の登録有形文化財であり、京都市の歴史的風致形成建造物に指定されている「弥栄会館」の建築様式を受け継ぐ客室全55室のラグジュアリーホテル。

 弥栄会館は1936年に竣工した地上5階地下1階の鉄筋コンクリート造の劇場建築で、各階に銅板瓦葺き屋根をかけ、正面中央は城郭建築の天守を思わせる宝形造屋根としており、近代建築ながら日本らしさを織り込んだ造形が特徴的だ。当初は演劇や人形浄瑠璃の演技場として、さらに映画館やダンスホール、コンサートなどさまざまな興行が行なわれ、街のシンボルとして人々に親しまれてきた。

 帝国ホテルとして再出発することが決まったのは2018年のことで、コロナ禍を挟んで2022年に着工、そしてこのたび竣工し開業にいたった。ホテルの建設にあたっては、景観整備条例と京都国際文化観光都市建設計画における高度地区により、新築の場合は高さ12mまでの建物しか建てられないことと、重要文化財である弥栄会館の外観を保存するため、南側と西側の壁面のみを残して解体し、新たに建物を建設している。この弥栄会館の外壁を利用したエリアを「本棟保存」とし、その内側の新築エリアを「本棟」、そして本棟の北に隣接する「北棟」に分けて客室や設備を配置している。

 なお、「本棟保存」の外壁についても、弥栄会館の建設から100年を超えて使用するため、表面のタイルは新たに落下防止対策が施されている。さらにホテルを訪れる誰もが目にする南面(正面)の西側については、もともとあったタイルを「生け捕り」にし、健全性が確認されたもの再び利用するという手法が取られており、新たに製造された「復刻タイル」とあわせて帝国ホテル 京都の外構を彩っている。

ホテルは祇園の中心部を貫く花見小路通の沿道に誕生。舞妓や芸姑の姿も見られる風情ある街並みは国内外の旅行者に人気だ
写真向かって左面(西面)の大半は弥栄会館時代のタイルがそのまま活かされ、正面(南面)の西側は生け捕りタイルと復刻タイルが共存している。右の建物は、芸妓や舞妓が歌や踊り、楽器を練習し発表する歌舞練場
生け捕りタイルと復刻タイルが共存する南側の壁面。水平と垂直の複雑な組み合わせは、どことなく旧帝国ホテル本館(ライト館)とのつながりを感じさせる
軒瓦は粘土瓦ではなく銅板で、弥栄会館時代のものを復元。現在は赤銅色だが、これから数年をかけて表面に酸化皮膜ができ、やがて緑青に変化していく
2階の庇の部分には弥栄会館の開館当時からテラコッタ(建物を装飾する陶器)が貼り付けられており、そのほとんどを再利用しているという
エントランス正面。登録有形文化財であることを示す標識が目に留まった
車寄せの天井部分の装飾は、弥栄会館時代にホールの緞帳の上にあった壁面のデザイン(麻の葉)をアレンジしたもの
風除室天井のエッチングガラスは弥栄会館時代のものをそのまま使用。梅の枝がデザインされている
館内に入ってすぐの柱も弥栄会館時代のもの。イタリア北部で産出される赤色大理石、ロッソ・ブロッカテロ
館内は落ち着いた暗さで統一されている。最初に客を出迎えるのは、大きな一枚板のロゴ看板。吉野の水分神社の修験道に自生していた樹齢1000年の欅を使用しているという
ロゴ看板のホテル名は螺鈿細工。多くの人が一瞥するだけの装飾や調度品にもこだわりが詰まっている

宿泊者ラウンジは和のたたずまいの静かな空間

 宿泊者ラウンジはエントランスからドアを隔てた奥にあり、照明も控えめで、宿泊者がゆっくりとくつろげる空間としている。弥栄会館の外壁を残した設計のため吹き抜け構造にできなかったので、天井高は現在のホテルとしては低いが、水平方向に広がって見える空間構成としているとのこと。また、大きな窓に向かって掛込天井を傾斜させ、窓の外の庇へと続くように見せることで内外の境を曖昧にしており、広い縁側にいるような雰囲気を演出している。

 また、柱の材質や装飾、調度品や館内飾られている美術品もそれぞれに「弥栄会館」「帝国ホテル」「京都」といったキーワードでこだわって選定している。例えば、ラウンジの柱に埋め込まれた装飾はライト館(旧帝国ホテル)で使っていたテラコッタデザインの鋳物をあしらっており、テーブルは弥栄会館時代に流行したというアール・デコ様式の多角形のデザインを採用している。

 なお、これからあとの写真は、カメラ任せにすると明るくなってしまうので露出をマニュアルで調整し、見た感じに近い明るさとしている。落ち着いたたたずまいも感じ取っていただきたい。

水平方向に広がって見える作りとしたというラウンジ。ソファの配置などにも余裕がありリラックスできそうだ
開放感のある大きな窓と坪庭。天井を傾斜させて庇と続くように見せている
ここが帝国ホテルであることを強調するテラコッタデザインの鋳物
テーブル、チェアなどの家具は多角形のアール・デコ様式のデザインで製作
レセプション。天井が低いことでホールに声が響きにくい効果もありそうだ
ロビ-の柱に使用している沖永良部島産の「田皆石」。海底堆積物の大理石で、海棲生物の化石が含まれている
こちらは、見学中に館内廊下で見かけた柱。黄色味がかかった大谷石はライト館の建築と同年代に採石されたことを表わす。なお、現在採石できるものはもっと灰色に近いという
館内エレベーターホール前の客室番号を示した表示。弥栄会館の設計図に手書きされていた特徴的な書体を採用した。設計図に見当たらなかった数字は今回新たに作成したという
数々のこだわりを説明する帝国ホテル 京都 総支配人室 課長の鮎川啓氏

こだわりの自然素材を多用したくつろぎの宿泊室

 客室は全12タイプ55室。すべての部屋が50m2以上で、ゆったりとした広さが最大の特徴だ。ラグジュアリーホテルだが決して内装は華美ではなく、国産の木材や壁土を使用し、また調度品や工芸品もさりげなく飾られている。帝国ホテルらしい伝統と格式を重視し、また京都らしい静けさや清潔さが感じられるしつらえである。

 また、歌舞練場や祇園に隣接するというロケーションを活かし、例えば窓から歌舞練場の大屋根が正面に見えたり、ふすまを開くと芸舞妓が通う路地が目の前にあったりと、それぞれの部屋の位置を最大限に利用した設計となっているようだ。宿泊料金は1室2名15万9400円~と決して安いとは言えないが、特にインバウンドの富裕層にとっては帝国ホテル 京都の侘び寂びすら感じるたたずまいは魅力的に映るだろう。

客室タイプの例

グランドプレミア(北棟):
50~71m2、4室
1室2名20万8000円~(税サ込、宿泊税別)
ヘリテージジュニアスイート(本棟保存):
79~100m2、3室
1室2名25万5600円~(税サ込、宿泊税別)
グランドプレミア バルコニー付(本棟):
57~65m2、12室(うちバルコニー付き1室)
1室2名31万6300円~(税サ込、宿泊税別)
弥栄スイート(本棟保存):
103m2+バルコニー13m2
1室62万2400円~(税サ込、宿泊税別)
インペリアルスイート(本棟):
128m2+テラス65m2(ガゼボ付)
1室300万円~(税サ込、宿泊税別)

「弥栄スイート」のベッドルーム。ヘッドボードと一体になっている大きな杉板の模様が美しい。客室のヘッドボードには吉野杉など全国5か所の産地のものを使用しているという
ソファが置かれた一角は、ベッドルームと壁で隔たれているわけではないが個室のような雰囲気。弥栄会館の壁から切り出したというタイルの「鳩」もさりげなく飾られている
バルコニーは南と西に開けており、歌舞練場が眼前に。壁面のタイル、テラコッタ、銅板の軒瓦など弥栄会館から受け継いだ装飾もつぶさに見られる
「ヘリテージジュニアスイート」はベッドの奥の窓際にソファスペースを設けている。室内が広く感じられる
眼前に「歌舞練場」の看板。時間帯によってここに通う芸舞妓の姿も見下ろせるそうだ
「インペリアルスイート」のテラスからの夜景(提供:帝国ホテル、Photo Masatomo Moriyama)

五感で楽しめる洗練のレストラン、バー

 館内にはレストラン2か所、バーが2か所あり、このうちレストランとバー1か所は宿泊者以外でも利用できる。

レストラン「錬」(フランス料理/ディナー)

 帝国ホテルが受け継いできたフランス料理をもとに、京都の風土と向き合い、二十四節気の移ろいを表現したメニューを提供する。カウンターは料理人の所作、調理の熱、料理の香りを間近で感じられ、料理を五感で楽しめる。

営業時間: 17時30分~22時30分(L.O.20時30分)
※日曜定休(翌月曜が祝日の場合は日曜営業、月曜休み)
席数: 全18席(カウンター10席、テーブル4席)

本棟2階レストラン「練」ではフランス料理を提供する
カウンターは料理人との一期一会の舞台だ
サービングボード……というのだろうか。「錬」専用に特注された陶器だという。食器、ワイングラスも楽しみたい
テーブル席は個室で、家族や気のおけない友人同士に最適

レストラン「弥栄」(オールデイダイニング)

 薪や炭を用いたグリルオーブンを設け、帝国ホテル伝統の洋食とかけ合わせた新しい味わいを提供する。例えば薪窯グリルで焼いたハンバーガーは、炭火焼きとも異なる薪の香ばしさが感じられるという。帝国ホテル伝統のカレーライスやパンケーキといったメニューも用意。祇園の観光のついでに食事に立ち寄るのもよさそうだ。

営業時間:
[朝食]6時30分(和朝食は7時)~10時30分(L.O.10時)
[ランチ]11時30分~14時30分
[ティータイム]14時30分~17時30分
[ディナー]17時30分~22時(ラストオーダー21時30分)
席数: 全54席

本棟2階レストラン「弥栄」はオールデイダイニング。ブレックファスト、ランチ、ティータイム、ディナーを提供する
柱がある空間のため開放感はないが、その分まわりが気になりにくくゆったりと食事が楽しめそう

オールドインペリアルバー

“帝国”の名を冠したクラシカルなオーセンティックバー。壁面はライト館を思わせる装飾がなされ、伝統と格式が感じられる。カウンター越しに京都の街並みと東山、北山、比叡山を一望できる。帝国ホテルで100年以上提供し続けてきたオリジナルカクテル「マウント フジ」をベースに、抹茶や柚子など京の素材を加えて完成させた「マウント 比叡」は帝国ホテル 京都限定。

営業時間: 17時~24時(L.O.23時30分)
席数: 全19席(カウンター10席、ボックス8席)

本棟7階「オールドインペリアルバー」
カウンターからは京都の夜景とともに洗練されたバーテンダーの所作も楽しめる
「マウント 比叡」(写真中央)は帝国ホテル 京都限定のオリジナルカクテル(提供:帝国ホテル)

ザ ルーフトップ ※宿泊者限定

 本棟屋上にはルーフトップバーもお目見えする。帝国ホテル 京都の周囲に背の高い建物はなく、北向き、西向きの眺望は抜群。またドリンク類は「オールドインペリアルバー」と同様のものを提供するという。ただし、3月下旬から11月下旬までの季節限定営業で、悪天候時や猛暑が予想される日中も休業となる。穏やかな天候の夜間などに贅沢な時間を過ごせそうだ。

営業時間: 11時~22時(L.O.21時30分)
※冬季(11月下旬~3月下旬)休業。悪天候時や猛暑が予想される日中は臨時休業

本棟屋上階「ザ ルーフトップ」。カウンター席は北向きで京都の街並を見下ろせる。写真左の山は比叡山
全24席で、取材時はパラソルヒーターを設置していた

祇園の地下に広大なウェルネス空間が出現

 帝国ホテル 京都には、現代のラグジュアリーホテルらしくプール、フィットネスジム、サウナ・温浴、スパトリートメントといったウェルネスの設備も充実している。いずれも地下1階にあり、利用は宿泊者限定。取材時はこのうちプールを見学できた。圧巻の光景は一見の価値あり。また喧騒を離れてリラックスできる空間なので、宿泊の際にはぜひプールの利用(無料)をお勧めしたい。

地下1階はウェルネスエリア。受付には巨大な石。特に説明はなかったが、プールの壁面と同じ石材だろうか
通路の先に突然広大な空間が出現。明るさや温度も計算された快適さを感じた
壁面には弥栄会館時代に外壁の一部に使用された北木石を使用。まるで洞窟と地下水脈のよう
底のタイルも見え方にこだわったもの。タイルを張って水を入れ、また張り替えて水を入れと数度繰り返したそうだ

人気商品や限定スイーツが並ぶペストリーショップ

 1階、エントランス脇には「ザ ペストリーショップ」があり、帝国ホテル人気のケーキや焼き菓子などに加え、帝国ホテル 京都オリジナルの商品を用意している。これらの商品は季節に合わせて変化していくという。営業時間は11時~19時で、宿泊者以外でも利用可能。

1階「ザ ペストリーショップ」
帝国ホテル 東京と同じショートケーキに加え、芸舞妓の持つうちわをモチーフにしたフロマージュ(京都限定)などもラインアップ。帝国ホテル伝統のブルーベリーパイも、芸舞妓が大きく口を開けずに食べられるミニサイズで誕生
お土産に喜ばれるチョコレートや焼き菓子。アーモンドパイは京都オリジナルでパッケージも限定のもの

 4月5日に開業した帝国ホテル 京都。京都を代表する人気観光地の一つ、祇園のど真ん中にこれだけの規模のホテルが開業したにもかかわらず、正面から見た外観は長年親しまれてきた地域のランドマークとしての弥栄会館から大きく変わっていないため、歌舞練場などを訪れる観光客からはここが新しい帝国ホテルだとは認識できないかもしれない。それほど街に溶け込んでいる一方で、内装は和のしつらえのラグジュアリーホテルとして申し分のないクオリティに仕上がっている。

 祇園に新たに誕生したハイクオリティホテルは、特別な日や人と京都で過ごす時間をより彩ってくれる。もちろん、宿泊せずともレストランやペストリーショップの利用は可能なので、弥栄会館の面影を強く残したラグジュアリー空間を訪れてみるのも楽しそうだ。