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消えゆく「溝の口・新横浜 ズバッと短絡バス」を惜しむ。身内の鉄道新線に抗った歴史

東急バス・溝の口駅~新横浜駅直行バスが運行を終了へ

第三京浜経由の新横浜直行バス、運行終了へ

 国内有数に混み合うJR南武線・東急田園都市線の沿線から、新横浜駅までズバッとアクセスして、サッと新幹線に乗りたい! そんな願いをかなえてくれた「東急バス・溝の口駅~新横浜駅直行バス」が、まもなく姿を消す。

 2001年に開業した新横浜直行バスは、南武線・武蔵溝ノ口駅と東急・溝の口駅が併設されたエリアを出て有料道路「第3京浜道路」で横浜市内に入り、30分ほどで新横浜駅に向かっていた。全盛期には1時間に2~3本も運行があり、乗客も多かった新横浜直行バスは、なぜいま運行を終了するのか。

 改めて乗車したうえで沿線を巡ってみたところ、ただ単に「溝の口~新横浜」という駅間を結ぶにとどまらず、広く需要を掴んでいたでいたことがうかがい知れた。2023年に鉄道新線「東急新横浜線」が開業したあとも、減便しながら生き残っていた新横浜直行バスの歴史を辿ってみよう。

東急バス・溝の口駅~新横浜駅直行バス(東急バスWebサイトより)

新幹線駅へビューンとワープ! だけでない役割

第三京浜道路では、つねに左側車線を走る

 川崎市と横浜市の間を結ぶこのバス路線は、並行する一般道がほとんどなく、溝の口~新横浜間の純粋な移動需要は、ほぼないといっていい。にもかかわらず、開業当時から長らく重宝されたのは、「新幹線駅へのショートカット移動」を果たしていたことが大きい。

 2023年に東急新横浜線が開業する以前、南武線や田園都市線から新幹線・新横浜駅への鉄道移動は「南武線で川崎→東神奈川から横浜線で新横浜」もしくは「東急田園都市線であざみ野、横浜線で新横浜」という、1時間近い迂回を必要とするものだった。

 かつ、両路線とも日中を通じて激しく混雑するため、かなりの体力を奪われる。新横浜エリアへのアクセスが不便過ぎるがゆえに、「溝の口駅で降りて、バスで30分」「ちょっと強気な運賃(片道現金500円)」という条件の直行バスが、十分過ぎるほど勝負になったのだ。

 さらに、両駅側でのビジネス需要・イベント需要があったことも大きい。

 まず溝の口駅側には、AI、バイオ、IT関連企業が集積する「KSP(かながわサイエンスパーク)」(1989年開設)があり、周辺には東芝・ダイキンなどの拠点も点在する。さらに周辺のマンションや「洗足音楽大学」もあり、溝の口駅を出て次の「高津高校前」「高津中学校入口」バス停から乗り込み、新横浜駅で新幹線に乗り継ぐ出張客も、それなりに多かったのだ。

 一方で新横浜駅側で、日によって多かったのが「日産スタジアム前」での乗降だ。特にサッカー・Jリーグ「横浜F・マリノス」の試合がスタジアムで開催される日などはバスも満杯で、続行便が次から次へと出るほどの盛況ぶりであった。一方で、川崎市側のJリーグチーム「川崎フロンターレ」の「Uvanceとどろきスタジアム」も溝の口駅からバスが出ており、フロンターレのエリア(川崎市)からFマリノス戦へ、マリノスのエリア(横浜市)からフロンターレ戦へ、といった使い方をされていた。試合日の新横浜直行バスは、恐ろしくサッカー色が強かった。

日産スタジアム近辺を走行

 こうして振り返ると、このバスは路線の両側とも、「駅~駅」だけでない需要の掘り起こしに成功していた。運行体制も「溝の口発は6時始発、朝は1時間3本」「新横浜駅発は22時54分発」とかなり広範囲な時間帯で運行を続け、どの時間帯も乗客の多い時代が、確かにあった。にもかかわらず、このあと急激な衰退に見舞われる。

鉄道の「新横浜線」開業で一気に衰退

「新横浜線」直通車両

 新横浜直行バスの乗客が一気に減少した要因は、やはり2023年に開業した「東急新横浜線」の影響が大きい。

 この路線は、南武線・東急東横線が交差する武蔵小杉駅から、新横浜にほぼ一直線でアクセスできる。JR南武線・東急田園都市線から新幹線に乗車するユーザーにとっては、新横浜までの鉄道乗り換えが1回で済むうえに、所要時間も快適さも新線の方が上とあっては、わざわざ溝の口で降りてバスに乗り換える意味がない。

 直行バスはコロナ禍でかなりの客数減少に見舞われており、新横浜線開業のタイミングで廃止してもよかったのかもしれない。しかし、存続したことでさらにバス利用者は激減してしまった。

 いくら「その他」需要が細かくあったとしても、肝心の「新幹線乗り換え」需要が激減してしまっては、元も子もない。東急バスも2024年には1日最大12本を削減したうえで「1時間に1本もバスがない時間帯」を設け、本数を減らしながら運行していたが、存続はかなわなかった。

 東急バスのWebサイトに掲出されたところによると、新横浜直行バスの廃止理由は「コロナ後の利用者減少」であって、最近のバス廃止に多い「運転手不足」は、めずらしく明記されていない。

 さらにご丁寧に「日産スタジアムのイベント時も含め、運行はございません」と併記されており、今後の路線復活はまず難しいだろう。一時代を築いた「高速道路・有料道路経由の路線バス」に乗りに行くなら、運行終了前の今しかない。