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日田彦山線“鉄道として”書類上廃止へ。後継のBRTを悩ませる「東峰村の駅が利用低迷」問題を探る
2026年1月13日 17:00
「10年走っていない日田彦山線」ついに正式廃止へ
1世紀以上にわたって走り続けた「JR日田彦山線」の南半分に当たる添田駅~夜明駅間(29.2km)が、鉄道路線として幕を閉じることになった。
この区間は、2017年に発生した「九州北部豪雨」による被災で足掛け10年も列車が運行していなかった。一部区間で線路跡の専用道を通るバス路線「BRTひこぼしライン」(日田彦山線BRT)が2023年8月から運行しており、すでに鉄道代替の役割を果たしている。
JR九州も「今回の手続きは、鉄道事業法第28条の2に基づく鉄道事業の廃止の手続きであり、BRTひこぼしラインの運行ダイヤ、運賃、サービス内容等に一切の変更はございません」としており、廃止に差支えがないと判断されれば、前倒しで繰り上げられる可能性もありそうだ。
日田彦山線のなかでも、廃止となる区間は全長約4kmの「釈迦岳トンネル」で県境を貫き、山裾を長大なアーチ橋ですり抜けていたため、線形は比較的良好であった。かつて運行していた「快速・日田」なら小倉駅~日田駅が2時間、添田駅~日田駅が1時間弱と、鉄道としての速達・短絡の役割を、ある程度は果たしていたと言えるだろう。
そんな日田彦山線を受け継いだ「BRTひこぼしライン」だが、ちょっと変わった現象が起きているという。両端の福岡県添田町・大分県日田市の利用は好調であるものの、総事業費26億円をかけて14kmものバス専用道を整備したはずの福岡県東峰村で、各駅の利用が伸び悩んでいるというのだ。
東峰村内では福岡県朝倉市方面へのバスが乗合タクシーに転換されたばかりで、BRTは村内唯一のバス路線として、BRTがもっと重宝されていてもおかしくない。にもかかわらず、なぜ利用が伸び悩むのか。
BRTひこぼしラインの開業前、バス専用道の工事中に現地訪れた筆者の記録をもとに、その理由を読み解いていこう。
「BRTひこぼしライン」は好調。でも、途中の村だけ……
まず、BRTひこぼしラインの利用実績を見てみよう。2025年現在の1日利用者は270人。2025年には累積利用者数が20万人を突破した。1kmあたりの利用で換算しても1日164人(2023年度)と、鉄道であったころの1日131人(2016年度)を上回る。おおむね、鉄道より好調に推移しているといっていいだろう。
バスの乗客増の要因としては、まず「便利になった」こと。鉄道時代の10駅に加えて20か所以上の停留所を新設し、1日20本程度であった運行本数も30便以上まで増加させた。時間帯によっては想定外に利用者が多い場合もあるようで、開業時に準備した電気バス4台・ディーゼルバス2台の計6台にくわえて、中型バス1台を追加で配備したところだ。
一方で、東峰村内の利用状況はどうか? 添田駅や日田駅の利用者は1日当たり60人以上いるが、東峰村の村内にある筑前岩屋、大行司、宝珠山の3駅を合計しても、利用者は30人以下にとどまる(2024年度)。
一番の理由として挙げられるのは「使いづらさ」だろう。特に大行司駅は、駅舎からホームにたどり着くまでに高低差15m、70段以上の石段をのぼる必要があり、少なくとも5分~10分前までに駅舎にたどり着く必要がある。
この駅の周辺、ホームから降りた先の平地には村で最大規模の商店街もあり、「平成の大合併」で東峰村が発足する前の旧・宝珠山村役場(現在は支所)もある。BRTは鉄道に比べて高校・病院を経由するルートをとっており、普段使いするような利用者ももっといるはずだが、当初の想定であった「1日利用者20人」には、届いていない。
宝珠山駅も、集落から大肥川を越えた先にあり、利用者は1日9人。周辺人口がもっともまばらな筑前岩屋駅が、一番利用されているといった状況だ。こうして見ると、東峰村内の利用の伸び悩みの要因は、「バス専用道上にある駅にアクセスしづらい」点にあるだろう。
こういった問題は、鉄道運休の前から分かり切っていた問題であったが、東峰村では、「鉄道が走る風景に愛着や誇りを持っている」「JR九州が災害前の状態に復旧するのが本来の形、鉄道がバスに置き換わることは考えられない」と、2017年の不通から3年にわたって強硬に反対を続け、最終的に「鉄道ルートの専用道化」で妥協した。
なお、BRTでの復帰が検討された当初は「釈迦岳トンネルの前後(約9km)のみ専用道、ほかは一般道」という案が出されていた。もし一般道経由であれば、役場の最短距離にも、喫茶店や食堂・酒屋などがある商店街の目の前にも、所要時間もほぼ変わらず立ち寄れたであろう。
いわば「沿線3市町村でもっとも鉄道にこだわり、わざわざ不便な専用道ルートで復活した」からこそ、専用道にある駅の利用が伸び悩んだようにも見える。
並行する道路がない彦山駅~筑前岩屋駅間はバス専用道が必要だったとしても、それ以外の区間でわざわざ駅を不便な位置に設定したことが、利用者増加に歯止めをかけてしまった。BRTひこぼしラインの今後のためにも、「わざわざ不便な駅」の利用促進を、東峰村が率先して行なう必要があるだろう。
利用者8人の大行司駅に1億円のスロープカー?
鉄道の名残を残すがゆえに、バス専用道にある駅は不便だ。だからこそ東峰村は、村内3駅の改修に予算を投じつつ、利便性を上げる「東峰村地域公共交通利便増進実施計画」に取り組んでいる。
大行司駅の利用水準を当初の「1日利用者20人」に押し上げるためには、まず15mもの高低差と石段移動をなんとかしなければいけない。そのために、「スロープカー」(無人で昇降できる「斜行エレベーター」の一種)を新設する方針だという。
駅の利用者のために設置となると利用が限られそうだが、村によると「スロープカーの設置自体が1つの目玉となり、観光名所になる」とのこと。20kmほど北側の英彦山や、北九州市・皿倉山などにも同様のスロープカーがあって、この辺ではめずらしくないのだが……。おそらく景色以外に「1つの目玉になる」ような仕掛けが施されるのだろう。
ほか、トイレ整備なども含めて、大行司駅回収の総事業費は「1億2266万円」。2024年に村内で募られたパブリックコメントでは、意見を提出した全員が「設置反対」「ムダ」というった意見を提出していたが、「国の補助金で村の負担は少なくなる」といった名目で、事業はそのまま継続される見通しだ。
また、筑前岩屋駅にもヤマメの養殖施設を駅チカに整備し、木造平屋建ての駅舎が残る宝珠山駅には、村の木材を使ったキッズルームや、軽食が取れるカフェなどを、こちらも総事業費「1億1216万円」を使って設置するという。
ただ、利用低迷の一因でもある「なぜ高台の駅舎を残したのか」「人里離れた専用道にルートを設定してしまったのか」という議論は、どうも置き去られがちだ。一般道経由ならもっと停車箇所を増加させることもできたうえに、大行司駅ホームの高低差などもクリアできたはずだが。
復旧費用を払わず→不便な駅に多量投資
2017年後に提示された鉄道復旧の条件は「総事業費70億円、東峰村の負担は年1.6億円」というものであり、ここで東峰村が「(鉄道廃止は)死刑宣告と同じ」と明言して「鉄道復旧以外認めず、費用も払わず」といった姿勢をとったからこそ、村の生活圏から離れたバス専用道案が、現実のものとなってしまった。
そのうえで、駅の利用者を増加させるために、東峰村は総額2億円以上の利用促進策を講じることになった。村内の専用道と駅がある限り、こういった努力を村単独で続け、国や県に補助を要求し続ける必要があるだろう。鉄道にこだわったがゆえに「負の遺産」として現われたバス専用道への対策からは、逃げることができない。
日田彦山線の代替を担うBRTひこぼしラインは鉄道時代より好調と言えど、利用者が少ない事実にかわりなく、JR九州の古宮洋二社長も「専用道の初期投資の重さ」「経営上の苦境」をたびたび語っている。今後とも各地で生じるであろう「鉄道廃止・バス代行」といったケースに対して、時代に合わない「鉄道の面影」にこだわらず、どれだけ日常利用ができる代替交通を作れるのか?
鉄道としての日田彦山線が消滅したのちも、あとを受け継いだBRTひこぼしラインがどう利用者を獲得していくか。全国の「ローカル線の将来性」を考えるうえでの試金石として、注意深く見守っていきたい。




























