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JR陸羽西線、4年ぶり運行再開。所要時間が「ほぼ倍」だった代行バス、復活した列車が果たす役割とは
2026年1月16日 14:03
「被災しなくても長期運休」陸羽西線の不思議
2022年5月から運休が続いていた「JR陸羽西線」(新庄駅~余目駅、43km)が、1月16日から運行を再開した。3年8か月にわたって鉄道の代わりに走り続けた代行バスは、前日の15日をもって運行を終了した。
各地のローカル線では、台風や集中豪雨の被災による長期運休、その後廃止となるケースが相次いでいる。しかし、陸羽西線の場合は若干事情が異なるうえに、全線をカバーする代行バスの使い勝手にも問題があったという。
この「陸羽西線」は、代行バスがなかなか担えない役割を果たしていたようだ。現地で代行バスに乗車した際の写真とともに、運行再開にいたるまでの経緯と、これから鉄道が果たしそうな役割について考えてみよう。
「鉄道トンネルの3m下に道路トンネル建設」脆過ぎる地質との戦い
陸羽西線が長期運休に入るきっかけとなったのは、地域高規格道路「新庄酒田道路」の工事によるものだった。その一部である「高屋道路」内の「高屋トンネル」は陸羽西線のトンネルの間隔が3mほどしかない地中を掘削せざるを得ず、鉄道トンネルの補強を行ない、そのうえで道路トンネル工事を進める必要があったのだ。本当に列車を運休する必要があったのか……? まずは現地を見てみよう(運休3か月後、2022年7月時点)。
現地は川幅200mほどの最上川沿いにあり、わずかな平地以外は急な山に挟まれ、道路やトンネル坑口を作れそうな場所がほかにない。かつ、陸羽西線にほぼ並行したルートでの工事が必要となり、トンネル同士が干渉するのもやむを得ないと思わせる急峻な地形だ。
そして、鉄道側の「第二高屋トンネル」は、1914年(大正3年)の開業と同時に開通した、レンガ造りの鉄道トンネルだ。今の道路(国道47号)より高台を走っているために見えづらいが、卵形トンネルの上部・扁額(トンネル名のプレート)の下には、ひび割れとおぼしき痕跡が見て取れた。肉眼で見ても、100年を越えたトンネルの老朽化は否めない。
道路トンネルの工事に当たっては、湧水などの水脈を確認しながら、慎重に工事を進める必要があったという。かつ、この一帯はもとより地滑りが多発する地域であり、工事中にも風化が進んだ泥岩やひび割れが多数見つかった。こういった場合、鉄道トンネル側に「アンダーピニング」(支保工)による補強を施して運行を継続する場合もあるが、陸羽西線の場合はあまりにも地形が脆く、補強にも限界がある。
鉄道を全面運休したうえで道路トンネル工事を行なう方針は早くから決まっていたが、工事中の2023年6月には、山形河川国道事務所から「鉄道トンネル補強の大幅見直し」ならびに、「2024年度中」とされていた運行再開の1年延期が発表された。ここまでの難工事だと、3年8か月という異例の長期運休も、やむを得なかったのだろう。
なお道路側の高屋トンネルは、2025年8月にすでに貫通。あとはトンネル内側にコンクリートをまく「覆工」工事や坑門部(入口)やトンネル出口の開削部分の工事のみとなるが、開通予定時期はまだ公表されていない。
代行バスは所要時間1.5倍! 要因は「鉄道速すぎ、バス遅すぎ」
今度は、陸羽西線の代行バスに乗車してみよう。このバスは、鉄道なら快速で1時間弱の新庄~酒田間を90分強、普通列車で46分の新庄~余目間も90分強。必要以上に所要時間がかかることから、特に庄内地方側(余目駅側)での評判は芳しくなかったという。
その原因は「こまめに駅を経由する」こと。特に酒田市側は、余目駅・狩川駅・清川駅などが国道47号から離れた場所にあり、こまめに立ち寄る代行バスは鉄道より所要時間が大幅に増加。鉄道なら10分少々だった区間を30分近くかけて走るため、余目駅から1kmほど先の「余目総合高校」などの通学は、代行バスだとそうとうに不便だったという。
かつ、余目駅の北側には人口9.6万人の酒田市、南側は人口11.2万人の鶴岡市がある。快速バスが直通で駅に乗り入れる酒田市はともかく、JR羽越本線との接続もよくない鶴岡市には、かなり移動しづらくなっていた。また、運休期間中に決まったバス増便も、所要時間の関係で「酒田市で行動できる時間が短くなる」といった声に応じたものだという。
なお、高屋駅はかなりの高台にあったため、工事期間中は駅への道路自体が立ち入り禁止、崖下の国道沿いにバス停が設けられた……が、もともと高屋駅は「1日3人」と利用が極端に少なく、実際にここから代行バスを利用した際も、いったん通過しようとした運転手さんが驚いてブレーキを踏んで「すいません! ここから乗る人、数日に1人くらいなんです」と言うほどに、利用されていない様子が伺えた。
2026年1月の鉄道運行再開後には、高屋駅ならびに陸前前波駅が全便通過となり、正式な廃止に向けた検討が始まる見込みだ。陸羽西線は全線利用される方も多いもの、朝晩以外の途中区間での利用が少ない。
「ローカル線なのに爆速!」実は快適、陸羽西線の実力
代行バスにこうした不便の声が上がるのも、陸羽西線が「地方の鉄道路線にしては速く、乗り心地がよかった」からであろう。山形県の内陸部と庄内地方を結ぶこの路線はトンネルを多用しており、ローカル線と思って乗車すると最高速度95kmの爆速走行に驚いてしまう。
さらに、この路線は新庄駅で山形新幹線に接続しており、県庁がある山形市から庄内地方に、新幹線・鉄道を乗り継いで2時間程度で到着できる。高速バスでもさほど変わらない時間で到着できるが、高速道路が途切れる月山周辺は雪・悪天候の影響をことに受けやすく、少々遠回りでも「山形市→新庄市→庄内地方」の鉄道移動を選ぶ人々が、それなりにいるそうだ。
ただ、同じ山形県内といえど、内陸部の最上地方から庄内地方への移動は限られる。かつ、陸羽西線の途中区間である清川村・戸沢村は両村を足しても7000人ほどしかなく、人口稀薄な沿線からの途中乗車も増加しそうにない。陸羽西線の1日利用者(平均通過人員)は、1987年の「2185人」から2021年には「192人」、バス代行が続く2024年には「117人」まで、30数年で94%も落ち込んでいるのが現状だ。
JR東日本管内の利用水準で見ると、北上線 ほっとゆだ駅~横手駅(1日118人)、磐越西線 野沢駅~津川駅間(1日117人)などの県境越え区間と並ぶ。地域をまたぐとはいえ、全線で山形県内を走る陸羽西線の低迷ぶりが、お分かりいただけるだろうか。
本来は廃止検討が始まるほどの乗車実績だが、それでも陸羽西線が見放されることはなかった。新庄駅で山形新幹線が接続していることもあって、陸羽西線は「新幹線から庄内地方に到達できる鉄道路線」だったのだ。
この好条件を利用して、2021年には「庄内北前ガニ・鮎の首都圏輸送」(朝6時に酒田発、11時前に東京着)という貨物輸送の実験も行なわれた。また9割近くを航空(庄内空港)に握られているとはいえ、首都圏~庄内地方間の最後のひと区間を、陸羽西線が担っていたのだ。
助成金で利用増加させたい山形県
地元の方々にとっては、「冬場のスクールバス増便のために年間6300万の3分の1が消える」「過去10年で49回もの全面通行止めが発生」「山形県内でもっとも事故多発」という国道47号線のバイパス完成の方が、身近でもあり喜ばしいかもしれない。一方で陸羽西線の地元利用となると、特に戸沢村がスクールバス拡充に力を入れており、利用者増加につながる動きが、さほど見られないのが気がかりではある。
しかし、山形県は独自で「やまがた鉄道沿線活性化助成金」を設立し、被災で長期運休に見舞われた奥羽本線(2025年4月から新庄駅~院内駅間が運行再開)、いまだに運休が続く陸羽東線(新庄駅~鳴子温泉駅間は2027年ごろに運行再開見込み)などとともに、陸羽西線の利用者を獲得しようとしている。
不便だった代行バスが使命を終えて、便利で速い鉄道が復活。便利なのは確かだが最上地方~庄内地方の移動の少なさ、沿線人口の希薄さなどで、利用がそこまで伸びそうにない……。そんな悩みを抱えるJR陸羽西線が、どこまで利用を獲得していくか。行方を見守りたい。



























