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リニア中央新幹線で初のトンネル貫通が第一南巨摩トンネルで成し遂げられる。貫通の瞬間に立ち会ってきた!

2023年10月13日 実施

第一南巨摩トンネルの品川方坑口。こちらから710mほど南西に向けて掘削した

 JR東海は10月13日、リニア中央新幹線の第一南巨摩トンネルにて貫通式を行なった。山梨県内においては、すでにテスト走行を重ねているリニア実験線の西側と東側で工事が進められており、第一南巨摩トンネルは甲府盆地を抜け、南アルプスの山岳部に向かう入口ともいえる場所だ。当日はJR東海や施工業者、地元の富士川町の関係者など160人が出席した。

トンネルの内部は横幅が12.8m、高さが7.6mあり、かなりの広さを感じる。

 JR東海のWebでも公開しているが、山梨県内では「南アルプストンネル(山梨県側)」「第四南巨摩トンネル」「第一南巨摩トンネル」「利根川公園部高架橋」「釜無川橋りょう」「臼井阿原高架橋」「笛吹川・濁川橋りょう」の工事が行なわれている。

 山梨県内の路線長は、地上部が27.1km、トンネル部が56.3kmの合計83.4km(山梨リニア実験線42.8kmを含む)で、現在は主にトンネルの掘削と高架橋の設置を行なっている。

 公開された第一南巨摩トンネルは品川方面から掘削を2023年3月に始めて、約1年7か月をかけてトンネルが貫通した。リニア実験線を除けば、品川~名古屋間における本坑(実際に走行する本線トンネル)としては初めて貫通したことになる。

JR東海は工事の進捗状況をWebで公開している

 第一南巨摩トンネルの掘削延長は約710mで、山岳トンネルで標準工法とされている「NATM(New Austrian Tunnelling Method)」を用いて行なわれた。NATMは地山をダイナマイトによる発破や機械によって掘削を行ない、掘削後は周囲にコンクリートを吹き付けてロックボルトを通して補強し、安全に配慮しながら効率的に工事を進める手法だ。貫通したあとはトンネルを仕上げるため防水シートを設置し、覆工コンクリート、路盤コンクリートで固めて完成となる。式典会場に至るまでの間には、掘削で使われるドリルジャンボ、土砂を運び出す重ダンプトラック、壁面をコンクリートで固めるコンクリート吹付機が展示されていた。

NATMの動画による説明
NATM工法
掘削面にダイナマイトを挿入する穴を開けるドリルジャンボ
大量の土砂を一度に運べる重ダンプトラック
長いアームを備えたコンクリート吹付機
近くにいる人と比べるとその大きさが分かる

 式典が始まると早速、穴を開けるための貫通作業が行なわれた。掘削最前面に対してブレーカーを当て、「ダダダダッ!」と轟音を響かせながら削岩を開始。皆が作業を見守るなか、2分ほどで穴が開いて光が差し込むと、拍手と万歳で貫通を祝った。

ブレーカーで掘削を開始!
粉塵が舞うなか光が美しく差し込み、参列者は拍手で祝う
開口部からは山肌を覆う緑も見える
貫通の瞬間

 事業者を代表としては、JR東海 中央新幹線山梨西工事事務所 所長の渡辺隆氏が登壇。掘削を始めてまもなくして地盤の弱い個所に遭遇したが、工事共同企業体、協力会社の確かな技術で難関をくぐり抜けて本日に至ったことを説明した。今後も第二南巨摩トンネル、第三南巨摩トンネルと工事は続いていくが、「引き続き事業者と施工者が一体となり、工事の安全、環境の保全、地域連携を重視して取り組んでまいります」と話した。

東海旅客鉄道株式会社 中央新幹線山梨西工事事務所 所長 渡辺隆氏

 地元の代表者としては、富士川町長の望月利樹氏が登壇して祝辞を述べた。貫通した瞬間は携わった人たちの苦労が報われたのではないかとし、「この光の先には未来が見えます。私も本当に感激しているところでございます」と立ち会えた感想を述べた。また、本坑としては初めて貫通したことにも触れ、地元自治体としてうれしく思っていると話し、今後は国土強靱化という意味でも早期開通を望んでいると述べた。祝辞のあとには施工者から貫通石が記念に贈られた。

富士川町長 望月利樹氏
貫通石の贈呈

 望月町長は囲み取材において、今回の貫通で出た石を使ったお守りをふるさと納税の返礼品として用意することも説明した。トンネルの貫通点で採取された石は「貫通石」と呼ばれ、神功皇后が戦いにおいて「敵の背後まで掘った洞窟からの攻撃で大勝利を得て記念にその洞窟の石を持ち帰ったところ、元気な赤子を無事に出産できた」という言い伝えにちなんで安産のお守りとして珍重されてきた。トンネル工事は現代においても難しい工事であり、「難関突破」「初志貫徹」を象徴しているとし、最近では合格祈願のお守りとしても人気があるそうだ。

今回の貫通石を封入したお守りをふるさと納税の返礼品として用意するそうだ

 式典のあとは現場にある展望台から周囲の景色を撮影できた。リニア中央新幹線の走行区間は8割以上が地下や山岳トンネルになるが、甲府盆地は高架部分が多いため、橋りょうなどの工事も遠目にうっすらと確認できた。

工事現場の展望台から甲府盆地を撮影したもの。中央に写っている鉄塔の奥に利根川公園部高架橋が見える