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JR東海、7月1日デビューの新型新幹線「N700S」量産車を公開。700系のアルミ材をリサイクルして使用。全席にコンセント

2020年6月13日 公開

2020年7月1日 営業運転開始

7月1日投入予定の新型新幹線「N700S」の量産車

 JR東海(東海旅客鉄道)は6月13日、新幹線の新型車両「N700S」の量産車による本線走行と、車内設備を報道公開した。

 N700Sは2020年7月1日からの営業運転を予定している。

シンボルマークは金色を用いた配色で最高を意味するSupremeの「S」を真ん中に配置したゴージャスなデザイン

 N700系が登場してから13年経過した今回のフルモデルチェンジでは、700系シリーズで最高の新幹線車両であるとの意味を込めて「Supreme(スプリーム)」の頭文字「S」を付け、「さらなる安全・安定輸送の実現」「革新的技術の採用」「標準車両の実現」「快適性・利便性の向上」「より一層の環境性能向上」を提供するとしている。

 乗り心地を追及したN700Sでは、グリーン車など一部の車両にフルアクティブ制振制御装置を搭載し、身体に感じる横揺れを軽減。フルアクティブ制振制御装置は油圧ポンプで力を発生させ、動揺を打ち消すような仕組みだ。グリーン車のほか、揺れが強い先頭車両や最後尾、パンタグラフを備える5号車と12号車に導入している。

 グリーン車は「ゆとりとプライベート感のある空間」、普通車は「機能的で快適な空間」をコンセプトに、車内インテリアを大きく変更。グリーン車、普通車ともにまず目につくのが、車両前方と後方のドアの上部にある列車案内表示だ。従来より約50%大型化した液晶ディスプレイは鮮明で見やすく、現在地と目的地が分かりやすい。客席上部の荷棚は調光機能を備え、停車前に明るく照らしだすことで荷物の置き忘れ防止をサポートする。

表示面積が大幅にアップした列車案内表示。コントラストも高く、クッキリと見やすい。報道公開では東京駅から新大阪駅までの区間をのぞみ991号として走行
次の停車駅が近づくと、荷棚が明るく照らし出される

 普通車で大きく変わった部分としては、各座席にコンセントが備わったことだ。従来は窓側席などだったが、N700Sでは各座席の肘掛け部分の先端にコンセントを装備。テーブルのすぐ上には小物や服を掛けられる多目的フックがあるのもうれしい改善点だ。座席のリクライニング機構も改良し、背もたれを倒すと座面も連動して動くことで、より自然な姿勢でくつろげるようになった点も体験してもらいたいポイントだ。

N700Sの普通車
各座席にコンセント(AC100V、2A、60Hz)が装備されているのが非常にうれしい
リクライニングは座面も同時に動くようになった
耐荷重5kgの多目的フックも便利
窓側席のテーブルも少し大きめになり、ペットボトルを置いたままカーテンを降ろせる

 グリーン車も細かな部分に改良が施され、快適性がさらに向上している。座席の電動リクライニングは背もたれと座面が連動することで疲れにくい姿勢を維持でき、より快適に過ごせるようになっている。読書灯は従来よりも約70%照射範囲が拡大され、さらに手元が見やすくなった。肘掛収納テーブルは約20%、フットレストは約25%大型化しており、限られた空間内でより快適に過ごせるようになっている。

N700Sのグリーン車
電動リクライニングはさらに快適になり、肘掛収納テーブルやフットレストも大型化している
照射範囲が広くなった読書灯
普通車と同じく耐荷重5kgの多目的フックを装備
コンセントと読書灯、レッグウォーマーのボタン

 さらにN700Sはセキュリティ面にも力を入れている。従来まで通路部に設置あった客室通話装置がドアの横に取り付けられており、緊急時にはタイムリーに乗務員と会話ができる。合わせて、防犯カメラは前方と後方2か所だったものを天井付近にも設置することで、車両あたり2台から6台(一部車両は4台)へ増強している。この防犯カメラ画像は、非常停止ボタンや客室通話装置を扱った際に、運転台への通知に加え、指令所へ画像を自動で伝送されるので迅速な対応が可能になる。そのほかの設備では、トイレの床面積を拡大し、利便性の拡充が図られている。

客室内に設置された客室通話装置。非常停止ボタンもすぐ近くに配置されている
ドア付近の防犯カメラ
新たに取り付けられた天井の防犯カメラ
奇数号車に設置している洋式トイレ
11号車に設置している多機能トイレは床面積が拡大された
喫煙ルームは3、7、10、15号車に設置

 新大阪駅に到着後は、新幹線鉄道事業本部 副本部長の上野雅之氏が取材に応じ、「N700Sは安全性、安定性、快適性や環境性能など、最高の性能を備えた新幹線車両です。東海道新幹線の新しい時代を象徴する車両となります。構想から長い年月をかけてきましたが、7月1日から営業運転をスタートいたします。なお、7月1日の営業運転は4編成で開始する予定です。現在、新型コロナウイルス感染症防止のため一時的に輸送量が落ち込んでおりますが、この状況が収束すれば、多くのお客さまにご利用していただけるものと期待しております」と、新時代の新幹線であることを強調し、今後の抱負を語った。

東海旅客鉄道株式会社 新幹線鉄道事業本部 副本部長 上野雅之氏

高速鉄道として世界初のアルミ水平リサイクルを実現

 N700Sでは新しい試みも取り入れられている。それが「アルミ水平リサイクル」だ。その説明も行なわれた。

 現在の鉄道車両は軽量化と剛性の両立を踏まえ、多くのアルミ合金が使われている。従来は廃棄車両の構体材料(アルミ合金)はアルミ屑として売却され、その後は添加物を多く含む鋳物やダイキャスト用の素材としてカスケードリサイクルされてきた。

 水平リサイクルは廃製品を同品質の原料にリサイクルし、カスケードリサイクルは性質の劣化や変化を伴うため異なる製品に用いられることから、線形経済から循環経済へ転換するためには水平リサイクルシステムの確立が必要不可欠となっている。経済産業省の実証実験やNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の実証事業においてもアルミ水平リサイクルの研究が行なわれてきた。そのような背景や培われてきた技術もあり、日本アルミニウム協会に「アルミ車両の水平リサイクル推進委員会」を設置し、JR東海も加わって「アルミ水平リサイクル」プロジェクトが進められてきた。

 アルミ合金も添加する物質によって用途に合わせた種類が数多く存在し、新幹線では主に6000番台と7000番台が用いられている。今回のアルミ水平リサイクルでは、6000番台のアルミ合金を精製し、N700Sの荷棚として使っている。具体的な流れとしては、JR東海が廃棄した車両のアルミ屑をリサイクル事業者であるハリタ金属が選別して原材料にし、三協立山が再生したアルミを鋳造・押出加工して荷棚を成型。車両の製造を担当する日本車輌製造、日立製作所が同部材を用いて組み立てるといったものだ。

 アルミ合金が複数使われているスクラップから水平リサイクルを行なうには精度の高い選別が重要になってくる。ハリタ金属が開発した「LIBSソーティング」(特許取得済み)はレーザーでアルミ合金を選別するもので、今回の水平リサイクルの要になっている。

 JR東海の担当者の話では、日本でも数多くアルミ合金を使っている会社として、このような持続的なスキームの確立に携わるのは責務であり、今後も可能な限り車両全体を水平リサイクルで賄えるよう協力していきたいとのことだ。

アルミ水平リサイクルの概要
700系やN700系の廃棄された車体の破砕片
選別した破砕片から精製されたビレット(元素材)
N700Sで使われている押出成型で製造された荷棚

 7月1日からの営業運転開始が待ち遠しいN700Sだが、広報担当者によると現在のところ運行を予定している列車は決定していないとのこと。Twiterの同社公式アカウントなど、SNSを使って当該列車を発表することも検討しているそうだが、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため発表自体を控えることも想定されるとのことだ。