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OAGとJTB総研、地方空港活性化のポイントを紹介するセミナー実施。ナビタイムや仙台空港の事例紹介も

2019年7月12日 実施

OAGとJTB総合研究所は訪日客4000万人達成のカギを握る地方空港と今後の旅行動向に関するセミナーを実施。冒頭で、OAG Aviation Worldwide Limited JAPACセールスディレクター マユール・パテル氏が日本市場の動向などを紹介した

 OAGとJTB総研(JTB総合研究所)は7月12日、訪日客4000万人の政府目標達成のカギを握る地方空港の活性化、ならびに日本のツーリズムの将来展望について説明するセミナー「地方空港活性化と今後の日本ツーリズムの展望」を実施した。

 セミナーでは冒頭、OAG JAPACセールスディレクターのマユール・パテル氏が、日本の空港における現状と成長の機会について説明。日本市場は今後20年間の成長が見込まれるアジア太平洋地域の中心に位置し、新路線の開拓など成熟市場においてもさらなる成長を期待できる面があることなど、伸長する絶好機が到来していると指摘。

 その理由として、航空市場においては増加が見込まれる単通路機がアジア太平洋地域においてシェアを拡大することや、新興国の所得増加によって旅行者が増えること。そして、アジア太平洋地域において多くの空港、滑走路の新設が相次いで日本への路線開設が期待できることを挙げた。一方、日本は先進国のなかでも航空需要の低い市場であり、今後は中国やトルコなどが日本を追い越すという厳しい市場であることも指摘。

 中国の北京では2019年冬から2020年に新たな「北京大興国際空港(PKX)」が開港することについても触れ、北京の2つの国際空港により世界最大の旅客取り扱い旅客量になると見られる、また中国は旅客数とコネクティビティの観点で国内線に対する取り組みも進んでおり、日本の空港、観光業界に対する大きな脅威になるとした。さらには日本の人口減少も挙げ、これらの背景から日本の成長のために、全国の“第2の空港”へのインバウンドを増加させることが重視されるようになるとしている。

 日本政府では2020年に4000万人の訪日旅客という目標を掲げているが、それは日本の主要空港だけでは実現できない数字であるほか、新たな層の獲得が必要になるが、その新たな層は個人旅行を好み、SNSやプッシュ通知のあるアプリの活用など新たな価値を持つ技術を活用。そうした層に向けた観光の整備が必要になるとしている。一方で、旧来の旅行者が旅行代理店とのやりとりに依存していたように、新たな層も現在使っているツールによって旅程作りを行なうことを継続的に行なうと見られることから、旅行業界の企業が成功するためにはこのバリューチェーンに入ることが重要であるとした。

アジア・太平洋地域のポテンシャル
日本市場の特徴
北京の新空港「北京大興国際空港」について
アジア・太平洋地域の路線拡大と、それによる日本の可能性について
国内空港の規模
航空需要と人口予測
日本政府が掲げる2020年に4000万人の訪日旅客の目標についての分析
新たな旅行者層の動向と、その層に向けた対応

 また、OAGではアジアの都市と地方空港を結ぶ路線の開設が今後増加すると見ており、その理由として、一部先述した可処分所得の増加、旅行者収容能力の整備と競争の激化、オープンスカイ協定、ビザ要件の緩和などを指摘。そして、さらに重要なポイントとして新世代の航空機やそれによるコスト低下を挙げる。

 新世代の航空機の一例としては、6月にパリ航空ショーで発表された航続距離8700kmを誇る単通路機であるエアバス A321XLR機(関連記事「【パリ航空ショー 2019】エアバス、A321LRより15%航続距離を伸ばしたA321XLR発表。東京~シドニーを結べる機体」)を取り上げ、240機という高い需要があることを紹介。インドやパキスタン、オーストラリア北部へ日本とを結べるようになる。日本路線の例としてジェットスターが(現在はエアバス A330型機で運航中の)ケアンズ線で導入を計画しているという。

日本の地方空港成長のカギと、そのパーツの一つである次世代航空機
OAG Aviation Worldwide Limited 日本支社セールスマネージャー 山本洋志氏

 続いて、OAG 日本支社セールスマネージャーの山本洋志氏が、「データと海外から見るインバウンドツーリズム」と題し、同社が持つデータを元に日本の航空市場の分析を紹介した。

 山本氏はまず日本の航空市場におけるさまざまなデータを紹介し、そのなかで、定期国際線の9割が上位7空港(新千歳、成田、羽田、中部、関空、福岡、那覇)に集中していることを提示。上位7空港はターミナルや滑走路の増設、発着枠拡大など、さらに容量を増やす取り組みが進められているものの、訪日旅客をさらに増やすには8位以下の空港への路線誘致が必要になるとしている。

 そして、路線誘致にあたっては旅客数だけでなく、訪日/出国の比率や売上高もポイントになるとし、同じく空港別のデータを紹介。航空会社は当然ながらリスクの低い路線から開設する傾向があり、例えばインバウンドだけが順調に伸びている市場でも政治的、経済的な影響で一気に落ち込むリスクはある。そうしたリスク軽減の観点から、インバウンド市場を中心に見がちな地方空港の路線誘致においても、アウトバウンドを伸ばすことの重要性を語った。

 世界全体で日本の航空市場を見た場合、世界で第3位の航空市場であり、人口に対する総航空座席数や成長比率などを見ると成熟した市場となっている。ちなみに人口に対する総航空座席数では中国がまだまだ少なく、今後大きな成長が考えられる市場として挙げられたほか、近年伸び率が高い市場としては、ベトナム、タイ、インドも挙げられた。地方空港への路線誘致に際しては、こうした伸び率の高い国は直行便を見込める可能性があり、日本から当該国への旅行需要を喚起するプロモーションの検討も提案している。

 日本市場の特徴としてはこのほか、国際線と国内線の比率がおおむね3対7、LCCの比率が低いことのほか、2大航空会社が市場の半分以上のシェアを持つことから海外航空会社に頼らざるを得ない部分があること、国際線の就航先が7大空港に集中していることなどを紹介。就航先では7大空港を除くと10都市以下になるうえ、地方空港ではデイリー運航ではないために特定曜日しか旅行商品(ツアー)を売れないなどの問題もある。新規路線誘致の一方で、現在ある路線のデイリー化の可能性を高める施策も重要であるとしている。

 このほか、中国の空港について、今後セントレアと同規模になる可能性を持つところが30空港あることを紹介。これらの空港と日本の地方空港をつなぐ路線の開設も考えられる一方で、これらの空港の東南アジアなどへの路線は日本の地方空港の路線誘致にあたっての競争相手にもなる可能性を指摘した。

OAGの業務紹介。元々は時刻表の会社として知られた同社だが、現在はさまざまなデータを収集、分析した、マーケティングツールやコンサルティングサービスの提供が中心となっている
国内空港の状況。特に国際線では7空港に旅客(トラフィック)と売り上げが集中している
海外と比較した日本市場の現状
国内空港における路線や供給座席数の分析
国内空港における国際線路線数の特徴
近隣国のハブ空港
日本の地方空港と近隣国のハブ空港を結ぶ路線の可能性
地方空港と中国を結ぶ路線は上海に集中しているが、今後成長が見込まれる中国の空港への路線開設にも可能性がある
地域別、国別の日本発便供給座席数の予測
空港の民営化でサービスの品質が向上
OAGが空港に対して提供できるソリューション

今後はリピーターが訪日市場を牽引。路線誘致には双方向の需要分析が重要

株式会社JTB総合研究所 研究理事 黒須宏志氏

 JTB総研 研究理事の黒須宏志氏は、「訪日4000万人時代におけるTwo Way Tourism戦略研究」と題した内容を紹介。ますは出入国の構成比を示し、訪日旅客上位4か国(韓国、中国、香港、台湾)は訪日旅客の比率が高く、そのほかの市場は日本からの渡航が多いことを紹介。国によって需要が異なるなか、インバウンドに携わる人、アウトバウンドに携わる人それぞれが、それぞれの傾向しか見ていないが、「双方向、Two Wayで成長する兆しがはっきりしてきている」(黒須氏)ことから、戦略的に全体を見ることの意義を述べた。

 JTB総研ではOAGと協力し、戦略的にTwo Wayツーリズムの研究を行なっており、2019年に需要や空港別の需要検討や、地域資源やアクセス、ポテンシャル評価などを進め、地方空港などをパートナーを得て実践していきたいとしている。今回のセミナーでは、この研究の一部を紹介するものとなった。

訪日旅客と出国旅客のバランス

 まず訪日需要の今後について、2018年に3000万人を突破したところだが、ここまで世界的に見ても驚異的だというペースで伸びたなか、今後は伸び率の低下が避けられないと分析。その内情として、これまでは訪日経験のない人が急成長を牽引した一方で、2018年は2度目、3度目あるいはそれ以上の人が牽引して訪日客が増えた最初の年になったとし、今後は、訪日4回目以上の「真の意味でのリピーター」(黒須氏)が牽引する持続的に成長していく時代へ変化していくとした。

 そうなると訪日旅客に求められるものにも変化が生まれる。実際に外国人の地方宿泊比率が高まっていることを観光庁のデータを元に提示しながら、訪日回数が少ない旅行者は東京、京都、大阪などのいわゆるゴールデンルートを訪れる傾向が強いが、3回目、4回目となると地方訪問者が増えると分析。これまで以上にリピーターが増える今後は、さらに地域の受け入れ能力やアクセシビリティが重要になると指摘した。

 そのため、セミナーの本題である地方空港活性化のアプローチとして、各空港ごとに役割分担を意識することが重要であるとした。例えば、成田空港や羽田空港、関空などの都市部の空港は訪日経験者がまだ少ない市場へ、地方の主要観光地を持つ新千歳空港や福岡空港、那覇空港などは1度日本を訪れて次の機会をうかがっている訪日1~2回の人が多い市場、のほかの地方空港は韓国や香港、台湾、シンガポールといった訪日リピーターの多い市場と、それぞれの期待できる市場を定めて路線誘致を進めることで日本全体のパフォーマンスを上げることができると語った。

今後の訪日市場は、訪日4回以上のリピーターが牽引する時代となり、地方への訪問が増加する見込み。地方空港の路線誘致でも、訪日経験で区分けしたターゲティングも必要となる

 一方、Two-Wayのもう一方向であるアウトバウンド側についても、1990年後半からほぼ同じ水準で推移してきた出国者数は、2018年に過去最高の1895万人をマーク。日本は所得水準に対する海外旅行者数が少ない、費用も日数も一定以上を要する欧米といった長距離旅行が多い、1人が何度も旅行をし一握りの人たちが安定させてきた市場、といった特異性を紹介。

 ただ、昨今は別の傾向も出ており、例えば、よく若年層の海外旅行者離れが叫ばれるものの、黒須氏はこれは過去のものであるし、特に若年層の女性客の伸びが目覚ましいという。さらに、地方空港に訪日客向けの国際線路線が開設される例が増えたことで、地方から海外へ行く人も増加している。

 訪日市場に勢いがあった数年前は、航空便の座席の多くが訪日客によって埋められていたが、最近は日本発、海外発両方を売る傾向になっていると指摘。双方向で連動して成長する時代になったとも紹介した。

 さらに異なる視点では、在留外国人(日本に住む外国人)の増加による海外旅行需要も路線誘致の観点では重要であると指摘。今後さらに日本で働く外国人が増えることから、2030年ごろには出国者数の2割弱が在留外国人になると予測。国籍ではなく、居住地主義へと観点を変える必要があるとした。

2018年は過去最高となった日本人の海外旅行者数。まずは過去の旅行者動向
訪日旅客に販売される傾向が強かった航空券だが、搭乗率の向上で日本市場での販売も増加。訪日需要の高い国との路線で座席供給量が増加し、増加した座席で日本人がその地を訪れやすくなるというサイクルが生まれ始めているという
訪日旅客増で開設された地方空港から近隣アジアへの旅行が増えている
今後増加する在留外国人の需要も路線誘致の大事なカギとなる

 そして、双方向の需要を見据えた空港の路線誘致のポテンシャルを測る方法の一案として、訪日市場では各地域の空港からの入国者数とその地域の宿泊者数の差を分析する方法を紹介。入国者数が少なく、宿泊者数が多いということは成田/羽田/関空などからの乗り継ぎなど、ほかの地域からの入域者数が多いということであり、直行便への需要があることをうかがわせるものとなる。

 対して出国の需要については、地域の方面別旅行者数と、当該地域にある空港の利用者数の差を分析する方法を紹介し、講演では東北地方と北陸地方の方面別旅行者数と、仙台空港、富山空港/小松空港を利用して旅行をした人の分析結果を提示した。例えば、東北6県から年間4万2000人が台湾旅行をしているが、そのうち仙台空港を利用したのは2万人程度であり、台湾への潜在的な直行便需要がそこに存在していることが見えてくる。

 そして、空港ごとに訪日のポテンシャル、出国のポテンシャルを方面別に需要があると判断できた国・地域は双方向に需要があるということなり、路線誘致において提示できるデータとなる。JTB総研はこうしたTwo-Wayツーリズムの研究・分析結果をもとにして、今後、リピーターに訴求した航空路線誘致の実証を行なっていく方針だ。

訪日旅客の潜在需要がある国・地域
日本発旅客の潜在需要がある国・地域
イン/アウトの需要が双方向にある国や地域を可視化

観光空白地帯を埋める二次交通の重要性。観光拠点では「タビナカ」情報の発信を

株式会社ナビタイム・ジャパン インバウンド事業部長 藤澤政志氏

 続いて、ナビタイム・ジャパン インバウンド事業部長の藤澤政志氏が登壇し、「ツーリズムと二次交通の重要性について」と題して講演。同社は交通手段別にさまざまな機能を持つ“ナビゲーション”のアプリを提供している。そのアプリ利用者の移動データを元に、移動ルートや滞在地などを分析。現状では二次交通が便利なところにしか行けておらず、“観光の空白地帯をいかに二次交通で埋めるか”を課題として掲げた。

 その一例、東北地方において訪日回数が5回以上のリピーターだけで訪れたスポットのデータを紹介。観光地においても、訪日回数の視点でターゲットを定め、ブランディングしていくことの重要性を語った。

ナビタイムはさまざまな移動手段に応じたナビゲーションアプリを提供。そのデータを分析し、交通機関や自治体などのサービス品質向上のコンサルティングに活用している
同社の外国人向けサービス利用者の移動分析。黒が移動、赤が滞在を表わしており、鉄道などの交通機関がある場所に滞在が集中している
訪日回数に応じた目的地の変化

 ナビタイムではJTB総研と共同で、佐賀県、佐賀空港の外国人旅行客に関するデータ分析を行なったとのことで、その調査結果の概要も紹介があった。佐賀空港は近年、台湾、韓国との直行便が開かれ、旅行者数の伸び率でよい結果を出している。LCCの就航ではあるが、佐賀空港から入国した人は、同じく佐賀空港から出国する傾向にあるが、佐賀空港に到着した人は近隣だけでなく別府や武雄などの温泉地、長崎、福岡/太宰府などに足を伸ばす結果が出ており、例えば佐賀空港~福岡/太宰府を結ぶ高速バスなど、こうしたデータが二次交通の需要を示している。

 また、この研究においては、出身国別にどのようなコンテンツが好まれるのか、被験者の主観と脳波の反応を見るテストも実施しており、自国の文化に近いコンテンツは脳波の反応が弱く、文化的に違和感が強いものや日常的なもの、地味な色合いのものは主観的な評価が低い傾向が出た。逆に鮮やかな色合いのコンテンツは脳波、主観ともによい反応になるなどの結果が出ている。こうした結果も観光情報の発信に活用できるものとして紹介している。

国際線旅客が増加する佐賀空港との取り組み事例
佐賀空港から入国し、佐賀空港から出国する人が多いとのデータ
しかし佐賀空港を拠点に、離れた観光地を訪れる人が多く、どこに二次交通の需要があるのかが見える

 ナビタイムではこのほか、国土交通省 北海道開発局らと共同で、北海道のレンタカー旅促進の取り組みも実施。ナビタイムが提供する「Drive Hokkaido!」アプリを外国人旅行者の利便性向上につなげるとともに、その移動データを取得することでレンタカーによる道内旅行動向の分析を行なっている。

 アプリでは、道内の長い移動時間そのものを観光に変えてもらおうと、景観のよい道路の情報なども提供。カーナビに登録するために、その景観のよいエリアの始点と終点のマップコードを表示する機能なども備えている。

 旅行動向の調査では、滞在日数の関係もあって、函館、札幌、小樽、旭川・美瑛といった地域が観光の中心であることに変わりない傾向があるものの、この取り組みを始めて3年目にしてようやく道東方面へ足を伸ばす人が見られるようになったという。

 そして、将来を示唆するデータとして2点を紹介した。1点目は検索した(行きたい)場所と、実際に行っているデータの比較で、道北やえりもなども検索閲覧数は多いものの、実際には滞在者数が少ないという結果が出ており、こうしたギャップのある地点への二次交通の必要性を訴えた。

 もう1点は、旅の前(タビマエ)と旅の最中(タビナカ)で検索される情報の違いについてで、タビマエには広域的に有名な観光地が検索されるが、タビナカではもう少し踏み込んだ周辺の観光地や道の駅、飲食施設といった、観光地周辺の詳細情報やほかにやることの情報が検索される傾向にあると紹介。これに対して、タビナカの出発地である空港においても情報発信は主要観光地の紹介が中心になっていると指摘し、本当に求められる情報を精査して発信することが重要であるとした。

ナビタイムと北海道開発局らが実施している、訪日旅客に向けたレンタカーによるドライブ旅の取り組み。ナビタイムが提供するアプリ「Drive Hokkaido!」を活用
赤系統で示されるのが滞在者数、青系統で示されるのが検索閲覧数。検索はされるが滞在につながっていない地域に二次交通需要の可能性がある
訪日する前(タビマエ)と、訪日中(タビナカ)の検索内容の違い
タビナカで求められる情報発信の重要性

 このほか、ナビタイムでは地域や日数に応じて移動経路や立ち寄りスポットを提案するプランニングツール「NAVITIME Travel」も提供しており、このアプリで得られたデータによる国内旅行の動向も例示した。

 ここでは、日本人の旅程の平均日数は1~2日で、1回あたり4スポット程度をまわるというデータが出ており、この4スポットには空港や駅などの起点が含まれるため、そこから2~3か所をまわるのが中心となる。一方、空港や駅からホテルに行く旅程は少なく、直接観光地に向かう旅程が多いという。

 さらに、おおまかなスケジュールは事前に決めるものの、食や体験は現地で決めている可能性が高いというデータも出ており、少ないスポットを効率的にまわる手段、空港から観光地へ行く人、その観光地の次のスポットの提案など、ここでも先述の北海道の事例と同様、空港や観光地におけるタビナカ情報の発信の重要性を示した。

ナビタイムが提供する旅程プランニングツール「NAVITIME Travel」
日本人の国内旅行傾向
プランニングサービスの典型的な使い方例。空港や駅を拠点に主要観光地を指定し、その先をタビナカで決める傾向が強い。また、公共交通機関が発達している地域でもレンタカーを利用する人は一定数いるという
交通や観光の拠点におけるデジタルサイネージの重要性。情報発信のほか、経路探索実績などのデータをもとに課題を抽出してサービスの品質を高めることにもつながる

民営化4年目の仙台空港。タイ国際航空の再就航決定に「仙台で号外が出た」

仙台国際空港株式会社 取締役・航空営業部長 岡崎克彦氏

 セミナーの最後に、国管理空港の民営化第1号となった仙台国際空港の取締役・航空営業部長 岡崎克彦氏が「空港民営化における課題と成果について」と題して、仙台空港の事例と現状を紹介した。

 旅客数では現在日本第10位で、民営化から3年目となる361万人と仙台空港で過去最高の旅客数を記録していることを紹介。一方、国際線は31万人と当初計画以上の成果ではあるものの、1990年代後半から2000年前半にかけては40万人ほどの国際線旅客がいたことを紹介。ただしこれはすべてアウトバウンドで、日本からハワイなどへ行く人の需要が高かったことによる。現在は7割がインバウンドだという。

 新規就航や増便について、最近ではエバー航空による台北線デイリー化や、国内線の幹線の増便など、明るいニュースを紹介。そして、今後計画されている新規就航路線であるエアアジア・ジャパンのセントレア線と、タイ国際航空のバンコク線について取り上げた。

 8月8日に就航するエアアジア・ジャパンの仙台~セントレア線は、同社の立ち上げ当初に予定されていたが、のちに一旦キャンセルされていた路線。岡崎氏は「(エアアジア・ジャパンがキャッチコピーで)『まってろ、東北。』と書いているが、我々が待っていた」と話し、中部地方~仙台のビジネスマンが、現在はニーズが高いという東京駅乗り継ぎでの新幹線を選ぶのか、通常料金7000円台のLCCを選ぶのか、注目しているという。

 10月30日(日本発)に就航するタイ国際航空のバンコク線については、「仙台で号外が出た」というほど、仙台では大きなニュースになったという。元々国際線はLCCを想定して4時間圏内で誘致を進めたが、そのラインを越えるタイ国際航空を成功させたいとしている。

 ただ、このバンコク線の使用機材はボーイング 777-200型機で、座席数は309席。週3便だが、この受け入れは仙台空港にとっても大変なことであるとしている。その理由は搭乗率の維持で、仙台周辺だけでは市場が小さすぎ、誘致にあたっては仙台市、宮城県、東北観光機構、国と連携して活動。特にアウトバウンドについて、東北全体で需要を高める必要性があるとした。

2018年度(民営化から3年目)の仙台空港の実績など
2018年度の新規就航や増便実績
2019年度の計画
今後の国内線誘致の取り組み
今後の国際線誘致の取り組み

 このほか、民営化したことで、自治体(県や市)を越えた取り組みが可能になったことを大きな成果として紹介。好例として、「国内で2番目に新幹線の駅に近い空港」として仙台駅~空港間のアクセス改善に努めたほか、県境を越えた高速バス路線の誘致。隣県の福島県を訪れる人に向けたバス路線の再編提案などを行なっている。

 一方で、航空管制とCIQ(税関、入出国管理、検疫)以外の業務について、6月30日までは国交省 航空局の支援が続いていたが、7月1日からはすべて仙台国際空港の社員、つまり民間の人材だけで実施する体制に移行したという。

 今後の課題については、航空会社との一体化、行政や二次交通業者の連携、新路線開設に向けたほかの空港との連携などを提示。空港連携については、現在はインバウンド誘致政策や、東北復興に関する支援があるが、2021年以降はその配分は変わると見ており、空港の連携を進めるとともに、競争も始まるだろうとしている。

 そして、地方空港全体の課題としてグランドハンドリング(地上支援業務)の2台航空会社への依存と担い手不足が挙げられるが、仙台国際空港はFDA(フジドリームエアラインズ)就航時に鈴与グループのグランドハンドリングチームを招聘。長い目でみるとさらなる対策は必要であるとした。そして、自動運転ランプバスや訪日外国人向けのAIチャットの実証実験といったイノベーションに対する取り組みも紹介した。

 最後に岡崎氏は、6羽の鳥を表わした仙台国際空港のロゴマークを示し、仙台だけでなく、東北という地域全体で考えていく姿勢を改めて示した。東北では「そろそろ海外に行ってもよいのでは」という空気を感じるといい、実際、ハワイやバンコクのチャーター便の販売も好調だという。そのような反応があるなかで空港が期待されている役割を全うしていきたいとするとともに、これまで多くのことが補助金前提で動き、それによって成り立っているものが多い東北が自立していくことに(民営化された仙台国際空港が)役立てれば、と話した。

民営化3年間で実施した取り組み
民営化後の安全に対する取り組み。管制とCIQ以外の業務は7月1日から民間人材のみで実施している
仙台だけでなく東北一体となって双方向の交流人口を創出していく
今後の課題
仙台国際空港のロゴマークは、東北6県を表わす6羽の鳥をモチーフにしている