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仙台空港、徒歩ゲート増設で利便性を高める「ピア棟」公開。宮城県知事「ピア棟では小さすぎると言わせたい」と新路線誘致に意気込み

2018年10月22日 公開

2018年10月28日 供用開始

仙台国際空港は10月28日に供用を開始する「ピア棟」の完成披露会を実施。内部を関係者に公開した

 仙台国際空港は10月22日、10月28日に供用を開始する新たな旅客施設「ピア棟」の完成披露会を開催。関係者に内部を公開した。

 仙台空港は2016年7月に国管理空港として初めて民営化し、民営化30年後の目標として“旅客数550万人”を掲げている。その旅客数に対応するキャパシティを旅客施設に持たせる目的で約20億円を投資し、2017年9月に着工したのがピア棟となる。

 現在のターミナルの西側に建設されてきたもの。保安検査場やチェックインカウンターなどは既存設備をそのまま利用し、PBB(旅客搭乗橋)も備え、徒歩ゲートとバスゲートを増設。ピア(PIER)の「桟橋」の意味のとおり、搭乗施設だけを増設する旅客施設となる。

 延べ床面積は5975.74m2で、鉄骨造り2階建て。既存バスゲートを1か所廃止し、ピア棟にバスゲートを2か所、徒歩ゲートを3か所備えることで、国内線搭乗ゲート数は従来の6か所から10か所(国際線との共用ゲート含む)へと拡充することになる。

既存ターミナル(奥)と新しいピア棟(左手前)。写真のピア棟はバスゲートがある建屋部分となる
写真左を既存ターミナル側から見たところ
奥がピア棟の徒歩ゲートがある建屋。1階部分の一部を空洞(ピロティ)状とすることで、地上ハンドリング車両などを通行しやすくしている
ピア棟供用開始前後のゲート数の差(仙台国際空港の資料より)

 ゲートは2階部分に置かれ、利用者は1階との間をスロープを使って昇降。徒歩ゲートではエプロンルーフという屋根付きの通路を通って飛行機とアクセスする。出発も到着も2階部分に主な移動通路を持つが、動線は完全に分離されている。

 仙台国際空港ではバス搭乗を減らすことで利用者の利便性を向上するとともに、バスの運転手を含むハンドリングスタッフの人手不足にも対応していく考え。

 また、PBBのある現在の搭乗ゲートはピーク時間帯に需要がひっ迫した状況にあり、この徒歩ゲートもLCCに限らず利用対象とすることでバスを利用せずに搭乗/降機できる施設を整えることで利用者の利便性を向上させるとともに、航空会社にとっても“飛ばしたい時間帯のキャパシティが増える”ことにつながることからダイヤの選択肢が増えることにつながることを狙っている。

 ちなみに、2018年5月に建設中のピア棟を公開した際、既存のPBBスポットを利用する場合と、徒歩ゲートのスポットを利用する場合とで着陸料の差を設けるかについて、仙台国際空港株式会社 代表取締役社長の岩井卓也氏は「航空会社と協議中」としていたが、最終的に差はつけないことになったという。

 既報のとおり、10月28日から仙台空港ではPSFC(旅客サービス施設利用料)を導入し、国内線/国際線ともに旅客から規定の料金を徴収することになっている。岩井氏は今後について「きちんと原価をコントロールしていくことが必要になる。お客さまに過大な料金を支払ってもらうことなく、できるだけ質実剛健にやる」と述べ、対価に見合った適切なサービスを提供していく姿勢を示した。

ピア棟の館内地図

ピア棟の出発ルート、到着ルートを紹介

ピア棟の出発動線(仙台国際空港の資料より)

 ピア棟の内部について、出発ルート、到着ルートに沿って紹介していく。出発時は、既存ターミナルの保安検査場を抜けて左方向に進むことで、ピア棟のゲートに向かうことができる。

 まず搭乗口A2、搭乗口A3という2つのゲートがあり、ここが新設されるバスゲートになる。バス搭乗時もゲートをくぐったあとは階段を使って1階に下りることになる。

 この前には多くのソファが置かれている。コンセント類は建物の柱にいくつか見られる程度だが、このコンセントは旅客が利用してもよいという。

既存ターミナルからピア棟へつながる通路。写真はピア棟側から見た様子で、出発時は奥から手前に向けて歩いてくることになる
ピア棟のバスゲート棟にはゲートA2、ゲートA3の2つのゲートがある
バスゲート前のベンチ。柱にはいくつかのコンセントがある
バス搭乗口を抜けると階段があるので、1階に下りてランプバスに搭乗する
ピア棟のバスゲート棟

 バスゲートの奥を右手に折れ、さらにその突き当たりを左に曲がると徒歩ゲートとなるゲート8~10番が並ぶコンコースへと出る。ちなみに、ピア棟内のトイレは、徒歩ゲート手前1か所のみ。特にゲート10番を利用する人は意識しておいた方がよいだろう。

 搭乗口は8番が緑、9番が青、10番が黄色に色分けされているほか、カーペットも2色に色分けされて、天井こそ化粧板を使っていない部分があるものの、ぱっと見の印象は非常にカジュアルだ。

 コンコース両サイドには腰掛け付きのスタンドデスクやベンチがあり、搭乗口側のスタンドにはAC電源とUSB電源(5V/1.5A)を装備。数はかなり多い。またベンチは一部に木のベンチが使われているが、これは後述する宮城県CLT等普及推進協議会からの寄贈品。CLT(Cross Laminated Timber)構造という大規模建築にも応用可能な構造を、宮城県産の木材を使ったもの。2タイプのベンチが設置されている。

バス棟から徒歩ゲート棟へルートは、右に曲がって、突き当たりを左に曲がる1本道。写真右下の付近に唯一のトイレがある
8番、9番、10番が徒歩ゲート。ゲートはそれぞれ色分けされている
徒歩ゲートのコンコースにはベンチが並ぶ
宮城県CLT等普及推進協議会から寄贈された、CLT構造の木製ベンチ
搭乗口側のスタンドデスクにはAC電源とUSB電源(5V/1.5A)が用意されている

 搭乗ゲートを通ると、目の前にスロープが現われる。3往復分のスロープがあり、ここを下りきると1階(地上部分)になる。ここから先述した屋根付きの通路、エプロンルーフをくぐって飛行機へ向かう。現在は、このエプロンルーフの使い方などについて、地上ハンドリングスタッフなどが実運用に向けてトレーニングを行なっているという。

搭乗口を抜け、「出発」の案内に従ってスロープを下りる
ちょうど3往復分のスロープ
ランプとの出入り口
エプロンルーフに直接つながっている。金網ではあるが雨風の影響は最小限に抑えられそう
蛇腹式で伸び縮みするエプロンルーフ
現在はバスで乗降する8番スポットに駐機中のボンバルディア Q400型機。右手前の出入り口からエプロンルーフがどうつながるのかイメージできる

 到着はスロープを使って2階に上がるところまでは出発時の逆順。2階では動線が分けられ、到着専用の通路を通って既存ターミナルへと向かうことになる。

ピア棟の到着動線(仙台国際空港の資料より)
1階の出入り口からスロープを上がる。ここは出発の逆順。2階でルートが分かれ、滑走路側の専用通路を通って既存ターミナルの到着口へと向かう

宮城県や国交省、航空会社からも期待の声

 10月22日には、ピア棟のゲート9番前で「完成お披露目会」を開催した。あいさつに立った仙台国際空港 代表取締役社長の岩井卓也氏は、「旅客数の大幅増に先立ち、早期に工事を推進するということで、安全性確保と工事期間の短縮を実現した。ピア棟はすべての航空会社にお使いいただきたいと思っているが、LCCの急成長、機材の小型化、多頻度運航と、近年の航空市場の動向が変わってきている。こういったものを捉えて、ローコスト構造、ローコスト運用をコンセプトに建設した。それでも当社にとっては大きな投資だった。ただ、東北の交流人口拡大の一翼を担う当社にとっては重要な投資と考えて建設に踏み切った」とピア棟にかける意気込みを述べた。

 併せて、式典後の囲み取材では、「乗って慣れていただければ気軽な乗り物なので、ぜひ一度仙台から飛び立っていただければ。その気軽さのイメージが伝わるとよいと思っている」と、ピア棟供用による新規顧客層の拡大にも期待を示した。

 さらに式典では、10月28日に供用を開始するそのほかの設備についても紹介。ターミナルビル全体の発着案内システムを刷新し、いわゆる「パタパタ式」の案内板からデジタルサイネージへ変更することや、1階センタープラザをリニューアルし、55インチ×20面のマルチメディアウォールの設置やイベントステージの拡大によって各種イベントに使いやすくしたことにも言及した。

 また、10月28日からの航空冬ダイヤではタイガーエア台湾が現在の週2便から週5便に増便。岩手県・花巻空港に就航している週2便と合わせて台北~東北間がデイリーで結ばれることを紹介し、「東北を周遊する旅程が組みやすくなる」と台湾からのインバウンド増加に期待を示した。

仙台国際空港株式会社 代表取締役社長 岩井卓也氏
10月28日からのデジタルサイネージによる発着案内システム導入により役目を終えるパタパタ式の案内板
1階センタープラザはステージが設けられたほか、複数枚のディスプレイを利用したマルチメディアウォールを設置した

 続いて、宮城県知事の村井嘉浩氏があいさつ。「仙台空港民営化から2年が経過。この間、仙台~神戸線の再開や仙台~出雲線の新規就航など、国内線、国際線ともに航空路線が順調に拡充されており、旅客数は過去最高となる343万人を記録するなど、民営化の成果が着実に現われてきたものと考えている」と現状の成果を評価したうえで、「近年は訪日外国人旅行者の増加に伴って空港間の競争が激化していることから、より魅力的な空港施設が必要であると認識している。ピア棟は、旅客や便数のさらなる増加に対応することを目的に設置されたと聞いており、新規路線の誘致に弾みがつく。利用者にはピーク時の混雑解消など利便性向上を感じていただけると考えており、より一層、仙台空港の利用拡大が図られる」と期待を寄せた。

 また、「県としても好機を逃さずに、仙台国際空港株式会社や地元自治体、経済界と連携し、既存路線の維持拡大、新規路線の誘致に向けて積極的にエアポートセールスに取り組むとともに、仙台空港を拠点として宮城、東北の交流人口拡大を図り、東北全体の経済活性化を推進していく所存」とコメント。

 この点については囲み取材でも「民営化して2年が経って、約束どおりピア棟を作っていただいた。箱を作って魂を入れて、必ず550万人という目標を達成したい。そのためには仙台国際空港株式会社だけの力だけではなく、行政の力も必要。しっかりと協力させていただく」とし、地上の二次交通や観光施設の受け入れなど、空港会社だけでは対応が難しい範囲を中心に協力していく方針を示した。

 式典のあいさつでは、「空港活性化のために全力を尽くしたい。いま、24時間化に向けて、地元の名取市や岩沼市の協力をいただいて、話し合いを始めている。1便でも飛行機を増やして、ピア棟では小さすぎると言わせてみせたい」と話してあいさつを締めた。

宮城県知事 村井嘉浩氏

 続いて登壇した国土交通省 航空局 航空ネットワーク部長の久保田雅晴氏は、仙台空港民営化の際に担当課長として宮城県への説明などを行なっていた経緯があり、「人一倍思い入れがある」と感想。

 2年間の仙台空港の発展を評価するとともに、ピア棟の完成や、1階センタープラザや発着案内システムの刷新について触れ「おそらく次の段階に入ってきたのだろうと思う」とし、「利用者にとってより使いやすい空港になっていく。それがきっと、この空港をよりよく使っていただく、さらなる飛躍のもとになる」と期待した。

 また、国内のほかの空港でもコンセッション方式による民営化が進められていることについて、「仙台空港がどのようになっていくのかが関係者の間で関心を持たれている。私としては、ここがトップランナーということで、さらに一層、利用者に使い勝手のよい空港になって、発展することを望んでいる」とした。

国土交通省 航空局 航空ネットワーク部長 久保田雅晴氏

 航空会社を代表してあいさつしたANA 仙台空港所長 髙松裕史氏は、着工前から仙台国際空港の担当者と協議を重ねたことを明かし、「使い勝手について、いろいろ協議させていただいた。ユーザーの声をたくさん聞いていただける、そういう姿勢を持っていただいて感謝している」とコメント。「ゲートやカーペットの色使いなど、国内空港ではあまりなかった先進的なデザイン。ありがたい施設を作っていただいた」とした。

 そして、「ANAにとっても、搭乗の間口が増えるのは大きなこと」と述べ、その理由として、現在1日17便(往復34便)のうち、約半分の8便(往復16便)をPBBが使えないプロペラ機のボンバルディア Q400型機で運航していることに言及。「これまではバスで案内していたが、新千歳や中部(セントレア)、大阪(伊丹)といった、いわゆる経済圏への重要なルートも含んでいる。2019年初頭あたりから、既存のPBBに背の低い飛行機にもPBBが付くアダプタを導入することになっており、これでお客さまの利便性が上がると思っていたが、PBBがある4~7番ゲートは過密状態で困ったと思っていたなか、よいタイミングで新しい搭乗方法を増やしていただいた」と、同社の実情と照らし合わせながら利用者の利便性向上につながるものであることを示し、施設の供用開始に喜びを示した。

全日本空輸株式会社 仙台空港所長 髙松裕史氏

 その後、式典では宮城県CLT等普及推進協議会の会長である齋藤司氏から、仙台国際空港 代表取締役社長の岩井氏への、CLTベンチ贈呈式を実施。齋藤氏は「空港を利用されるお客さまには、木の温もりと、一番の特徴である構造上の強さをご理解いただいて、木材の利用拡大につながれば」との希望を述べた。

 そして、近隣自治体の関係者も集まってのテープカットが行なわれ式典を終えた。

宮城県CLT等普及推進協議会 会長 齋藤司氏
宮城県CLT等普及推進協議会 会長 齋藤司氏から仙台国際空港株式会社 代表取締役社長 岩井卓也氏へCLTベンチを寄贈
寄贈品であることを示す銘板
テープカット。参加者は左から全日本空輸株式会社 仙台空港所長 髙松裕史氏、仙台市副市長 藤本章氏、国土交通省 航空局 航空ネットワーク部長 久保田雅晴氏、仙台国際空港株式会社 代表取締役社長 岩井卓也氏、宮城県知事 村井嘉浩氏、名取市長 山田司郎氏