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仙台空港、徒歩ゲート増設でピーク時間帯の増便を可能にする「ピア棟」の工事現場公開

2018年11月供用開始予定。2017年度は過去最高の旅客数&黒字達成

2018年5月14日 実施

仙台国際空港株式会社が、仙台空港西側に建設中の新たな搭乗施設「ピア棟」の工事現場を報道公開した

 仙台国際空港は5月14日、旅客ターミナル西側に建設中の新たな搭乗施設「ピア棟」の工事現場を報道関係者に公開するとともに、2017年度の実績や2018年度の事業計画に関する説明会を実施した。

 仙台空港は2016年7月に国管理空港として初めて民営化。東急前田豊通グループ(東急電鉄ほかグループ会社、前田建設工業、豊田通商)が設立した仙台国際空港株式会社による運営となって間もなく2年を迎える。

 その仙台国際空港が2018年度の供用開始を目指して整備を進めているのが「ピア棟」だ。民営化後30年後の目標に掲げている“旅客数550万人”に対応すべく、旅客取り扱い能力の拡充のために既存ターミナルビルの西側に増築されるもの。ピア棟は国内線の搭乗施設となり、既存旅客ターミナルは東寄りに国際線、西寄りに国内線を配置していることから、必然的にターミナルの西側に増築することになった。

 ターミナルビル新設ではなく既存ターミナルに増築することで、保安検査やチェックインカウンターなどの既存設備をそのまま利用する。同社 代表取締役社長の岩井卓也氏は、「ピア棟の増設で旅客550万人に対応できると思っている。(約30年後の目標に対して)相当に前倒しての設備投資」と述べる。この時期の設備投資の理由としては、空港が混雑してからでは時間の調整などが難しくなるため、便数が大幅に増加する前に着手することで、空港内の安全性確保や工事期間の短縮を図っているという。本工事には20億円を投資した。

ピア棟新設の目的と狙い
ピア棟の概要
ピア棟の配置。既存ターミナルの西側に建設している
グランドハンドリングの業務効率を考慮し、1階をピロティ(空洞)状にした

 ピア棟は2017年9月に着工し、竣工は2018年10月。約1カ月間、トレーニングなどを行なったうえで11月の供用開始を予定している。延べ床面積は5949.07m2で、ゲート(搭乗口)機能や待合スペースが設けられる。

 ゲートは徒歩ゲート3カ所、バスゲート2カ所。徒歩ゲート棟は2階建て、バスゲート棟は3階建てとなる。既存ターミナルの国内線用搭乗口はPBB(パッセンジャー・ボーディング・ブリッジ、旅客搭乗橋)が4カ所、バスゲートが2カ所の計6カ所。ピア棟増設時にバスゲートが1カ所廃止され、ピア棟完成後はPBBが4カ所、バスゲートが3カ所、徒歩ゲートが3カ所の計10カ所の国内線搭乗口を備えることになる。

 バスゲート棟、徒歩ゲート棟は既存ターミナルと直結し、徒歩で移動が可能。徒歩ゲート棟は1階をピロティ(空洞)状とし、2階部分を出発待合ロビーとすることで、グランドハンドリングの車両などが通行しやすい構造にしている。民営化時の提案では1階建ての施設を想定していたが、航空会社との協議の結果、このような構造を採用したという。

 そして、2階と1階の間はスロープで移動し、駐機エリア(エプロン)に設けられた屋根付きの通路(エプロンルーフ)を使用して徒歩で航空機にアクセスする。搭乗と降機は動線が分けられ、降機時は1階から2階へ上がり、ガラス窓で分離された到着専用ルートを通って移動。旅客ターミナルの到着ロビーへ向かえるようになっている。

ピア棟のイメージ
ランプ側から撮影されたピア棟の写真
エプロンルーフの例。成田空港第3旅客ターミナルで使われているもの

 このピア棟の新設により、ピーク時間帯に対応可能な便数を増加させることができるようになる。ビジネス利用者の多い空港ということもあり、朝、夕方から夜にかけての時間帯が特に混雑し、1日のうち15%ほどはバスゲートの利用になっているという。並行して運用できるターミナル直結の搭乗口を増やすことで、航空会社にとってもダイヤの柔軟性を高めることができ、ひいては利用者が利用したい時間帯の便が増えることにもつながることになる。

 一方、旅客ターミナル自体は既存施設を利用する。到着時に預け入れ荷物を引き取るターンテーブルは現在3台で運用しており増設も難しいというが、岩井氏は「(利用状況に)余裕があるので、近々にパンクするという予想はしていない」と回答。一方で出発時のチェックインカウンターや保安検査場はキャパシティのうえで懸案となっており、こちらは今後予定しているターミナルビル2階(出発ロビー)、3階(ショップなど)のリニューアル時に、旅客キャパシティの課題解決も含めた計画を立てるとした。

 ちなみに、徒歩ゲートによる搭乗/降機というとLCCの利用がイメージされるが、仙台国際空港ではピア棟の利用航空会社をLCCには限定しない方針だ。航空会社に対して選択肢を用意する目的のほか、ターミナルを分けているわけではないので、イレギュラー時にFSCも駐機できるようしておくことで利用者にかける負担を最小限に抑えることを狙っている。

 なお、仙台空港発着便はエアバス A320型機やボーイング 737型機といった小型機が多く、ピア棟の駐機スポットも小型機を想定したサイズとなっている。2スポットを使って中型機や大型機を駐機することも可能ではあるが、搭乗可能な旅客数を考えても小型機での利用が現実的だとしている。

出発動線。ターミナルビルからピア棟へ向かい、バスゲート使用時はバス棟で1階へ降りて、ランプバスに乗る。徒歩ゲートの場合はそのままピア棟まで歩き、スロープを使って1階へ降りる。そのままエプロンルーフを通って航空機に乗り込む
到着動線。バスゲートの場合も徒歩ゲートの場合も途中で合流し、ターミナルビルの到着コンコースへ向かう。ピア棟内では出発客と到着客の動線は完全に分離されている

 今回公開された工事中のピア棟は、天井の鉄骨などもむき出しだが、工事の進捗は50%を越えたところにあるという。最終的な内装も天井などは化粧板を張らず、絨毯を敷いたり、ベンチを置いたりするなど、岩井氏曰く「質実剛健な作り」になるという。

 さらに、「より安く、よりカジュアルに飛行機に乗る生活習慣が日本でも生まれると考え、それを見越した投資。カジュアルなのは高頻度で乗るということで、安い運賃でなければならない。そのためには航空会社だけでなく、空港もローコスト運用を考え、着陸料などのコストが課題にならないよう協力する必要がある」との考えを示している。なお、現在のPBBスポットへの駐機と、徒歩スポットへの駐機で着陸料などに差を設けるかについて、岩井氏は「航空会社と協議中」として具体的なコメントを避けた。

工事中のピア棟。これらは3階建てのバス棟部分
3カ所の徒歩ゲートが設けられるピア棟。2階部分はグランドハンドリング車両が通過できるようピロティ状に
徒歩ゲートの1階出入り口部分。ここからエプロンルーフを通って航空機にアクセスする
1階と2階を結ぶスロープ。徒歩で移動する
ターミナルビルとの連絡通路
徒歩ゲートの待合ロビーエリアがここに作られる
ピア棟から見たPBBゲート側のエプロン
こちらがピア棟前のエプロンで、取材中にANA(全日本空輸)のボンバルディア Q400型機がスポットイン。現在はここは、バスで乗降するスポットとして使用されている

2017年度は旅客数過去最高。決算も黒字化

仙台国際空港株式会社 代表取締役社長 岩井卓也氏

 併せて行なわれた仙台国際空港の事業説明会では、2017年度の実績として旅客数から説明があった。国内のインバウンド観光客が増加するなか、東北は他地域に比べて入域外国人数が少ないと指摘され続けてきたが、岩井氏が「やっと東北にもインバウンドの波がきた」と語るとおり、2017年度は台湾からの渡航者を中心に大幅に増加。宿泊者数についても、2016年の64万8430人泊から、94万5580人泊へと46%増加。全国平均の伸び率が約12%で、それよりも大きく増加したことを示している。

 こうした状況に岩井氏は「地元でも『外国人が増えてきたね』と言っていただける機会が増え、実感できるレベルになってきた。実感すると地域の方もいろいろな対策を考える。よいスパイラルが始まるのでは」との期待を述べた。

 こうしたことも追い風となり、2017年度の仙台空港の旅客数は国内線315万人、国際線28万人の計343万人と、第二種空港に指定された1964年3月以来、過去最高の結果となった。

東北のインバウンドの状況
東北への外国人宿泊者数
2017年度の旅客実績は過去最高の343万人

 その2017年の取り組み実績としては、国内線ロビーのリニューアルや、東北の農林水産物の輸出促進(創貨事業)、駐車場の拡張、地域と連携した広域訪日客誘致の取り組みや、仙台空港サポーターズの法人会員募集、空港満足度調査の実施、2年に1度の実機を用いた航空機事故対処総合訓練などを紹介。

2017年度のさまざまな取り組み

 航空路線では、2017年7月にスカイマークの神戸線の再開や、ピーチ(Peach Aviation)の仙台拠点化と新千歳(札幌)、台北線開設などの新規就航があった。ただし、2016年に就航したタイガーエア台湾の台北線は週4便から週2便へ減便、ユナイテッド航空のグアム線は運休になるなど、必ずしもよいことばかりではなかったともした。

2017年7月にスカイマークが仙台~神戸線を再開
2017年9月にピーチが仙台空港を拠点化。2路線に就航した
2017年度の新規就航実績
現在仙台空港に就航している国内線航空会社

 そうした2017年度の決算は、営業収益51億5500万円、営業利益6700万円、経常利益1億100万円、当期純利益1億900万円と、民営化2期目にして黒字化に成功。岩井氏は「内心では難しいと思っていたところがあったので、黒字決算でホッとしているのは事実」とし、悲観的な予想はあった一方で、増便と旅客増を売り上げにつなげ、「いろいろな工夫をしてここまできたので従業員に感謝している」と話した。

 2018年度は、先述のピア棟竣工に伴う経費や減価償却費増を見込んだうえで、増収減益ながら黒字を目指す方針。

2017年度決算
2017年度決算書のバランスシート

 また、一部で報道があった、民営化にあたって初年度に実施するとしていた一部施設の整備が履行されていない点についても説明。岩井氏は「現場に入るまで、現場のことが分かっていなかったことが多々あったと反省している」と謝罪した。

 遅れたのは、「提案時の構想では施工できず、設計や工期を見直す必要があった」「技術の進展で最新技術を採用することで安全性などが向上することから再検討した」「現場を見て分かった事実によって関係先との調整に手間どった」といった理由があったとし、指摘された未履行事項を列挙した。

 初年度に実施するとしていた、監視カメラの設置は2018年秋、到着動線の逆流防止ゲートは2018年夏、マルチメディアウォールは2018年秋にそれぞれ竣工、導入。また時期を明記していなかったアドバイザリーボード(顧問委員会)の設置は2018年7月に第1回を開催する見込みとなったほか、2021年までに導入予定としていたEV(電気自動車)は提案時の2021年という時期を強く意識して運用方法を検討していくとした。一方、2021年までに100本を計画していた桜の植樹については2017年3月に完了している。先述の2018年度計画の営業費用には、これらのコストも含まれている。

保安検査のルーチン変更で混雑緩和に成功。駐車場料金改定など2018年度の取り組み

2018年度の旅客数目標

 続いて、2018年度の取り組みついて紹介。旅客数目標は国内線338万人、国際線30万人の計369万人を掲げているが、岩井氏は「非常に厳しい」と述べる。

 特に国際線はユナイテッド航空グアム便の運休、タイガーエア台湾の減便があり、ピーチの台北線開設はあったものの、2018年度の上半期は供給座席数が2017年度を下まわった状態になる。そのため、タイガーエア台湾とは10月28日からの冬期スケジュールでの増便について協議しているほか、チャーター機の誘致などで達成を図る。

 国内線については、4月20日にFDA(フジドリームエアラインズ)が仙台~出雲線に就航。非常に好調とのことで、岩井氏は「出雲は仙台よりも経済規模は小さいが、この路線が成り立つならば、ほかにも就航先があるということ」と、一つの事例として注視している。

 4月に実施した取り組みでは、国内線の保安検査場の方法を見直したことも紹介があった。従来は手荷物検査を行なう際に保安検査員が荷物と搭乗券の両方を確認していたが、4月25日から保安検査場の入り口で搭乗券を確認し、保安検査場では荷物の検査だけを行なうようにした。この方式変更に先立ち、保安検査場の待ち時間を表示するディスプレイを、ターミナルビル1階に3カ所、2階に4カ所設置する施策も行なった。

 この効果として、旧方式だった4月21日の土曜日は、5~15分待ちの“やや混雑”が累積で47分間、15分以上待ちの“混雑”が累積14分間だったのに対し、新方式導入後の4月28日は、GW初日ということで利用旅客数が増えているにも関わらずやや混雑が9分間のみに激減。さらにGW最終日で旅客数のピーク日となった5月6日はやや混雑が58分間あったものの、混雑は4分間に留まったとのことで、岩井氏は「顧客満足度向上にも役立ったのでは」とした。

 このほか、空港バスの運行も拡充。岩手県北バスが運行する松島・平泉線が5月11日から花巻空港まで延伸。花巻空港には7月からタイガーエア台湾が就航予定となっており、「回遊性が高まる。花巻空港さんとも一緒になにかできないかと思っている」との考えを示した。また、タケヤ交通運行の秋保温泉・みちのく公園線の一部便を仙台駅経由で運行すべく認可を申請している。

FDA(フジドリームエアラインズ)が4月20日に仙台~出雲線の定期便就航
国内線の保安検査を見直し、入り口で搭乗券を確認し、保安検査場で荷物の検査をするという2段階に変更することで、GWの混雑を避けられた結果に
空港バスも花巻空港線や、仙台駅経由便などルートを拡充

 さらに、駐車場料金の改定を7月1日に実施。空港に近い第1駐車場は、送迎目的などで1時間以内の利用であれば無料とする。これは短時間利用者へのサービスであると同時に、送迎などの際に駐車場を利用しやすくすることでターミナルビル前の道路への路上駐車などを抑制する効果も狙っている。

 一方、2時間超の駐車料金は第1駐車場を1時間150円から200円へ、24時間最大料金を800円から1000円へそれぞれ値上げ。ただし、6日以上の利用者へのサービスとして、6日目以降は24時間最大料金を800円とする。

 第2駐車場は24時間最大料金を600円から500円に値下げするとともに、6日目以降は24時間最大料金を300円へとさらに値下げする。

 ちなみに、駐車場は2017年度に拡張し2016年の民営化時点で1367台だったものを、1759台へと増強。公式Webサイトの事前予約を可能にするとともに、満空情報もリアルタイムで把握できるようにしている。

駐車場の利用料金を改定。短時間、長期間の利用者へのサービスを導入するとともに、第1駐車場は2時間超から6日間までの利用時に値上げ。第2駐車場は値下げする