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ANA、ドローンを活用した機体整備点検作業のデモンストレーションを公開

ボーイング 787型機を上空から検証

2017年2月14日 実施

ANAは、伊丹空港に隣接するMRO Japanの大阪事業所格納庫前において、ドローンを活用した機体整備点検作業の実用化に向けたデモンストレーションを実施。ドローンは「AS-MC-02P」を使い、ボーイング 787型機の機体状況を撮影した

 ANA(全日本空輸)は、伊丹空港に隣接するMRO Japanの大阪事業所格納庫前において、ドローンを活用した機体整備点検作業の実用化に向けたデモンストレーションを実施し、報道陣に公開した。

 今回のデモンストレーションは、ANAと、ドローンを利用した各種サービスを提供しているエアロセンスとの協業により実施されたもの。デモンストレーションに先立ち、ANAのデジタル・デザイン・ラボのチーフ・ディレクターである津田佳明氏から、今回のデモンストレーションの概要が説明された。

ボーイング 787型機上空を飛行するドローンの様子 その1

 ANAは2016年4月から、新技術活用によるイノベーション創出を推進するための組織「デジタル・デザイン・ラボ」を立ち上げており、そのなかで「バーチャルハリウッド」と呼ばれる社内提案制度から、ドローンを活用した事業の可能性を検討するプロジェクトが立ち上がったと説明。

 ANAの長年の有人旅客機オペレーションのノウハウが、ドローンインフラに貢献できるのではないかと考えており、将来顧客への新しい価値を提供することで、新たな収益事業に成長させたいという。

デモンストレーションの概要を説明する、全日本空輸株式会社 デジタル・デザイン・ラボ チーフ・ディレクター 津田佳明氏
ANAでは有人旅客機オペレーションのノウハウを提供しながらドローンインフラ整備に貢献できると考えるとともに、将来の新たな収益事業へと成長させる計画
ドローンを利用した取り組みは、新組織「デジタル・デザイン・ラボ」のなかから発案された

 現在政府は、2021年以降の本格的な商業化開始を目標として、ドローン技術の向上やインフラ整備などを進めている。そういったなかANAも、その政府が取り組んでいるスケジュールに合わせて取り組みを進めていくという。

 まず、日本無人機運航管理(JUTM)コンソーシアムに設立メンバーとして参画し、ドローンを活用した社会基盤構築に積極的に取り組んでいるという。また、BtoBやBtoCへの商業化を目指したトライアルも繰り返していく計画。さらに、ANAの業務プロセス内でのドローンの活用も検討していくという。

 今回のデモンストレーションは、ANA業務プロセス内でのドローン活用を想定したもので、飛行中に被雷した機体の点検作業に活用するという内容。飛行中に被雷した機体は、被雷による機体損傷の有無を点検し、必要なら修理をしなければ、次のフライトに入れないという。

現在の点検作業では、ゴンドラに作業員が乗り、目視で確認しているため、作業に時間がかかったり、危険な環境で作業を行なう必要があったりと、さまざまな問題がある。その作業を、ドローンを使って行なうことで、作業の短時間化や省力化につなげたいという。

 今回のデモンストレーションに先立ち、1月25日に秋田県の庄内空港において、作業車の上にドローンを飛行させて、駐機エリアでの特性を確認。そして今回、初めて実際の航空機の上にドローンを飛行させたデモンストレーションを実施することになった。

政府のドローン実用化ロードマップと歩調を合わせて、ANAもドローン実用化に向けて取り組む計画
飛行中に被雷した機体の点検作業にドローンの活用を目指す計画
ドローンを利用した各種サービスを提供するエアロセンスと提携し、ドローン実用化に向けた検証を進める計画

 エアロセンスの取締役CTOである佐部浩太郎氏によると、今回のデモンストレーションでは、人手による目視が困難な飛行機上面にドローンを飛行させ、写真を撮影して確認することが目的とのこと。実際に旅客機上部にドローンを飛行させて写真を撮影、画像データを加工処理し、最終的に画像の確認までが行なわれた。

 ドローンは、あらかじめ設定された飛行ルートを飛行する。飛行ルートは、航空機上部から10mほどの高さで、機体前方から後方に向かって、毎秒約1mほどの速度で左右にジグザグに移動するように設定。

 ただし空港では、制限表面と呼ばれる高さ制限が設定されており、制限表面を超える高さにドローンは進入できないため、常に制限表面以下の高度での飛行となる。そして、飛行中に航空機上面の写真が撮影される。

 現場には、操作用の端末が置かれ、端末を操作したり、風などの環境を計測したりする現場オペレータがつくことになるが、ドローンの飛行はすべて自立飛行となり、現場オペレータが操縦することはない。

 そして、撮影した写真は、飛行終了後にクラウドサーバへと転送され、画像処理が行なわれたあとに確認が可能となる。クラウドサーバでは、画像解析に合わせて、画像をつなぎ合わせて大きな1枚の画像を生成したり、3Dモデルを作成したりできるという。

今回のデモンストレーションでのドローン飛行について説明する、エアロセンス株式会社 取締役CTO 佐部浩太郎氏
今回のドローン飛行は、人手による目視が困難な飛行機上面にドローンを飛行させ、写真を撮影して確認することが目的
ドローンが航空機上部を飛行して機体を撮影し、撮影データをクラウドサーバに転送。クラウドサーバで画像の解析処理が行なわれ、利用者が閲覧可能となる
ドローンの飛行ルートはあらかじめ設定し、そのルートに従って自律制御で飛行。毎秒約1mの速度で、機体上部を左右ジグザグに移動しながら飛行する
ドローンは、滑走路から設定されている制限表面より低い高度を飛行
撮影された写真はクラウドに転送され、つなぎ合わせた1枚画像や3Dモデルなどを作成

 デモンストレーションに使用されたドローンは、エアロセンスの自立型マルチコプター「AS-MC-02P」。このドローンには、GPSや慣性センサーなどが搭載され、あらかじめ設定された飛行ルートを自律制御で飛行できる。

また、機体撮影用として、ドローン下部にソニー製のレンズスタイルカメラ「DSC-QX30」を装着。このカメラによって、1ピクセルあたり約2mmほどの解像度で機体を撮影できるため、細かな部分まで機体の状況をチェック可能という。

 航空機はボーイング 787型機「JA801A」。世界で初めて商用フライトに投入された、ANAのボーイング 787型初号機で、ドック入りに合わせて利用。なお、このJA801Aは、今回のドック入りで特別塗装から通常塗装へと変更される予定。

デモンストレーションに利用されたドローンは「AS-MC-02P」。下部にソニー製のレンズスタイルカメラ「DSC-QX30」を装着。現場にはオペレータが操作するPCも設置される
デモンストレーションに利用された、AS-MC-02P。4個のプロペラを備えたドローンだ
ドローン底面に、ソニー製のレンズスタイルカメラ「DSC-QX30」を装着
ドローンのサイズは、プロペラガード装着時で800×800mm(幅×奥行き)
オペレーション用のPC
飛行中は常にオペレータが付いているが、実際に操縦することはない
ドローンによる検証に使用されたボーイング 787型機「JA801A」

 デモンストレーションでは、ドローンを2回飛行させて検証が行なわれた。当日は比較的強い風が吹くコンディションだったが、2回ともドローンは大きく姿勢を乱すことなくスムーズに航空機上部を飛行した。

 なお、安全性を優先し、風速10mを超える風が吹いている場合には、ドローンの飛行を行なわないように設定しているという。また、ドローン自体は防滴仕様のため、多少の降雨でも問題なく飛行できるが、点検作業で利用するには高品質な写真を撮影する必要があるため、好天時のみの運用になる可能性が高いとのこと。

オペレーション用PCからフライトの指示を出すと、静かにドローンが飛び立った
ドローンはボーイング 787型機上空を安定して飛行した
当日は比較的風の強い環境だったが、姿勢を乱すことなく安定して飛行
ボーイング 787型機上空を飛行するドローンの様子 その2

 今後は3月中に再度MRO Japanの大阪事業所格納庫前で今回同様に航空機上空を飛行させる計画。その後は、場所を庄内空港に移し、本格的な検証作業を開始する予定。また、ドローンを利用した機体整備点検作業を実現するには、航空機メーカーをはじめとした関係各所からの承認を受ける必要があるため、その承認に向けた各種取り組みも行なっていくという。

今後は、3月中に再度MRO Japanの大阪事業所格納庫前で航空機の上空を飛行させ、その後は庄内空港で本格的な検証に入る計画