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ミャンマーからANAグループへの第1期技能実習生が3年間のプログラムを修了。「ミャンマー航空業界の礎」を期待される

初の女性実習生を含む3期生11名も新たに受け入れ

2018年11月26日 実施

ANAグループが受け入れたミャンマーからの技能実習生の1期生15名が3年間のプログラムを修了。新たに3期生11名を受け入れ

 ANAHD(ANAホールディングス)は11月26日、外国人技能実習生制度を利用して2015年に受け入れたミャンマーからの技能実習生15名の実習プログラムが修了した送迎会と、新たに実習生として来日した11名の歓迎会を成田空港近くのホテルで実施した。

 これはANAグループとミャンマー航空局との覚書に基づき、「HARP(ハープ、Human resource Ability Reinforcement Program)日本・ミャンマー航空人財育成プログラム」として実施されているもの。ミャンマーの航空業界の近代化のため、ミャンマーとの直行便を運航するANA(全日本空輸)グループのANA成田エアポートサービスが実習生を受け入れ、グランドハンドリング業務の実地研修などを3年間行なうものとなる(関連記事「ANA、成田空港でミャンマー人実習生のグランドハンドリング研修を実施」)。

 このプログラムは、外国人技能実習制度を利用したものとなるが、企業が独自に、社外の外国人スタッフを受け入れる点で、同制度の活用方法としても独自性があるものとなっている。ミャンマーからのスタッフは、同国政府により認定された人材で、プログラム終了後はミャンマーで元々いた会社に復帰し、日本で学んだグランドハンドリング業務の安全性や品質の向上に貢献することになる。

 同プログラムでは、2015年11月に1期生として15名、2016年11月に2期生として12名を受け入れ。今回、3期生として11名を新たに受け入れる。一方、2015年11月に同プログラム最初の実習生(1期生)としてANA成田エアポートサービスに入社した15名が3年間のプログラムを修了。11月28日に帰国の途に就く。

篠辺副会長「指導的な立場でミャンマー航空業界発展に貢献を」とエール

日本、ミャンマーからそれぞれの代表者が集まって実習生の歓送迎会を実施

 11月26日に行なわれた歓送迎会では、まずANAHD代表取締役副会長 篠辺修氏があいさつ。「私自身も3年前の2015年11月27日に行なわれた1期生のセレモニーに参加した。緊張してコチンコチンだった15名を思い出す。彼らが頼もしい姿に変わった。3年間のグランドハンドリングの研修を終えて、技術的なスキルやノウハウを習得しただけでなく、外国で生活することで人間的にも成長できたのでは。(来日したばかりの)3期生に比べて、自信に満ちあふれた顔に見えて頼もしい」と感慨深げに切り出した。

 プログラムの結果について、「ANAグループにおいて、外国人技能実習生の受け入れは今回が初めてといってよいことだった。空港現場においては、異なるバックグラウンドの彼らとどう向き合えばよいのか悩みもしながら、一方でひたむきに学ぶ姿勢に受け入れサイドも大いに刺激を受けた。人材育成のノウハウを彼らと改めて蓄積するとともに、ANA側のグローバル化の視点も広がることもできたと思う」とANAサイドのメリットに言及。

 歓送迎会後の囲み取材のなかで篠辺氏は、「いわゆる新興国で、例えばミャンマーだと大きなジェット機が入れる空港が2つか3つしかない。空港インフラ、人材インフラが整っていないと、ミャンマー自体の航空産業が発展しない。ただちに我々の利益になるとは思っていないが、(将来ミャンマーの航空会社と観光や就航地などで協力関係を結びたいと思ったときなどに)我々の国際線のアジアの強化につながる。彼らがミャンマーのグランドハンドリング関係の核になって、航空産業のキーマンになっていけば、特に日本とのパイプも広がる。受け入れ側も、日本に受け入れるのは初めてだったので、インストラクターにはよい勉強になった。自分たちが思っていることを日本語が十分通じない人たちに教える。インストラクターの力量などが上がって、国際経験を積める。我々のなかでも人材育成になる」とも、メリットを語った。

 一方で、国内の人手不足解消の対策として、入管法(出入国管理及び難民認定法)の改正による外国人労働者の受け入れについて議論が起こっていることに対し、「このプログラムについては、人手不足解消が目的ではない。今後、さらに経済発展が進むであろうミャンマーの人づくりのお手伝い。今後、それぞれの彼らがミャンマーの派遣元の会社などに戻るが、将来、彼らが指導的な立場を担って、ミャンマーの航空業界発展に貢献することを期待している」と国際貢献が目的であることを説明。

 歓送迎会後の囲み取材で、技能実習生に3年のプログラムを超えて戦力になってもらう計画はないかについて改めて篠辺氏に尋ねると、「(3年を超えて従事してもらう予定は)今のところはない。元々、ミャンマーの側で活躍するというのがプログラムの主旨。先方で、ほかの経験もさせたいというのがあれば考えたい」と回答。将来の人手不足解消のための外国人受け入れについては「将来検討の余地はあるかもしれない」とする一方で、業務の省力化や、離職率を下げることで経験豊かな人材が集まる方策を優先する意向を示し、外国人技能実習生受け入れは対象国の航空業界発展に寄与するものであることを強調した。

 また、あいさつのなかでは、「プログラムの成功判断は、ミャンマーに戻って、ANAから得た知識や経験をいかに活かせるかにかかっている。さらに、ミャンマー国内でANAの認知度や信頼が高まって、1人でも多くのANAファンが増えることになれば、これ以上のプログラムの成功はないと思っている。グループとしても、今後も機会が整えば、グランドハンドリングのみならず、そのほかの分野にも拡げられれば」と、プログラムの評価軸や今後についても言及。

 囲み取材のなかで、他国からの受け入れや、他業種への拡大について質問があがると、いずれも「ニーズ次第」との意向。飛行機運航に関わることであれば、ニーズがあり、条件が整えば受け入れを検討する姿勢を示した。

 他方、これから3年間のプログラムを開始する3期生に対しては、「期待に胸を膨らませて来日したと思う。ぜひ先輩たちを見習って、先輩たちを追い抜く、追い越すような研修成果を挙げることを期待している」とエールを送った。

ANAホールディングス株式会社 代表取締役副会長 篠辺修氏

 続いて、ミャンマー連邦共和国 駐日大使のトゥレイン・タン・ジン氏が登壇。「ANAHDはミャンマーと日本の友好関係をさらに強くさせる一つの礎。ANA便が毎日運航していることで、日本とミャンマーの社会・経済の協力連携がさらに向上しているといえる。ミャンマーは後発開発途上の一つとして経済発展のためにさまざまな分野で必要としていることがある。特にインフラでは、ハードだけでなく、ソフトの分野でも必要なことがある。ANAHDならびに日本政府においては、ミャンマーのインフラの部分で、ハードインフラだけでなく、ソフトインフラにも支援してくださっている。このグランドハンドリング研修のような人材育成への支援は、ミャンマーのインフラ分野の基礎となるところを作っていただいていることに感謝したい」と、日本、ANAのインフラへの支援に感謝を示した。

 研修を終えた1期生の15名には、「ANAのグランドハンドリング研修で十分に技術を習得し、セレモニーに出席している15名は、間もなく本国で自身が身に着けた技術で、自国を担っていくであろうことを誇りに思う」との言葉を送った。

 また、新たに来日した3期生の11名には、「親のような気持ちでお願いしたいことがある」と切り出し、「得た知識を自国で役立たせることを目標とし、根気強く、知識を余すことなく得ることに努力し、習得した知識や技術をさらに向上させられるよう勉学に励んでほしい」「外交団の1人として来ている気持ちで、日本とミャンマーの友好がさらに深まるよう関係を築いてほしい」「ハードインフラはお金があればできるが、ソフトインフラはできない。日本の素晴らしい習慣や風習、技術面を身に付け、ミャンマーに戻ってまわりの人に広げてほしい」「季節が変化する日本で健康に注意して過ごしてほしい」との4点をお願いした。

ミャンマー連邦共和国 駐日大使 トゥレイン・タン・ジン氏

 次に、ミャンマー連邦共和国 運輸通信省 事務次官のウィン・カン氏が登壇。歓送迎セレモニーに参加できたことへの喜びを述べるとともに、「単にセレモニーということではなく、ミャンマーと日本の航空業界をより親密に結び付ける機会だと思う」とし、「参加した皆さんがミャンマーの航空業界でリーダーの役割を担い、さらなる発展を成り遂げられるのではないかと信じている。そのほかの分野でもこのような実習プログラムができるように、さらなる協力ができることを期待している」との期待の言葉を述べた。

 また、修了した1期生に対しては「皆さんが日本で学んだことは皆さんのためになり、航空事業に対する自信が満ちあふれていると思う。それをぜひミャンマーで活かしてほしい」、スタートする3期生に対しては「日本に勉学に励んでしっかりと事業を学んでほしい。人生のためになる知識を日本で身に付けてほしい。ミャンマーの代表として、ミャンマー国民として誇り高く行動するようお願いしたい。世界的にも有名な日本のサービス業界に関して、皆さんがこちらで学べることは大きなチャンス。日本のルールを守り、規則正しく生活し、日本で学ぶよう改めてお願いする」と、それぞれの活躍に期待の言葉を送った。

ミャンマー連邦共和国 運輸通信省 事務次官 ウィン・カン氏

 日本の当局から、国土交通省 大臣官房審議官の堀内丈太郎氏が登壇。「日本とミャンマーの間では2012年にANAが成田~ヤンゴン便を就航して、渡航者は年々増加しており、2013年には双方向合わせて7.9万人だったものが、2017年は12.4万人となった。2018年は、ミャンマー政府の多大な尽力で、日本人に対する観光ビザが免除されたことで、日本人観光客がますます増加し、2国間の航空輸送がますます活発になることを期待している」と両国間の関係の高まりへの期待の言葉を述べた。

 また、「日本政府はこれまで培ったノウハウを活かして、官民一体となって航空分野の海外協力を進めている。マンダレー国際空港では2015年から日本企業が空港運営にも関わっている。ほかの空港でも関係が築けるかミャンマー政府と協議しているところ。これからも航空分野のさまざまな面で、ミャンマーのお役に立てればと考えている」と、国交省の取り組みについて説明するとともに、ミャンマーへの貢献についてコミットを示した。

国土交通省 大臣官房審議官 堀内丈太郎氏

 また、歓送迎会の最後には実習生を受け入れたANA成田エアポートサービスの代表取締役社長 石田洋平氏があいさつ。

 1期生に向けては、「1人も欠けることなく、全員が3年間のプログラムを無事に修了できたことをうれしく思う。一緒にプログラムを進めるなかで、インストラクターをはじめ日本人社員も大いに学ぶところがあった。これは我々にとっても大きな財産。皆が習得した知識、技能や安全文化などをミャンマーでぜひ活かしていただきたいが、国の文化や習慣の違いなどもあるので、あせらずにゆっくりと進めていって」とエール。

 来日した3期生に向けては、「日本に到着したばかりで環境の違いに戸惑っていると思うが、会社はもちろん先輩もフォローしてくれるので安心してほしい。このプログラムは4年目でまだまだ改善の余地はあると思う。お互いに前向きな意見を出し合いながら、今後の3年間を実り多いものにしていきましょう」と言葉を送った。

ANA成田エアポートサービス株式会社 代表取締役社長 石田洋平氏

修了の実習生「日本語が大変だった」。一方でカイゼン提案も

 歓送迎会では、3年間の研修を終えた1期生15名を代表し、ソウ・モウ・アウン氏があいさつ。「3年の技能実習のなかで学んだ知識、技術ともにカイゼンやG.アサーションなどの安全文化など日本で学んだことを持ち帰り、ミャンマーの航空産業の発展に貢献することを約束する」と決意を示すとともに、関係者に謝辞を述べた。

1期生15名が登壇し、代表してソウ・モウ・アウン氏(写真右)があいさつ
1期生15名の1人1人に修了証が授与された

 会のなかでは1期生による3年間のプログラムの実習を紹介する時間も設けられた。発表にあたった実習生は「ANA成田エアポートサービスは、ランプ、カーゴなどのグランドハンドリングサービスを一つの会社ですべて行なっているので、広い視野でグランドサービスを見ることができ、たくさんのことを学べた」としたほか、「ヤンゴンに就航していない機種のことを学べた」といったことを日本ならではの実習環境として紹介。

 1期生の15名は3チームに分かれ、ランプサイドハンドリング(駐機中の飛行機の周囲で行なわれる地上支援業務)、カーゴ(貨物)ハンドリング、バゲッジ(旅客手荷物)ハンドリングの3科目について、毎年、次のレベルに上がるための技能評価試験によって1年目にエントリー、2年目にベーシック、3年目にアドバンスとステップアップしていったことを紹介。

 また、金曜日には、その週に学んだことの振り返りを1名ずつレポートする座学の時間が設けられ、レポートとディスカッションをすることで全員が技術と知識を均等に習得するための時間になったとした。

 業務全般を通じての学びとして、「5s(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」や「KYT(危険予知トレーニング)」「ヒヤリハット」「カイゼン」、役職関係なくお互いに指摘する「G.アサーション」といったANA成田エアポートサービスの安全文化についても紹介。

 貨物室に当たるか当たらないかぎりぎりの高さの貨物を収納する際に、入れる前に貨物の高さが目で見て分かる棒状のようなものを作業車両に設置してはどうかとのカイゼン提案が実習生から挙がり、実際に導入して、いまも現場で使われているという事例も生まれた。

 また、「女性がいろいろな仕事を男の人と同じように仕事しているのはビックリした。私たちの国ではあまり見ない」との感想も。ひな祭りでは女性だけで業務をすることなどを紹介したうえで、「3期生には女性もいる。これからは女性も一緒に働く時代が来ていることを私たちも受け入れたい」と話した。

 歓送迎会後に囲み取材に応えたソウ・モウ・アウン氏は、「日本人のマナーや礼儀作法が印象に残っている。会社のなかでもアサーションを行なうときの接し方や、時間の守り方、成田駅などの地域清掃ボランティアにも驚いた」と日本での生活についてコメント。実習生15名は、ボランティア活動などにも積極的に参加したという。

 また、大変だったこととしては「日本語」と、日本語で回答。

 インストラクターを務めたANA成田エアポートサービスの須川氏も、「伝えたい部分が最初のころは上手に伝えられなかった。言い方を変えて伝えるようにしていた。絵に描いて教えたりもした」と最初は言葉の壁があったとしつつ、「日本語の吸収スピードが速かったので、そこはラクだった」とも話した。

1期生が日本で実習したことや学んだことをまとめ、プレゼンテーションを行なった

 そして、土曜日に来日したばかりという3期生11名も登壇。3期生は、初めて女性スタッフも実習に参加。ヤンゴンのほか、ネピドーで従事していた人もいるとのこと。

 代表してマイクの前に立ったタン・ウィン・トゥン氏は、「今日は日本とミャンマーの大切な日。皆さまにお会いできてうれしい。私たちは日本でグランドハンドリングの勉強ができることがうれしい」と日本語であいさつした。

これから3年間の実習に取り組む3期生11名。代表してタン・ウィン・トゥン氏(写真右)が決意を述べた