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ANA、成田空港でミャンマー人実習生のグランドハンドリング研修を実施

第1陣として15名を受け入れ。2016年以降の継続にも意欲

2015年11月19日 発表

2015年11月27日 歓迎セレモニー実施

 ANA(全日本空輸)グループは、ミャンマー運輸省航空局と「グランドハンドリング人材育成強化に関する覚書」を締結し、空港グランドハンドリング業務の近代化を担う技能実習生を受け入れる。その第1陣となる15名の実習生が来日したのを機に、成田空港近くのホテルでセレモニーを実施した。

 本覚書で交わされた内容は「日本・ミャンマー航空人財育成プログラム」と名付けられており、「HARP(ハープ、Human resource Ability Reinforcement Program)」と呼ばれている。航空産業の拡充を図るために空港グランドハンドリング業務の近代化を担う人材育成が必要になっているミャンマーから、技能実習生をANAグループのANA成田エアポートサービスが受け入れるもの。ANAグループでは、2015年に第1陣として15名を受け入れ、翌年以降も同程度の人員を継続的に受け入れたいとの意向を示している。

 このプログラム開始にあたっては、日本からミャンマーへはハードインフラを中心としたODA(政府開発援助)が行なわれている一方、人材育成は後手にまわり、なかでも航空人材の育成はほとんど手が付けられておらず、ミャンマー側としても自分たちだけでは対応できない状況が背景にあったという。

 ANAでは日本の航空会社で唯一、ミャンマー(ヤンゴン)に直行便を運航している会社として、人材育成に関する相談を以前から受けており、そこで空港のグランドハンドリング人材育成の実施を手伝うことになった。

 この際、日本で外国人に研修を受けてもらうためには、なんらかのステータス(言葉を換えれば厳格な理由付け)が必要になるが、ここで「外国人技能実習制度」を利用。政府より国際戦略特区に指定されている成田市も厚生労働省や総務省などの調整に協力したという。

 外国人技能実習制度の活用についても、今回は新たな手法に取り組んだ。これまでの同制度は、営利目的でない団体が技能実習生を受け入れ、その傘下企業をなどの実習実施機関で研修を行なう「団体管理型」と呼ばれるスタイルが多く活用されていた。

 一方、今回は企業そのものが技能実習生を受け入れる「企業単独型」と呼ばれるスタイルを採用している。その名のとおり、企業そのもので外国人技能実習性を受け入れる制度だが、これは本来、日本企業の海外現地法人スタッフなど、自社グループの海外職員育成を想定したものであり、今回のプログラムでは、ミャンマーの空港スタッフというANAグループとは直接関係のない人を受け入れる点で、本来想定されている企業単独型の技能実習制度とも異なっている。ミャンマー、日本の両政府と調整の結果、ミャンマー政府の“お墨付き”がある人を受け入れるということで、こうした形での実施が初めて認められたという。

 ミャンマーからの技能実習生は、元々在籍していた会社を退職し、ANA成田エアポートサービスに入社。1年間を予定している日本での研修を終えたあと、元の会社に復職して、ミャンマーにおけるグランドハンドリング業務の品質、技能向上に貢献してもらうことになる。ちなみに、11月27日に来日した15名のスタッフは、7月26日からミャンマーの航空局訓練センターで事前研修を3カ月間実施。そのなかで優秀な結果を修めて選抜されたメンバーとなる。2~5年ほどの経験を積んだ20代後半~30代前半のスタッフで、全員が男性。

 ANA成田エアポートサービスの新入社員と同程度の待遇で迎えられ、日本では寮生活を送る。炊飯器や自転車なども用意して、慣れない日本生活に溶け込んでもらえるようにきめの細かいケアをしていきたいとしている。

将来のミャンマー線増便や機材大型化も見据えての決定

全日本空輸株式会社 代表取締役社長 篠辺修氏

 この15名の来日を機に実施された歓迎セレモニーでは、ANA代表取締役社長の篠辺修氏が「ANAグループは今般、7月下旬から3カ月からミャンマーのヤンゴンで事前トレーニングを修了した15名の若者が、本日から場所に成田に変えて技能研修をやるところまでこぎ着けることができた。改めて関係の皆様にはお礼申し上げたい」と挨拶。

 実習生が事前研修を行なっていた8月19日に篠辺氏も現地を訪れたそうで、「熱心に講習を受ける姿や、ミャンマーの航空産業の将来を担うんだと心意気を感じた」と、その感想を述べた。

 今回のプログラムの実現にあたっては、「実は2年ほど前からこうした取り組みを実現すべく、関係者の間では検討を進めてきた。しかしながら、私どもグループでこうした研修を受け入れたことがなかったことも含め、なかなかハードルが高くて、関係省庁の皆様にもずいぶんとご苦労をかけた。そうしたなかで、成田の地で国際戦略特区の取り組みがあって、こことうまくコラボする形でいろいろな調整が一気に進み、このプログラムのスタートに至った」と、関係省庁や成田市に対して感謝を表わした。

 将来については「当然、来年(2016年)も再来年(2017年)も続けられることができれば続けたいと思っている。グラハンにこだわることなく、旅客もあれば整備もある。私どものグループでお手伝いできることがあれば、いろいろ検討していきたい。いずれにしても、こうしたプログラムを通じて、ミャンマーの航空産業の発展に少しでもお手伝いできれば、あるいは、私どもにとってはミャンマーの国内でANAという航空会社の認知度や信頼が高まって、多くのANAのファンができればと思っている。こうした取り組みを通じて、単に業務の関係だけでなく、日本とミャンマーの関係もより国際交流として良好なきっかけになれば、まさしく私どもの期待するところ」と述べ、今回の取り組みをきっかけとした、さまざまな面での両国関係の発展に期待した。

 また、セレモニー後の囲み取材では、このプログラムを実施した理由を問われ、2点の理由を挙げた。「我々が異文化研修になる。内なる国際化とは言っているが、実際に海外へ行けるスタッフは駐在員ベース。彼ら(実習生)が来てくれることで、海外に行けないスタッフにとって、少なくともアジアの国の若い人達がどんな感じかという異文化研修になる」というのが1点。

 もう1点は、「私どもしか(日本から)ミャンマーに飛んでいないが、人口は5000万以上いるので、間違いなくもっと流動が多くなる。その時に便数や機材の大型化を考えなければならない時代が必ず来る。その時に私どものハンドリングのノウハウや経験を積んだ人達がその空港にいることが、我々にとって展開を楽にしてくれる」とし、いずれの理由にしても「ただちに経済的にメリットがあるとは考えいない」として、将来を見据えたうえでの決定であったことを伺わせた。

ミャンマー運輸省航空局長 Min Lwin(ミン・ルイン)氏

 ミャンマー側からは、ミャンマー運輸省航空局長のMin Lwin(ミン・ルイン)氏が来日。「今回の研修をきっかけにミャンマーと日本の友好関係がさらに深まって、ミャンマーの航空業界発展が始まると思っている。このような研修でスキルが上がることで、ミャンマーの航空業界がさらに発展していくと信じている」と挨拶。

 実習生に対しては、「自分の研修だけをやっていればよいということではなく、ミャンマーの発展のためにさまざまな分野を学んで、今後のミャンマーをリードしていけるように、たくさん勉強してほしい」と要望した。

記念品交換では、篠辺氏からルイン氏へモデルプレーン、ルイン氏から篠辺氏へ天然の宝石で描かれたというマンダレーパレス(マンダレー王宮)の絵を贈り合った
国土交通省 航空局次長 重田雅史氏

 国土交通省 航空局次長は重田雅史氏は、「私ども国土交通省 航空局にとっても、外国人技能実習制度を活用した航空分野の人材育成支援であり、日本とミャンマーの両国における航空分野の関係強化に繋がるものとして有意義なものと考えている。ANAは申し上げるまでもなく(英SKYTRAXの)World Airline Ratingで2013年から3年連続のファイブ・スターを受賞している。また、本年は空港サービス全般を評価するWorld Best Airport Serviceでも世界一の評価を受けている。いわば世界最高品質のサービスを提供する航空会社」と今回の取り組みとANAグループを評価。ANAグループに対し、高品質なスキルの提供を通じた国際交流推進への寄与に感謝を示した。

 実習生に対しては、「ANAは人材を宝の人財、従業員は財産であると考える会社。ミャンマーの技能実習生の皆さんにとっても幸せな職場になると思う。このような最適な環境のもと、日本随一の国際空港である成田空港で知識、スキルを十分に習得できるよう、しっかり日本で学んでいただきたいと思う」とエールを送った。

15名の実習生を代表して挨拶したYe Si Thu Htet(イエ・シー・トゥ・テッ)氏

 最後に実習生を代表してYe Si Thu Htet(イエ・シー・トゥ・テッ)氏が挨拶。ミャンマーで行なわれた事前研修で日本語も勉強したとのことで、「私達にこのような機会を与えていただき、ありがとうございます。私達はこのトレーニングで、日本の航空技術を学びます。このトレーニングが終わったとき、自分の会社と、自分の国の航空事業に貢献したいと思います。私達は日本でのトレーニングを真剣に学びます。そして日本語もうまくなりたいです」と日本語で挨拶した。

(編集部:多和田新也)