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ミャンマー入国時の観光ビザ免除を両国関係者が祝福。マスコットキャラクターを日本企業が贈呈
2018年10月3日 16:36
- 2018年10月1日 開始
ミャンマー連邦共和国は10月1日、日本旅券所有者がミャンマーに入国する際の観光ビザ免除制度をスタートした。このビザ免除施行初日、日本~ミャンマー間の唯一の直行便となるANA(全日本空輸)のNH813便の到着に合わせ、ヤンゴン国際空港でミャンマー ホテル・観光大臣のオウン・マウン氏や、駐ミャンマー日本大使の丸山市郎氏らが列席して記念式典を実施した。
ミャンマーの観光ビザ免除については既報のとおり、これまで観光目的の入国に際して50ドル(約5750円、1ドル=約115円換算)を支払ってのビザ取得が必要だったが、これを免除。入国カードの記入なども必要なくなった。10月1日のNH813便の到着時には、降機した乗客に記念品もプレゼントし、この制度の施行開始を祝っている(関連記事「ミャンマー入国時の観光ビザ免除スタート。ANA直行便の到着客を盛大に歓迎」)。
記念品の配布後、ヤンゴン国際空港内では記念式典を実施。冒頭に登壇したミャンマー ホテル・観光大臣のオウン・マウン氏は、「ミャンマーにお越しいただいた日本からの皆さまを盛大に歓迎したい。第2次世界大戦が終わってから、日本とミャンマーは非常に友好関係を持ち、一緒に過ごさせていただいている。民主的な政権が樹立され、民主化を進めようと努力しているなかで、(日本の)皆さまからサポートしていただいている」と謝辞。
配布した記念品は、ランダムで2種類が配布されていたとのことで、一つは、「日本のミャンマーの友情を記している」として「ビルマの竪琴」を選択。もう一つは「祭日に王さまやお釈迦さまへの供え物を入れて、頭に乗せて寄贈する」というミャンマーの仏教の伝統を知ってもらうべく、「サンオーク」と呼ばれる供え物の器をプレゼントした。
ビザ免除プログラムについては、「観光産業は国にとって経済を支えるもの。ミャンマーの経済方針の重要な分野の8項目のなかで、観光はもっとも高い優先順位に挙げられている。ミャンマー政府としては、もっと観光が円滑に進むように頑張ってきている。そのなかの一つとして、ビザを免除する」と説明。ツーリズムEXPOジャパン2018への出展や、演歌歌手のこおり健太さん、ファッションデザイナーのコシノジュンコさん、俳優の森崎ウィンさんをミャンマー観光親善大使に任命、ミャンマー観光連盟によるデスティネーションの管理など、さまざまな取り組みを紹介し、「一連の活用を見ていただければ、いかに必死になって観光促進しているか理解いただけると思う」と述べた。
続いて登壇した駐ミャンマー日本国特命全権大使の丸山市郎氏は、「今日をもってミャンマー政府が日本の観光客に対して、ビザなしで旅行できる制度が始まった。日本とミャンマーの交流が進むことを心から願っている」と述べ、10月5日からのアウン・サン・スー・チー国家最高顧問兼外務大臣の来日に触れ、「こうしたことを通じて、日本とミャンマーの関係がますます深まっていけば」と希望した。
丸山大使は過去に外務官僚として何度もミャンマーに駐在する経歴を持ち、日本語に続いて、流ちょうなミャンマー語でもスピーチ。降壇後にはオウン・マウン大臣と固い握手を交わした。
式典では、続いて新たに策定した観光促進のためのキャラクターを紹介。日本のパートナーズとeast fieldがミャンマー政府に提案したもの。名前はまだないとのことだが、今後、名前を決定したうえで、ホテル・観光省やミャンマー観光連盟がマスコットキャラクターとして活用していく予定だという。
そして、この日のNH813便でヤンゴンに到着し、式典に参加した人に、ビザ免除プログラム初日に到着したことを示す証明書(Certificate)を手渡した。
政府への提言から2年半を要したビザフリー化
10月1日の夜には、ヤンゴン市内のホテル「パークロイヤル・ヤンゴン」で関係者が集まってレセプションパーティが開かれた。ここにはホテル・観光大臣のオウン・マウン氏も臨席予定だったが、同日にビザ免除プログラムを開始する韓国からの大韓航空便到着時のセレモニーと時間が重なってしまったため、レセプションパーティには不参加となった。
パーティ冒頭では、ミャンマー観光連盟副会長でミャンマー日本協会 CEOのマウン・マウン・スウェ氏が「ラッキーかアンラッキーか分からないけど、大臣に替わり歓迎させていただく」と登壇。「両国の友好と世界の平和のために」と乾杯の音頭をとった。
続いて、パーティ会場となったパークロイヤル・ヤンゴン ゼネラル・マネージャーのマーク・ロジ氏が、日本からの訪問客に対し、「ミャンマーはさまざまな魅力があふれ、人々が温かく、とても安全な国。この美しい国で素晴らしい滞在、体験をされることを祈念する」とあいさつした。
次に、「万感の思いでこの日を迎えている」というANA ヤンゴン支店長の鈴木康之氏があいさつ。「ミャンマーに来て、まだ1年半だが大好きになってしまった愛すべき国。失礼な言い方かも知れないが、税収が多いわけでもないし、国民の皆さまの生活もまだまだこれから成長するという状況だと思う。そのような財政状況のなかで、ビザ代を免除するということを日本人に向けて決断していただいた。1人50ドルのビザ代をこのような投資にまわすのは、すごく大きな外貨獲得策をなくすという、ミャンマー政府としても大きな決断だったと思う。そこはミャンマーの観光産業のために、オウン・マウン大臣自らがリーダーシップをとって、これを成し遂げるんだ、と今日を迎えた」と、ミャンマー側の日本人観光客増にかける思いを表現。
ツーリズムEXPOジャパン2018の際に開かれた記者会見(関連記事「【ツーリズムEXPO 2018】10月1日から観光ビザ免除のミャンマー。『入国カードの記入、復路の航空券や所持金の提示はすべて不要』」)で明かされたとおり、「ANAとしてビザフリーを応援」すべく、ミャンマー出身俳優の森崎ウィンさんが出演する日本・ミャンマー合作映画「マイ・カントリー マイ・ホーム」を、12月1日~2019年3月31日にANA国際線の機内ビデオプログラムとして放映することを紹介。「(ビザ免除が始まった)このタイミングで、世界中のANAに乗っている日本人のお客さまにミャンマーのよさを知っていただきたい。そのほかにもいろいろと検討していきたいと思う。皆さんでミャンマーを盛り上げていければ」と呼びかけた。
続いてあいさつした、ミャンマー日本観光促進委員会のイェ・トゥン・ウー氏は、「日付も覚えているが、2016年4月23日に初めて国家委員会にビザフリーにしようと声をかけた。いまから振り返ると、途中で諦めようかというところもあったが、ここまで皆さんの力を借りて、ここにたどり着いた」と喜びのコメント。一方で、「これは終幕ではなく、本当はこれからがスタート」として、ミャンマー観光発展のために関係者の協力を求めた。
最後に、ミャンマー観光連盟 PRオフィサー 奥田重彦氏が登壇。実質的にミャンマー観光連盟の日本事務局のような立場で活動している同氏も、10月1日のNH813便に搭乗してミャンマーに到着したばかり。9月30日から10月1日未明にかけて台風24号が首都圏を襲ったことに触れ、「東京は過去3番目の強風というすごい出発前日を迎え、今日(10月1日)の朝起きたら一転、快晴になっていた。これがミャンマーの行く末を見ているようで、これから、晴れ晴れとしたきれいな空でミャンマーが発展すると思っている」とコメント。ミャンマーの観光促進への期待を述べた。
ミャンマー専門のパンフレットを作成。JTBが販売強化
今回の観光ビザ免除に伴って、旅行会社ではどのような取り組みや将来像を見ているのか、ミャンマーの旅行会社であるPolestar(ポールスター)とJTBの合弁会社であるJTB・Polestarの代表取締役社長であるチョー・ミン・テイン氏に話を聞いた。
チョー・ミン・テイン氏によると、「JTBのアジア・パシフィック本社が日本からミャンマーへの渡航者が増えるよう努めてきたものの、知名度が低いため、あまり伸びていなかった」という状況がある。2012年10月のANAによる成田~ヤンゴン線開設前後では、「6万人だったのが、現在は約10万人に伸びた」というが、6~6.5割がビジネス客で、観光旅行者を増やすことが重要な課題になっている。
他方、ミャンマーでは国際的に注目されているロヒンギャ問題によって特に欧州からの観光客が減少。一方で、東南アジアや東アジアからの観光客が増加傾向にあることが、今回のビザ免除の背景にある。実際、欧米からの旅行者は減少している一方で、ミャンマーへの国際訪問者数は前年対比で増加している状況だ。ちなみに2017年が約10万人だった日本人渡航者は、タイ、中国に次いで3番目に多い。
JTB・Polestarでは、今回のビザ免除に向けてJTBスタッフの視察ツアーなどを実施したほか、メディア戦略も、これまでは首都圏をメインに実施していたものの、大阪や福岡、名古屋などへも展開。さらに、ビザ免除をきっかけに、近々、ビザ免除にハイライトしたミャンマー専門のパンフレットの配布を始める予定になっているという。
ちなみに首都圏の場合は、ANAの成田~ヤンゴン間に直行便があるが、そのほかの地方の場合は、というとタイ・バンコク経由やシンガポール経由などで送客。例えば、バンコクとヤンゴンの間には1日12便が運航されているなど、接続もスムーズだそうだ。現状においても、ミャンマーを訪問する日本人のうち首都圏からの旅行者は4割程度だという。
さらに、JTB・Polestarでは、今回のビザ免除を機に、東南アジア発の日本人需要を増やしたいとする。これは、タイやマレーシア、ベトナム、シンガポールに駐在する日本人の休日を利用してミャンマーに来てもらおうというもの。「(これまでにあったビザというハードルがなくなったことで)1~2日の訪問でも気軽に来られる」とチョー・ミン・テイン氏は話す。タイについては、ミャンマー観光連盟とタイ国政府観光庁はMOUを結び、「2カントリー、1デスティネーション」というスローガンで両国間を往来しやすくする取り組みも行なわれているという。
観光消費額の観点では、(これは他国でも同様の傾向が見られるが)欧米人と日本人では滞在日数に大きな差がある。日本人のミャンマー滞在は平均で3泊5日程度だが、欧米人は平均でも9~10日ほどの滞在日数となる。ただ、チョー・ミン・テイン氏は「日本人は規則正しい旅行をするので、デスティネーションから好かれる。だから日本人のお客さまに期待している。また、滞在日数は少ないが買い物や飲食の消費額が多い」と話す。
ミャンマーは、第2次世界大戦後の復興への貢献や早期からの日系企業による工場開設、ミャンマーの上座部仏教の影響もあり、日本によるミャンマー統治という時代を経てなお、親日的な国家となっている。文法の近さもあって日本語を話す人も多い。
ヤンゴン市内ではアコーホテル・グループの「プルマン・ヤンゴン・センターポイント」や「シェラトン・ヤンゴン」などや、2020年予定で「オークラ・プレステージ・ヤンゴン」など、大手ホテルチェーンによるホテル開業も相次ぐほか、ユネスコの世界文化遺産への登録が近いと目されている「バガン遺跡」周辺も、リゾート地として(景観を維持しながら)開発が進んでいるとのことで、ミャンマー国内の観光客受け入れ環境の整備は日々進んでいる。「競争相手のほかの旅行会社もミャンマー旅行を増やそうとしているので、日本からの旅行者は確実に増える」とチョー・ミン・テイン氏は確信的に述べた。