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355日前から買える「ANA SUPER VALUE EARLY」など、国内線新運賃についてANAの担当者に聞く

コンサートや展示会など「“その日の便”を早く買える価値」が航空券の買い方を変える

2018年秋の発売分より順次導入

ANAが国内線運賃をラインアップ。「ANA FLEX」「ANA VALUE」「ANA SUPER VALUE」「ANA SUPER VALUE EARLY」といった新運賃を導入する

 ANA(全日本空輸)が、2018年秋の発売分から国内線運賃ラインアップを大幅にリニューアルする。今回のリニューアルは、航空券の販売期間や、従来の割引運賃の名称変更などが主なトピックとなるが、国内線航空券の買い方に大きな変革が生まれそうな劇的なリニューアルとなっている。

 今回のリニューアルのポイントは大きく4つが挙げられる。

  • 運賃名称の変更
  • 普通運賃に相当するものを廃止し、代替として空席連動型運賃を導入
  • 355日前からの航空券発売
  • 355日前発売の新割引運賃の導入

 この新しくなった国内線運賃に関して、担当者であるANA マーケティング室 レベニューマネジメント部 国内チーム コーディネーターの久賀梨菜氏に導入の狙いなどを聞くとともに、変更点や利用者にとってのメリットなどをまとめていきたい。

全日本空輸株式会社 マーケティング室 レベニューマネジメント部 国内チーム コーディネーター 久賀梨菜氏

「特割」「旅割」が「ANA VALUE」「ANA SUPER VALUE」へ

 今回のリニューアルのポイントはいくつかあるが、まず分かりやすいところでは、早期予約/購入による割引運賃「特割」「旅割」の名称が廃止され、それぞれ「ANA VALUE」「ANA SUPER VALUE」となったことだ。ただ、名称は変わったものの、予約期限の区切りなどは変わっておらず、従来の「特割1/3」が「VALUE 1/3」に、「旅割21/28/45/55/75」が「SUPER VALUE 21/28/45/55/75」といった表記になる。

 販売開始時期や予約期限、支払い期限、有効期間、払い戻し手数料、マイル積算率なども特割、旅割に準じており、運航ダイヤが確定したあとに該当期間搭乗分を一斉発売する。例年、夏期スケジュール(3月下旬~10月下旬)の航空券を1月下旬、冬期スケジュール(10月下旬~3月下旬)の航空券を8月下旬に発売している。

 また、ロゴマークなどはお目見えしていないが、同じく運航ダイヤ確定後に一斉発売される「プレミアム特割」「プレミアム旅割」は、「ANA VALUE PREMIUM」「ANA SUPER VALUE PREMIUM」へ。期間限定で発売される割引運賃の「旅割X」は、「ANA SUPER VALUE SALE」へと名称を変える。

 ここは名前が変わっただけと思ってよいが、「特割」「旅割」からは運賃やルールの性格が受け取りにくく、「VALUE」よりも安い「SUPER VALUE」という名前は分かりやすくなったように思う。

「ANA VALUE」「ANA SUPER VALUE」の運賃概要

運賃名称「ANA VALUE」

販売開始: 運航ダイヤ確定後、一斉発売
予約期限: 搭乗日の前日または3日前まで
購入期限: 予約日を含めて3日以内
有効期間: 予約便限り
座席数制限: あり
空席待ち:
予約変更: 不可
取り消し手数料: 出発時刻前は運賃の約5%相当額、出発時刻以降は運賃額の100%
払い戻し手数料: 1区間あたり430円

運賃名称「ANA SUPER VALUE」

販売開始: 運航ダイヤ確定後、一斉発売
予約期限: 搭乗日の21/28/45/55/75日前まで
購入期限: 予約日を含めて2日以内
有効期間: 予約便限り
座席数制限: あり
空席待ち: 不可
予約変更: 不可
取り消し手数料: 55日前までなし、54日前~出発時刻前は運賃の約30~60%相当額、出発時刻以降は運賃額の100%
払い戻し手数料: 1区間あたり430円

片道運賃、往復運賃が、空席連動型の「ANA FLEX」へ

 これまで、いわゆる“普通運賃”といった性格の運賃として、国内線では「片道運賃」「往復運賃」を設定していた。搭乗当日にも購入でき、予約変更も可能。出発前であれば払い戻しも手数料(1区間430円)のみで運賃の何%といった取り消し手数料はかからない。運賃は期間や路線ごとに設定された額が適用されるといった条件の運賃だった。

 この「片道運賃」「往復運賃」が廃止され、2018年10月28日搭乗分からは「ANA FLEX」という新たな運賃が導入される。これは搭乗当日まで購入可能、予約変更可能、出発前であれば払い戻しは手数料(1区間430円)のみ、取り消し手数料はなし、といった片道/往復運賃の条件を引き継ぎつつ、運賃を空席連動型にしたものとなる。

「ANA FLEX」の運賃概要

運賃名称「ANA FLEX」

販売開始: 搭乗355日前9時30分
予約期限: 当日まで
購入期限: 予約日を含めて3日以内(ただし、搭乗日2日前以降は搭乗予定時刻の20分前まで)
有効期間: 1年間
座席数制限: なし(タイプB~Dは制限あり)
空席待ち:
予約変更:
取り消し手数料: 出発時刻前はなし、出発時刻以降は約20%相当額
払い戻し手数料: 1区間あたり430円

 これまでも特割や旅割で導入されていた空席連動型運賃は、おおまかに言えば、空席が多ければ安く、空席が減るほど高くなる運賃体系となる。ANA FLEXの場合はタイプA~Dが設定され、FLEX-Dがもっとも安く(=空席が多い)、FLEX-Aがもっとも高い(=空席が少ない)ということになる。

 運賃については、すでに2018年10月28日~2019年3月30日搭乗分までのものが発表されているので、羽田発着の主な路線で片道運賃と比較してみることにする。比較対象としたのは、前年同期の2017年10月29日~2018年3月24日の片道運賃である。

ANA FLEXと片道運賃の比較

※ANA FLEXは2018年10月28日~2019年3月30日搭乗分(ピーク期間は12月1日~1月6日、3月1日~3月30日)
※ANA FLEXの運賃はANAの5月18日付けニュース「2018年10月28日~2019年10月26日ご搭乗分の国内線運賃を届出」の別紙2/PDFより抜粋
※片道運賃は2017年10月29日~2018年3月24日搭乗分(ピーク期間は12月1日~1月3日、3月1日~3月24日)
※片道運賃は「片道運賃 運賃表<2017年10月29日~2018年3月24日搭乗分>」(PDF)より抜粋
※いずれも空港施設利用料は含めていない

羽田~新千歳(札幌)

FLEX-A:4万3900円
FLEX-B:4万1900円
FLEX-C:3万9400円
FLEX-D/通常:3万6200円
FLEX-D/ピーク:3万7700円

片道/通常:3万7500円
片道/ピーク:3万9900円

羽田~大阪(伊丹/関空/神戸)

FLEX-A:3万0400円
FLEX-B:2万9000円
FLEX-C:2万6500円
FLEX-D/通常:2万4000円
FLEX-D/ピーク:2万5200円

片道/通常:2万5200円
片道/ピーク:2万7600円

羽田~広島

FLEX-A:4万0700円
FLEX-B:3万8900円
FLEX-C:3万6300円
FLEX-D/通常:3万1900円
FLEX-D/ピーク:3万3500円

片道/通常:3万4600円
片道/ピーク:3万7000円

羽田~福岡

FLEX-A:4万8000円
FLEX-B:4万5800円
FLEX-C:4万3200円
FLEX-D/通常:3万9200円
FLEX-D/ピーク:4万1000円

片道/通常:4万1100円
片道/ピーク:4万3600円

羽田~那覇(沖縄)

FLEX-A:5万2900円
FLEX-B:5万0500円
FLEX-C:4万8100円
FLEX-D/通常:4万3300円
FLEX-D/ピーク:4万5400円

片道/通常:4万5800円
片道/ピーク:4万8100円

 このように見てみると、おおむねFLEXのタイプDであれば現状の片道運賃より安いが、タイプCになると片道運賃と同等程度か高めになることが分かる。これは新幹線という競合がいる伊丹線や広島線と、海を越える新千歳線や那覇線でも傾向は大きくは変わらない。

 タイプDとタイプCの空席数の設定は分からないが、搭乗前日まで購入できる「特割1」「ANA VALUE 1」といった割引運賃がある昨今において、片道運賃やANA FLEXを利用するのは、よほど特定便でなければならない事情や、当日に突発的な事態で乗る必要が生じたケース、すなわち“その便に乗れること”が最優先される状況が多いように思える。運賃額は優先度が一段低くなると思われ、空いていれば安く乗れるかも知れないぐらいにイメージしておくのがよさそうである。

利用率の低い「往復運賃」を廃止。必要があれば「ビジネスきっぷ」の利用を

 ちなみに、片道運賃よりもやや安価な往復運賃が廃止されたが、この点について担当者は「実は往復運賃は利用者がすごく少なく、国内線だと2~3%。一方で、市場調査などをするとほとんどのケースで往復ともに同一の航空会社で使われている方が多い。羽田空港のようにターミナルが分かれていたり、伊丹空港などでも場所が離れていたりするので、特に大きな空港の発着の場合には同じ場所になるようにされるケースが多い」といった利用動向を踏まえているという。

 一見、同一航空会社を往復で利用することの金額的なメリットが1つ減ったように思えるが、「往復運賃だと行きも帰りも同じ運賃や同じ予約クラスを取るルールになっているので、混雑度合いが反映されない。例えば、“帰りは時間を柔軟にできる”といった状況なら空いている安価な便を選べるが、往復運賃になると固定されてしまう」とのことで、利用者側の現実的な使い方も今回の変更の背景にある。

 ちなみに、ANAカード会員であれば、「ビジネスきっぷ」は従来どおり販売されている。これは同一路線を2回利用(往復可)を条件に、設定された運賃で当日まで購入可能、予約変更可能、予約変更可能有効期間90日間、マイル積算率100%といった特徴を持つ航空券で、名義と区間(指定空港間の相互利用含む)が同一なら有効期間内は予約変更できる。往復運賃の代替を希望する人は、ANAカードに入会してこちらの運賃を使うのも一つの手だろう。

 さて、ここまで触れていなかったが、従来の片道運賃、往復運賃からの適用条件変更の1つであり、ANA FLEXの大きな特徴ともなっているのが、搭乗の355日前の9時30分から購入できるようになったことだ。この点について次項で紹介していく。

予約変更可能な運賃は355日前から予約/購入可能に

 今回のANA国内線運賃のリニューアルに関し、片道運賃に相当する運賃に空席連動型を導入したことと並ぶ重要なポイントが、搭乗日の355日前から航空券を購入できるようになったことだ。早期予約/購入が条件となるVALUEやSUPER VALUEを除く多くの運賃で、355日前の9時30分から予約/購入が行なえるようになる。対象となるのは主に予約変更可能な運賃で、下記のとおりとなる。なお、「ANA SUPER VALUE EARLY」については今回新設の運賃となるので、詳細は後述する。

355日前9時30分から購入可能になる運賃

・ANA FLEX
・小児運賃
・身体障がい者割引運賃
・@Biz
・ビジネスきっぷ
・株主優待割引運賃
・小児株主優待割引運賃
・アイきっぷ
・介護割引
・プレミアム運賃
・プレミアム小児運賃
・プレミアム身体障がい者割引運賃
・プレミアム@Biz
・プレミアムビジネスきっぷ
・プレミアム株主優待割引運賃
・プレミアム小児株主優待割引運賃

 これまでは、特割や旅割などが運航ダイヤ確定後に一斉発売していたので、例えば冬期スケジュールであれば8月下旬の時点で約7カ月先となる3月下旬の航空券を予約/購入することができた。逆に早期予約/購入が条件ではないほとんどの運賃は、搭乗日の2カ月前同一日9時30分からの発売となっていた。

 この355日前発売という変更について、担当者は「元々2カ月前発売しかなかったものを、早期割引運賃で約半年前に購入できるように拡大したが、それより早く取りたいというお客さまのニーズがあった。また、早期割引運賃は夏期ダイヤ、冬期ダイヤで一斉発売をしているので、3月最終週、10月最終週に切れ目が生じる。例えば、(冬期ダイヤ発売時に)3月は最後の5日間ぐらいだけ夏期ダイヤなので買えないということが航空会社の都合で発生するが、お客さまからは、春休みなのに(1つの旅程として)取れない、という声があった。そこを一挙に解決できる」と導入の理由を説明する。

 単純な疑問として、9カ月、10カ月ではなく、「355日前」に設定した理由については、「とりあえず『約1年』にしたいというのがあり、当社の国際線運賃が355日前だったり、海外航空会社も355日前が多かったりと、他社なども参考にして決めた。ただ、1年に近付けすぎると、今日なのか、1年後の今日なのかを選ばないといけなくなる。例えば、空席照会のカレンダーで今月なのか12カ月後なのか混同する」と、利用者の誤認を避けることも考慮して355日前に落ち着いたという。

 一方、果たして355日前に国内線の航空券を手配するニーズがあるのか、という疑問も浮かぶ。参考までに、これまでもっとも早期に手配が可能でもっとも安価に購入できる「旅割75」と、同じ空席連動型の割引運賃で前日まで購入が可能な「特割1」の販売比率を尋ねてみると、「路線によってまったく違う。新幹線が並行する東京~大阪間や東京~山陽地区は、直前に購入する特割の比率が高いが、沖縄や札幌は旅行商品や旅割の比率が高くなる。札幌はビジネス利用者も多いが、いわゆる新規航空会社の参入後に割引運賃が充実したので、旅割の比率が高い」と説明する。つまり、早く購入できるニーズが満遍なくあるわけではないようだ。

 では、どういった利用者に応えるものかというと、「“その日”というのが決まっているニーズに対して1年前から取りたいという声があった」と明かす。例えば、ビジネスユースでは学会や展示会などの例がある。毎年恒例で行なわれる展示会や学会では、当年の会期中に翌年の開催日程が発表されることも多いので、とりあえず出席できることを確定したいというニーズがあるのだろう。こうした用途では1年前からでも購入できる旅行商品を手配する人も多かったというが、ビジネス用途では“前日にミーティングしたい”などの計画変更を要する事態が起こりえることを考えると、予約変更が可能なANA FLEXを、約1年前から購入できることの意義は大きい。

 プレジャー用途でも、アイドルのライブやコンサート、スポーツの試合などは先のスケジュールが分かっているし、春休み、夏休みの予定を立てやすくなる利点がある。担当者は例として「いままでは『お盆に実家に帰るよ』と言っても2~3カ月前にしか確定できなかったものが、『来年は何日に帰る予定だよ』と早い段階で伝えて家族の予定を合わせやすくなる。加えてANAからホテルやレンタカーなども提案できれば、より価値は高まる」といった“その日、その便”に乗れることを早期に決められるメリットを挙げる。

マイル特典航空券はダイヤ発表後の一斉発売。上級会員に先行発売を実施

 少し話は逸れるが、これまで2カ月前から予約できた航空券の1つに、マイルで利用できる特典航空券がある。今回のリニューアルで、この特典航空券についても、早期予約/購入を条件とする割引運賃と同じく運航ダイヤ期間に一斉に予約できるように変更した。

 また、ANAマイレージクラブの上級会員やANAカード会員に対しては、特典航空券の予約先行サービスを実施することを3月22日付けで同社Webサイトに掲載している(ANA SKY WEB内「ANAプレミアムメンバー 国内線サービス変更について」)。

マイルで利用できる特典航空券の発売時期や有効期間を変更(ANAのニュースリリースより)

 VALUEやSUPER VALUEと同じく約7カ月前から約2カ月前に予約できるようになり、ほとんどの搭乗日について実質的には前倒しになる。一方で、予約変更可能なので355日前発売にしなかったのはなぜかという疑問も浮かぶ。担当者は、「特典航空券は正規運賃の100%引きという扱いなので、355日前予約でもよいという考えはあった」としつつ、「1年前にすべての運航ダイヤが確定しているわけではなく、どの機材が使われるのかも確定しないなかで、この便は満席だとなっていたのに、ダイヤを確定したら大型機に変わって特典航空券の空席が生まれてしまうことがある。そのため、機材やダイヤが確定してから発売しようとなった」と説明。

 特典航空券は一定の枠を設定して提供するものとなるが、ある程度の機材の見込みは立てられるものの、ダイヤ確定時に想定と異なる機材になることはあるという。特典航空券が取れなかったから有償で航空券を手配したあとに、特典航空券の空きが急に降って湧くような状況が生まれると確かにちょっとモヤモヤする。旅割などの早期割引運賃と同様の発売スケジュールと先行販売を組み合わせることで、ダイヤモンドメンバーなどの上級会員へのベネフィットも提供しつつ、正確な枠(設定座席数)の範囲内で特典航空券を提供することができるというわけだ。

 加えて、予約/変更期限についても搭乗日4日前から搭乗前日までに拡大。一方で、搭乗日当日に空港で前便に空席があれば変更を受け付けていたが、これは行なえなくなる。

 さらに、特典航空券の有効期間が90日間から1年間に拡大したのも大きな変更点で、特に予約変更の必要が生じた場合に大きな意味を持つ。予約変更は有効期間内でしか行なえないため、日本の長期のホリデーシーズンである春休み、夏休み、冬休みのそれぞれのシーズンを超えることができないことがある。例えば、春休み用に取っていた特典航空券がなんらかの事情で使えなくなった場合、ゴールデンウィークへの変更はできるかもしれないが、夏休みシーズンへの変更は絶対にできなかった。有効期間が1年間になれば、予定どおり行けなくなったとしても、次のホリデーシーズンへ変更して使えることになる。

355日前発売の早期予約/購入割引運賃「SUPER VALUE EARLY」を新設

 有償の航空券に話を戻すと、355日前発売に変更になったことに加え、新たに「ANA SUPER VALUE EARLY」という新運賃が設定されたのも、今回のリニューアルの大きなトピックだ。今回のリニューアルを象徴するような存在感のある運賃で、ANAマイレージクラブ(AMC)会員限定で、355日前発売の空席連動型割引運賃となる。

 この運賃には気に留めるべきポイントが多数ある。まず、ANAマイレージクラブ会員限定の運賃であるということだ。同行者も含めて全員が会員であることを求められる。ただし、有償座席を使用しない2歳以下の幼児は本人会員でなくとも(会員であることが前提の)SUPER VALUE EARLYの購入者とともに搭乗できる。

 そして、ANA FLEXと同じ搭乗日355日前の9時30分から予約/購入ができることだ。この販売についてはダイヤモンドメンバーを含めて上級会員への先行販売は行なわれず、ANAマイレージクラブ会員向けに一斉に発売となる。そして、運航ダイヤが確定し、「VALUE」「SUPER VALUE」が発売される少し前までの販売期間となる。

 販売期間については少し補足が必要で、運航ダイヤ確定前後のタイムラインとしては、まず運航ダイヤ確定前に「SUPER VALUE EARLY」の販売が終了する。その後、運航ダイヤが確定し、上級会員向けに「VALUE」「SUPER VALUE」の先行発売、同一斉発売の流れとなる。そのため運航ダイヤ確定前後に一時的に「VALUE」系の運賃を購入できない期間が生じる。SUPER VALUE EARLYの販売終了日は別途アナウンスがあるとしているが、担当者によれば購入できない期間は「1週間弱」を見込んでいるという。

SUPER VALUE EARLYとほかの運賃の販売期間のイメージ図(ANAのニュースリリースより)

 ちなみに、ANAマイレージクラブ会員限定であることと、355日前発売であることは、実は密接な意味がある。担当者によると、「ANAマイレージクラブ会員を増やしたいという思いはもちろんあるが、それ以上に予約した方とコミュニケーションしやすいツールとしてANAマイレージクラブを使えることを重要視している。かなり先の航空券をご購入いただくことになるので、例えばお電話で問い合わせいただいて『確認番号を忘れた』といった場合に本人確認が難しい。ANAマイレージクラブ会員かつWebで購入いただければ基本的にメールアドレスがあるので、ダイヤ変更時などもお知らせしやすい」とのこと。

 運航ダイヤ確定前から購入できる航空券で、かつ予約変更ができない運賃だけに、ANA側からのアクションで最新情報が届くというのは、購入した人にとっても重要なことだろう。

「ANA SUPER VALUE EARLY」の運賃概要

運賃名称「ANA SUPER VALUE EARLY」

販売開始: 搭乗355日前9時30分
予約期限: 運航ダイヤ確定前まで
購入期限: 予約日当日
有効期間: 予約便限り
座席数制限: あり
予約変更: 不可
取り消し手数料: 55日前までなし、54日前~出発時刻前は運賃の約30~60%相当額、出発時刻以降は運賃額の100%
払い戻し手数料: なし

 運賃についてはVALUE、SUPER VALUE同様に空席連動型。販売期間と購入期限を除けば、取り消し手数料、マイル積算率(75%)などのほとんどの条件はSUPER VALUEに準じたルールとなっている。ただし払い戻し手数料はかからない。

 運賃額は、SUPER VALUE EARLYは2019年夏期スケジュール(2019年3月31日~10月26日)の搭乗分が発表されている。「VALUE」「SUPER VALUE」は同期間の運賃はまだ発表されていないので、参考までに今夏期スケジュールの旅割、特割と比較してみたい。比較対象には先述のANA FLEXと同じ5路線をピックアップした。

ANA SUPER VALUE EARLYと特割、旅割との比較

※ANA SUPER VALUE EARLYはピーク期間(2019年4月27日~5月6日、8月10日~8月18日搭乗分)はタイプD~Fのみ設定
※ANA SUPER VALUE EARLYの運賃はANAの5月18日付けニュース「2018年10月28日~2019年10月26日ご搭乗分の国内線運賃を届出」の別紙6/PDFより抜粋
※特割の運賃はANAの1月18日付けニュース「2018年3月25日(日)~2018年10月27日(土)ご搭乗分の『プレミアム特割』『プレミアム旅割28』各種『特割』『旅割』運賃を設定」の別紙12ならびに別紙13より抜粋
※旅割の運賃はANAの1月18日付けニュース「2018年3月25日(日)~2018年10月27日(土)ご搭乗分の『プレミアム特割』『プレミアム旅割28』各種『特割』『旅割』運賃を設定」の別紙14ならびに別紙15より抜粋
※いずれも空港施設利用料は含めていない

羽田~新千歳(札幌)

SUPER VALUE EARLY:3万3400円~2万2400円(タイプD~H、2019年3月31日~10月26日搭乗分)
特割:3万3600円~1万1400円(タイプA~M、2018年3月25日~3月31日、7月1日~8月31日搭乗分
特割:3万5700円~1万2200円(タイプA~M、2018年4月1日~6月30日、9月1日~10月27日搭乗分)
旅割:3万3200円~1万1100円(タイプA~M、2018年3月25日~3月31日、7月1日~8月31日搭乗分
旅割:3万5300円~1万1800円(タイプA~M、2018年4月1日~6月30日、9月1日~10月27日搭乗分)

羽田~大阪(伊丹/関空/神戸)

SUPER VALUE EARLY:2万3100円~1万5500円(タイプD~H、2019年3月31日~10月26日搭乗分)
特割:2万2600円~7700円(タイプA~M、2018年3月25日~3月31日、7月1日~8月31日搭乗分
特割:2万4700円~8400円(タイプA~M、2018年4月1日~6月30日、9月1日~10月27日搭乗分)
旅割:2万2300円~7400円(タイプA~M、2018年3月25日~3月31日、7月1日~8月31日搭乗分
旅割:2万4400円~8100円(タイプA~M、2018年4月1日~6月30日、9月1日~10月27日搭乗分)

羽田~広島

SUPER VALUE EARLY:3万0900円~2万0800円(タイプD~H、2019年3月31日~10月26日搭乗分)
特割:3万1000円~1万0600円(タイプA~M、2018年3月25日~3月31日、7月1日~8月31日搭乗分
特割:3万3100円~1万1300円(タイプA~M、2018年4月1日~6月30日、9月1日~10月27日搭乗分)
旅割:3万0600円~1万0200円(タイプA~M、2018年3月25日~3月31日、7月1日~8月31日搭乗分
旅割:3万2700円~1万0900円(タイプA~M、2018年4月1日~6月30日、9月1日~10月27日搭乗分)

羽田~福岡

SUPER VALUE EARLY:3万6500円~2万4500円(タイプD~H、2019年3月31日~10月26日搭乗分)
特割:3万6800円~1万2500円(タイプA~M、2018年3月25日~3月31日、7月1日~8月31日搭乗分
特割:3万9000円~1万3300円(タイプA~M、2018年4月1日~6月30日、9月1日~10月27日搭乗分)
旅割:3万6400円~1万2100円(タイプA~M、2018年3月25日~3月31日、7月1日~8月31日搭乗分
旅割:3万8600円~1万2900円(タイプA~M、2018年4月1日~6月30日、9月1日~10月27日搭乗分)

羽田~那覇(沖縄)

SUPER VALUE EARLY:4万0200円~2万7000円(タイプD~H、2019年3月31日~10月26日搭乗分)
特割:4万1000円~1万4000円(タイプA~M、2018年3月25日~3月31日、7月1日~8月31日搭乗分
特割:4万3000円~1万4700円(タイプA~M、2018年4月1日~6月30日、9月1日~10月27日搭乗分)
旅割:4万0500円~1万3500円(タイプA~M、2018年3月25日~3月31日、7月1日~8月31日搭乗分
旅割:4万2600円~1万4200円(タイプA~M、2018年4月1日~6月30日、9月1日~10月27日搭乗分)

 SUPER VALUE EARLYはタイプD~H、特割/旅割はタイプA~Mの設定となり、後者は運賃幅が広く、空席が減るごとの運賃上昇も小刻みなのでおおまかな比較にはなるが、SUPER VALUE EARLYのタイプH(最安)が、特割/旅割のタイプD~G付近と同価格帯になっている。

 運賃について担当者は、「同期間のVALUE、SUPER VALUEの運賃額を出していないので正確なことは言えないが、それらより高くなると思っていただいてよい。お盆などの場合はSUPER VALUEやVALUEとあまり変わらないが、需要が低い路線や時期にはもっと安い運賃がVALUEやSUPER VALUEに出てくる」と説明。

 つまり、「SUPER VALUE EARLY」という名前から、“『SUPER VALUE』だから最安に近いはず、SUPER VALUEよりも早期に購入できるからもっと安いはず”などと連想しないよう注意が必要だ。航空券には、“早期に購入すれば(空席が多いから)安く購入できる”というある種のセオリーがあり、それだけに「旅割」の発売日に真っ先に航空券を予約しにWebサイトを訪れる人も多いし、先行販売が上級会員向けの特典にもなっている。SUPER VALUE EARLYはそのセオリーから外れる運賃なのだ。

 そんなSUPER VALUE EARLY導入の目的としては、「355日前という早期に航空券を取れることに価値を見出してもらいたい、というのがEARLY導入の狙い。SUPER VALUEより少し高いけど、早く予約できることに価値を付けた運賃。355日前に購入できる運賃が、ANA FLEXという片道運賃に近いものだけでは(その価値を実感してもらうことが)難しく、安いものを提供することで、実際に利用して価値を感じていただきたい」と話す。

ANAの新しい国内線向け空席連動型運賃のイメージ(ANAのニュースリリースをもとに記者作成)

「55日前まで取り消し手数料無料」。確実な航空券の確保と低価格が共存

 一方で、SUPER VALUE EARLYの購入後のキャンセルに関するルールはSUPER VALUEに準じており、55日前までは取り消し料が無料、払い戻し手数料もかからない。取り消し手数料は現行の旅割も同じなので最大で約7カ月前から55日前までのキャンセルは払い戻し手数料だけで済んでいる。SUPER VALUE EARLYは最大で355日前から55日前までの期間で完全に無料でキャンセル可能となる。

ANA SUPER VALUE EARLY(SUPER VALUEも同様)の取り消し手数料(ANAのニュースリリースより)

 そして、この55日前まで取り消し手数料無料というルールをうまく活用すると、「この日、この便に絶対乗りたい」と「とにかく安い運賃で」という2つのニーズに沿った航空券の買い方ができるようになる。

 ここまで記してきた国内線新運賃の特徴から、

・SUPER VALUEは運航ダイヤが確定後に該当期間搭乗分を一斉発売
・SUPER VALUEは、SUPER VALUE EARLYよりも安い
・SUPER VALUE EARLYは55日前まで取り消し/払い戻し手数料無料

の3つを抜粋するとピンと来ていただけると思うが、「SUPER VALUE EARLYで約1年前から確実に席を押さえておく」、そして運航ダイヤ確定後に「SUPER VALUE」が発売された時点で、より安い運賃が出たならば、元のSUPER VALUE EARLYをキャンセルして、SUPER VALUEで買い直せばよいわけだ。

 安い運賃への買い直しを見込んでSUPER VALUE EARLYを購入することに、なんとなく後ろめたさを感じるところもあるのだが、一方で“行くかも知れない”日程の便をどんどん押さえていくという使い方も思い浮かぶ。担当者は、「SUPER VALUE EARLYの購入時に1度は決済はされており、払い戻ししての取り直しになるので、それほど大量の予約キャンセル、買い直しというのは起こりにくいと思うし、同じ便や出発時刻が近接している同一区間の複数予約は約款上もお断わりしている(※記者注:ANAの国内旅客運送約款の第13条の第8項)。あまりに不正レベルだったら対応を考えるかも知れないが、“この日かも知れないけど、この日かも知れないから10日以内に2旅程を取る”などのレベルなら普通にあると考えている」と、そうした使い方もある程度は想定に入れている様子だ。

 加えて、「SUPER VALUE EARLYで約1年前という早期に購入した場合、お客さまがお買い求めになった運賃がどのぐら高いのか安いのかはダイヤ確定してからでないと分からない。あとで出てきた運賃と、SUPER VALUE EARLYでの購入額とを見比べて、うまく使っていただければと思っている。1年前に取れることの価値を感じていただきたい」と、1年前に航空券を手配できることのメリットを感じてもらうことに重きを置いている。

 例えば、お盆を少し外した旅行の計画としてありがちな8月下旬の羽田~新千歳線を利用することを想定してみると、まず約1年前にSUPER VALUE EARLYで座席を押さえておけば、お正月の家族会議で夏休みの旅行を決めるファミリー勢(あくまで一例)に先んじて航空券を確保できる。あとは、1月下旬にはじまる夏期スケジュールのSUPER VALUE発売後、このファミリー勢に勝てれば(より早く買えれば空席が多いので)SUPER VALUE EARLYよりも安い額となる航空券へ買い直せばいいし、万が一負けて(出遅れて席が埋まって)SUPER VALUE EARLYよりも高い運賃額になってしまったとしても、元々買っていた航空券を使えば計画どおり旅行できる。

 このほか、先に例示したコンサートやライブ、展示会などによる特定日、特定便への需要集中では、イベントの催行日が決定した時点でSUPER VALUE EARLYで航空券の争奪戦が起こり、続いてSUPER VALUE発売時にも争奪戦という2度の争奪戦が起こるかも知れない(チケット争奪戦もあると思うがここでは省く)。実は、こんなシチュエーションにおいては、SUPER VALUE EARLYの存在がもう1つのメリットを生む。

需要変化をつかむことで機材を大型化するなどの需給バランス最適化も可能に

 SUPER VALUE EARLYの販売状況は、ANAが各便の需要を早期につかめることにもつながり、いくつかのメリットがある。1つはおそらくANAにとってのより大きな意味を持つこととして、担当者は「SUPER VALUE EARLYの販売状況をSUPER VALUEやVALUEの売り方の参考にはする」と話す。空席連動型運賃が存在することの根本的な理由を考えれば、需要が高い便はより売り上げを伸ばせるように売るというのはビジネスにおいて当然のことだろう。逆に、想定より需要が低いなら逆のケースもありえるわけで、その場合は利用者側のメリットになる。

 もう1つ、需要に対する供給の観点でのメリットもある。「予約変更ができない割引運賃しか早期に売っていなかったので、正直、2カ月前になってみないと需要が分からないということもあった。355日前から継続的に売っていくので、“昨年はコンサートがあったので需要があったのに、今年はコンサートがないから需要が弱いぞ”ということを早く察知することができるようになる。予約がすごく多いからと調べてみて、需要が集中する理由が分かれば、場合によっては機材を大きく(座席数の多い飛行機に)しようなどということもできる。それはお客さまにとって価値がある瞬間があり、我々にとっても価値のある瞬間があると思う」と、需要が分かることで、座席供給量を調整する可能性があるとしている。

 大きな興業やイベントはANAも調査していそうなものだが、チケットの当落などもあって実際にどの路線の需要が高まるのかの予測はなかなか難しいという。早期から継続的に販売することで「需要の変化が分かる」というのが、355日前発売によって生まれる大きなメリットになるということだ。

 こうした現実の販売状況に応じた需給バランスの最適化を行なえることは、ANAにとっては販売機会の損失を防げるし、利用者にとっては“利用したい便が満席だったので前後の便を利用する”“席が取れれば日帰りできるのに満席だったから宿泊が必要になってしまった”といった事態を回避できる可能性が生まれるという点で、355日前発売と、それを割安に購入できるSUPER VALUE EARLYの存在は大きい。

 こうして導入の狙いなどを聞くと、“VALUE”という単語を新運賃名称に使っているのは面白い。単純に訳すと“価値”などの意味になるが、そこにはどうしても金銭的な価値(=安い運賃額)をイメージしてしまうし、実際に「VALUE」「SUPER VALUE」についてはそのイメージで受け取れる。しかし、「SUPER VALUE EARLY」の“VALUE”には、運賃額だけではない価値もあるのだと主張しているように見えてくる。それは、これまでの「ナントカ割」という言葉では表現できないものだ。新しい運賃ルールをどう活用するかは利用者次第なので、航空券に対する考え方を変えて便利な使い道を見つけ、ぜひ新しい価値を享受してほしい。