ニュース

日本旅行業協会が2016年を総括。12月は韓国研修旅行や第4回インバウンドセミナーも実施

2016年12月22日 実施

 JATA(日本旅行業協会)は12月22日に年内最後の定例記者会見を実施。2016年の旅行業界の総括などを行なった。

 2016年の総括を行なったJATA理事・事務局長の越智良典氏は、まず世界的なツーリズムの流れとして、豊かな国が増えたことで旅行者が増加し、2015年の国際旅客数が12億人近くに達したことにまず触れ、「環境への影響も含めて『責任』という言葉が問われる時代。2017年は国際連合が『開発のための持続可能な観光の国際年』と決めたが、観光という言葉が選ばれるのも、それだけインパクトが大きいから、責任が求められているということだと思っている」とコメント。

 また、2020年に4000万、2030年に6000万人という政府目標については、「政府がこの数字をコミットしたということで、民間としては受け止めて2017年も施策を展開する」としながらも、「この数字にアウトバウンドの目標を加えて、双方向交流で2020年に6000万人としていかないと、いろいろなインフラの問題は解決しないのではないかということをJATAとしては言い続けていかなければならない」との認識を示した。

海外旅行

日本旅行業協会 理事・事務局長 越智良典氏

 JATAでは2016年を「海外旅行復活の年」と位置付けて取り組んだが、その結果、1月~9月統計で5%増と好調な結果になっている。

 その要因としては、為替や燃油サーチャージを挙げ、とくに(相対的に価格の変動率が大きくなる)近隣マーケットで、その影響が大きかったとし、「そうした外的要因のプラスを、旅行会社の力と合わせて、本当のビジネスに結びつけなければならなかったのが2016年だった」とした。

 ちなみに、渡航者数は回復傾向にある市場のなか、旅行会社の売上高があまり伸びていないとの指摘に対しては、「売上高の4.5~5%ほどは燃油サーチャージ代なので、燃油サーチャージ代が下がると減収増益。逆に燃油サーチャージが上がると増収減益になることもある」と説明。

 また、アウトバウンドのピークだった2012年の約1850万人と、約1622万へ落ち込んだ2015年を比較すると、韓国と中国への渡航者が減っているのが原因で、それを除くベースの数字は伸びているとの分析を紹介。

 2016年は渡航先としてオーストラリアや韓国、台湾の伸びが大きかったことを挙げ、「(韓国や台湾のように)近隣国への旅行が伸びると単価が下がることも、売上高と市場の動きがシンクロしない要因となる」とした。

 2015年に発生したテロにより渡航者が減り、JATAとしても復興支援に取り組んだフランスについては、12月にパリミッションとして視察を実施。実際にフランスを訪れた越智氏は「ニースのテロなどもあったので、思ったほど戻っていなかったのが正直な感想」とした。

 動向としては、「10~11月で7~8割まで戻ってきて、1~3月に勢いが付きそうだと思ったところでJALの減便(1月11日~2月25日にJL415/416便を運休)がある。4月以降に戻せるように施策をやっていく」と今後を示唆。

 また、テロなどの要因による落ち込みにおけるパターンとして、「目的旅行は落ちない、ビジネス旅行はすぐ戻る、次にFIT(個人旅行)、パッケージ、団体、シニアと順に戻ってくるのが典型的なリカバリのパターン。今はパッケージの戻りが弱いので、企画力を求めるものを各社が取り組んでいる」とした。

国内旅行

 2016年の国内旅行は、北海道と沖縄県が成長し、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)のある大阪府も伸びた。一方で、地震の影響があった九州は落ち込み、東北は伸び悩んだ。

 2016年は3月に北海道新幹線が開通したが、「北陸新幹線の開通ほどダイナミックな効果はなく限定的なプラス」とした一方で、「北陸新幹線はよすぎたので、その反動が出た」とした。

 平成28年熊本地震への対応として政府が180億円を投入して実現した「九州ふっこう割」については、熊本県と大分県で異なる傾向があり、熊本県で大きな効果が出た。特に九州ふっこう割を開始した直後の7~8月においては、熊本県で前年を超える訪問者数となった。

 越智氏はこの理由を、「被災者の避難住宅としての宿泊、復興特需と呼ばれる工事関係者や保険査定員、ボランティアが熊本県に集中したので一時的な効果が出た」と説明。一方で、「ふっこう割も特需もなくなる2017年が勝負の年」であるとし、旅行会社が頼りにされているという。

 一方、2011年の東日本大震災から5年が経過した東北も戻りが弱いが、こちらは工事関係者がいなくなってきており、「これからが本当に観光による復興のタイミングとなる」とした。

インバウンド

 2016年に2000万人を突破したインバウンドについて、“モノからコトへのシフト”が出た年となった。越智氏は「円・元レートで見ると極端には減っていないが、買う物が変わっている。高級電気釜やカメラ、時計などではなく、コスメなどの生活財に変わった。商品展開を変える必要がある」と指摘。

 また、旅行の形態にも変化見られ、脱パッケージが加速。個人旅行者が増えた年となった。中国当局が発表しているビザ発給比率で、個人ビザが2014年の25.1%から2016年に41.5%へ急増。「日本が30年、50年かけてやってきたこと。中国はわずか2年という早さで個人化が進んでいる。これからもっと進むのでは」と予測した。

 インバウンド客の訪問先は、関東への訪問者数が依然として多いものの、特に関西地方が訪問者数に加えて伸び率が高いことを指摘。一方で、沖縄や中国地方などは伸び率こそ大きいものの、訪問者数そのものは他地域に比べてまだまだ少ないなどのデータも紹介した。

JATAの12月の取り組み

 このほかに定例会見ではJATAが12月に行なった2つの取り組みに関する報告があった。

日本旅行業協会 国内・訪日旅行推進部長 興津泰則氏
「第4回『JATAインバウンド商談会』」の様子(写真提供:JATA)

 1つ目は12月13日に金沢市の石川県地場産業振興センターで開かれた「第4回『JATAインバウンド商談会』」の報告。同イベントは旅行会社と、地元観光産業関係者や自治体関係者との商談会で、第1回を2015年6月に群馬県(群馬・栃木地区合同)で、第2回は2015年12月に大阪府(滋賀・奈良・和歌山地区合同)で、第3回は2016年6月に静岡県で実施。今回は北陸地区の観光産業で設立された北陸国際観光テーマ地区推進協議会と共催で、国土交通省 北陸信越運輸局、同中部運輸局、JNTO(日本政府観光局)の協力のもとに実施した。

 78団体、126名が参加して盛況となったほか、翌日には現地でFAM(視察)トリップが行なわれ、新たな観光コンテンツの収集活動が行なわれたという。

 JATAでは、インバウンドのリピーター獲得には、いわゆる“ゴールデンルート”以外の地域コンテンツの発信が、2020年に4000万人という政府目標達成には不可欠であるとし、JATA加盟社それぞれが地域コンテンツの発掘、情報収集をするという観点で、こうしたインバウンドセミナーを実施。

 今後も年2回ペースで実施する意向で、2017年はインバウンドが伸び悩んでいる東北地方や、関東圏の開催を検討している。

日本旅行業協会 海外旅行推進部 副部長 酒井秀則氏

 12月の取り組みの2つ目は「韓国復活研修旅行」で、12月13日~15日に行なわれた。研修ツアーは釜山、蔚山、慶州を巡るコース、オリンピック施設見学などを含む平昌冬季オリンピックコース、公州の扶余など百済の歴史を巡るコースの3コースに分かれて実施。

 このほかに、12月13日には震災の風評被害に悩む慶州市での晩餐会「日韓観光交流の夕べ」が、韓国文体部(文化体育観光部)の長官らも参加して行なわれた。このレポートは別記事でお伝えしているとおりだ。

 越智氏は、「JATAのFAMトリップのために、わざわざ文体部の長官(日本でいう大臣)が慶州まで来た。なかなかない。震災の風評被害がすごくて政府としてはなにかしなければならないところで、日本が慶州を応援するというメッセージや、前週に発表された1000万人の相互交流という目標があったからだと思う。それだけ重要視されていることだと思う」と、このツアーの感想を述べた。

 このほか、韓国旅行復活に向けては、2017年2月~3月を目処に現地情報や観光素材など、旅行会社が商品開発を行なう際の参考になる情報を提供する「韓国復活フォーラム(仮称)」を開催する計画も明らかにした。

 なお、釜山、蔚山、慶州を巡るコースには、記者も同行取材を行なっているので、後日、その内容を詳しくお伝えする予定だ。

「日韓観光交流の夕べ」が行なわれた慶州ヒルトンホテル
慶州市の「石岩窟」
釜山の新観光地として注目されている「甘川洞文化村」
平昌冬季オリンピックコースの様子。オリンピック施設であるアイスアリーナの除幕式も開かれた(写真提供:JATA)
世界遺産に登録された百済の歴史遺産のある公州、扶余などを巡るコースの様子(写真提供:JATA)