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日本旅行業協会、韓国観光交流1000万人に向け韓国文体部や韓国観光公社と協力強化

韓国旅行“復活”がアウトバウンド拡大の鍵

2016年12月13日~15日 実施

 JATA(日本旅行業協会)は、12月13日~15日の日程で「韓国復活研修旅行」と銘打った加盟旅行会社の代表によるFAM(視察)ツアーを実施している。釜山、蔚山、慶州を巡るコース、オリンピック施設見学などを含む平昌冬季オリンピックコース、公州の扶余など百済の歴史を巡るコースの3コースにそれぞれ47~55名が参加。このうち、「釜山・蔚山・慶州コース」ではKTO(韓国観光公社)による歓迎晩餐会「韓日観光交流の夕べ」が、12月13日に日韓合わせて200名近くが参加して開かれた。

 この歓迎晩餐会は、慶州市の慶州ヒルトンホテルで開かれ、日本側からはJATA会長の田川博己氏、副会長の菊間潤吾氏、理事長の志村格氏ら。韓国側からは文化体育観光部(文体部)長官の趙允旋(チョ・ユンソン)氏、KTO社長の鄭昌洙(チョン・チャンス)氏、KATA(韓国旅行業協会)会長の梁武承(ヤン・ムスン)氏らが列席した。

日韓観光交流1000万人を新たな目標に

 日韓の観光交流人口は、韓国から日本への渡航者数は、円安ウォン高や昨今の訪日ブームの影響で伸長を続け、2015年実績で約400万人(KTO調べ)。2016年は10月31日時点で前年度比29.2%増の約417万人(JNTO調べ)と、最終的に500万人を超える勢いを見せている。

 一方、日本から韓国への渡航者は、先の為替の影響のほか、外交問題、北朝鮮の核問題などのイメージ低下から、2012年の約352万人強をピークに下降。日韓国交正常化50周年を迎えた2015年にはMERS(中東呼吸器症候群)の発生も影響し、約183万人とピーク時の半数近くにまで落ち込んだ。2016年は、2015年度に比べると順調で、10月31日時点で前年度比24.7%増の約189万人(いずれもKTO調べ)となっており、2014年実績(約228万人)を上まわる230万人程度の渡航者が見込まれている。

 日韓の観光においては、これまで「相互交流700万人」が目標として掲げられていたが、韓国側からのインバウンドの増加により、2016年に達成が見込まれている。これに続く数字として、12月8日に観光庁主催で熊本市で行なわれた日韓観光当局での協議の場である「第31回日韓観光振興協議会(リンク先PDF)」ならびに、12月9日にJNTO(日本政府観光局)主催で福岡で開かれた「日韓観光交流拡大シンポジウム(リンク先PDF)」では、両国政府により地方観光活性化に努めることや、相互交流1000万人といった新たな目標を打ち出した。

 11月10日に行なわれたJATAの定例会見でも説明があったとおり、JATAでは2016年を海外旅行復活の年と位置付けており、韓国を伸ばすことが海外旅行復活には必要との見地から、KTOと協力して今回、3方面に分かれて同時進行する視察ツアー「韓国復活研修旅行」を実施することになった。

晩餐会前には両国代表による会談が行なわれた

 晩餐会前に行なわれた両国の代表者による会談で、JATA会長の田川氏は「これから韓国の観光の深掘りをしたい。日韓は一番近い国で、これまで750万人ぐらいが移動しているが、1000万人を超える大きな流れを作りたい」とコメント。

 韓国 文体部長官のチョ・ユンソン氏は「文体部では、韓国において観光は重要な産業と考え、総力を傾けている。個人的にも日本を旅行するが、いろんなところに足を運んで、新しい日本を見つけようとしている。新しい日本、新しい面を行くたびに発見できる」と、今回の視察を歓迎するとともに、隣国の身近さによる韓国の新しい一面の発見に期待を寄せた。

 加えて、「平昌オリンピック・パラリンピックに注力しているが、平昌のある江原道エリアはクリーンな地域で、ヒーリングができる場所。そういったことを盛り上げられるような、観光商品の開発に力を入れている。今まではソウル、チェジュ、釜山に人が集中していたが、それ以外のところ、韓国全域において、10の観光地を線で結ぼうとしている。それに向けて新しい素晴らしいところが、多くの人々によって探し出されると思っている。それを観光政策の柱として考えている」と話し、チョン・チャンスKTO社長も「慶尚北道の安東(アンドン)、百済の地域である扶余(プヨ)、公州(コンジュ)といった地方にも足を伸ばしてもらえることに感謝している」と今回の視察ツアーによる地方の観光地商品化に期待していた。

 これらの言葉に対し田川JATA会長は「韓国にはまだまだ知られていない観光地があるのでは。お互いに持っている一番の強みは歴史や伝統だが、そこにはお祭りや芸能、培われた食文化などがまだまだたくさんあって、そういうものを知りながらお互いの国を理解する。それがこれからの重要な要素。我々は旅行業界として、しっかり伝えていきたい」と返答した。

 また、「韓国の交通インフラがどんどんよくなっている」という田川氏の印象を受け、KTO社長のチョン・チャンス氏は「日本では、1970年代にインフラの基礎となる空港、港湾、鉄道、道路の整備、1980年半ばには日本全国において観光、リゾート、ゴルフ、スキー、旅館などの整備と、観光、インフラは段階を踏んで投資されたと聞いたので、韓国もそれを学ぶべきだと、全国をまわりながら日本の話をしている」と紹介した。

大韓民国 文化体育観光部長官 チョ・ユンソン氏
日本旅行業協会 会長 田川博己氏(左)
韓国観光公社 社長 チョン・チャンス氏(左)と日本旅行業協会 副会長 菊間潤吾氏(右)

歓迎晩餐会は「日韓観光交流の新しい関係を築き上げていくためのキックオフ」

大韓民国 文化体育観光部長官 チョ・ユンソン氏

 歓迎晩餐会「韓日観光交流の夕べ」では、まず、韓国 文体部長官のチョ・ユンソン氏が挨拶。「韓国と日本はかつてより多大な影響を与え合ってきた隣国同士」であるとし、よき隣国であるための条件として2つの項目を挙げた。

 1つ目は「お互いについてよく知ること。観光の力がまさにここにある。韓国と日本の国民は相手国を訪問し、自然と歴史、文化資源を体験しながらお互いを理解してきた」と述べ、2016年の観光交流人口が目標の700万人を超えて、750万人に達することがその成果であるとした。

 2つ目は「共通点を見つけること」であるとし、「韓国と日本は、2018年平昌オリンピック・パラリンピックと、2020年東京オリンピック・パラリンピックを開催する予定。これらの行事が両国の存在感を高め、観光とスポーツを結ぶ新しい領域を切り拓くチャンス」と述べ、政府間の政策情報共有や共同プロモーションなどで協力を強化していることを紹介した。

 最後に、この歓迎晩餐会が紀元前57年~935年にわたって約1000年続いた王朝である新羅の最初の首都で開かれていることに触れ、「ここ慶州は千年王朝・新羅の発祥地。悠久の歴史の出発点に立って、日韓観光交流1000万人時代に向かって第1歩を踏み出す。その決意と情念とともに、日韓両国を北東アジア観光の中心国として作り上げましょう」と、両国の新たな関係構築に期待して挨拶を締めた。

日本旅行業協会 会長 田川博己氏

 続いて登壇したJATA会長の田川博己氏は、会場となった9月12日に慶州市を襲った地震災害について言及し、「実は今回の視察ツアーの予定をいただくまで、慶州が地震の風評被害に困っていることを深く知っているわけではなかった。まずは被災された方々にお悔やみを申し上げる。そして、被害が軽微であるにも関わらず、修学旅行や観光旅行が激減していると聞いた。そういう被災地の観光回復には、まず正しい現状を知ってもらうことが一番。我々JATAも、これまで天災やテロなどの被災地へ数多くのミッションを送りながら観光による復興を支援してきた。先週はフランスを訪問してきたばかり。今回、ここ慶州に100名が訪問し、この事情を知ることでしっかりと日本に伝えたいと思っている」とコメント。

 一方で、「KATAの皆さまには熊本において地震被害からの回復の現状を見ていただいた。以前、東北にも大型の視察ツアーを組んでいただいた。私はJATA会長という立場にいるが、風評被害の大変さは身にしみて分かっているつもり。しかし観光はこれを復興する力を持っている。同時に、困ったときこそ助け合うのが真の友人だと考えている」と話した。

 日韓両国の観光交流については、「日本の海外旅行は2015年に比べて5%アップした。韓国へは230万人で、2014年なみにまで回復する見込み、まだまだ目標には遠い数字だが、一定の成果が出た1年だと思う」と、韓国への訪問者数増を2014年12月に実施した1000名規模の視察ツアーや、2015年の国交正常化50周年記念プロジェクトの成果として紹介した。

 今回の視察ツアーについては、「今回得た情報を含め、より深く、よりよい韓国の魅力を両社で研究して、お客さまにしっかりと伝えていきたいと考えている」とし、旅行会社の参加者に向けては「実際の具体的な視察ツアーで知り得た情報をしっかりに日本に帰って商品化して、お客さまに伝える。そういう着実な交流を積み上げることが、将来の1000万人という交流につながると考えている。このパーティが新しい韓国、新しい日本、新しい関係を築き上げていくためのキックオフのつもりでパーティに参加し、多くのお客さまを韓国へお連れしてほしい」と呼びかけた。

大韓民国 国会議員 キム・ソッキ氏
慶州市長 チェ・ヤンシク氏

 次に、来賓として参加した慶州市から選出されたセヌリ党の国会議員である金碩基(キム・ソッキ)氏と、慶州市長の崔良植(チェ・ヤンシク)氏が挨拶。両氏とも、地震災害に遭った慶州市で晩餐会が行なわれたことに、揃って感謝と喜びを示した。

 キム・ソッキ氏は、日本での駐在経験も長く、2011年に日本で発生した東日本大震災時に駐大阪大韓民国総領事を務めていた人物。「その年に大阪マラソン(チャレンジラン)に出場した。太極旗と日の丸を貼って走った。東日本大震災では原子力発電所の事故による影響もあって観光客が激減したが、関西地域は問題がないにも関わらず韓国からは誰も来ない状況だった。だから、ここは安全だという意味で韓国側にアピールして、観光客が安心して日本に来られるように走った。皆さんが慶州の応援に来られて感慨無量」と、日本人参加者に向けて、日本語で伝えた。

 また、「慶州と日本の京都を船で結ぶ航路を作る」ことを選挙公約に掲げているそうで、「(千年王朝・新羅発祥の地である)慶州は、日本でいえば京都のような都市」と航路実現に向けて取り組む姿勢を示した。

韓国観光公社 社長 チョン・チャンス氏

 続いて、KTO社長のチョン・チャンス氏より、JATAの田川会長へ「友情の碑」を贈呈。贈呈に際して挨拶したチョン氏も、慶州の地震災害について言及し、「韓日両国は、民間レベルでも政府レベルでもお互いに厳しい状況のもとで、応援のために数回にわたって交流し、こうした訪問団の派遣を通じて、支援と復旧を指導してきた」とコメント。

 今回の慶州の震災について、「地震直後には慌てたことも事実だが、発生地域を視察されると、なにも起こらなかったという現場を直接ご覧になれると思う。それをご覧になって安全であるという慶州の現状を伝えていただきたい」と希望を述べた。

チョンKTO社長からJATA田川会長へ「友情の碑」を贈呈
続いて「日韓観光交流一千万人交流時代に向けて」というスローガンが書かれたくす玉を開披
乾杯の音頭をとる日本旅行業協会 副会長 菊間潤吾氏
乾杯を交わすJATA田川会長、チョ韓国文体部長官、チョンKTO社長

 そして、歓迎晩餐会は乾杯を迎え、音頭をとったJATA副会長の菊間潤吾氏が挨拶。KTO、KATA、慶州市、大韓航空などにこの視察ツアー実現へのお礼を述べたうえで、JATAで海外旅行を担当している立場から、「JATAでは、海外旅行2000万人を目標にここ何年が取り組んでいるが、なかなか到達しない。韓国においては2200万人の海外旅行者を達成したということで、少しジェラシーを感じている。今回、KATAのヤン会長を始め、皆さんにその秘訣を教わって、日本の海外旅行をより発展させたい」と、日本のアウトバウンド増加について、まずコメント。

 続いて、「日本の海外旅行者数2000万人を達成するには、まずは韓国への観光客を2017年に230万人から300万人にしなければならない。そして、それをどう400万人に持っていくか。これが鍵を握っていると思う」と韓国旅行の重要性を説いたうえで「2017年は『韓国旅行復活の年』を掲げて、例年になくアクティブな活動を計画しているところ。KTOの皆さんと力を合わせて実現したい。また、数が増えるだけではなく、ここ慶州をはじめ、韓国各地どこに行っても『最近はどこに行っても日本人をよく見るな』と言われるようにいろんなところにお客さまを案内したいと思っている」との決意を示した。

韓国旅行業協会 会長 ヤン・ムスン氏

 晩餐会の閉幕にあたって挨拶にたったKATA会長のヤン・ムスン氏は、「私は2014年12月に、JATAの田川会長からいわゆる神の一手というものを学んだ。1013名が韓国に訪問するメガFAMツアーを実施したこと。そのときは日韓両国の関係が最悪の時期と言われていたときだが、韓国の安全性を皆さんに確認してもらった。これにKATAはとても衝撃と感銘を受けた」と紹介。

 そのうえで、「我々のなすべきことを探り、2015年4月には東北地方、2016年6月には宮城、秋田県を含む東北地方、8月には熊本、大分県など被災地を訪問して、韓国旅行会社やマスコミが参加する大規模な視察ツアーを実施した。東北地方の観光促進と、災害によって困難に直面している九州地域の皆さんに会い、応援し、相互の観光交流正常化を遂げるよう努めた」との取り組みを行なったことを紹介。民間交流のモデルケースになっているという。

晩餐会では慶州の貞洞劇場が公演を行なっている「新羅(SILLA):バシラ」を一部上演。新羅とペルシアの戦争を背景にしたラブ・ストーリー

慶州市の世界遺産「仏国寺」を訪問

 晩餐会から一夜明けた12月14日には、JATA会長の田川博己氏、副会長の菊間潤吾氏、理事長の志村格氏、理事・事務局長の越智良典氏、ジャルパック代表取締役社長の藤田克己氏らが、慶州市を代表する世界遺産「仏国寺」を視察に訪れた。

仏国寺の「一柱門」

 仏国寺は、新羅の754年に建立。豊臣秀吉による朝鮮出兵の戦災により木造建造物はすべて失われたが、20世紀に再建。石窟庵とともに1995年にユネスコの世界文化遺産に登録された。

 ちなみに、慶州市周辺は2000年に「慶州歴史遺跡地区」として地域が世界遺産に登録されている。のちの李氏朝鮮時代に儒教が中心となった韓国において、それ以前の仏教文化を伝える重要な遺跡となっている。

あいにくの雨模様のなか、ガイドの説明を聞きながら仏国寺境内を視察するJATA首脳陣

 JATA一行は、仏国寺内の「紫霞門」「青雲橋/白雲橋」「大雄殿」「毗盧殿」「観音殿」「羅漢殿」などを順番に見てまわったあと、仏国寺 教務局長の正修(ジュン・スー)氏と会談。

 田川会長が震災について尋ねると、ジュン氏は「一部で瓦が落ちるなどの被害はあったが建物は無事」と返答。この地震はマグニチュード5.8だったが、この規模の地震は「1000年ぶり」と話していた。

 また、JATA側から禅体験のようなものはないかと問われると、ジュン氏は禅体験はないものの、1泊2日の修行体験「テンプルステイ」があり、一連のプログラムには蓮燈作りなども組み込まれていることなどを紹介。慶州の現状や観光地としての仏国寺について情報交換を行なった。

仏国寺 教務局長のジュン・スー氏(中央)と会談
ジュン氏との会談は一般公開されていない「總持堂」で行なわれた