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阪神高速、西船場JCT・信濃橋渡り線(仮称)付近の傷んだ橋脚を再構築中

車線追加で渋滞緩和

2016年11月29日 公開

中央大通りの工事現場

 阪神高速(阪神高速道路)は11月29日、報道向けに高速道路リニューアルプロジェクトの現場見学会を開催した。場所は現在工事中の西船場JCT(ジャンクション)・信濃橋渡り線(仮称)の工事現場で、渡り線を増設するためと渋滞解消のため前後の道路幅を広げるが、橋脚もそれにあったものに再構築している現場となる。

 西船場JCTは、1号環状線と16号大阪港線が交わるところ。各方向の渡り線のうち、大阪港から来たクルマが環状線に入れる構造にはなっていない。そのため、大阪港から環状線を通った先にある大阪空港や守口方面に行くためには、西船場JCTを直進し、東船場JCTから環状線を半周分の約5.5kmを余計に走行する必要がある。

 西船場JCTに渡り線がない理由は、1号環状線に対して16号大阪港線があとからできたことに加え、その時代には渡り線を設置する場所にビルができており、場所がなく設置できなかったことが理由だという。ビルが建て替えとなり、渡り線のスペースができたことから、総事業費138億円の西船場JCT改築事業がスタート、2014年1月に着工、事業完了は2019年度の予定となる。

西船場JCTの改築事業
新たに設置する渡り線の前後には車線を付加する
上空からのイメージ。水色の線が新たに設置する渡り線
大阪港から大阪空港や守口方面に向かう場合、余計な南側半周が不要となる

 西船場JCTに渡り線を設置するだけでなく、大阪港線の左側に800mに渡って車線を増設、渡り線までの車線を増やし、170mの渡り線のあとは合流をスムースにするため環状線に付加車線710mを増設する。それによって平日は10.4時間に渡って渋滞が発生し、阪神高速で4番目に渋滞の激しい区間である阿波座の合流部の渋滞緩和を目指す。

車線拡幅のため、まず、橋脚の梁の幅を広げている

 また、車線を拡幅するということは、現場付近の高架の橋脚が広げる道路幅に対応することが必要。そのため、橋脚の再構築も同時に進められている。今回の現場公開では、橋脚の再構築をリニューアルプロジェクトの一環として捉え、橋脚が痛む原因や対策、再構築のための工事の方法も併せて説明された。

西船場JCT改築事業は、付近の交通を止めない街中の工事、しかも安全に

 今回の現場公開では、概要の説明を建設・更新事業本部 大規模更新担当部長の鈴木威氏が行ない、現場では建設・更新事業本部 大阪建設部西船場JCT建設事務所長 横山健司氏が説明した。

阪神高速道路株式会社 建設・更新事業本部 大規模更新担当部長 鈴木威氏
阪神高速道路株式会社 建設・更新事業本部 大阪建設部西船場JCT建設事務所長 横山健司氏

 現場付近は交通量の多い都市で、しかも地下鉄が下を走り、都市としてのインフラが地中に複雑に配置されている。交通を止めずに、さまざまなものに注意を払い、付近にも騒音や振動で迷惑をかけないようにするには、多くの工夫や対策が求められる。

 まず、作業スペースを確保するため、中央大通の中央部分にあった緑地帯を一時的に借用して道路車線とし、道路を移動させた。さらに地下鉄と交差する場所となるため、地下鉄本町駅と新設の杭の離隔が約1.1mというところもあり、影響遮断壁を設置して杭打ち工事を実施した。

工事の制約条件
交通量の多い都市内の施工
地下鉄と交差する場所の施工

 橋脚については検査したところ、現在の橋脚の梁を拡幅するだけで橋桁と走行する車両の重量に耐えられることが分かったが、大地震の際などに耐える力まではない。そのため、新技術である損傷制御設計を導入した鋼管集成橋脚を既存の橋脚の間に設置して、地震に対する耐久力をアップさせる。鋼管集成橋脚を採用したのは、杭基礎一体型のため、一般的な橋脚よりも足元がスリムになり、今回のような地下埋設物が多くスペースのない場所に適している。解説した鈴木氏は「非常にスレンダーな橋脚」と評している。

鋼管集成橋脚

 また、今回の鋼管集成橋脚の利用は、あくまで地震など非常時の支えのため。そのため、橋桁とは結合しておらず、平常時は力もかかっていない。橋桁とは地震で揺れた際だけ支える構造になっている。

 一方、今回の事業で拡幅しようとした橋脚は17あるが、設置から40年以上たち、そのうち10の橋脚は劣化が進んでいた。特に劣化の程度がひどい4脚については、梁の部分を作り直す“再構築”を実施することを決定した。

写真中央のコンクリートの橋脚が再構築対象、すでに仮支えによって力はかかっていない

 なお、阪神高速全体でコンクリート橋脚は8000基ある。鈴木氏は、今後の本格的な調査次第で変更はあるとし、再構築や取り替えの必要があるかどうかも別として「だいたい1%くらいが何らかの抜本的な対策が必要になる」との見通しを示した。この見込みについても、すでに検査を何度か行なっているなかで、ある程度の予測ができるとのことだ。

ASRによって劣化したコンクリート橋脚の再構築を実施

 再構築予定の橋脚のコンクリート劣化の原因はASR(アルカリシリカ反応)。コンクリート中のアルカリ成分と骨材のなかのシリカ成分がある条件下で化学反応、吸水して膨張するゲルを生成、コンクリートにひび割れや、場合によっては膨張で鉄筋を破断させるほどになる。以前から対策としてコンクリートに水が染み込まないよう塗装で表面を覆う対策を行なってきたが、わるい状態が進行したため、4脚は再構築を行なう。

ASRによる劣化
吸水して膨張するゲルを生成

 再構築はASRで劣化した橋脚の上部である梁をワイヤソーで切断、撤去し、残った橋脚の上部のコンクリートをウォータージェットで除去、露出した鉄筋に接続する形で梁を再び作成する。橋脚の上方向は道路があるので、切断する部分は横からジャッキで支えて水平方向に搬出し、トレーラーで運び出す。塊は20~30トンにもなり、大きいまま運び出すのは研究機関でさらに検証をするためだとしている。

仮受橋脚を構築して再構築作業を開始する

 現場では、再構築の進行具合が異なる3本の橋脚が公開された。一つは検査が終わって運び出すための横穴をあけ、ワイヤソーの切断を待つ状態のもの。さらに、梁を切断してコンクリートをウォータージェットで除去する直前のもの、さらに鉄筋が露出し、再構築する梁部分を作成する直前のものの3本だ。

検査が終わり、再構築が決定。穴があいている
劣化防止の塗装がしてあったそうだが、すでに剥がし済み。濡れているように見える場所はこれまでの対策によるもの
施工状況写真
橋脚コンクリートを切り出す。穴を明けて金属の爪を固定する
仮受施工のステップ

 梁が残った橋脚は、ジャッキで支えるための台を極太のシャフトとナットで結合するため、穴があけられた状態。このあと、ジャッキで支えた状態をワイヤソーで切断する。切断したあとはジャッキごとスライドさせて、クレーンでトレーラーに積み込み、現場から運び出す。

台とシャフト。シャフトの端はネジが切ってあり養生してある
台の中にナットが入っている
ジャッキで支え、レールで横にスライドして運びだす
梁をカットし終わった状態これから上の部分をウォータージェットでコンクリートだけ除去する
除去が終わり、これから型枠を組んで梁を再構築する
橋桁はすでに仮受橋脚で支えており、これから梁を切断する橋脚には力がかかっていない状態

 橋脚の梁を再構築したり広げたりする場合には、仮受橋脚を設置し、橋脚に力がかからないようにして工事する必要がある。

仮受橋脚を設置している
仮受橋脚は地面に置かれているのではなく、本工事と同等の深さまで杭を打ち、その上に固定されたもの

 仮受橋脚は仮設だが、その場にただ置くだけでなく本工事並みの杭を打ち、地面にしっかり固定されたものとなる。杭は上方向に空間があれば1本あたり10mのものも利用できるが、打ち込みのスペースも確保するため、今回は1本あたり4mと短いものを使い、打ち込むごとに溶接で接続、仮受橋脚の柱ごとに25m以上打ち込んでいるとのこと。仮受橋脚であっても強度や安全に十分配慮されたものとなっているという。

 一方、再構築する必要のない橋脚については、梁部分の拡幅を行なう。鉄骨で補強をした独特の構造となっているが、これで増設部分が強固に固定されるという。

あみだ池筋の西側にある拡幅した橋脚。拡幅部分のコンクリートの色が新しく、鉄骨で補強をしている独特の姿

西船場JCTの橋桁は、準備ができたところからかけられる

 現在、橋脚の再構築などを行なっているが、問題のない橋脚から梁の拡幅工事を実施しており、なにわ筋の上の桁はすでにかけられている。今後は準備ができたところから順に橋桁がかけられていくという。

 現在は主に橋脚の工事が行なわれているが、今後、四ツ橋筋の上から西船場JCTの渡り線までをかけていく。完成予定は2019年度としている。

四ツ橋筋の西側。すでに橋脚の梁は拡幅済、さらに中間には円柱が組み合わさった鋼管集成橋脚
なにわ筋の上はすでに拡幅した橋桁がかけられた
なにわ筋との交差点

リニューアルプロジェクトを説明

阪神高速道路株式会社 保全交通部大規模修繕担当部長 渡邉尚夫氏

 現場の見学のあとには、リニューアルプロジェクトについて説明が行なわれた。保全交通部大規模修繕担当部長の渡邉尚夫氏によれば、阪神圏の総延長249kmのうち、約3割となる約83kmの構造物が開通から40年以上経過。大型車の交通が多く、大型車の交通量は一般道路の6倍となり「過酷な使用条件にある」と説明した。

 過酷な使用状況のなか、過積載などにより軸重違反などは道路構造物への影響が多いという。「特に湾岸線は大型車が多くて、しかも、過積載は構造物に及ぼすダメージが大きい」という現状を説明した。

阪神高速道路の現状、1号環状線と1970年の万博開催時に作られた路線が特に古いという

 リニューアルプロジェクトでは、大規模更新は6カ所を予定。最初に説明したのは15号湊町付近の基礎の取り替え。この場所は基礎直下に地下街や鉄道が重なり合う立地を考慮し、構造物を軽くするために鋼製基礎を採用、空洞の箱を置いて柱を立ち上げている。それが、地下水の上昇により腐食が進行している。錆対策は以前から行なっているが、大々的に対策をする時期になっているという。すでに事業を開始しており、2016年度は将来に向けての長期耐久性を検討、現場着手に向け関係者等と調整している。渡邉氏によれば、「決定的なダメージには至っていないが、将来の耐久性を含め、対策を考えているところ」と説明した。

大型車の軸重違反状況
阪神高速の更新計画
大規模更新事業の概要

 また、3号神戸線湊川付近、11号池田線大豊橋付近、13号東大阪線の法円坂付近は床版や桁に亀裂やひび割れが発生している。いずれも場所の狭さや遺跡の保存、既設橋梁の利用ななど、特殊な工事を実施した結果、劣化が進んでいる。3号神戸線湊川付近は2016年度から事業を開始しており、渡邉氏は「早く手を着けたい」と述べた。

15号湊町付近の基礎の取り替え
3号神戸線湊川付近
11号池田線大豊橋付近
13号東大阪線法円坂付近
3号神戸線京橋付近
14号松原線喜連瓜破付近

 そのほか、橋梁全体の架け替えは3号神戸線の京橋付近と14号松原線の喜連瓜破付近。ヒンジ形式の継ぎ目が建設時の想定を超えて垂れ下がり、路面の沈下は京橋付近が12cm、喜連瓜破付近が24cmと大きく沈下している。

次の世代に向けて非常に大事、いろんな機会で説明したい

 今回の報道公開では、阪神高速道路の人たちから、リニューアル工事に際して、通行止めや規制で利用者や沿線の人たちへ迷惑をかけるが、工事の必要性に理解を求めたいという姿勢が強く感じられた。

 代表取締役社長の幸和範氏も挨拶のなかで「現場内での道路災害防止、あるいは工事の安全対策に重々配慮するつもりでありますが、沿道あるいはもっと広範囲にご迷惑をかける」と述べるとともに、「技術開発なり、いろんな知恵を絞り、次の世代にきちっとしたインフラを届ける」とリニューアルの意義を訴えた。また、今後もさまざまな機会で説明を行ない、多くの方に理解してもらう取り組みを続けることとした。

【お詫びと訂正】記事初出時、16号大阪港線の番号に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。